キーパーソン・インタビュー

通話、端末、インフラ~新生ウィルコムのこれからの戦略


ウィルコムの寺尾氏
だれとでも定額

 12月1日、ウィルコムは、通話のオプションサービス「だれとでも定額」を発表した。会社更生法を適用し、11月30日に再建計画が認可された同社は、ソフトバンクグループの4社目の通信事業会社として新たなスタートを切ることになった。

 今回、新生ウィルコムの今後の戦略について、発表会でも登壇した同社マーケティング本部長の寺尾洋幸氏に話を聞いた。

「だれとでも定額」で、もっと話す楽しさを

――先日、ウィルコムとしては久々の発表会を行い、新サービスを発表されました。まず「だれとでも定額」導入の狙いについてお聞きします。

 もっと電話を使っていただきたいな、ということを常々考えていました。その一方で、ユーザーにとって料金による壁があると感じていました。携帯業界全体がデータの方に向いており、料金はあまり変化がなくなってきています。もっと話す楽しさ、メールする楽しさ、コミュニケーションをもっとできればいいなぁと考え、「だれとでも定額」を提供することになりました。他社の料金と全く違う形になったのもそのためです。

――本サービスを前に、沖縄地域などでテストマーケティングを実施されていました。手応えはいかがでしたか?

 TCA(電気通信事業者協会)の数でも明らかですが、導入後、沖縄では5月からずっと純増を続けています。北海道も2カ月連続の純増と、サービス投入によって純増基調に回復しました。ニーズがあるサービスだと実感しています。

――月額980円のオプションで、月に500回、1回10分まで定額となると、どこで採算を得ていくのか不思議な面もあります。

 そこがミソなんです(笑)。テストマーケティングの結果を反映させており、先行する沖縄と北海道の動向を見て、十分採算がとれると思っています。多くのユーザーは制限に達することはなく、制限を超えるようなユーザーは一部です。

 それに加えて、月額980円という安心感を提供しているところはありますね。ウィルコム定額プランをスタートさせたときもそうでしたが、みんながみんなたくさん使うわけでありません。500回と10分間という制限によって、一定の節度、バランスが保たれると考えています。

――「だれとでも定額」はコンシューマー寄りのアピールをされていますが、法人市場での反応はいかがでしょう?

 サービスの開始以来、法人専用窓口で非常に多くの引き合いをいただいています。ただ、法人契約の手続き上、実数として契約数に反映されるのは若干時間がかかるかもしれません。「けーたい お題部屋」のコーナーで6割ちょっとが安いと回答されていましたが、個人法人を含めおそらく同じような感想をお持ちになっていただいているのではないでしょうか。

これからは「通話のウィルコム」?

――通話サービスの拡充は、“通話のウィルコム”を今後アピールしていくメッセージと受け取るべきですか?

 まずはそういった形に見えると思います。「だれとでも定額」は訴求力のあるサービスだと思いますが、そこは競争相手もいます。ウィルコムならでは、というポジションを作っていかなければならないでしょう。当面は話すならウィルコム、メールするならウィルコムというポジションを確立していく必要があります。

――「だれとでも定額」のターゲットはどんなユーザーでしょう?

 広い範囲のユーザーに受け入れられている状況です。シニア層には安心感が受け入れられているようです。若いユーザーは入りも早いが出て行ってしまうのも早い傾向にあります。高い年齢層のユーザーにも持ってもらえるような端末も準備を進めているところです。うまく回転させていけると、大きく化けるサービスだと思っています。

HONEY BEE 4の投入、スマートフォン展開

HONEY BEE 4

――「だれとでも定額」とともに「HONEY BEE 4」を発表されました。携帯電話市場は現在、スマートフォンが非常に盛り上がっている状況で、我々の読者もどちらかといえばそちらに関心が強いようです。「HONEY BEE 4」の投入にはどういった意図があるのでしょうか?

 ウィルコムがどこに向かっていくのか? という点があります。会社更生法が適用され、我々は会社を再建しなければならない立場にあります。そういった中、ウィルコムの強みを突き詰めていったところ、「だれとでも定額」が生まれました。新サービスを提供するとともに、サービスに見合う端末をまず出さなければなりません。音声を中心にした端末を投入した背景はそんなところにあります。なかなか本格的な端末を提供するのは難しく、音声を中心とした端末のラインナップを増やしていく形で進めていきます。

 スマートフォンをどうするのか、という点は実は一番頭を悩ませているところです。Android、iPhoneとスマートフォン自体がかなりメジャーな存在になってきました。ただ、そういった状況で我々の強みはどこで出せるのか? 正直、つかみきれていない部分です。各社がAndroid端末を出してくると、差別化をどうすべきなのか、非常に難しいところです。やらないというわけではなく、力を蓄えた上で次のステップと考えています。

 PHSのスマートフォンを提供する技術的なハードルを考えると、現状では2台持ちの通話用端末という方が提案しやすいと思います。Androidの最新バージョンに更新できないと記事になってしまう状況ですので(笑)、まずは2台目の需要に応えていく方が現実的と考えています。

――調査資料などでは、スマートフォンユーザーのうち1割程度が、W-ZERO3シリーズを利用しています。このユーザーに対して、スマートフォンを投入しなければ、他の事業者に目を向けるはずです。

 そうですね。まさに今そこを検討しています。ソフトバンクがスマートフォンを投入しており、そこを活かしていくのか……、今日この場でなかなかコメントできません。ただ、なんとかして受け皿を作っていきたいと思っています。

W-SIM

――PHSを通信モジュールとして展開する「W-SIM」について伺います。発表会では3GのSIMカード搭載モデルなども展示されていましたが、ずばり「W-SIM」は継続していくのでしょうか?

 W-SIMのコンセプト自体は非常に良かったと思っています。ビジネスのサイクルが非常に早くなっている中で、うまく商品化できなかった点は誤算でした。一方でニッチな商品を展開される方には高いご支持をいただいているので、少し棲み分けが必要かなと思っています。

 少ロット多品種に向いている反面、大量生産の音声端末などを開発する場合には、W-SIMより一体型の方がコストが安く仕上がります。少ロットでどのように進めていくかが1つの課題です。

――これまでW-SIMなどを利用したM2M製品製品なども試作されてきましたが、今後の展開はどうなるのでしょうか。W-SIMのフォーラムはどうなる予定ですか?

 そこは顧客の要望次第ですね。いろいろなニーズがあり、W-SIMだけではまかないきれません。用途に合わせて通信モジュールの組込やW-SIMなどを提案していきます。この分野の期待値は非常に大きいと思っています。M2Mは他社も安いですが、価格を含めた競争力は高いと思います。また、法人部隊の提案力という意味でも強いと思います。

 フォーラムには60数社が参加されています。ウィルコムが会社更生法を適用したこともあり、会員各社に継続するべきか確認しながら進めていこうと思っています。多くはM2M分野での展開を期待されているようで、今後そういった方向にシフトしていくのかもしれません。先日の発表会で3GのW-SIM(参考出品)を展示したのも、会員各社の反応を見たかったというのもあります。

販売チャネル、ソフトバンク連携

――ソフトバンクショップでウィルコム端末を販売するようなことはあるのでしょうか?

 そこは今後の検討課題です。ただ、今回発表会を行ったことで、端末を販売したいという代理店さんが増えています。これまで併売店を運営されてきた代理店から、専売店にしたいという声もあります。年度末にかけて販売チャネルは増えていく予定です。

――ソフトバンクグループの4社目の会社で、2台目需要を打ち出すということになれば、iPhoneやDELL Streakなどのソフトバンクのスマートフォン、タブレット端末とウィルコムというセットが自然な形に見えます。セット販売や料金施策など、ソフトバンクモバイルとの連携について教えてください。

 アイデアとしてそういった話も出ている状況です。ただ、ソフトバンクにはホワイトプランもあり、どう棲み分けていくのかをきっちり考えなければなりません。販売代理店との関係もあるので、順番に考えていく必要があると思っています。ソフトバンクとはさまざまな議論をしているところです。

ソフトバンク傘下のウィルコムという立場

――ソフトバンク傘下となったことで、これまでのウィルコムとは大きく変わるポイントは何でしょうか?

 ソフトバンクはサービスを提供する上で、非常に緻密に計算してサービス展開していると感じています。ウィルコムは小さな会社で、少数の幹部で展開してきたこともあり、なぜそのサービスをやるか? ということを数値化したり分析したりといった点が弱かったと思っています。結果オーライばかりでやってきて、その結果がダメだったために今の状況を招いてしまいました。

 また、意志決定の速度は圧倒的に変わりました。会社更生法適用して以来、なかなか判断ができない状況になり、当然思い切った投資もできませんでした。ソフトバンクによってウィルコムに1本筋が入り、ゴールに向かってみんなで進もうという体制ができたと思っています。

――ウィルコムはこれまで、周囲が通話サービスを拡充する中でデータサービスを展開したり、データサービスが充実してくる中で今度は「通話」を切り口としたり、携帯電話事業者のサービス展開とは異なるやり方をとっています。こういった施策は意図的なものなのでしょうか。

 実際のところ、いつも先を走っているんですよね(笑)。本来であれば、先を走っている間に次の投資を的確に行い、たとえばデータならXGPにうまく移行していく必要があったかと思います。そこでの判断の遅れというか、逡巡が今のウィルコムになってしまった。お金がうまく回らなかった。それが正直な感想ですね。

 ただ、狙っているところへの考え方は変えていません。これまでと同様に、今までになかったものを提供し、たくさん使ってもらおうと考えています。

――XGPの今後についてお話できますか? 連携の可能性はあるのでしょうか?

 別会社となったため先方の状況については、正直言って知りません。我々自身の足下を固めていくことに手一杯でもあります。連携という面では、ウィルコムがソフトバンクの4社目の通信会社となったことで、ソフトバンクグループの商材と組み合わせていくようなことを考えています。こうした連携を深めていく中で、「あ、またやっちゃったね、ウィルコム」と思ってもらえるようなものを提供していきたいですね。

インフラ共有によるコスト効果

――今回は音声、データサービスも次なる展開があるのでしょうか?

 マス向けは高速化を競うものですが、カーナビやAEDといったM2M市場での引き合いは強いと考えています。

 さらに今回、ソフトバンクとインフラが共用できるようになった点は非常に大きなポイントだと思っています。ネットワークを維持するのは非常にコストがかかり、基地局設備とバックボーンのネットワークは特にそうです。それがソフトバンクと共有できる効果は非常に大きいですね。

 15年前に基地局を作り、本来であればもっと効率化できたはずでしたが、財務状態からなかなか難しい状況でした。今回、ソフトバンクの鉄塔が利用できるようになり、アンテナも共用のものになります。バックボーンのネットワークもソフトバンクグループの大きなネットワークの一部となり、長期に渡ってインフラの絶対的なコストが安くできるようになります。

――コスト効果はどの程度期待できるものなのでしょうか? イメージとしてはどんなものでしょうか。

 いろいろな判断の仕方があるのですが、インフラコストは半分以下を目指せるイメージです。電波はやはり、どれだけ高いところに設置できるかが全てなんです。15mぐらいの電柱に設置すればメートルの範囲ですが、鉄塔につけるだけでキロメートルがカバーできます。

基地局の撤去

――これまで電柱に設置した基地局は撤去されるのでしょうか? また、鉄塔で吹いた電波と、既存の低い位置のアンテナが干渉するようなことはないのでしょうか。これまでのマイクロセルのシステムは活かせると考えていいですか?

 本当に不要になる基地局については撤去します。極端な話、地方の過疎部においてはエリアを作るためだけに電柱基地局をたくさん敷設している場合があるんですね。下手をすると、一日に1回も電話がない基地局があるわけです。それが高いところから広くカバーできるようになれば、過剰だった基地局を制御できるようになります。

 その一方で、電柱基地局でソフトバンクの3Gの電波が吹けるようになるので、ソフトバンク3Gエリアの充実にも期待できるのです。ソフトバンクにウィルコムの基地局を奪われるなんていう話も一部でありますが、現実の状況は異なります。

 また、鉄塔に電波を出すようになってもマイクロセルの技術は活かせるため、干渉などはありません。丸の内エリアでは35mに1つぐらいの割合で基地局があります。PHSは元々の設計がコードレス電話ですので、干渉に強く過密なエリア設計が可能な技術と言えます。

――最後の質問です。新しいウィルコム、これからどんなところに注目すればいいでしょうか?

 ウィルコムとしてもう一度スタートを切らせていただくことになり、もう一度お客様目線に立ち返ろうと考えています。「だれとでも定額」はユーザーが求めているものは何だろう? と考え提供しました。今後もユーザーの満足できる商品を精一杯出していきたいと思います。どうぞよろしくお願いします。

――お忙しい中ありがとうございました。

 



(津田 啓夢)

2010/12/13 16:38