インタビュー

KDDI石川専務に聞く、au新料金プランのコンセプト

KDDI石川専務に聞く、au新料金プランのコンセプト

「カケホとデジラ」の強みとは

 auの新料金プラン「カケホとデジラ」が8月13日にスタートする。競合他社と同じく、音声通話定額が新たに導入され、データ通信料については、2GB、3GB、5GB……と他社より細かく設定されている。また固定通信とのセット割である「auスマートバリュー」も利用でき、今年12月には、家族間でデータ通信量を融通しあえる「データギフト」が導入される。

 さらには「auスマートバリュー」の割引対象として、離れて暮らす家族が加わったり、1人暮らしのユーザーに向けてWiMAX 2+対応ルーターでも新料金プランとのセット割ができるようになったりするなど、明確に“家族”の利用がアピールされる形となった。

 こうした料金面での取り組みについて、KDDI代表取締役執行役員専務の石川雄三氏は「ひとことで言えば、それぞれ利用の仕方や、事情の異なるお客さまにきちんと対応すべきと考えた結果」と語る。

同じタイミングで各社の料金が揃ったワケ

――2014年の夏になって、携帯各社が新料金プランを導入する形になりました。

石川氏
 auの4Gサービスとして、LTEがスタートしてからもうすこしで2年です。それで、さまざまな準備を進めてきて、他社に先駆けてデータギフトなどを打ち出したかったのですが、結果的にはこうなりました(※編集部注:auの新料金は3キャリアで最後に発表された)。他社さんを含めて、同じようなタイミングで新たな料金プランが導入されることになりましたが、今の時代は、トラフィック(通信量)の急激な増加、VoLTEの導入、MVNOの台頭などがごそっと一度にきています。そうした流れを見据えて、各社とも2014年度を1つのターゲットにしていたのでしょう。

KDDIの石川氏

ティアード型、データギフトは「個人の使いやすさ」

――音声通話定額が導入され、データ通信は従量制の方向になりました。ユーザーからすると似たようなサービスに思えるところもありますが、auでは差別化を図ろうとしていくつかの要素を入れています。たとえば2GB、3GBといった細かな区分の通信料は、“ティアード型”としてユーザーごとに異なるであろう使用量にあわせたものということですよね。

石川氏
 データ通信料はこれくらい細かく切り分けないといけないよねと考えました。ドコモさんは家族間のシェアでいく形になりましたが、当社は、ユーザーの利用が増えていく中で、家族間シェアでは、家族の誰かが使いすぎる形になって、フラストレーションがたまるのではないかと考えました。そこでデータギフトという形が一番ではないかと。ちなみに料金については米国や韓国の事例も参考になります。たとえば韓国はもっと細かな設定もあり、通信量のプレゼントも頻繁に実施しています。

多田一国氏(料金関連を担当するコンシューママーケティング2部長)
 通話料が従量制の場合、通話時間である程度、利用の目安がわかりますよね。しかしデータ通信では時間軸ではないため、使いすぎになる可能性があります。そこで上限を設けたティアード型ということになりますが、ここで家族間のシェアにするかギフトにするのか。もし家族間でシェアするのであれば、誰かが使いすぎて、他の家族が困らないよう、ある程度、計画を立てて使う形になります。しかしauは個々人のデータ通信量があり、余れば贈れる形です。だから「データ自由ライフ、略してデジラ」と申し上げているのです。

――ただ、6月の新料金発表会では、そのデータギフトの使い勝手について、質問も多く挙がりました。

多田氏
 データギフトは12月開始予定ですので、それまでにシニアのお客さまが使いこなせるかどうか、といった指摘をいただきました。現在は、アプリで簡単に操作できる画面、電話番号ベースで送り先を選ぶ、といった形を含めて検討しています。ユーザーインターフェイスを詰めています。

――これまでは音声通話が従量制、通信が7GBなどの区切りはあるものの一応は定額という形でした。新プランで逆になっています。ユーザーインターフェイス面での取り組みはもちろん期待したいポイントですが、通話と通信がこれまでと逆になった、という点がどれだけ多くの方に理解してもらえるのか、という点が大きな課題になりそうです。

多田氏
 はい。スマートフォンはこれから、レイトマジョリティと呼ばれるユーザー層へいかに受け入れてもらうか、という点での取り組みになります。そこで一体何ができるのか。今回、料金の考え方をがらりと変えたのは、これまでの流れを踏まえたためです。歴史は繰り返すと言いますか、かつては多様な料金プランで複雑と批判を受けました。LTE時代になって1つのプランにしましたが、データ通信が7GBでは多すぎるといった声をいただくようになりました。それでより細かな形、いわゆるティアード型にしたわけです。

石川氏
 料金の構造からすると、ティアード型が一番だと思いますし、auスマートバリューを組み合わせていただければ安価に感じていただけると思います。10GBの価格を見ると、auは8000円(税抜、以下同)ですが、ドコモさんは9500円です。1GBあたりの単価を見ると、当社は2GB、3GBと増えるに従って、きれいな流れで単価が下がっていきます。他社さんはティアードがあまり細かくない形で、5GBと10GBの単価の違いが50円しかない、といった形で、利用料との整合性があまり合っていないように思えます。家族間のシェアをするときに通信料以外の料金がかからないのであればともかく、他社さんの場合は500円かかるそうですから、制度的・料金的な発想からすると、auのほうが“正しい”のではないかなと(笑)。

多田氏
 シェアを前提にすると、効率化される部分は割引効果と見なす必要があります。シェア用のプランでは、ある程度、単価を高めに設定する必要があるでしょう。他社さんが実際にどうされるかわかりませんが、たとえば10GBというプランで、当社はアドバンテージがあると思っています。

――ソフトバンクモバイルはキャンペーン(※関連記事)として10GBの価格を並べてきましたが……。

多田氏
 それは、家族間のデータシェアを選ぶか、翌月への繰越を選ぶか、と言う形ですよね。

――なるほど。

多田氏
 翌月への繰越といった機能はどちらかと言うと、個人単位での融通性の仕組みです。家族のシェアとは別の話ですね。

多田氏

家族を意識した理由

――7日に発表された内容もそうですが、家族ごと利用してほしい、というメッセージを強く感じます。

石川氏
 まさにその通りです。家族でお使いいただけると、解約しづらいという面はありますが、基本的な考えとして、そもそもはKDDIが掲げる「3M戦略」(マルチユース、マルチネットワーク、マルチデバイスを促進する取り組み)にあります。かつては、契約数や通話料の向上を追求してきました。しかし今は、1つのアカウントでの利用額を増やしたい、ユーザーからすると、そうした形で使うと安くなる、という形を広げようとしているのです。そのアカウント、IDの集合体が家族です。この単位での利用率、利用額の増加をはかりたいということです。

――新料金プランでは、フィーチャーフォンでも、そして離れて住む50歳以上の家族でもauスマートバリューの割引対象となりました。

石川氏
 シニア層では自宅に光ファイバーまで導入する人はあまり多くないのではないか、という見方があります。フィーチャーフォンでは、ある程度、通話している人にとって、新料金になるとおトクになるでしょう。そうした世帯でも、都市部に離れて暮らす家族がいて、その都市部の家族側では光ファイバーを利用されていることがある。上京した家族がauのサービスを使っていて、実家でもauの携帯電話であれば割引しよう、という形です。

利用しやすくしてスマホへ

石川氏
 現在、auでのスマートフォンの浸透率は、現在、約50%程度です。2014年度の第1四半期(4月~6月)は1%程度の伸びでしたが、これは春までのキャッシュバックの反動で、今後はもう少し加速させたいと思っています。普及率は、諸外国を見ても、米国で65%、韓国で80%超と聞いています。日本はまだまだポテンシャルがあるでしょう。

――新料金プランでも、スマートフォンへの移行を後押しする要素はあるのでしょうか?

石川氏
 あります。2GBというプランを用意したことで、バーを下げたというわけです。シニア層でも二極化しており、スマートフォンに全く興味が無い方もいます。一方で、料金や使い勝手が気に入れば使いたいという方がいる。興味がある方にとって、2GBというプランを用意したこと、auスマートバリューへの新たな適用対象にしたことで料金面でのハードルが低くなって、スマートフォンへ乗り換えやすくなるでしょう。

――スマホに興味があるシニア層という面では、たとえばイオンの発売したスマートフォンとSIMカードのパッケージがシニアに人気という話があります。販売規模はまだまだ大きなものではないと思いますが、どう見ていますか?

石川氏
 価格は大事ですから、そちらへ乗り換える方がいるという可能性はあります。先ほど述べた、価格と使い勝手という条件では、安ければ多少不便でもいい、という方がいます。一方で、価格よりも使い勝手やサポート面を重視する方もいます。MVNOさんのプランで全てのシニア層がとれるとは思いません。我々もシニア向けの「URBANO」シリーズをずっと提供していますが、「機能をそぎ落として安くする」という議論はあるものの、機能がある程度なければ満足していただけない、というのも分かっています。いかにも年寄り向けといったもの、安っぽいものは持ちたくない、というわけです。新料金を通じて、光ファイバーを促進するというよりも、しっかりサポートがあり、なおかつ安く、auスマートバリューの恩恵を受けられる世界をまず作りましょう、ということです。

多田氏
 当社の調査でも、レイトマジョリティ層では、機種のほうも手厚いものでなければだめ、といった結果を得ています。50代、60代の層では半分程度、スマートフォンにしたい、という意向がありますが、実際に使っている方はもっと少ない。ポテンシャルが大きなところです。

――なるほど。どの程度、レイトマジョリティ層が新料金へ移行するのでしょうね。

石川氏
 少しずつ動かれるのだろうなと思っていますが、そういう動きにはそれなりのスピードもあるのではないかとも思います。最初はとにかく通話をよくする方が新料金プランに切り替えられるでしょう。そしてデータ通信で7GBに満たない方も安くなるから、と移行されるでしょう。こうした料金施策で、市場がもっと活性化できるかなと思っています。

これからは……?

――今後を見ると、たとえば例年、9月は新たなiPhoneが登場し、いろいろと盛り上がる時期です。

石川氏
 そうですね。8月に新料金と関連するキャンペーンをスタートし、お客さまから見て、「料金が変わった」「新しい物が出た」となって、9月以降に第2弾ロケットが点火できるのじゃないかなと思います。携帯電話業界にとっては春商戦が大きな山場ですので、そこに繋げていきたいと思います。

――第2弾ロケットですか。気になりますね。

石川氏
 今回の料金が第1弾ロケットですが、それ(第2弾)はまたのお楽しみ、ですね(笑)。

――第2弾もまた料金面での取り組みですか?

石川氏
 うーん、単純な料金競争は他社に並ばれるだけで、あまり意味がありません。データギフト、auスマートバリューのような特色を出さなきゃいけないでしょう。料金以外でも、端末とネットワークで差別化していきます。そうでなければ、面白くないでしょ?

――なるほど。auスマートバリューが特徴の1つとなりますが、NTTも、光回線の卸で提供する意向を示しています。実質的にNTTもセット割ができるようになるのではないかとも言われています。

石川氏
 田中(孝司KDDI社長)が申し上げている通り、それで本当にいいのか、という点があります。そして、NTTさんの施策がどうなるか、現時点ではまだ見えていませんので、何とも申し上げられません。ただ、一般論として、固定網にとってのライバルは今やモバイルと言って良いでしょう。自宅に光ファイバーは通さないものの、スマートフォンやモバイルルーターでいい、という方はいらっしゃいます。状況は変化しており、常に新たなことを検討していかねばならないと思っています。

――なるほど。今日はありがとうございました。

関口 聖