インタビュー

公衆無線LAN「ギガぞう Wi-Fi」の新プラン、狙いを担当者に聞く

 公衆Wi-Fiサービス「ギガぞう Wi-Fi」を提供しているワイヤ・アンド・ワイヤレスは、2019年12月に新たなプランを提供開始した。

 家族内の5台でWi-FiスポットやVPNが利用できる月額500円(税込/以下同、税別で455円)の「スタンダードプラン」に加え、新たに、1台のみで利用できる代わりに月額料金が200円となる「スマホ専用プラン」、家族で10台までWi-Fiスポットを接続でき、モバイル機器の保険特典も付帯する、月額858円の「ファミリー機器安心パック」がラインアップされた。

プラン名料金内容
スマホ専用プラン200円1台
スタンダードプラン500円家族5台まで
ファミリー機器安心パック858円家族10台まで、保険特典付帯

 そんな新プランの同社の狙いや、手応えなどについて担当者の3名に話を聞いた。

新プランに携わった3名。左からワイヤ・アンド・ワイヤレス 取締役 小松直人氏、企画部 副部長 相原円氏、企画部 商品企画チーム アシスタントマネージャー 大町健氏

新プラン導入で、Wi-Fiのトラフィックが1.3倍に増加

――新プランが開始してから2カ月が経ちますが、手応えはいかかでしょうか。

相原氏
 今までよりは加入者数が増えています。新プラン導入前後で、1.3倍ほどトラフィックが増加していますね。出だしは一定の評価をいただいているとみています。これを契機に拡大していきたいです。

 今ままで500円のプラン1本でやってきましたが、この動きを見ると(ターゲットとしている)MVNOのユーザーにとっては割高だったのかなと思います。割高感をなくすために、新プランを企画しましたが受け入れてもらえたのだと感じてます。

――そうすると、スマホ専用プランが一番人気ですか。

相原氏

 実は販路によって違うんです。割合で見ると、スマホ専用プランはどちらかでいうと、オンラインでの加入が多いです。ファミリー機器安心パックについては、店頭でのMVNO回線とのセット販売などで加入される方が多いですね。トータルの数で考えると、保険付きのプランの方が人気です。

 保険がパッケージされていると、お得感を感じてもらいやすいです。それを入り口として加入してもらい、Wi-Fiの本来の価値である使い放題な点や、VPNによるセキュリティ機能など、弊社の本業の部分をアピールしていきたいです。アピールの仕方などは、今後長い期間をかけて取り組みます。

――プランごとのユーザー数は、予測通りでしたか。

相原氏

 スマホ専用プランは、安いのでそこにユーザーが集中すると予測していましたが、意外にも上位プランのマルチデバイスで使える点を改めて評価いただき、一定のバランスで加入いただいているという印象です。

――なるほど。プランごとのユーザー属性は分かっていますか。

相原氏

 もともとターゲットとしているMVNOのユーザーが活用されているケースが多いですね。そこは狙い通りです。ある程度のユーザー属性をみると、やはり格安スマホを積極的に買う層である、30~40代の男性が主要な利用者層です。

 10~20代のもっと若い世代を狙っていこうと頑張った時期もありましたが、結果として利用し続けてもらえて、評価をしていただける方は、やはり格安スマホを買うユーザーと一致していますね。

――新プランを出した後も、ユーザー層には変わらなかったのでしょうか。

相原氏

 そうですね。この層の方々が、新プラン開始後も主要な層になると予測はしていました。そこを念頭に新プランを設計していきましたね。ファミリー機器安心パックについては、家庭で通信サービスを選択することが多いであろう層(30~40代)がメインのお客様なので、家族全員分をまとめてカバーできるサービスとしました。

相原氏

 家計の負担を抑えるために、家族でMVNOへ乗り換えると、端末のサポートを割り切らなければならない場合があります。とはいえ、端末が壊れてしまう場合もあります。そうした不安をケアできるサービスは重要性が高いと思いました。補償サービスが市場にないわけではありませんが、保証金の負担が大きい場合で諦めざるを得ない場合もあります。

 Wi-Fiと結合させて、商品付帯の保険とすれば、そうしたお客様のニーズに応えられるのではないかと思い考案しました。

フリーWi-Fiも活用してもらいたい、Wi2の狙い

――新プランがこの内容で、この価格になった理由をあらためて教えてください。

小松氏

 価格設定はかなり迷いましたね。価格需要のデータを見ると、これまでのスタンダードプランでは厳しいです。一方で「500円も200円も変わらないよ」という声もあります。

小松氏

 しかし、スタンダードプランの利用のされ方を見ると、新しいプランが必要だと思いました。そこでシンプルなプランとしてスマホ専用プランを用意しました。

相原氏

 市場調査をした上で、MVNOのお客様が、MVNOの月額料金に加えても負担感を感じにくい価格を検討したときに、200円という価格設定をしました。

小松氏

 Wi-Fiというと、フリーのイメージが強いと思います。0円のサービスもある中で、より安い価格にしてしまうと差別化がしにくくなりますので、この価格に落ち着きました。

相原氏

 弊社でもフリーWi-Fiの構築を行っていますので、そことのバランスは難しいです。現状、「フリーWi-Fiは怖いから使わない」という声は大きいです。

 無料と有料の2つを提供できる事業者として、有償の会員専用アクセスポイントに加えて、フリーWi-Fiを安全に使ってもらえるVPN機能を備えたものを広く提供できれば、フリーも含めてWi-Fiを活用してもらえるシーンは増え、裾野が広がることを期待しています。

相原氏

 セキュリティソフトベンダーさんなどがVPN機能を提供していますが、単体での価格として考えるとお客様の負担感は少なくないと思います。ギガぞうはそれらよりも安い価格帯ですが、スループットが十分に出るようにきちんとこだわっています。通信を預けることになるので、VPN機能を自社で構築して、国内の通信事業者が手掛ける上での安心感もあると思います。

小松氏

 個人向けのVPNプロパイダーは、あまり例がありません。フリーのVPNソフトもありますが、ビジネスモデルが不明瞭です。フリーWi-Fiの不安を解消するにあたって、分かりやすい方法としてはVPNが最適だと思います。

 実はAndroid向けのVPN機能は、こだわってます。OS標準の機能を使えば省電力になりますが、専用のSDKを実装してます。

大町氏

 ユーザーが意識してVPN接続をしなくても、フリーWi-Fiで自動的にVPNを使えるようにするためです。

大町氏

相原氏

 他社のアプリでは、VPNが起動し、保護されていることを直接表示するものが多いですが、ギガぞうではユーザーに意識されないようにこだわってつくったため、そうした表示がなく、アピール不足なところもあるかもしれません。今後の課題です。

グループ内で協力し、保険付帯プランを実現

――保険付帯のプランは、どのようなきっかけで生まれたのでしょう。

相原氏

 正直に言いますと、通信と保険を組み合わせるという事例は先行されているものはありました。一方、通信の安全にこだわる当社として、そこを起点に安心の幅を広げ、毎日のモバイルに欲しい安心をワンストップで提供できないか、という模索の中で生まれました。

 とはいえ、我々は保険事業の経験がありませんでしたので、グループ内のau損保などに協力をしてもらいながら、サービスを開発しました。

――保険の引受会社は、グループ内のau損保ではなく損保ジャパン日本興亜ですよね。

小松氏

 速やかな商品化を実現するため、必要であればさまざまな枠組みで取り組みます。保険引受は、今回の枠組みに適した動産総合保険を自社商材として提供していた損保ジャパン日本興亜さんに協力いただいています。しかし、au損保とも商品企画などにおいて、重要なパートナー関係です。

――保険をセットにすることで、苦労したことはありましたか。

小松氏

 語ると長いですね(笑)

相原氏

 すごく苦労しました。まず価格の面です。後発のサービスとなるので、お客様に納得いただけるような価格を実現するようにしました。

小松氏

 Wi-Fiのサービスは、私たちで作れますが、保険の商材は自分たちで作ることができないので、どうしてもパートナーさんの協力が必要です。ニーズや制約を考えながら一緒に検討してきました。

――補償の台数が10台と聞くと、多い印象がありますね。

相原氏

 10台と聞くと、多く受け止められるかもしれませんが、補償対象はスマートフォンだけではありません。パソコンなどWi-Fiにつながる物の多くが対象です。

 お子さんでもゲーム機など2台目のデバイスを持っていることが多く、これだけあれば、家にある持ち運べるデバイスは、すべて取り込めるだろうという余裕をもったプランにしています。

 台数を決めるにあたっては、ほかにも従来プランのユーザーのWi-Fi登録台数も参考にしました。

 858円だと高く見える可能性もありますが、このプランは対面販売を想定していますので、お客様に説明できる機会があります。説明を聞いてもらえれば、お得に感じてもらえると思います。

長期利用特典にギガぞう、MVNOと連携した取り組み

――MVNOの事業者と提携した取り組みを行っていますよね。

相原氏

 協業して、ギガぞうを扱ってくださっている事業者様は「UQ mobile」「J:COM MOBILE」「BIC SIM」です。また「BIGLOBE モバイル」のオプションなどで提供されている「BIGLOBE Wi-Fi」でもギガぞうの公衆Wi-Fiネットワークをご活用いただいています。

 BIC SIMでは、長期利用者向けの特典としてギガぞうを提供しています。1年以上利用された方に有償プランを無料で使える特典です。長期利用を促す訴求として使っていただいています。

BIC SIMのサービス

 電気通信事業法の改正などもあり、長期間、回線契約されているお客様への料金割引などは行いにくくなってきています。

 一方で、長い期間、BIC SIMをお使いただいているお客様に、VPNなどを含め「Wi-Fiを安全に使える」という新しい価値で報いることはできないか、ということで、BIC SIMと共同で企画を進めたサービスになります。

 パソコンからのご利用など、上位プランの機能も含め、Wi-Fiを安全に利用いただくためのギガぞうの全ての機能を詰め込んだ専用メニューなのです。

 12月から提供を開始し、お客様の評判は良く、登録数も伸びています。BIC SIM側でもサービスの新しい特徴としてアピールいただいており、これはMVNOに寄り添った取り組みと言えます。

 UQ mobile向けには、au IDを登録すると月額料金が安くなるプラン、また4カ月利用料金が無料になる特典を用意しております。au IDの利用促進に活用いただいていますね。

UQでのサービス

 UQ mobileのポータルアプリとも連携し、加入していれば、ギガぞうアプリと連携し、Wi-Fiスポットを確認しやすくするなどの取り組みもしています。

 BIGLOBE モバイルでは、オプションサービス「BIGLOBE Wi-Fi」のネットワークに利用していただいています。もともとは他社のネットワークを利用されていましたが、2019年12月から移行していただきました。

BIGLOBEでのサービス

 移行後のお客様の評判は良く、ギガぞうが強みとする飲食店のWi-Fiスポット多さを評価いただいております。

 たとえばBIGLOBEのAndroidアプリでは、公衆Wi-FiとLTEの通信量をグラフで比較できる機能があるなど、公衆Wi-Fiとその他のサービスが密接に連携して開発されています。そこをギガぞうのアプリで置き換えるというよりは、既存のアプリを生かしつつ、ネットワークを利用してもらうことを念頭に提供させていただいております。

――一括してギガぞうを提供している訳ではなく、事業者ごとにあわせてサービスを提供しているのですね。

相原氏

 そうですね。弊社の開発部隊では柔軟に対応できます。各社のIDとの連携など、個別に連携した取り組みで成立させています。事業者様ごとに求められる内容は違いますので、各社の事情を伺いながら、+αの提案ができるようにしています。

J:COMでのサービス

――先ほど、改正法による影響の話がありましたが、その他に影響はありましたか。

相原氏

 今すぐ顕在化しているものはありません。制度については、研究していますが、ひとつ考えられるのは、通信と端末の分離により、お客様が端末を選んで買うことが顕在化してくると思っています。MVNOを選ばれるお客様が、自分で端末やオプションサービスを選ぶことが増えてくれば、キャリアフリーで提供しているギガぞうにとってはチャンスです。

 MNNO各社に寄り添ったサービスも取り組みつつも、お客様の選択肢のために独立したサービスも提供し続けます。

 これまで端末料金は、通信料金に埋没していて、気にされなかったところがあります。端末料金が見えてくれば、負担意識も増えて、端末の利用期間が延びると見ています。そうすると、利用期間中に事故などに会うリスクも高くなるので、リーズナブルな保険を提供できれば、お客様のニーズに合致すると思います。そうしたニーズを上位のプランで狙いました。

Wi-Fi 6や5G、今後の取り組み

――昨年、Wi-Fi 6のトライアルが行われました。現在の状況について教えてください。

小松氏

 Wi-Fiの規格は、時代とともに移り変わっていくものです。それに合わせて、我々も取り組んでいきます。現在はお客様が多い環境である、カフェで端末を接続し、どんな効果がでるかトライアルを行っている状況です。

――Wi-Fi 6による速度向上は、ユーザーは体感できるのでしょうか。

小松氏

 一般的な使い方であれば、体感できるレベルの向上を感じるのは難しいと思います。スピードテストをすれば、差は明らかですね。

 5Gと共通することですが、Wi-Fi 6は、多数の端末同時接続しても、速度が落ちないのが特徴です。対応端末が広がってこないと効果が見えない部分です。

 普及していくにはそれなりの時間がかかると思います。アクセスポイントの値段も高い状態です。まずはスポットでの展開となりますが、アクセスポイントを増やす必要性がある場所では、Wi-Fi 6対応のものに切り替わっていく可能性はあります。

――今春から5Gがスタートします。Wi-Fiスポットのバックボーン回線が、5Gになるのはまだ先ですか。

相原氏

 バックボーンの回線では、ようやく10Gbps対応のものが商用化の領域にきています。将来的には、ローカル5Gを含め、5Gをバックボーン回線として活用することも進んでいくものと考えています。

――最後に読者に向けて一言お願いします。

相原氏

 ギガぞうは、VPNに着目されがちですが、Wi-Fiのセキュリティにすごくこだわっていることを伝えておきたいです。大手キャリアのWi-Fiサービスと同じ方式である「WPA2 エンタープライズ」の方式に対応していまして、同じものをMVNOのお客様でも使えることになります。

 Wi-Fiスポットのセキュリティは暗号化をしていないから傍聴される、ということは言われがちですが、偽のアクセスポイントにつながることも危険です。その危険性を技術的な方法で解決しようとしています。

 ギガぞうを利用していただければ、「Wi2」のWi-Fiスポットを安全かつ自動的に利用でき、フリーのWi-Fiも「Wi2」のVPNで安全に利用いただけます。アクセスポイント~インターネットにいたるネットワーク、サーバーやアプリまで、公衆Wi-Fiをエンドエンドで担う事業者として、こうした技術的な取り組みを行っていきますので、Wi-Fiスポットを安心して、思う存分、ご利用いただければと考えています。

――本日は、ありがとうございました。