インタビュー

J:COM石川社長ロングインタビュー、iPhone SE(第2世代)実質無料の「J:COM Mobile」が目指すもの

 ジュピターテレコム(J:COM)が9月、MVNOサービスの「J:COM MOBILE」で、立て続けに新たな施策を打ち出した。

 今年発売された「iPhone SE」(第2世代)を10GBプランで、かつ48回払いで買えば、割引により実質無料になる。また従来の料金プランのうち小容量プランは通信量をアップさせ、大容量プランは容量超過後も1Mbpsで使えるようにした。

 9月の発表会では「若年層のユーザーを新たに獲得したい」と語っていた石川雄三代表取締役社長に今回、新たな取り組みの背景を聞いた。

iPhone SE(第2世代)で確かな手応え

――9月、料金プランの改定とiPhone SE(第2世代)の発売が案内されました。1カ月半ほど経ちましたが、いかがですか。

石川氏

 これまでと比べると、かなり手応えを感じています。

 今回発表した内容では、10GBのプランであれば実質無料で「iPhone SE(第2世代)」をご利用いただけます。

 また、これまで、当社で提供してきたiPhoneは、現行世代の2つ前でした。しかし今回は、2020年に発表されたばかりのモデルです。そのあたりをご存知の方は「すごい」と反応していただけます。

 とはいえより多くの方へ知っていただくにはこれからです。以前と比べると売れていますが、もっと売れていいと思っています。欲深いかもしれませんが(笑)。

――「実質無料」には驚きました。この仕組みを実現させることは、難しかったのでしょうか?

石川氏
 いえ、実はそんな難しい話しではないんです。

 電気通信事業法のガイドライン上、100万人契約以上の事業者には、割引額の上限など一定の規制がかかります。

 J:COM MOBILEは、100万以下ですから、これには当てはまりません。しかしJ:COM自体には、KDDIから50%資本が入っていますから、いわゆる特定関係会社になりますので、規制対象です。

 と言いつつも、J:COM MOBILEを提供するのは、ジェイコム東京など(各地のグループ会社)で、こちらは特定関係会社ではなく規制対象外なんです。それだけのことなんです。

――そんな手があったんですね。

石川氏
 いえいえ、以前からそういう形でした。今回のためにそうしたわけではないんですよ(笑)。

――なるほど。

石川氏
 ほかのMVNOさんでも、同様の取り組みをできるところはあるはずです。いかに加入を伸ばすか、ということではないでしょうか。

――これまでサービスを提供してきたという過去の実績があるからこそ、というわけですか。

石川氏
 はい、そうだと思っています。

ラインアップの考え方

――最近ではiPhone 12シリーズも発表されました。最新機種もできるだけ扱う、といった方針なのでしょうか。

石川氏
 そういう意味では、MVNOという枠組みでどう戦うか、と考えています。

 ある意味、狙いすまして、良い機種を、さほど多くない形で揃えていきたい。

 最新のハイエンドモデルは、大手キャリアで扱われるでしょう。私どもは、リーズナブルで良い端末という形です。

 これまでもサポート、サービス面に注力してきました。たとえば使い残した容量を繰り越せるですとか、今回はWi-Fiスポットを強化しました。MNOと遜色ないサービススペックに向けた取り組みを結構やっているんです。

UQとワイモバイルの新プラン、どうですか

――10月28日、UQ mobileとワイモバイルからそれぞれ4000円前後で20GBというプランの発表がありました。その影響をどう見ていますか?

石川氏
 当社のサービスは端末とセットで提供しており、その点では十分に競争力があると思っています。

――となると追加的な取り組みはあまり考えていないのでしょうか。

石川氏

 キャンペーンを含めていくつか手を打とうと思っています。

 たとえば音声通話の部分は強化しなきゃいけないと思っています。

 正直に申し上げると、UQさんやワイモバイルさんの発表がなければ、もっと「楽に勝負できたかな?」と思うところはあります(笑)。

 (UQとワイモバイルのプランを引き込んだ)競争政策については、MNP転出料の無料化、接続料に関する施策などは歓迎しています。

 ただ、料金に直接「こうしなさい」というのは、認可制ではありませんから、変だなと感じています。

 政策の本質は競争を確立させることでしょう。そのこと自体は、繰り返しになりますが、とてもありがたい。もちろんJ:COM MOBILEはまだまだこれからですから、取り組みは続けていきます。

5Gも早く導入したい

石川氏
 また5Gのような使い放題はできませんが、5G自体の高速性能はひとつの価値ですから、10GB、20GBというプランでもご活用いただけるでしょう。そういう意味でも5Gを取り入れたいと思っています。

――確かに、ほかのMVNOと比べても、映像サービスのあるJ:COM MOBILEは5Gとの相性が良さそうです。5Gはいつごろになりそうでしょうか。

石川氏
 ある程度準備はしていますが、まだ改修すべき点もあります。そうした準備が整い次第でしょうか。

――ユーザーが5Gサービスを受け入れる時機は到来しているということでしょうか。

石川氏
 そうです。iPhoneが5Gに対応しましたので、国内ではスタンダードになっていくのでしょう。数日以内というわけではありませんが、遅れることなく提供していけるでしょう。

 新プラン刷新後、若年層の利用は、全体の比率で見ると増えてきています。マーケティング論でいう、いわゆる4P(プロダクト、プライス、プレース、プロモーション)のうち、まだプロモーションが揃っていませんので、これが揃えば、より多くの方にお使いいただけると見ています。

 もちろん、繰り返しになりますが、使い放題のようなプランへのニーズは大手キャリアでの利用になるのでしょう。「一定の価格ではJ:COM MOBILE」という形にしたいですね。

強みは営業とサポートスタッフ、そしてオンラインへのシフトも

――より多くの人へ届けるという面では、ユーザーとの接点をどんな形で増やしていくのでしょうか。たとえば店舗数を増やすのでしょうか。

石川氏
 ショップは現在全国に55店舗ありますが、なんといっても当社には営業スタッフが数多くいますし、アフターサポート専任のスタッフもいて、大きな強みです。

 これからの取組みになりますが、オンラインでの手続きにも注力しています。大手キャリアでの利用もまだ伸びる余地がある状況でしょうが、当社は大手キャリアよりも少し多い状況です。9月以降、利用が増えています。まだまだ伸ばせる余地があると感じています。

――オンラインを利用する方は、ITリテラシーの高い方、オトク感に敏感な方がやはり中心になりますか?

石川氏
 はい、いわゆるアーリーアダプターが多いとは思います。レイトマジョリティで、なおかつ、当社の各種サービスを使っていない方のオンラインでの利用はこれからでしょう。

――ケーブルテレビなどJ:COMのサービスを使っていない方には直接の営業活動はやはり難しいですよね。

石川氏
 はい、そうですね。もちろん、利用されていなくとも、当社エリア内であれば営業スタッフがお伺いすることはできます。

――やはりそのあたりは、UQやワイモバイルとの大きな違いと。

石川氏
 そうです。いわゆるOMO(Online Merges with Offline)です。

 オフラインの力は強みです。たとえば、人によっては、スペックの高い機種、STBの機能を使いこなしていただくには、サポートスタッフの存在がとても大きく貢献します。

 しっかりご説明してこんな使い方ができるんですよ、とお見せして、機敏に対応もできます。そうすることで、プロダクトの価値を100%伝えられると思います。

――9月の発表会では、J:COM MOBILEではシニア層が多かったというお話でしたが、まさにそうしたオフラインの力は、既存のユーザーさんにぴったりマッチする印象があります。その一方で、これからは、もっと幅広い層にリーチしたいとのことでしたが、その体制が強みになりづらいと言いますか、まだギャップがあるように思えます。

石川氏
 そうですよね。まず大前提として、やはりこれまでお使いいただいていたユーザーさんに、サービスはフィットしなければいけないと思っています。

 たとえば月額980円で、「Galaxy A20」を実質無料でご提供しています。980円ですよ、端末付きで。

石川氏
 結構良いスペックなんです。40代以上で、ヘビーにスマートフォンを使うわけではない、という方にはオススメしています。

 一方で、新プランは新しいユーザー層の発掘になる。どちらかに絞っているわけではない、という形です。たとえばCATVを使っていない方が、J:COM MOBILEを始められて、やがてCATVにも、となればいいなとも思っています。

 ……話していて、だんだん「欲張りすぎかな?」と思うところもありますが(笑)。

全国1400万世帯は「レディ」状態

――J:COMといえばどうしてもCATVを想起するのですが、一方で、通信を使った映像見放題の配信サービスが広がってきています。

石川氏
 メディア接触率を見ると、10年ほど前は、全メディアの中でテレビがトップでしたが、最近、スマートフォンとタブレットがテレビを抜きました。

 ただ、ここで言うテレビは放送波でしょう。一方で、見放題なサービスの利用が増えており、テレビというデバイス自体はまだまだ支持されていると見ています。

 昨年リリースしたSTB(セットトップボックス)は映像配信サービスと連携しています。独自調査では、当社のユーザーさんは、映像配信サービスも活用されていて、視聴時間そのものは伸びているんです。Netflixなどのサービスもやっぱりテレビで観たいというご意向があることもわかっています。

――J:COM MOBILEへ先に加入し、CATVには後から加入する、ということもできると。

石川氏
 当社の有料サービスは、全国で555万世帯にご利用いただいています。

 でも、当社の設備を導入済みの世帯は1395万世帯あるんです。つまりもうレディ(準備済)の状態です。

固定通信が下り320Mbps

石川氏
 そうした設備導入済みの場所では、同軸ケーブルが用意されています。すると、当社のネット接続サービス「J:COM NET」をもしご契約いただけると、下り最大320Mbpsの通信になるんです。

 光回線での最大1Gbpsのサービスもあるのですが、320Mbpsのサービスでも十分なスペックとして活用いただけると思います。

――なるほど、在宅勤務が増えた人にとって有力な選択肢になりますね。

石川氏
 はい、たとえばマンションの場合、VDSL方式で下り最大100Mbpsということも多いかと思います。建物内が光配線になっていないという場合ですね。

 そうした状況の方にとっては、320Mbpsでもかなり速いとお感じいただけると自負しています。

――私自身がまさにそのVDSLの環境下ですね……。なるほど。CATVに魅力を感じない人でも、ネット環境を利用したくなるかもしれない、という形ですね。

石川氏
 私どももいろいろと調査しています。固定回線ではボトルネックがいくつもあり得るのですが、最大の要因はやはり宅内です。たとえばWi-Fi環境を整備するとぐっと増速する可能性があります。

 そこで当社ではメッシュWi-Fiの装置も、月額800円(税抜)でご提供しているんです。

――確かにメッシュWi-Fi対応のルーターとしては値ごろ感がありますね。

石川氏
 光回線をご利用されている場合、ONU(光終端装置)までの速度と、ONUから先の宅内の速度がまったく違うということがあります。Wi-Fi環境を整えたら別世界になるでしょう。特に戸建ての方には実感していただきやすいかと思います。

ケイパビリティは揃った

――確かにCATVだけではなく、固定回線でも魅力を感じる方は多そうです。さらに電力やガスなどのサービスもあります。もう弱点はない、ということになりますか?

石川氏
 いえいえ……確かにケイパビリティ(能力)はちゃんとあると思っています。

 でも、リテラシー高い方にもまだ知っていただけていないと思っています。どうお伝えするか、課題です。

 認知もそうですし、理解という面でもそうです。できるだけわかりやすくご提供しているつもりなんですが、「テレビとモバイル」という組み合わせだと、一瞬、よくわからないと感じられることもあるかと思います。

 でも、「外出先からSTBを使って、スマホでテレビ番組をご覧いただけますよ」と知っていただけると「なるほど」「いいね」とご評価いただけるかなと。

――たとえばスポーツ観戦が趣味といった方に刺さりやすそうです。

石川氏
 まさにそうなんです。

 どなたにとっても、何かしら、J:COMのサービスがぴったりくるように、お客様にマッチする商品を組み立てていきたいです。今年度内にも新しい取り組みをご提供したいですね。

――なるほど、今日はありがとうございました。