インタビュー
「arrows NX F-01K」の虹彩+指紋両対応は思わぬ“副産物”だった!?
さらに割れないスマホの“中身”を開発者に聞く
2017年12月28日 11:45
2017年12月8日にNTTドコモから発売された、富士通コネクテッドテクノロジーズ製のAndroidスマートフォン「arrows NX F-01K」。同シリーズで追求してきた堅牢性をさらに高めながら、虹彩認証と指紋認証の両対応を実現し、電源ボタンに「Exlider(エクスライダー)」という新たな機能を追加したのが特長だ。
充電端子はUSB Type-C。オンキヨーのハイレゾ音楽再生アプリ「HF Player」をプリインストールするなどして高音質への取り組みも一歩進めるなど、トレンドに対する動きやこれまでの方向性も強めている。他にも独自の工夫が盛り込まれ、「arrowsらしい、富士通らしい端末になった」というarrows NX F-01Kについて、開発にかかわったメンバーに話を伺った。
「虹彩認証+指紋認証+Exlider」の開発過程とは
――まず、今回のarrows NX F-01Kの特長を改めて教えていただけないでしょうか。
光安氏
F-01Kには大きく2つの特長を持たせています。1つは、前回のarrows NX F-01Jで大きくアピールした画面割れに対する強さ、堅牢性。そこを引き続き進化させているところです。端末のデザイン性も高めながら堅牢性を向上させて、お客様に安心を提供する、というのが第一の特長になります。
もう1つが、完全に新しい機能として実装した「Exlider」です。発想としては「画面の見やすさ」につなげるというものですね。
これまでにarrowsシリーズを買っていただいている方は40〜50代のお客様が多く、我々が今回狙うコアのターゲット層もそこになります。そういった方々はシニア向けの「らくらくスマートフォン」などはまだ買いたいと思っていない。けれども、身体的な衰え、たとえば視力低下で画面が見にくい方もいらっしゃると考えています。
そういった方々の困りごとをスマートに解決できる方法としてExliderを考えました。電源ボタンをなぞるだけで文字や写真のサイズを自由自在に調整できる。そして、SNSなど縦長のコンテンツが当たり前のスマートフォンにおいて、快適に閲覧できるようにオートスクロール機能も同時にもたせて、便利に、見やすく使えるのが特長となっています。
電源ボタンは指紋センサーも兼ねており、虹彩認証にも引き続き対応しているため、arrowsとして初めて両方の生体認証機能に対応したことになります。個人的には、結果的にとてもarrowsらしい、富士通らしい機種になったと思っています。
――機能としてのイチ押しはExliderということですね。なぜこの機能を搭載したのか、きっかけはなんだったのでしょう。
光安氏
先ほどもお話ししたように、まず「見やすさ」の部分で何かできないかという発想があったこと。また、それとは違う観点で、各社のスマートフォンがフォルムや機能の面で似たようなものになっているなか、我々としては、明らかに「arrowsだね」とわかるオリジナルな特長が必要とも考えました。
Exliderを搭載する上で、当社オリジナルの特長として普通の電源ボタンに見えるようにはしたくない。そう思い、電源ボタン周りをスプーンでえぐったような形にし、ボタン色をゴールドにすることで、特長として際立つデザインにしました。
――企画の初期段階からExlider、指紋センサー、虹彩認証の3つとも搭載することを考えていたのでしょうか。
光安氏
指紋センサーを搭載することになったのは“結果的に”ですね。Exliderを実現するうえで、そのボタンにちょうど指紋認証の機能をもたせられるセンサーが使えることが分かりました。なので、Exliderを実現しようとしたら結果的に指紋センサーも付いてきた、という順番になります。結果的にarrowsらしい製品になりましたが。
――他社製スマートフォンの多くは指紋センサーが背面にあります。机に端末を置いたり、ホルダーに載せていたりすると使いにくいのが気になっていました。そういう意味では、今回のようにサイドに指紋センサーがあるとうれしいですよね。
光安氏
手に持ったときに自然に触れる場所に電源ボタンがあるので、そこに指紋センサーがあると使い勝手としては一番いいと思っています。虹彩認証にも対応していることから、机に置いているときは虹彩で、手に持っているときは指紋で、というように、シーンに応じて使い分けられるのもこの機種ならではと思います。
――電源ボタンが右側にあるので、ユーザーの右利き、左利きの違いによって指紋認証の使い勝手に差が出そうにも思いますが。
櫻井氏
右手で端末を持つ人はだいたい親指で操作することになります。でも、左手で端末を持つ人も人差し指や中指でExliderを使えるようにしたい。そこで、左手でも右手でも操作に阻害のないようザグリ(凹み加工)の調整をするのにかなり試行錯誤しましたね。
樹脂パーツと一体化した「New SOLID SHIELD」と、新たな防水・防じん対策
――テレビCMでも堅牢性をアピールしています。その堅牢性について今回変わったところはありますか。
櫻井氏
以前から堅牢性を訴求していましたが、F-01Jは内部に別部品でステンレスフレームを入れた「SOLID SHIELD」構造でした。今回のF-01Kでは、外側のアルミフレームと中のホルダーを一体化した「New SOLID SHIELD」構造として、より強度を高めています。
今回、特にねじり強度が向上しています。ステンレスは比重が大きい(重い)のですが、F-01Kはフレームにステンレスではなくアルミを使っているため軽量化もできました。F-01JとF-01Kとで内部の構造は違いますが、堅牢性を維持する手法はこれで確立できたので、今後は機種のサイズなどに合わせてF-01JとF-01Kの構造を使い分けていくことになると思います。
光安氏
米国国防総省の物資調達基準であるMIL規格への準拠については、F-01Jまでは14項目だったところを23項目に増やしています。高さ1.5m、26方向からのコンクリート落下に耐えるという独自の耐久性能については変えていません。
堅牢性はもう十分に高いと思っています。我々が把握しているお客様の端末の破損率では、かなり低い数字が結果として出ています。ですので、今後も、堅牢性は現在と同等以上のレベルを維持しつつデザイン性を高めていく、ということに引き続き挑戦したいと思っています。
――今回のF-01Kからnano SIM/microSDスロットの形状が変わりました。
光安氏
理由としてはデザイン性が大きいですね。F-01Jまではnano SIMとmicroSDスロットが2つ横並びだったので、どうしてもキャップ自体が大きくなっていました。今回はそれをなるべく小型化しようと。もちろん防水性を保つ構造でありつつ、取り出す際にピンが不要な形にしました。
櫻井氏
このSIMスロットには、実は1つ工夫があります。内部の基板への接続と外の防水キャップとで互いに“ケンカ”しないように、キャップ部分をフローティング構造にしているんです。これによって、端子部にSIMを接続したときに、それに合わせて防水キャップがずれてしまったり、反対に防水キャップの位置に合わせてSIMの接続が外れてしまったり、というトラブルがなくなります。
――たしかに、他の防水対応スマートフォンでSIMを差し替えた後、内部で接触不良を起こしているのかSIMがなかなか認識されなかった経験があります。
櫻井氏
こういった構造を採用するのは当社が初めてではありません。ですが、内部の接続保証をしつつ防水を担保する、というのを1つの部品でやるのは難しく、いろいろノウハウが必要です。
――充電端子はarrowsシリーズとしては初めてUSB Type-Cになりました。
櫻井氏
今までType-Cではキャップをする必要があったんですが、コネクターの進化のおかげで、コネクターだけで防水・防じんを完結できるようになりました。
あと、このコネクターにも一工夫あります。ケーブルを抜き差しするときにどうしても“こじる”ので、素直にガチガチに固めて作ってしまうと、お客様がこじったときに端子が壊れやすくなるんです。ですから、お客様がスマートフォンを使い続けるであろう2〜3年間の抜き差しに耐えるには、ガチガチにすればいいというわけではない。それでいて防水も担保しなければいけない。固めすぎず、少し逃がす、というような工夫を取り入れているんです。
開発のスタートは、F-01Jをベースにした指紋センサー付きプロトタイプから
――F-01Kのソフトウェア面では新たな要素はありますか? あるいは改良された部分はありますでしょうか。
堀口氏
Exliderの話に戻りますが、開発スタート時、この指紋センサーの使用感を急ぎ再現するために、まずF-01Jの外観をベースにしたプロトタイプを試作しました。とりあえず手元にあったF-01Jと指紋センサーをくっつけて開発を始めたという感じです。
指紋センサーを使って画面を動かすソフトウェアを作る必要があるだけでなく、虹彩認証と指紋認証の2つを実装するということで、両方の機能が競合する部分をうまく棲み分けできるよう、さまざまなシーンごとにどちらの機能を優先するか、という整理も行いました。
――標準のAndroid OSからみるとそれらはイレギュラーな機能かと思います。今後のOSアップデートに影響はありませんか。
堀口氏
そうですね。Googleから提供されるソースコードに対して手を入れるのは本当にミニマムにしていて、センサーは外付けという形にして対処しています。
――指紋と虹彩の両方の認証をクリアしないとロックが解除されない、みたいなモードもあっていいのかなと思いましたが、どうでしょうか。
光安氏
アイデアとしてはあったのですけが、採用はしませんでした。日常的にスマートフォンを使うお客様がそこまでやるかな、というのが一番の理由です。二重にセキュリティをかけてまで守るものはそんなに多くないと思い、それよりも、指紋と虹彩の両方を使い、どちらかで早く認証できればすぐに端末を使い始められる、という使い勝手の方を重視しました。
――前回に引き続いてオーディオメーカーのオンキヨーとコラボしていますが、何か変わったところはありますか。
光安氏
基本的な音質向上施策として、イヤホン出力の音質を継続的に進化させています。F-01Jと比較して、さらに音のノイズや歪みが少なくなりました。
また、オンキヨー様のハイレゾ音楽再生アプリである「HF Player」を、arrows向けに少しカスタマイズしてプリインストールしたのも新しい要素です。同アプリ上でハイレゾ音源を再生できるようにしたことを始め、NTTドコモ様のサービスである「dミュージック」への導線も追加しています。基本的には、Google Playで公開されている「HF Player」のバージョンアップがあった場合は、プリインストール版のHF Playerにもその内容が反映されるようになっています。
次のarrowsは縦長ディスプレイ&デュアルカメラに?
――今回もチップセットはミドルハイと言える「Snapdragon 660」でした。これを選んだ理由や狙いがどこにあるのか、教えていただけますか。
光安氏
前回のF-01Jと同じなのですが、超短距離走に特化したような性能ではなく、長く使っていただくのに一番最適、快適なパフォーマンスを維持できるチップは何かと考えたとき、このSDM660(Snapdragon 660)が、バランスが良く、省電力性も備えたベストな選択でした。
――最近発表されたチップセット「Snapdragon 845」についてはどうお考えですか。
光安氏
Snapdragon 845の実際の性能を見極めてから、詳細な議論をすることになると思います。今後もこれまでと同じように、提供したいターゲット層や価値、UX(ユーザーエクスペリエンス)という観点を踏まえて採用するチップセットを決めていくことになると考えています。
――最近のグローバルのトレンドとしては、ディスプレイサイズが18:9などの縦長になってきていることが挙げられます。それについてはどうでしょう。
光安氏
もちろんそこがトレンドになってきているのは認識しています。今回のF-01Kは今まで通りの16:9ですが、今後は18:9のアスペクト比も視野に入れて検討していくつもりです。
――画面が縦長になるとさらに指が届きにくくなるという問題もありますが……。
光安氏
そういう点では、スクロール機能もあるExliderと縦長画面との相性は良さそうに思います。以前から搭載している、画面を下や左右に寄せることが可能な「スライドディスプレイ」機能も活きるのかなと。もし今後縦長画面になったときは、再びそのあたりの機能をアピールできそうですね。
――もう1つのトレンドとしては、カメラを2つ並べる、というのも。
光安氏
他社のスマートフォンでは採用例が増えてきていますので、もちろん我々としても検討の候補には挙げています。ただ、見た目としてカメラレンズが2つあるのはわかりやすいとしても、2つ搭載することで部品レイアウトなどの製造上の制約も出てくるため、それを補って余りある、新たに生まれる価値がなければいけません。そのあたりは社内で今まさに議論しているところでもあります。
――最後に、開発時に一番苦労したこと、もしくは読者に伝えたいことがありましたらお話ください。
堀口氏
Exliderは最初に試作を始めて、そこからきちんと動くまでに、かなりの時間がかかりました。最終的なソースコードと比較して、開発中にはその4倍は書いたと思います。作っては壊して、作っては壊してを数カ月間繰り返して、本当に人と時間をかけたので、開発陣一同思い入れの強い機能になりました。
ただこれが最終形というわけではありません。ここまでで、できることは全てやったつもりですが、まだまだ発展途上で、これから成長していく余地の多い機能なのかなと。標準のカメラアプリではExliderの操作を特別にズームイン・アウトに割り当てていますし、こういったアプリによって異なる使い方については、いいアイデアが出てくればぜひ追加で対応していきたいと思っています。
たとえば私の上司は、SNSアプリで一定の低速でスクロールさせて、流し読みしながらどんどん「いいね」していくという使い方を編み出していました(笑)。これは開発時には想定していない使われ方なのですが、それを考えると、これからもいろいろと発展しそうに感じますね。
――本日はお忙しいところ、ありがとうございました。
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