【Mobile World Congress 2018】

NTTドコモ 吉澤社長インタビュー

「パートナーとの“共創”で5Gを推し進める」

 スペイン・バルセロナで開催されているMobile World Congress(MWC) 2018には、今年もNTTドコモが出展している。初日の基調講演にも登壇するなど、積極的に活動するNTTドコモの吉澤和弘代表取締役社長に、5Gへの取り組みと展望などについて、伺った。

NTTドコモ 代表取締役社長の吉澤和弘氏

――昨年までと違い、今年のMWCではホールを移動し、NTTグループと一緒に出展する形になりましたね。

吉澤氏
 モバイルを中心と言いながら、ユーザーとしてのモバイルだけでなく、AIとの連携やIoTとの関係、画像伝送や配信、いろいろなビジネスの連携の中で、5Gが活きてくることになるので、NTTグループ全体として取り組むべき方向性というのがあります。また、いろいろな産業との連携もありますから、そういった意味も含めて、今回は一緒に出展しています。でも、面白いと思いますよ、いろんなものが出品されていますし。

ブースを訪れたフェルナンド・アロンソ選手

――先ほどF1のフェルナンド・アロンソ選手も来ていたようですね。

吉澤氏
 そうなんですよ(笑)。クルマとの関係もあるし、レーシングカーも展示しています。いずれにしても5Gはいろいろな産業との連携、パートナーとの連携が重要なところなので、そこはグループとして、しっかりと捉えていく必要があるということですね。

――年頭所感では「今年はBeyond宣言を目に見える形に」というお話がありました。具体的にはどういう取り組みに注力されていくことになるのでしょうか。

吉澤氏
 今回、一つ特徴的な5Gと言えば、Beyond宣言の宣言4に掲げている「産業創出宣言」ですよね。ドコモでは単独ではなく、いろいろな企業と連携していくことで、新しい産業でのビジネスを創り出し、価値を提供していきましょうというわけです。

 昨年から5Gトライアルサイトを展開していますが、これに加え、今年2月からは「5Gオープンパートナープログラム」を開始し、すでに約600社を超える企業や団体が参加の意向をいただいています。こういったものの中から5Gを使った新しいユースケースやビジネスモデルを創り出していき、実際に成果を出していこうという考えです。5Gに興味を持たれている企業の方はたくさんいらっしゃるのですが、5Gの具体的な用途が顕在化しているわけではなく、まだ潜在的に5Gを使って何をしたらいいのかをまだなかなか見つけられていないのが実状です。同業だけでなく、他業種がどんなことをしているのかといった横の情報連携を5Gパートナープログラムで提供し、そういったところで気づいていただき、具体的な成果を生み出していきたいですよね。

 また、宣言2の「スタイル革新宣言」のように、ライフスタイルを変えていこうという部分については、すでにトライアルや具体的なものがいくつ出てきています。先日も実験的でしたが、Perfumeの世界同時中継などもありました。もっとブラッシュアップしていくことで、ああいったものを遠隔で見るものがマネタイズできる環境ができてくるんじゃないかなと思っています。

――5G推進室長の中村武宏氏にもお話を伺いましたが、5Gではこれまでのように企業とドコモが組むだけでなく、企業と企業を結びつけていく、業界と業界を結びつけていくようなことを考えているそうですね。実証実験などで、パートナー企業が5Gのネットワークを使えるのは4月からになるのですか?

吉澤氏
 5Gオープンパートナープログラムにご参加いただいた企業にお使いいただけるのは4月以降ですが、5Gトライアルサイトでご協力いただいている企業はすでに昨年から使っていただいています。ただ、5Gに興味はあるけど、何ができるんだろうという企業もたくさんいらっしゃって、そういった方々が5Gオープンパートナープログラムに手を挙げていただいているという状況です。

――参加されている企業もまだそこは手探りの状態なのですか?

吉澤氏
 みんながみんな「5Gでこれをやるんだ」と決めているわけではないのですね。事例などをオープンにして、使い方を探ってもらってもいいですし、同業や他業種の方が意見交換できるような場も我々が提供しようと考えています。

――そういう場所を提供することをビジネスにしようというお考えですか?

吉澤氏
 いや、そこはフリーです。我々自身がその場所を提供することで、お金をいただくことはないですね。

――実際の商用化に向けて、手応えみたいなものはあるのでしょうか。

吉澤氏
 5Gトライアルサイトの方はどういう形でビジネスに結びつけていくのかを少しずつ話をさせていただいてます。

――先日の基調講演では他の企業や業界との「共創」が一つのカギだというお話をされていましたね。これは日本だけでなく、世界も同じなのでしょうか?

吉澤氏
 そこの動きはいろいろな海外のベンダーやキャリアとも話しましたけど、「共創」や「協調」がカギになるという共通認識ですね。自分たちだけで、ということではなく、パートナーとの間でお互いの強みを出していくわけです。そのとき、5Gを使ったことで、今まで以上に、あるいは今までできなかったことができるようになるという方向ですね。

 たとえば、4Gのネットワークも十分に高速ですが、上り方向で4Kの映像を送ることを考えた場合、1本なら、普通に送れますが、これを3つも4つもという話になると、かなりたいへんです。ところが、これが5Gになれば、何本も通すことができます。これを活かせば、遠隔操作や遠隔医療なども現実のものとして、提供できるようになるわけです。

 医療の話はすでに和歌山県、和歌山県立医科大学と5Gの実証実験を開始しています。この取り組みでは和歌山県立医科大学と山間部のクリニックを接続し、診療を行うというもので、これまでであれば、一日がかりで受けていた診療を5GでCTなど映像を伝送することによって、近くの診療所で受診できるという取り組みです。

――こういうものを見ると、5Gは必ずしもモバイル環境だけで利用するものではないんですね。

吉澤氏
 そうですね。海外のキャリアでも取り上げられていますが、高速性や低遅延を活かす使い方は、必ずしもモバイル環境だけではないですよ。

――今年のMWCのテーマというか、トレンドだと感じているものはありますか?

吉澤氏
 我々もいろいろなものを展示していますが、一つはクルマとの関係ですね。クルマと5G、コネクテッドカー、自動運転などが多いですよね。あとは建設機械などの遠隔操作なども見かけます。さらに、AIとの連携ですね。

――ドコモとしてはどうなのでしょうか?

吉澤氏
 パートナープログラムもさることながら、いろんな分野に活かせると思うのですが、ただ、ドコモとして単独でできるわけではないですし、ある程度、分野を限って展開していく必要があると思います。ドコモとして注力するのは、今のところ、建設機械、エンターテインメント、スポーツ観戦、遠隔医療、農業などでしょうか。ただ、パートナープログラムについては我々にそんなにリソースがたくさんあるわけではないので、5Gトライアルサイトのようにはなかなか行かないですね。

――たとえば、5Gを使ったサービスなどに興味のある人や企業が関わるプラットフォームのようなものを提供しないのでしょうか?

吉澤氏
 そこは我々は「オープンビジネスプラットフォーム」と呼んでいるのですが、Beyond宣言の宣言6のところで掲げているように、IoTや自動車、コネクテッド、ポイント、認証などで使っていただいて、5Gと組み合わせて、ビジネスを考えていただきたいのです。これは誰がダメということではなく、まさに「オープン」で取り組んでいきます。

――プラットフォームの上には課金プラットフォームのようなものも提供していくのでしょうか?

吉澤氏
 もちろんです。我々は現在のサービスでも課金や決済のしくみを持っています。たとえば、GoogleやAppleの課金などもあります。こうした取り組みは5Gの時代に入っても同じで、我々がさまざまな産業界といっしょにビジネスをさせていただくとき、課金や認証などのしくみを提供し、それをどんどん使ってもらいたいと考えています。そのプラットフォームを使っていただくことで、我々は収益を上げていったり、あるいはパートナーの方が収益を上げていくときの何%かをシェアしていただくビジネスモデルですね。

――IoTの世界では多数同時接続が普通になりますが、こういう環境の場合、課金の仕組みもかなり大変なのではないでしょか。

吉澤氏
 確かにそうです。ただ、それをすべて個別に課金するかどうかというと、いろいろなやり方があると思うんです。たとえば、5年間の使用料を含めて、一括でいただくという形もあり得ます。IoTの一部の機器のように、データ通信量がわずかなものの場合、一般消費者から月々に使用料をいただくという形だと、逆にその課金の方にコストがかかってしまいますから、そこはある程度のデータ通信量を決めた上で、何年間の使用料のような形で課金するという形でいただくわけです。

――通信速度や用途から、どれくらいのデータ通信量を使うのかを計算して、課金するという仕組みですね。

吉澤氏
 実は、そういう課金は今でも提供しているんですよ。IoTの世界だけでなく、現在のスマートメーターなどもそうですね。月額で個別に使用料をいただいているわけではなくて、1つのモジュールがどれくらいのデータ通信をするのか、それがエリア内に何台あるのかといった情報からデータ通信量を計算し、年数単位で料金を決めるわけです。

 ただ、常時監視のカメラなど、トラフィックが多いものは個別に考えないといけないですけどね。いろんな利用シーンに合わせて対応しますが、料金体系をあまり複雑にするつもりはありません。

――5Gの世界では今までよりも格段に多くの企業と関係を築きながら、ビジネスを構築し、ネットワークを拡げて行くことになりますよね。MWCなどのイベントで見ていると、世の中の産業が丸ごと変わるような流れになりそうですが、そうなると、ドコモとしての設備投資だけでなく、社会全体でものすごい大きな金額の資金が動くことになります。こういう流れはどうみていらっしゃいますか?

吉澤氏
 すべて5Gでやろうとすると、それは大変な金額になってしまいますが、既存の技術もあるので、最初はそれらを組み合わせて、構築していくことになるでしょうね。たとえば、IoTの多数接続についても近いところはBluetoothで集めて、あるところから先は5Gで伝送するという使い方もできます。家電との連携もすべて5Gでやろうとすると大変ですが、家電同士の連携をしつつ、そこで集めたデータを5Gで送れば、効率も良くなります。組み合わせを上手に活用することが重要だと思いますよ。

 たとえば、監視カメラを光回線に接続することがありますが、どこでも光回線が引けるわけではないですし、コストもかかります。そこで、光回線が引けないような場所は5Gでカバーするわけです。そこで発生したデータをクラウドに送ったり、あるいはエッジコンピューティングのように近いところで処理をするというしくみもできます。コストをしっかり見ながら、使い方を考えていくことが大事ですね。

――一般のユーザーにとっては、これまで2G、3G、4Gと進化してきた中で、通信速度が速くなり、パケ・ホーダイのような定額制が登場し、スマートフォンも進化を遂げてきました。でも、5Gになると、ユーザーによっては「また何か大きく変わってしまうの?」と不安に思う人もいるかもしれません。

吉澤氏
 スマートフォンや携帯電話をご利用いただいていることから、料金はデータ量で決まるイメージをお持ちの方が多いと思います。ただ、モバイルのデータ通信は世代を追うごとに、ビット単価が下がり、パケット定額も実現できました。まだ詳しい計算をしたわけではないですが、5Gも同じように単価は下げられるでしょうから、基本的には現在の料金体系を引き継いだものがベースになっていくと思います。

 また、個人のお客さんに提供するサービスというと、もちろん、スマートフォンの画面で楽しむものもありますが、臨場感というか、その場所に行かなくても同時に楽しめるサービスが考えられます。たとえば、音楽のライブやサッカーの試合などですね。以前、野球のベンチから見たような180度の映像のデモをお見せしたことがあるのですが、ああいった映像はなかなかテレビでは楽しめない。ちょっとどこか特別な場所に行っていただく必要はありますが、映画館やホールなどに行けば、今までになかったような臨場感のある体験ができるというサービスも5Gを使ったものとして、出てくるかもしれません。

 今回は日本でも公開した「ジオスタ」(テービルに表示されたサーキットにスマートフォンをかざすと、フォーミュラーカーの詳しい情報が表示される)のデモを出品していますが、ああいったものやあるいはサッカーなどのスポーツ中継も組み合わせると面白そうです。楽しみにしていてください。

――少し話は変わりますが、1月の決算会見で、KDDIの代表取締役社長が田中孝司氏から高橋誠氏に交代することが発表されました。

吉澤氏
 田中さんと高橋さんはいいコンビだと思っています。私自身は仕事上の付き合いで、田中さんともご一緒しましたし、高橋さんとも昔から別々の会社ですが、まったく同じ仕事を担当していた時期があって、よく存じ上げています。高橋さんはいろいろなサービスをはじめ、ベンチャーやスタートアップ、M&Aなども含めて、サービスビジネスを展開する上で、自分たちの付加価値を上げていくのかを高めた方ですよね。そういった路線を持ちながら、高橋さんなりの特徴を出されていくんじゃないですか。もちろん、それらに加えて、モバイルの業界で戦ってきた方ですから、それぞれの強みを発揮されると思います。お互いに刺激をし合いながら、切磋琢磨していきたいですね。

――ありがとうございました。