インタビュー
医療でもApple Watch、「心房細動」の発見や術後経過に「Apple Watch」を活用するメリットや背景を聞いた
2024年4月5日 00:00
心臓の心房がけいれんするように細かく震え不規則な脈になる疾患「心房細動」は、日本国内でも検診で診断される患者数だけで約80万人、自覚症状がないなど検診での診断がない場合を含めると、実際には100万人以上いると言われている。
年齢を重ねるほどリスクが大きく、治療せずに放置すると、心不全や世界で2番目に多い死因といわれている脳卒中につながる恐れがある。
心房細動は動悸や息切れ、めまいなどの自覚症状がある場合もある一方、約半数が無症状であるといわれており、就寝中に発生することも多く、年に一度の健康診断でも検診中に発生しなければ、発見されないことも多い。
長期間記録できる心電計も多い一方、アップル(Apple)のApple Watchの一部機種(Apple Watch Series 4以降/Ultra以降、SEは除く)では、心電図アプリで手軽に計測することができる。
このApple Watchの心電図アプリは、日本でも医療機器として承認されているもので、一部の医師は、この心電図アプリを活用して心房細動などの発見や手術後の経過観察などに活用している。
今回は、積極的にApple Watchの心電図アプリを活用し、Apple Watch外来を開設しているニューハート・ワタナベ国際病院の副院長兼ウルフ―オオツカ低侵襲心房細動手術センター センター長の大塚 俊哉氏に、Apple Watch活用の背景やメリットを聞いた。
経過観察が重要な心房細動
大塚氏は、心房細動の治療について「手術をしました、でもう終わりではない。やはり再発しないかということや、それをどうやって判断するかということが、治療の中でも課題だった」とコメント。手術の経過を見るにも、心電図の存在は不可欠で、実際に学会でも、術後の追跡に関するガイドラインが制定されているが「大体何ヶ月おきに心電図を見るといった継続性、連続性がないもの」と指摘。
Apple Watchを使うと、患者自身が病院に行かなくてもかんたんに心電図を計測できる。大塚氏は、「どこでも計測できる」という点にも高いベネフィットがあるという。大塚氏の患者の中には、日本各地のほか、海外在住の患者もいるといい、離れた場所からでも早期発見や術後の経過観察ができる。
健康な人でも“異常に気づける”
Apple Watchには、不規則な心拍リズムを検知するとユーザーに通知する機能が備わっている。実際に、大塚氏のApple Watch外来でも、この通知をきっかけに心電図のデータを送るユーザーも多いといい、中にはやはり心房細動の兆候があり、近くの病院への受診を勧められたり、実際に大塚氏による治療を受けたりする人もいるという。
通常では、年に1回の健康診断の場で行われる心電図が唯一の気づける場になるが、不整脈などが発生するタイミングが合うことは珍しく、また多くの場合は発生しても正常に戻り、精密検査しても異常が発見されないことが多い。
小型のもので24時間以上連続モニターできるホルター心電図というものもあるが、計測できる時間が限られており、そこで異常が出なければわからない。心電計を搭載したさまざまな機器が登場しており、常時計測のハードル自体は下がってきているものの、一朝一夕あり、ユーザーが気軽に利用できるものはなかなか現れていないのが実情だ。
Apple Watchでは、心電図アプリのほかにも心拍数が計測されるため、ユーザーの状況をより詳しく長期間にわたって記録し、確認することができる。また、大塚氏は「患者さんも持ちやすい」と、ファッションにもなる点にもメリットが大きいとした。
慢性心房細動だと、異常が正常と思ってしまう
心房細動の患者の中には、慢性的に発生している「慢性心房細動」の状態になっているユーザーもいるという。慢性心房細動では、常に心房細動が起こっているにもかかわらず、それが普通の状態になってしまっており、症状が出ていてもそれが埋もれてしまうことがあるという。
特に高齢で慢性疾患を抱えている場合、脳卒中につながる可能性も高いため、症状がなくてもApple Watchを付けておくことで、気づける可能性が大きくなる。Apple Watchでは心拍のリズムを時々でモニタリングしており、リズムが乱れると「不規則な心拍」の通知が出る。この通知をきっかけに、心電図の計測を行うと、心房細動の波形が見つかることがあるという。
一方で、たまたま入ってしまった電気的ノイズをもとに通知を出してしまったり、人によっては頻繁にノイズが入ってしまい誤通知が出てしまったりすることもあるという。大塚氏は、「ノイズが入ってしまうのも、しっかりと計測しているから」とし、たとえノイズだらけの情報であっても、潜在的な心房細動の兆候が推定されることもあるとしている。
不整脈=心房細動というわけではなく、さまざまな疾患が想定される。Apple Watchでは、心房細動以外の疾患については、分類することはできない。大塚氏など、専門の医師が波形を見ることで、診断することができるため、通知が出た場合は心電図を計測して受け付けている病院や医師の診察を受けてみるのもよさそうだ。
患者目線ではどうか?
今回は、実際に大塚氏が執刀し経過観察で受診した善積 秀幸氏にも話を聞いた。
善積氏も医師であるが、もともと睡眠時無呼吸症候群があり治療を進めていたという。自覚症状がない患者も多い中、善積氏の場合はとても苦しい心房細動の自覚症状が生じたという。発生してすぐに、最寄りの救急病院に駆け込み、心電図を計測したが、その際は「頻度が少ないだろう」として当面様子見することになった。
しかし善積氏は、心房細動が脳梗塞につながるという知識があり、「毎日気になって仕方なかった」とし、大塚氏の元を訪れた。そこで、Apple Watchを勧められ、心電図や心拍数、症状を記録するようになったとしている。
術後の経過は順調で、善積氏も「不安はない」としながらも、睡眠時無呼吸症候群の症状もあることから、睡眠時の心拍数などの計測にも役立っていると話す。
服薬してもらう明確な動機付けにも
大塚氏は、心房細動の患者の場合、心房細動が発生していない“正常な脈”でも、心房細動が多発している時とすっかり無くなっている時で脈の出方が違うとし、手術前後で脈を見比べることで、手術効果が適切に出ているか、といった確認も行うという。
また、たまにしか心房細動が発生しないことで、途中で服薬をやめてしまう患者もいる。
「本人としたら、症状を感じていないのに、薬は本当は嫌。いらなかったらもう飲みたくないでしょう」と大塚氏は理解を示すものの、治療を続けなければいけない患者も多い。Apple Watchで脈の状況などを計測し、患者にもその違いを示すことで「心房細動が確かに起きている」ことを患者にも理解し、納得してもらえると大塚氏は説明する。
「知らぬが仏」が怖い
自覚症状が現れないことが多い心房細動。冒頭の通り、日本でも潜在的に100万人以上いると言われており、実際に診断されていないユーザーも多い。大塚氏も「知らないことは『知らぬが仏』ではなくて、いきなり脳梗塞になってしまうなど、いきなり『地獄に落とされる』ような疾患ってあまりない」と、心房細動のリスクを語る。
Apple Watchは、腕に装着しているだけで心房細動の兆候を検知し、必要があれば心電図を計測できる。特別な設定やアプリのダウンロードをせずとも、高い頻度で計測できるため、自身の親にも装着を勧めることで、見守りとともに本人やその周りの安心にもつながるのではないだろうか。