インタビュー

「homeでんわ」誕生のきっかけとは――ドコモが固定電話を提供する理由

 NTTドコモの固定電話サービス「homeでんわ」が3月29日にサービスを開始した。

 ドコモのモバイル回線を使って固定電話を利用できるというサービスで、NTT東西が提供する固定電話よりも、月々の利用料金を下げられるなどのメリットがある。KDDIやソフトバンクなど、他社からはすでに類似のサービスが登場しているが今回、ドコモが提供に至った理由や今後の展開などについて、ドコモのhomeでんわ担当者に聞いた。

 今回、弊誌のインタビューに応じたのは、NTTドコモ 光ブロードバンド事業推進部 サービス企画担当社員の河上寛氏と、同じくNTTドコモ 光ブロードバンド事業推進部 販売企画担当 チャネル支援担当社員の藤井萌氏の2人。

 聞き手は、本誌編集長の関口聖とフリーライターの法林岳之氏。

左=NTTドコモ 河上氏。右=NTTドコモ 藤井氏

homeでんわ誕生のきっかけ

――homeでんわの提供に至るきっかけは何だったんでしょうか?

河上氏
 2021年8月に、ホームルーターの「home 5G」がスタートしました。(homeでんわの)検討はその時から進んでいました。本当はhome 5Gと同時期に提供できればと思っていましたが、色々と準備もありまして……。今回のタイミングで準備を整えられたので、提供に至りました。

 もともと、home 5Gとセットで(電話を)利用したいという声もありました。さらに固定電話のユーザーからアンケートをとったところ、ニーズに合っているなということでサービスとして提供しようとなりました。

――homeでんわとしてのニーズを探ろうとしたきっかけはなんでしょう? 固定電話に対するニーズ調査というのはユニークですよね

河上氏
 ドコモの「ひかり電話」がありますが、これはドコモ光のユーザーに向けたもので、固定回線を契約していなければ利用できません。ドコモ光ユーザーには固定電話を提案できますが、ドコモ光を利用されていないユーザーでも(ドコモの)固定電話を使いたいという人に向けたサービスがありませんでした。今回のhomeでんわで、そうした方にもサービスを提供できるようになりました。

――ドコモ・井伊基之社長は、home 5Gの提供には意欲的でしたが固定電話については言及がありませんでした。しかし皆さんの中ではセットで提供したかったということなんですね

河上氏
 どちらも家庭で利用するサービスです。類似の固定電話サービスの利用も増えていますし、サービスとしてのラインアップ(拡充)も含めて注力していきたい。homeでんわとhome 5Gは家庭で使うサービスとして親和性が高いのかな、と思っています。

――他社ではホームルーターと電話を縦積みできるようになっていますが、home 5Gとhomeでんわではできません。この辺りについては議論はなかったですか?

河上氏
 他社でそういったようになっているのは承知しています。ただ、2つのデバイスを必ずしも同じ場所に設置するわけではありません。電話なら電話機のそばですが、ルーターだと想定としてはリビングですが、そうでないこともあります。一体型にしてしまうと制限が出てしまいますし、単独でそれぞれを使う人もいますから、別々に設置するものとして開発を進めました。

home 5Gユーザーから熱視線

――ユーザーからの反響はどうでしたか?

藤井氏
 他社の固定電話サービスのユーザーから好意的な声が寄せられました。類似サービスは他社にはありましたが、ドコモにはありませんでした。そこにキャッチアップするというかたちで今回の提供に至ったわけですが、home 5Gユーザーで固定電話を使いたいという方に好評です。

――なるほど。こういった反響は狙い通りというところでしょうか?

河上氏
 当初、想定していたのはドコモ光回線を契約されていないユーザーで、他社サービスのユーザーは想定していませんでしたが、好評のようです。今後の参考のためにも、どういうところが魅力なのかを深掘りして、次につなげていきたいです。

――現段階でおふたりが思う魅力はなんですか?

藤井氏
 NTT東西の固定電話をご利用中で他社のサービスに乗り換えを検討しているユーザーにとっては、homeでんわに切り替えることで料金を下げられるという部分でしょうか。

――他社が類似サービスで先行している中、NTTグループ外への流出も避けられそうですね。

藤井氏
 その通りだと思います。

――もともとNTT東西で家庭向けの固定電話サービスが提供されています。モバイル回線を使うとはいえ、ドコモが固定電話を手掛けるとなると、開発や販売現場で、グループ内として何かしら衝突が起きそうな気もしますが……。

藤井氏
 NTT東西と直接ぶつかったということはありません。他社へ流出するNTT東西ユーザーをドコモが獲得したかったところがあります。

――(法林氏)他社への流出を防ぐ意味合いとしてのhomeでんわだったのでしょうか。それとも変わりゆく固定電話を踏まえて、モバイル回線を活用したサービス拡充としての意味合いが強いのでしょうか?

藤井氏
 難しいですね(笑) 今まではドコモ光ユーザーにのみ固定電話を提供していました。一方で、home 5Gはありつつもモバイルユーザーは固定電話を使えなかったので、そこへのアプローチというのがきっかけです。

 結果的にはそれ(homeでんわ)を我々が提供することで、他社への流出も止めるといった狙いもありました。

――(法林氏)ドコモ光以外の固定回線ユーザーに対して、電話サービスを提供したいというところがスタートで、プラスαとしてそのほかの効果もあったということですね

藤井氏
 そうですね。

制度や技術的課題も多く

――提供にあたっては、技術や制度的にも課題があったのではないかと思います。

河上氏
 おっしゃる通り、技術と制度の両面で課題を抱えました。固定電話ですから市外局番の地域性の確保、高い通話品質の確保、緊急通報と制度的に義務付けられたものをクリアしていく必要がありました。

 届け出た設置場所以外では使えないということをユーザーに周知できるか、常に回線品質が変動するモバイル回線でどうやって一定の通話品質を確保できるか、(homeでんわで利用する)VoIPでは緊急通報ができないなど、固定電話として使う上でかなり成約があり、どうクリアしていくかが課題でした。

――利用できる場所は技術的に制限されているのでしょうか?

河上氏
 申告いただいた場所以外での利用の制限は、技術的に実装しています。どういう仕組みかはちょっと……。

――(法林氏)地方ではかなり広大なお家もありますが、そういったところでも差し支えなく使えますか?

河上氏
 たしかにユーザーの利用環境はさまざまで、自宅と言ってもかなり広い場合もありますので、そちらでも不便がないようなかたちにはしています。

――固定電話としては当たり前の話ですよね。しかし「ドコモのサービス」と捉えるとユーザーから疑問を持たれるというような懸念はありましたか?

藤井氏
 届け出た場所以外ということに加えて、エリア外では利用できないということもあります。この2点について認知が広まりにくいという懸念はありました。そのため、店頭での丁寧な応対を実施して、ユーザーに伝わるよう取り組んできました。

――品質の変化しやすいモバイル回線でどのようにして一定の通話品質を保っているのでしょうか?

河上氏
 モバイル区間は、スマートフォンでの利用と同じです。その無線区間を超えたところでVoIPの品質を確保できないか検討しました。方法は具体的には明かせないのですが、一定以上の品質を担保できそうなかたちをとっています。

――(法林氏)固定電話とモバイルで規格として決めている品質の基準は違います。今回のサービスではモバイルではなく、固定電話のVoIPとしての規格に準拠したかたちで作られているということですね。

河上氏
 VoIPとしての品質を担保しています。

――さきほど課題のお話でVoIPでは……と表現されていましたが、VoLTEではなく、VoIPでのサービスなんですね。VoLTEのスマホでも緊急通報はできますし、VoIPでも簡単に……と思ってしまいますがどうなんでしょう?

河上氏
 はい、VoIPのサービスになります。法的なガイドライン上、遅延などのルールもそちらにあわせていますし、コーデックも異なります。そして、基本的にVoIPでは、緊急通報の利用はできません。ここが課題となります。VoIPで緊急通報をかけられる方法はいくつかあり、最適な手段を選択して実装する必要がありました。うまく選択してサービスが提供できたと思います。

――あくまで参考として……緊急通報のテストは実際に通報するんでしょうか?

河上氏
 検証用の環境を用意して、再現してテストしています。実際の環境でやってしまうと実際につながってしまい、公共サービスの方のご迷惑になってしまうので……。

――緊急通報や通話品質などの課題とサービスエリアに関連性はあるのでしょうか?

河上氏
 制度的に条件があるのですが、それらをすべて満たして提供エリアとすることができます。一部満たせていない地域もあり、サービスエリアか否かが決まってきます。

アップデートも? 今後のイメージは

――工事不要・低料金などすでにメリットはありますが、今後提供されるであろう新しい価値が気になります。たとえばスマホでイエデンを受けられたりhomeでんわに受話器がついたり……。

河上氏
 まずは実際のユーザーの声を聴いていきたいと思います。ユーザーと我々が考える進化(の方向性)が一致しなければ、受け入れられないものになってしまうと思います。そういうことは避けなくてはなりません。

 現段階では、具体的には申し上げられませんが、サービスは次々に提供していかなくてはいけないと思います。homeでんわを利用いただく中で「こうしてほしい、ああしてほしい」という意見を集約しながら、最適なものを検討していくかたちになると思います。

 具体的に機能などを申し上げられず、心苦しいですが……目指すべき部分はユーザーの利便性を損なわずに向上させていくというところだと考えています。

――一度購入するとハードの進化は難しいですよね。スマホならOTAでアップデートできますが、homeでんわでも可能ですか?

河上氏
 おっしゃるとおり、OTAでアップデートする機能は備えています。

――今後、バージョンアップもやりたいとお考えですか?

河上氏
 そうですね、やりたいです。

――販売に携わる藤井さんのもとへはユーザーからの要望などは届いていますか?

藤井氏
 ポジティブ・ネガティブ両面性がありますが、エリアを拡大してほしいという声があります。エリアによって使用できないというところの認知が現時点での課題ですが、やはりユーザーからもそういった声がありました。

 「使いたいからこそエリア拡大してほしい」という要望が一番大きいですね。

 なお、直近で4月28日に北海道、愛知県、静岡県、岐阜県、三重県、大阪府、京都府、福岡県、長崎県、熊本県、鹿児島県の一部と、エリアの拡大を予定しており今後も順次拡大していきます。

――ありがとうございました。