インタビュー

「6G」開発にはまず「5Gの成功」が必要だ――ドコモ中村氏に聞く

 2030年ごろの導入に向け、世界の通信業界で開発が進められる“6G”。2020年に日本で始まった「5G」(第5世代)の携帯電話サービスの次に位置する規格だ。

 NTTドコモで6G関連に携わるChief Standardization Officerの中村武宏氏に現在地や今後の展開を聞いたところ、「まずは5Gの成功が重要」と足元を固める必要性を指摘する。

中村氏

――6Gではサブテラヘルツ波帯の利用が想定されているという話を昨年もお伺いしましたが、1年経っていかがですか。

中村氏
 まだ5Gでミリ波が普及しきれていないため、その反動で7GHz~15GHz帯が話題になっています。WRC(世界無線通信会議)の2027年の会合で議題になります。

 ミリ波に対する期待は高いです。Sub6(6GHz帯以下の周波数)だけでいけるかと言えば、そうではないですから、早くミリ波を使いこなせるソリューションを確立して、普及の足がかりを早めにつくることが必要なのかなと考えています。

 サブテラヘルツ帯の利用はその先ですね。ミリ波がまずうまくいかないと。

――NTT(持株)の川添雄彦副社長へIOWNについて取材したのですが、ドコモとして6G時代に向けた活用イメージはありますか?

中村氏
 具体的なものはこれからです。ただ、幅広いポテンシャルがあるでしょう。

 6Gにせよ、現在の5Gにせよ、基地局は有線を使わざるを得ません。それからコンピューティングリソースもネットワークと一体化して重要になっていますので、IOWNのコンピューティング(処理能力)技術や基盤なども組み合わせていくことも必要になる。

 まだ、全体的な検討の段階ですが、今後、より具体的な数字をもった話になってくると思います。

――IOWNをモバイルネットワークに組み合わせていく場面で、その要素は3GPPのような場で標準技術に組み込まれていくものでしょうか。

中村氏
 一般論として、日本だけの技術よりも、グローバルで利用されて、マーケットを大きくすることでコストを安くできます。世界的に共通して使えるほうがよくて、そのために必要な部分は標準化するのでしょう。

 ただ、しなくてもいいところ、競争すべきところも当然あります。そのあたりも今後の検討になるのでしょう。

――NTN(衛星通信や高高度航空プラットフォームなど)についてはいかがでしょう。

中村氏
 Amazonのプロジェクトカイパーと協業しますし、法人向けに「スターリンク」も提供しています。

 一方で、HAPS(高高度の航空機からサービスエリアを作るコンセプト)があります。数年来、エアバスさんと協力しており、より効率的にエリアを拡大しつつ、性能を高めようとしています。

 構想や実験だけではなく、商用化に向けた活動もしています。

 NTTとスカパーJSATさんとで、スペースコンパスという合弁会社が設立されており、商用化に向けた活動が加熱しています。ドコモも参画しています。

――スマホと衛星の直接通信はいかがですか。

中村氏
 ダイレクトアクセスとも呼ばれますが、非常に重要だと思っています。衛星ではなくHAPSだと高度が20km程度ですので、十分アクセスできて、性能も上げられるでしょう。

 低軌道衛星(LEO)は結果が出てきていますが、地上からの距離が数百kmあるため、遅延もありますし、転送速度も低めです。やはり限界はあるかなと。

 楽天さんが組むAST SpaceMobileは衛星が大きいということで、スピードは出るのでしょう。ただ、打ち上げ数があまり多くないんですよね? 常時、日本をカバーできるのか、ちょっとこのあたりはわからないです。

 衛星にしろ、HAPSにしろ、一長一短あります。そこでドコモの強みを活かせるか。

 HAPSは、大阪・関西万博で何かしら披露できるよう準備しつつあります。その後、商用化を目指していくでしょうが、いつからとはまだ決まっていません。2020年代には……ですね。

――HAPSは3GPPで標準化されているんですよね。

中村氏
 基本的に地上から送るスマホへの信号を束ねて、HAPSに送り、スマホに届けます。特に中身を変えずに、だーっと送ると。

――リピーター(中継機)ですね。

中村氏
 まさにそうです。将来的には基地局機能が搭載されるでしょう。

――5.5Gについてはいかがでしょうか。

中村氏
 ここ最近、6Gのことで話す機会があると、結局5Gの話になってしまうんですよ。5Gの成功に向けた活動もやってまして。

 ひとつはミリ波。使いこなしてサブテラヘルツ帯に向けて歩みを進める必要があります。

 もうひとつが、エンタープライズでの利用を促進します。これも5Gで成功しないと6Gで花開くことはないでしょう。

 5.5Gの前に、まだ5Gで実現すると言われていた工場の無線化やクルマのコネクティビティ、遠隔教育・遠隔医療などが、進捗はありますが、まだ花が開いていません。土台はできつつある、じわじわ来ているとは思います。

――万博はいいタイミングかもしれませんね。

中村氏
 そうなんです、いいマイルストーンです。

 プレ6Gみたいなものもお見せしたいですが、まずリアルな5Gの成功ですね。

 ドコモの法人向け部門にも協力していますが、個人的には5Gの底上げは、ドコモ1社だけではちょっとスピードアップしません。

 協調領域として、みんなと協力して盛り上げたい。第5世代モバイル推進フォーラム(5GMF)でミリ波の活用を推進する活動や、工場の無線化を進める団体にも参画しています。世界で一緒に進めてスピードアップして、その上で、ビジネス上で競争していく。

――共創というと、どういう内容でしょうか。

中村氏
 ひとつはマッチングです。月に一度くらいイベントをしているんですが、企業と企業が出会って、5Gを使ったビジネス・協業に向けて合意へのきっかけを作れないかなと。

 新たな5Gの使い方を、業界横断で議論する場も必要です。それから人に会う、いわゆる人脈づくり、ネットワークづくりですね。

――異業種交流会みたいな。

中村氏

 意外とそういう機会ないんですよね。

――5G SAはいかがですか。

中村氏
 おぼろげにイメージはあっても、実用するサービスはまだないですよね。実例を肌で感じられる場を用意して、効果を感じられるといったことも必要でしょう。

――エリア拡充はニーズが出てからですか。

中村氏
 それはニワトリと卵の関係ですよね……昔ならまずエリア構築となるんでしょうが、世界的にはまだちょっとそれだけの体力がない。経済的に厳しい状況ですので、「まずエリアから」にはならず、儲かるユースケースを確認したいとなります。

 ずっとそのままでは前に進めませんので、じわじわ進めています。

――今回、6Gをテーマにするインタビューの話でしたが、半分くらい5Gの課題ですねぇ……。

中村氏
 毎回そうなんですよ(笑)。5Gの成功と6Gへの準備は両輪ですね。

――4Gのときは、もうすこし早く成功したイメージもありますが……。

中村氏
 4Gも本当に花開いたのは2015年くらいではないでしょうか、と考えると5Gも同じくらいだと思います。3Gから4Gへのステップアップの際も、3Gを高度化したしくみで十分じゃないか、なんて指摘がありましたしね。

――展示では人間拡張が面白いですね。

中村氏
 新しいことをお示ししたかったんですよね。いい感じに発展するかなと。

 MWCは、ポテンシャルのあるパートナー候補の方々と出会える場でもあります。展示を通じて、お声がけがあるので、また新たにチャレンジもしたりして。実際、昨年の展示を経て引き合いも多いです。今の時代、各分野でスキルを持つ人々と早めに協力できるようにして、結果を出していく。それを効率的にできる場ですね。

――ありがとうございました。