インタビュー

ソフトバンクのAIスマホ「Natural AI Phone」が挑むスマホの再構築――意図を汲む「AIの中のアプリ」という新パラダイム

 ソフトバンクがAIスマホ「Natural AI Phone」を発表した。はたしてどのような狙いで提供されることになったのか。そして、端末やAI機能の開発元である米Brainはどういった企業なのか。

Natural AI Phone

 今回、ソフトバンク側のキーパーソンであるコンシューマ事業統括プロダクト本部本部長の足立泰明氏、そして米ブレインテクノロジーズ(Brain Technologies)のCEOであるジェリー・ユー(Jerry Yue)氏が本誌のインタビューに応えた。

ユー氏に聞く「Natural AI Phone」開発の背景

――Natural AI Phoneは、日本以外の国・地域でも提供される予定はありますか?

ユー氏
 グローバルでの展開計画についてはまだ発表していませんが、日本が最初のローンチとなり、日本ではソフトバンクさまが1年間の独占的なパートナーです。

 今年後半には米国を含む他の主要国での展開計画に関するニュースを共有する予定です。

ユー氏

――AI関連デバイスとしては、ウェアラブル、ヒアラブルといったジャンルが存在しますが、なぜスマートフォンを開発することにしたのでしょう?

ユー氏
 私たちは“人間らしさ”を中心にして、製品をデザインしています。だからこそ、製品を「ナチュラル」と名付けたわけです。

 そして「人間らしさ」として、最も自然な行動を考えると、「手」がまず思い浮かびます。

 私たちは手を持って生まれ、物理的な世界で手を動かして物を操作することを学びます。手で触れること、つまりタッチスクリーンは私たちにとって自然なインターフェイスです。だからこそ、タッチスクリーンは成功し、今後5年、10年ですぐになくなることはないと考えています。

 他の形状への探求も多くありますが、それから「考える」ことに対するインターフェイスとして、最も優れているものはやはりタッチスクリーンと考えたわけです。

――ブレイン社が開発したAIの仕組みを既存メーカーに提供し、組み込むという選択肢もあったのでは?

ユー氏
 いま、AIチャットアプリがよく利用されています。いわば、アプリにAIが組み込まれた格好で、「アプリのサイロ化」(アプリごとにデータや機能が貯蔵庫:サイロで分断されている様を指す)です。

 一方、私たちは、逆の発想をすべきと考えました。AIの中にすべてのアプリを組み込むというアプローチです。

 そのためには、現在のAndroidやiOSの上で動作するAIアシスタントを提供するのではなく、OSのカーネル側やフレームワーク層にAIを組み込む。そこで、多くの根本的な見直しが必要です。

 もしスマートフォンが本当にユーザーを理解しているなら、ファイルやフォルダー、アプリといった古いコンピューターの厳格な階層システムは必要でしょうか。これまでなら、「あのファイルはどのフォルダにあるのか」と考える必要がありますよね。

 でも、我々が考えるAIエージェントのあり方、ユーザーが意図を伝えればAIが見つけてくれる、あるいは言わずともAIが「これが今必要では?」と提案してくれる。

 プレゼンテーションで「今日はDay 0」とお伝えしましたが、これはこれから「Natural AI Phone」が進化していくという意味合いです。根本的に異なる思想ということで、ファイルの読み書きを基本とする古いパラダイムを捨て、スマートフォンをゼロから独自に構築しなければならないと判断したのです。

 インターフェイスがどうあるべきか、再構築する際には、多くの見直しが必要になると思います。少なくとも世界へのショーケースとして、完全に我々がコントロールする形で、我々は世界に次の体験がどのようなものかを示したかったのです。

――アプリやサービスは、どうAIとやり取りしているか、アーキテクチャーについても教えてください。

ユー氏
 たとえば、プログラミング(コーディング)の場面で、Claude Codeはとても役立ちますよね。コーディングをする際には、すべてのコンテキスト(文脈)がコードベース内に存在します。分からないことがあれば、特定のファイルやコードベースに入るツールがあり、ファイル同士の依存関係や他のすべてのファイル、プログラム、関数との繋がりを把握して処理します。

 一方、私たちはジェネレーティブ(生成)なインターフェイス、あるいはバックグラウンドでエージェントがタスクを処理する際には、「コンテキストへの深い理解」にフォーカスしています。

 これらのコンテキストは、プログラムやコードの仕組みではなく、人間の思考に近い抽象化と言えるもので、カーネルレベルでまとめられます。つまり、Claude Codeのように機能し、長期的にはAIエージェントがより複雑なタスクをスムーズにこなせるようにする、独自のアーキテクチャーなのです。

――クラウドへの負荷はどの程度になりますか。

ユー氏
 「Natural AI Phone」は、クラウドと端末での処理、どちらも活用するハイブリッド方式です。複雑なタスクはクラウドを活用しますし、効率性が必要な場面では端末上で処理されます。

 最近では、(スマートフォン向けのチップセットを提供する)米クアルコムと密接に連携し、消費電力を抑えて、端末上での生成AIの最適化を進めています。NPU(AI処理ユニット)もあって、効率はさらに向上するでしょう。

――AIエージェントといえば、音声での操作というイメージもあります。タッチ操作という視覚でのインターフェイスを重視する理由は?

ユー氏
 インターフェイスは進化し続けています。音声(自然言語)は、ボタンを何度もクリックせずに目的の概念に到達できる素晴らしい手段ですが、人間は本質的に「視覚的な生き物」ですよね。

 会話は、直線的、つまり一度に一つのことしか話せない形態ですが、視覚情報は二次元的であり、一瞬で多くの情報を把握できます。例えばタクシーを呼ぶ際、音声で説明されるよりも、地図アプリを0.5秒、見た方が「どこに車がいるか」「どこで乗車できるか」、きちんと理解できます。

 社内でよく話しているのは、これまでのスマートデバイスはインターネットにタッチできるようになったと。その上で、私たちは、「マインド(心)にタッチできるようにしよう」ということです。

私たちは、「視覚・タッチ」と「自然言語」の最適なバランスこそが魔法を生むと考えています。画面上の要素を長押ししながら話しかけると、新たなインターフェイスが生成されるような、両者が融合した体験を順次提供していきます。

ソフトバンク足立氏に聞く

足立氏
 私自身は、1999年、東京デジタルホンへ入社し、ソフトバンクになってから3年半ほどネットワークチームに所属して、基地局をどこに配置するか設計することに従事しました。

 その後、プロダクト(製品)に関わることになり、iPhone登場時には、iPhoneのプロジェクトリーダーを務めました。

足立氏

――今回はAIフォンということですが、それを含めた、足立さんのチームとしてのミッションは?

足立氏
 AIに限らず、新しいサービスやプロダクトでコンシューマーのお客さまにとって価値があるものを見つけて提供していくことになります。

 パートナーとなる事業者さまがいれば一緒にやりますし、お客さまにとって手間となる部分(ペイン)を見つけて解決するための新たなサービスを提供していくということをミッションにしています。

――このタイミングでの発表・発売になった理由を教えてください。

足立氏
 社内からも早くという声はありましたし、当初の計画と比べると少し遅くなったのは事実です。

 しかし、当然ですが、スマホとしての品質も必要です。急いで発売して、お客さまに迷惑をかけるわけにもいかないということで、この時期になりました。

――品質面で譲れなかったことは?

足立氏
 たとえばハルシネーション(幻覚、AIが偽の情報を出力すること)などのチェックも必要でした。

 AIサービスのレスポンスも、今後も進化は必要ですが、発売に向けて改善していきました。チャットベースのAIをお使いいただくと、推論処理で非常に時間がかかる事があると思います。でも、お客さまはもっと早い反応を期待しています。そうしたギャップを解消できるよう開発を進めたことになります。

――今回の発表会場で展示されたものは、改善が反映されたものですか?

足立氏
 そうですね、改善は今後も続ける予定で、アップデートの予定も決まっています。「Day 0」という話もありましたが、お客さまのことを学んで、レスポンスをいかに早くしていくか、これからどんどん改善していきます。

――ソフトバンクとしては、「Ai Pin」というデバイスとの提携も一時発表していましたが、その後の経緯もあって「Natural AI Phone」になったということですか?

足立氏
 Ai Pinは、完全に法人向けとなったため、我々(足立氏の担当チーム)としては、取り扱えなくなりましたが、AIを活用するデバイスとして、アプリ切り替えのストレスを軽減するなど、ジェネレーティブなインターフェイスは、スマートフォンにAIエージェントが搭載される時代では、非常に正しい考え方だと思って、一緒に開発を進めてきました。

――FeliCa(おサイフケータイ)も搭載していますが、ソフトバンク側のリクエストですか?

足立氏
 はい、そうです。ほかの製品群と同じようにリクエストし、できる範囲がブレイン側から提示されて、採用に至っています。

――1年間の独占ですね。その後は?

足立氏
 契約上、明確には申し上げられないのですが、我々としては継続できるよう話していきたいです。

――ブレインは他社でも売りたいということでしょうか。

足立氏
 そこまで確認できていないのですが、彼らはグローバルでの展開を前提としてもともと商品を企画しています。スケール(規模)を求めていくのだろうと思います。

――ターゲット層は?

足立氏
 基本的にはイノベーターとアーリーアダプターだと思っています。

 ただ、AIのことを、知ってはいるけれど使ったことがないという方はかなりいらっしゃいます。何のとっかかりもなく、「Natural AI Phone」を手に取っていただけるとは思っていません。

――すでに学生層も、ChatGPTなどに親しんでいます。新たにスマホを買い替えてもらえるでしょうか。

足立氏
 これからブレイン側と一緒に、どれだけ進化させられるか、機能を増やせるかというところも大きいでしょう、

 社内でも、1台目として考えるなら、若い世代に向けたほうがいいのでは、という話も出ています。そこで、口コミかSNSなどでの訴求なのか、考えていきますけども、まずは今回の発表を踏まえて、どんな反応をいただけるか、そこから見えることもあると思います。そのあと、いろいろ考えていかないと。

――AIの進化のスピード感からすると、今回、AIを組み込んだ「Natural AI Phone」は、1年後、2年後にほかのAIサービスとの差が大きくなりませんか?

足立氏
 ハードウェアというより、ソフトのアップデートの面ということですよね。確かに、現在のAIの発展速度からは、私たちキャリア(携帯電話事業者)も考え方を変えないと、とても追いつけないと思っています。

足立氏
 開発の過程では、正直、ブレイン側と激しい議論になったこともありました。たとえば、我々が検証しないと出せないよというスタンスを取る。でも、彼らはスタートアップなので、いかに早く新しく良い機能を取り込んでいくかに取り組んでいます。そこで、ソフトバンク側も検討を重ねて、まずはAndroidとして成立することをチェックしていこうと。

 AIサービスについては、クラウドでの処理もありますが、ブレイン側が新機能を入れる際には、ソフトバンク側も知っておく必要はあります。でも、ある程度の検証はするとしてもストップをかけることは、なるべくしないようにするですとか、新機能を一緒に改善していく。お客さまからのフィードバックを渡す。

 そんな連携によって、OSベンダーさんへのキャッチアップや差別化を明確にしていきたいです。

――販売数は、ソフトバンクのスマートフォンラインアップではどれくらいの規模になりますか?

足立氏
 具体的な数は申し上げられませんが、売れ筋な商品と比べると少ないと思います。ですがチャレンジングな商品であることは、社内にも説明しています。

 ただ、面白いと言われても、本当にお客さまに求めてもらえるのか、伝わるのかという指摘はあります。これからもっと良さを伝えていく活動をしなければいけないと思います。

――開発のきっかけは?

足立氏
 デバイスありきで考えていたわけではありません。AIエージェントがスマートフォンに本当に載る時代において、理想的な形は何だろうと考えていたわけです。

 たとえば、今、一般的にはスマートフォンへの不満は大きくない状況でしょう。でも、当たり前と感じているところを少し変えると、便利と感じる瞬間はたくさんあります。

 AIエージェントが何かを代わりに処理するといったことで、お客さまのストレスを解決できるのではないか。

 そんなときに、ブレインとドイツテレコムとの協業の前に、米国でスタートアップとの関係構築などを担う社内の別部署から「ブレインという会社があるので一度会ってみないか」と打診を受けたんです。

 その時点で、まだAIフォンを作ることまでには至っていなかったのですが、スペックを含めて一緒に協議をして、今回の製品にまとまりました。

――それでも「共同開発」というわけではないのですね。

足立氏
実際に開発しているのは彼らです。ソフトバンク側としても検証、あるいは「こういう実装はどうか」といった話はしていますが、あくまで開発主体はブレイン側です。

 具体的な名前は聞いていませんが、他のキャリアも一緒に検討していると聞いています。

――Androidが似た機能を搭載してくると、どう対応していきますか。

足立氏
 「Natural AI Phone」の特徴は、ジェネレーティブインターフェイスと、ユーザー理解です。差別化できるまで進化を続けられるかが重要になるのでしょう。

――OSアップデートの期間は?

足立氏
 現時点では公開していません。

――AIを組み込むということであれば、バージョンアップが難しそうと感じました。

足立氏
 主にはNatural AIのアップデートをどんどんしていくということはあります。我々としても、基本的にセキュリティも含めてOSを最新にしていきたいと思ってます。ブレイン側と協議しながら、Natural AIとOSのバージョンアップ、どちらを優先するのか、その時々で判断していくのだろうと思います。

――ありがとうございました。