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IIJが2017年に「フルMVNO」提供、HLR/HSS連携で加入者管理機能を自社運用

 インターネットイニシアティブ(IIJ)は、MVNOのデータ通信サービスにおいて、NTTドコモに対して加入者管理機能(HLR/HSS)の連携の申し込みを完了し、ドコモより承諾書を取得したと発表した。2017年度より、加入者情報を自社で管理する「フルMVNO」として商用サービスを提供する。

 現在の一般的なMVNO方式の通信サービスでは、SIMカードと携帯電話サービスの加入者を紐付ける情報(加入者情報)を、NTTドコモなどの大手キャリアが一元的に管理している。今回の合意はこの加入者情報を管理する設備をMVNOであるIIJ自身が管理すること。これにより、SIMカードの発行を独自に行えるようになり、海外キャリアでも使えるSIMカードなど、より自由度の高いサービスを提供できるようになる。

メインターゲットは「IoT」

 IIJではHLR/HSS連携後、IoT(モノのインターネット)分野を中心に新サービスを提供していく。ひとつには、独自にSIMカードを発行できるようになったことで「eSIM」として提供できるようになった。

 「eSIM」は、SIMカード機能をチップやソフトウェアなど、一般的なカード以外ものに持たせたり、遠隔でSIMカードの加入者情報を書き換えられるもの。例えば、厳しい環境下で動作する産業用ロボットなどにチップとしてSIMカード機能を組み込むことで耐久性を上げたり、SIMカードスロットを搭載できないような小型のデバイスにも通信機能を組み込んだりできる。

 また、加入者情報をIIJが管理するようになると、ネットワーク上で「IIJのネットワーク」として識別されるようになる。これにより、IIJが独自に海外キャリア(MNO)や海外のMVNOと契約し国際ローミングサービスを提供できるようになる。

 ローミングのほかにも、海外では現地キャリアの携帯電話番号を利用して接続し、日本ではIIJのネットワークに接続するようなeSIMを提供することもできる、割安で効率のよい通信サービスを提供できる。なお、データ通信の品質には、加入者設備は直接影響しないので、従来のIIJのサービスと同等となる。

 実際にどのようなサービスを提供するかは今後検討していくとしているが、まずは法人向けの提供が中心となるようだ。また、IIJはMVNEとして他のMVNOに対して回線を卸提供している。同社はそれらの回線を提供するMVNOに対しても、HLR/HSSによって提供できるようになった新サービスを提供していく方針だ。

「“格安SIM”は限界」

IIJ 代表取締役会長 CEO 鈴木幸一氏

 発表会ではIIJの代表取締役会長 CEOの鈴木幸一氏が登壇。今回のHLR/HSS設備の自社提供によって「ワイヤレスを使って、単なる移動体通信にとどまらない、本当に新しいサービスを作る第一歩となる」と語った。鈴木氏によると、同社は2014年よりドコモとの間でHLR/HSS設備をめぐる協議を実施しており、すでに数十億規模の投資を実施しているという。

IIJ 取締役 CTOの島上純一氏

 同社取締役 CTOの島上純一氏は、「“格安SIM”は限界にきている。ブレイクスルーが必要だと考えてきた」として、今後のサービスを拡大する方針としつつも、1人1台持つまでに普及した携帯電話市場の限界を指摘した。

 今後、組み込み型の通信サービスなどが普及していく中で、「モノそのものに通信機能が組み込まれる世界の中で業界をリードする企業になるため、より自由度のサービスを提供していきたい」とし、キャリアが戦略的に提供しないサービスも含めて提供を検討していると話した。

 質疑応答の中で出た、KDDIとも同様の交渉を行っているかという質問に対し、島上氏は「現時点では行っていない」と否定している。

音声通話での連携には課題も

 今回の合意はデータ通信サービスが対象。いわゆる「格安SIM」と呼ばれるような個人向けサービスで提供していくためには、音声通話サービスについても加入者機能を管理できるようにする必要がある。

 しかし、これにはデータ通信サービス以上に課題がある。ひとつは通話用設備の相互接続の問題だ。例えば、NTTドコモの携帯電話からソフトバンクの携帯電話宛に通話することができるが、これはドコモとソフトバンクのそれぞれの通話用設備を相互接続する取り決めを行っているからだ。

 もし、IIJが加入者設備の連携に関して音声通話用の設備を自社で管理することになった場合、同じように各事業者と音声通話設備の相互接続を行う必要がある。また、法令によりMNPの転入・転出に対応する必要があるため、その設備も用意しなくてはならない。こうした場合に、設備のうちどこまでをIIJが管理して、どこまでをドコモ側から借り受けるのかといった、具体的な条件に関するドコモ側との取り決めを行う必要がある。そのため、データ通信とは別に協議する必要が生じる。

「痛SIM」も発行しやすくなる?

 一方で、SIMカードの発行を自社で管理することにより、個人向けにも提供しやすくなったものがある。それが、「SIMカードへのプリント」だ。ドコモでは、MVNO向けのSIMカードとして、あらかじめ電話番号が書き込まれた白紙のSIMカード台紙を提供している。MVNOはこれに自社のロゴなどを印刷することができるが、印刷に失敗した場合に書き込まれた電話番号を抹消する手続きが必要がなるため、積極的には利用されてこなかった。

 SIMカードの発行を自社で管理するようになると、SIMカードの調達も自社で行い、そこにドコモから割り当てられた電話番号を書き込む形になる。SIMカードの情報を書き込む前に台紙に印刷できるため、オリジナルプリントのSIMカードをより提供しやすくなる。アニメのキャラクターなどがSIMカードの台紙に印刷された「痛SIM」のようなオリジナルプリントのSIMカードも、今後一般的になっていくかもしれない。