インタビュー
Y!mobile いよいよ始動、「チャンスが広がった。やんちゃしたい」
Y!mobile いよいよ始動、「チャンスが広がった。やんちゃしたい」
――暗黒時代~これまでの道のり、元ウィルコムの寺尾氏が語る
(2014/7/31 21:32)
7月から新たに誕生した携帯キャリア、ワイモバイル株式会社。イー・アクセスとウィルコムが合併、さらにヤフーとの業務提携で生まれた同社が、いよいよ8月1日より「Y!mobile」としてサービス提供を開始する。直前となる7月31日に、元ウィルコムでワイモバイルの取締役兼COOに就任した寺尾洋幸氏を直撃。今後の構想や戦略についてお話を伺った。
金儲けより「楽しさと便利さを届けたい」
――これまで紆余曲折あったようですが、明日いよいよサービスが開始されます。ワイモバイルをどのような会社にしていくか、またその戦略についてあらためて教えてください。
寺尾氏
資本提携についてはいろいろドタバタがありまして、まぁそれは聞かないでください(笑)。イー・アクセスとウィルコムの提携が決まったときに、携帯電話屋とポケファイ(Pocket Wi-Fi)屋が組んで何ができるんだろうと、悩んでいました。そんなとき(ヤフー社長の)宮坂さんが歩いてきて「一緒にやろう」って。これは非常にうれしかったです。
これから何をやっていくか、何をするべきか? とメンバーと一緒に合宿もして、何度も何度も議論しました。そこで出た結果がコレです。“ネットの生み出す楽しさ・便利さをみんなの手元に届ける”。表現は違うけど、みんな同じことを言っていた。金儲けは事業者としてはもちろんあるけれど、やっぱり本当にやりたいことは、届いていない人にちゃんと届けてあげるということ。コレをベースにいろいろと考えていきました。
たとえば、僕らの親世代が抱えている問題点がネット上ではもう解決されている。今、大きなスーパーが増えているけれども、お年寄りが遠くへ買い物に出られない、重い荷物が持てない。そんなときでもネットスーパーがある。では、実際に親世代がそういったことをやっているか? と言ったらほとんどができていない。
これだけネットの便利さが享受されてきているのに、どうして壁ができてしまったのか? 課題が多くあると思う。スマホって単なるひとつの形態であって、(この形にとらわれるのは)ナンセンスだと思う。タブレットかもしれないし、ペンのようなものかもしれない。半分冗談で半分本気なんですけど、ポンポンと叩いてクルクルっと振れば商品が注文できるペンとか、そういう形を実現したい。ヤフーは、資本の提携はやめたけど、業務の提携は続けているし、ヤフーと組むことで、それが実現できるチャンスがもらえたと思っている。
ヤフーはこれまでも、“スマートデバイスファースト”を掲げているけれど、キャリアの壁は実は高いんです。誤解を恐れずに言うと、キャリアは偉い。ヤフーとしても、新たな取り組みを行うときに、キャリアと一緒にできることが大きいのです。サービスをユーザーに届けることができるのはリアルな通信キャリアだからこそだと認識しています。
スマホはやっぱり高い!
――では、現状課題があるとしたらどういったことでしょうか?
寺尾氏
先日の発表会のときに、スマホのシェアがまだ半数程度であるというお話があったと思います。いわゆるガラケーユーザーに対してスマホに移行しない理由を聞くと「高い・難しい・こわい」この3つです。
スマホの料金ってやっぱり高いじゃないですか。ガラケーの利用だと3000円くらい。スマホに変えると6000円~8000円になる。これは事実です。「高い」は、僕らが出す料金プランで解決したいと思い、先日発表しましたが、ワイモバイルでは月額3000円くらいで利用できるようにしました。
――要素を積み上げてこの料金ではなく、ユーザー視点で設定したということでしょうか?
寺尾氏
他のキャリアさんが、積み上げて出した月額料金とは違って、最後にはこのくらいに抑えたいというところから設計しました。この料金に仕上げるには、どの要素を抜いて節約するか。細かいコストを抑えていくことで(安くして)、使わない人にはミニマムで用意するし、もっと使いたい、たとえば通話を10分以内で切るっていう細々したことをやりたくないという人には1000円多く払ってもらう。
だれとでも定額の履歴を見ると、おもしろいくらいにみんな9分50秒で電話を切っているんです。その前に10分以上話すことってあります? あんまりないですよね。あるとしたら良くない理由が多いんじゃないかな? 上司にしかられているとか、彼氏・彼女と揉めているとか。まぁ経験ありますよね?(笑)
話が脱線しましたが、ミニマムから選択肢を用意することで、お客さんに広がりを出したかったのです。そのほうが親切なんじゃないかなと。ちなみに我が家は、家族で4人分(4台)で合計8000円くらいです。ひとりが8000円で、それを×4人分って……。あまりにも高すぎると思います。
――「難しい」、「こわい」とはどういったことでしょうか?
寺尾氏
「難しい」は、“難しいそう”と“本当に難しい”の両方があると思います。まだまだ課題が多いし、逆に言えば改善の余地があるということ。Androidは少しずつ良くなっているけれども、まだまだ道半ばです。であれば難しいを解決するソリューションを提供しようと考えています。現状やれることが多すぎるから難しいという側面もあるのかもしれないです。
で、「こわい」っていう意見が意外と出てくるんですよ。マスコミのみなさんが危険って脅しますよね(笑)。情報漏洩とか、よくわからないけど話題になっているから「こわい」という先入観があるみたいで。これは、お店でのサポート体制や、セキュリティの技術で解決していきます。そしてヤフーのブランドはやはり大きい。認知度だけではなく、親しみやすさや安心感がある。だからテクノロジーとブランドの両面で、「こわい」を解決できると考えています。
通話料を安く ――ウィルコム暗黒時代に始めた「だれとでも定額」
寺尾氏
イー・アクセスと合併したはいいけど、「道は険しいな」と思っていました。「やっぱり爆安しかないよね……」という空気もあった。でも、ヤフーが入って、価値を生み出し提供することができると。可能性に広がりがでたんです。
僕らはそんな偉そうに言える会社じゃないんで、ようはコレ(“ネットの生み出す楽しさ・便利さをみんなの手元に届ける”)がやりたいんですよね。
これは僕自身の思いで、会社の意見ではないけれど、情報通信はただの道具であって、儲けすぎてもいけないと思う。ウィルコムで「だれ定」を思いついた時って、会社更生法にあたったときの真っ最中だったんですよ。会社更生法にあたるっていうのはつまり、社会から必要ないって言われていることと同じなんです。じゃあ僕たちどうしようかって、「社会的に意義がないんだったらやめようよ」って真剣に悩んでいたんですよ。
ちょうどその頃って、今みたいにスマホじゃなくてガラケーの時代でしたが、通話料金がどんどん上がっていっていたんですよ。30秒20円……? どう考えてもおかしいよね。日本の平均世帯所得は下がっているのに、通信支出が上がっていくのは。だったら一石投じてみようよと。なおかつ事業がなんとか回るならいいと思って、通話定額を始めたんですよ。その一石が自分にとってどうなるかは知らない。結果的に、3年後には各社が定額を始めてしまいましたが。
これからも、一石を投じることができれば、便利さや楽しさが届けられる。ワイモバイルという会社が存在する価値として、やっぱりこういうことができる環境が得られるかどうかだと思います。だれ定やるときも、ソフトバンクもみんな反対していたんですよ。でも孫さんだけがちゃんと話を聞いてくれたんです。こういうことができないなら、こんなにジタバタすることもなく、さっさと清算して、さっさとソフトバンクになっていたと思います。
ところで製品ラインナップは? iPhone導入は?
――先日発表された製品ラインナップは、ウィルコムとイー・モバイルを引き継いだものでしたね。
寺尾氏
先日の発表会で「道半ば」って言ってしまいました(笑)。(ハードウェアは引き継いで)そこに、ワイモバイル独自のアプリを搭載させます。アプリなのであとから追加することはできますけれども、時間的に厳しかったのですけど。着々とバージョンアップ中です。
――iPhoneって、ワイモバイルのラインナップに入りますか?
寺尾氏
なかなか難しいのですが。これこそ大手さんの競争が激しすぎて。ノーコメントというか、今はなんの検討もしていません。
今はクラウドに情報を集めて整理することができるし、センサーとか、IoTの技術を組み合わせるとでいろいろなことができる時代だから、魔法のスティックのようなものを作りたい。真面目に、収益とかを議論しちゃうとなかなか決まらないのだけど、とりあえずやってみるか、という流れで足早くできるかなと。
数、数、数、“純増”とか言われるプレッシャーもありますけれども、お客さんにとって使いやすいものはなんだろう? というところを1番に考えて、成績は後から付いてくればいいと思っています。
――そういったものを実現するための、組織の体系作りはあるのですか?
寺尾氏
ヤフーの村上(村上臣氏)に、端末とコンテンツを担当してもらっているんですよ。彼らは、いろいろな場所でハッカソンをやっていたり、僕らには思いつかないアイデアを持っているし、いくらでも作れると思っています。(ウィルコムではかつて)マニアには絶賛されるデバイスをやっていましたが。今はハードとクラウド、アプリケーションが組み合わせられる時代になりましたからね。
――大手キャリア3社が揃えているようなラインナップを目指しているわけではない?
寺尾氏
あんまり考えていないです。たぶん値段もあります。サムスンやソニーなど、同じことができるスマホは他にもあるのに、値段がぜんぜん違いますから。仮にソニーのスマホを出すとしても、ピカピカの日本仕様にしたものを出せるとは思いません。スマホは「Nexus 5」なんかがいい例で、ごちゃごちゃUIいじるよりコレが一番使いやすいんじゃないの? といった議論もあります。
とはいえ、加速度センサー入りのボール(のようなおもちゃ)とかおもしろいものがたくさんある時代なので、そういった面白さを今後取り込んでいきたいと思っています。
――そういったプロダクトは、1~2年後には実現するイメージなのでしょうか?
寺尾氏
もちろん! あ、もちろんって断言しちゃいけないのですが。キャリアの人間はどうしても電話屋の視点で考えるけれど、インターネットの会社はもっと違う視点を持っている。そこに通信機能を入れると便利だと思うものは出していきたい。そうしていかないと、それこそ“ただ安いだけ”の会社になってしまう。次々と仕掛けていかないと、ヤフーと一緒にやっている意味がないですから。
――Y!mobileの独自のデバイスが出てくることを期待しています。
寺尾氏
そうですね。本当に上手く作らないと、アイコンがただ並んでいるだけになりかねない。タブレット作ってもただロゴつけただけのようなものになってしまう。本当に、おばあちゃんでも使える魔法のスティックのようなものを作りたいです。そういうものこそ、ヤフーらしいと思っています。
――(ヤフー絶賛のようですが)イー・アクセスの方達の印象は?
寺尾氏
急に変わった質問しますね(笑)。いや、一緒になってみると、意外と向いているところは同じでしたよ。敵の敵は味方だった、というか。僕ら(ウィルコム)のほうがどっちかといえばアグレッシブでしたけど。
まぁウィルコムでは電話が安いとか、苦し紛れのものも含めいろいろやっていましたけど。彼らもポケファイの事業からどうやって成長していくか非常に悩んでいたんですね。スマホでテザリングができるようになって、ポケファイは頭打ちの市場なので、新たな成長軸を作らなくてはという意識があったわけです。
(ウィルコムの)PHSも、(イー・アクセスの)ポケファイも「前に進まなければ」という同じような思いがあったので。
――そうやって、もんもんとした状態のときに、ヤフーが現れたということですね。
寺尾氏
ヤフーは知名度があって、群れるとすごいんですが、個々のサービスは他に負けているものもたくさんあったりしますから。そういった話は歯に衣着せず、お互いに言い合っています。みんな無邪気なので、普通にムッとされますけど(笑)。「カカオよりLINEのほうがいいんじゃないの?」とか言うとムッとされるんですよね。(LINEのプリインはやめたんですけど)そういった言い合いができるのはとてもイイ関係だと思っています。
ヤフーと一緒にやれることで、3つ手に入ると思っていたんですが、結局2つしか手に入らなかったんです。「ブランド、サービス、お金」この3つが手に入る! と思っていたら、結局お金は手に入らなかったんですけど(笑)。ブランドとサービスは手に入ったので、やんちゃ同士、彼らと一緒に一生懸命作りますよ。
携帯電話からPHSへのMNPは「試練でありチャンス」
――PHSって、周波数含めいろいろ手を入れていかなければならないという雰囲気を感じるのですが。
寺尾氏
PHSは大きなテーマですね。当面はやっていきますし、10月に(携帯電話からPHSへの)MNPもありますので。15年~20年先のスパンでみたら、さすがにもうPHSじゃないと思っています。PHSをどうやって新しいものに昇華させていくのか、次の一手は絶賛検討中です。答えはまだ出ていないです。
これまで、ひたすら乗り続けて、行けるところまで行っていますというところ。ただ、一番安いのはPHSなので、そういった要望の受け皿ではいたいと思っています。
――10月の(携帯電話からPHSへの)MNPはチャンスとしてとらえている?
寺尾氏
両方ですね。ものすごいリスクでもあるし、チャンスでもある。携帯電話からPHSにMNPすれば、本当に安くなるので。安くしたい人のいろいろなニーズを救います。ただ、インフラとして「あと20年続く」とか言うと嘘になってしまいます。
――10月に向けて、秘策は用意しているのでしょうか?
寺尾氏
もちろん考えています。というか、これから着手します(笑)。
――大手3キャリアやMVNOとの競争があると思いますが、ライバルとして意識しているところはどの会社ですか?
寺尾氏
そういうのはあんまり思わないんですよね。MVNOは安いけど、僕らはフルサポートで一番安いポジションを提供できると思っているので。外から見れば、3キャリアとMVNOの間にいると見られていますし、実際そうかもしれませんが。“インターネットキャリア”と(ヤフー社長の)宮坂さんは表現していましたが、それはそれでモヤっとしちゃうので。もちろん現場はキャリアを意識しながらやっているとは思いますが、長期的にみて他と重ならないように、どことも違う存在になりたいと思っています。
――ワイモバイルは“2000万人の事業規模を目指す”とのお話。現状の課題はありますか?
寺尾氏
2000万人規模というのは宮坂さんが言っていただけなので、僕らが目指しているわけではないのですが。安いとか高いとかで、爆発的に世界が変わるとは思っていないけど、ハードウェアだけでは実現できないことがある。一歩先を見たときに、我々として解決できるものを提供していくことが課題。
昔のウィルコムみたいに、いつも一発勝負で戦い続ける、そうでなければ存在意義がなくなるんです。あとは僕の田舎のおばあちゃんを助けたい……。
――そのためにも、チャレンジを続けるということですね。本日はありがとうございました。