【Mobile World Congress 2018】

2画面スマホ「M」や「docomo with」の背景をドコモプロダクト部長に聞く

 2月26日からスペイン・バルセロナで開催されている「MWC 2018」。5Gやサービス、ソリューションだけでなく、端末メーカーと開発したオリジナルモデルを欧米の携帯電話事業者に供給するなど、ユニークな取り組みも注目を集めているのがNTTドコモだ。同社 執行役員プロダクト部長の森健一氏にお話をうかがった。

NTTドコモ 執行役員 プロダクト部長 森健一氏

――2018年も始まったばかりですが、端末のトレンドはどのようなものになりそうですか?

森健一氏(以下、森氏)
 今回のMWCでも大きく取り上げられていますが、ちょうど5Gが話題になっています。この5Gが実際にサービスインするまでには、4G時代の集大成のような端末がラインアップされることになりそうです。

 今回、サムスンさんやソニーさんから新しい端末が発表されました。それぞれカメラが進化していたり、顔文字のような新しい機能が入っていたりと工夫はありますが、1年前に出たスマートフォンと本質的に何か変わったものがあるかというと、そんなに大きな違いはなく、商品としての完成度を高めた方向性にあると考えています。ユーザーが「おっ、これはスゴい!」というような進化は少なくなってきていますね。

 一方で今後は、スマートフォン単体で実現する世界にプラスして、使い勝手の幅を広げるデバイスの時代になっていくのかなと思っています。例えば、今回発表された「Xperia Ear Duo」のように、耳に装着して、エージェントを呼び出すデバイスだったり、スマートフォンと組み合わせて利用するマイクやスピーカーだったり、あるいはクルマと連携してサービスを利用できるデバイスなどが普及していく。その状況を踏まえて今年のラインアップを想像すると、ハイエンド機はスマホの最先端や最終形のようなモデルが出てきて、ミッドレンジについてはミッドレンジなりの正常進化を遂げたものが登場することになりそうです。

――2画面スマートフォンの「M」は注目を集めました。かつて「MEDIAS W」がありつつ、今回の「M」が登場しましたが、このタイプの製品は今後も育てていく流れになるのでしょうか。

M Z-01K

森氏
 育て方にもいろいろあると思います。たとえば、スマートフォンでハンディだけど、大画面のモデルを実現しようとすると、どうしても端末そのものが大きくなってしまいます。そこで、ソリューションとして、折りたためる端末という発想がありました。今回の「M」は、プラットフォームが新しくななって、使いやすい2画面端末が作れる状況になったことから、「MEDIAS W」でやってきたことも踏まえつつ企画しました。今後、市場の反応やお客さまからの声に耳を傾けながら、育てていきたいと思います。折りたたみといってもいろいろな折りたたみ方がありますし、技術面での進化もありますから、よりコンパクトで大きな画面で使える端末というのは、今後も考えていきたいなと思います。

――森さんの中で、もう具体的な構想があったりするのでしょうか?

森氏
 構想はいろいろありますが、それを実現するには新しい技術と進化も必要でしょうね。「M」は非常にチャレンジングな端末で、普通の端末じゃないものを持ちたいというユーザーさんに好評をいただいていますが、一般的なスマートフォンと同じくらいの数が出る端末になるには、もっと改善が必要だろうと思っています。

 例えば、現在の形状ではカバーやアクセサリーが楽しめなかったり、もっと安心して使いたいという声もあります。現在の「M」は折りたたみ方が山折りで、これも魅力のひとつではありますが、折りたたんだときに両面が画面になるので、落としたときに心配だと考えてしまうわけですね。逆に、いろいろなところでコンセプトが出ているように、本のように谷折りの端末というのも面白いですよね。従来のフィーチャーフォンは折りたたみ端末が主流でしたが、やはり、端末を「開いて使う」という所作は日本人に合うところがあるのかもしれません。将来的にそういう端末も工夫しながら実現できるように、検討していきたいと思います。

――「M」では御社が企画して、ZTEが製造を担当し、欧米の携帯電話事業者に納入し、御社がロイヤリティを得るというビジネスモデルを実現しましたが、今後もこういった取り組みはできそうですか?

森氏
 私はできると思っています。今のスマートフォンは大手のベンダーさんが開発されたメジャーなモデルがラインアップされていますが、形という意味では“ほぼ同じ”ものが増えていてきていて、一方では新しいコンセプト、新しいデザインのものを求めるユーザーも増えてきています。

 今回の「M」では、ZTEにもマーケティング部隊があり、グローバルでいろいろなビジネスを展開していて、我々もキャリア間でいろいろなつながりがあったので、「一緒にこういうスマートフォンを作ってみたんだ」と各社に持ち込んでみたら、予想以上に反応が良かったんです。海外キャリアのAT&T(米国)やVodafone(欧州)に供給することになり、新たにチャイナテレコム(中国)、TIM(イタリア)でも取り扱うことになりました。各キャリアでの評価も非常にいいですね。やはり、メジャーなベンダーのスタンダードなモデル以外を求めるユーザーは、世界レベルで一定数いるんだなということですね。そういったことを踏まえて、2画面だけではなく、通信機器として面白い使い方ができる商品を企画したいと思いますし、いいものができれば、グローバルへの展開も考えます。もしかしたら、スマートフォン以外の通信デバイスも検討したいですね。

――昨年を振り返ると、「docomo with」が非常に注目を集めました。その背景にはどういった考えがあるのでしょうか。

森氏
 スマートフォンがある程度普及してきた中、ハイエンドのスマートフォンを求めるユーザー層と、ひとつのスマートフォンを長く使おうとするユーザーに分かれてきています。そのような中で、価格を抑えたミッドレンジの端末に、割引サービスを組み合わせ、使いやすい料金でご利用いただくという取り組みが評価されました。ユーザーのニーズが必ずしもハイエンドばかりではないという実状を反映したサービスということになりますね。

――以前はミッドレンジのモデルを出しても、一世代前のハイエンドモデルが値下がりして、そちらが売れてしまうという状況もありました。docomo withでは、それを防いで、意図的にミッドレンジのモデルが売れるように仕向けたのでしょうか。

森氏
 そうですね。スマートフォンが普及してきたことで、ここ数年はスマートフォンからの取り替えのユーザーも増えてきました。取り替えのユーザーは2年から3年、長い人だと、もう少し経ってから別のスマートフォンに乗り換えます。こうしたユーザーには、2~3年前のハイエンドのモデルと比較すると、docomo withの対象となる最新のミッドレンジ端末でも十分というケースがあります。例えば、電池の持ちも向上するし、画面の大きさも同じか、ひと回り大きくなります。そうした、これで十分と思っていただけるような端末を用意して、割引サービスを組み合わせ、ドコモ内で新しい端末に交換して、継続していただけるという取り組みをしたのが「docomo with」です。

――「docomo with」にはGalaxy Feel、arrows Be、AQUOS senseといったモデルがラインアップされていますが、売れ行きはいかがでしょうか。

Galaxy Feel SC-04J

森氏
 いずれも好調ですが、特徴的なのはその売れ方です。通常、新商品が登場すると、売れ筋が変わっていくものなのに、docomo withでは相変わらずGalaxy Feelが好調で、発売から半年以上も経つのに、安定して売れ続けています。そういう意味では息の長いモデルに成長しつつあるわけです。この春には「らくらくスマートフォン me」も登場しますから、らくらくスマホ世代の方も毎月1500円割引のサービスを受けられるようになります。

――現在のdocomo withはサムスン、富士通、シャープが端末を供給しています。以前、囲み取材で、納入価格に制限があり、そこをクリアしないと対象端末にはならないという話をうかがいました。

森氏
 メーカーさんからすると、やはり、出る数と納入価格の掛け算で考えられると思うんですよ。docomo withでは月々1500円の割引が継続的に受けられますが、これを2年間と考えると、3万6000円なので、実勢価格としてはこのあたりがひとつの目安ですね。ただ、ユーザーさんによっては「2年じゃなくて、3年以上使うよ」という人もいらっしゃるでしょうから、その点を考えると、もう少し上のスペックのものも考えられるかもしれません。

――「docomo with」の売り方は非常にユニークですが、海外のキャリアから注目されていたりしないのでしょうか。

森氏
 海外キャリアからという話ではないのですが、Androidプラットフォームの端末でお付き合いがあるGoogleさんからは、docomo withという仕組みによって、Android端末の市場が広がっているという点で注目していただいているそうです。

――昨年末から総務省で、またモバイルビジネスに関する検討会がありました。今回はどちらかというと、ドコモよりも他の大手2社のサブブランドがやり玉に挙げられています。ドコモの端末販売などには影響があるのでしょうか?

森氏
 全くないということもありませんが、MVNOやサブブランドへの動きは、MNPの動向などからも見えてくる部分もあります。我々としては端末や料金プランなどで、しっかりお客さんにアピールしていくしかないかなという感じです。特に、ドコモとしては魅力的な商品をリーズナブルなプライスで出していくことを大事にしていきたいですね。

――最近の流れとして、SIMフリーが注目を集める中、御社はシンプルプランとシェアパックの組み合わせで、月額280円でも追加の1回線が持てることをアピールされていて、うまくSIMフリー端末へのニーズにも応えているという印象です。そんな中、auがファーウェイ製のスマートフォンを今年1月から扱うようになりましたが、御社はああいったキャリア色が薄い、「素のAndroid」に近い端末を扱う計画はありますか?

森氏
 将来的に十分、あり得ると思いますよ。端末だけでなく、我々のサービスやdアカウント、光回線などもありますので、それらを使う上ではいろんな取り組みが出てくると思います。ドコモのお客さんというのはドコモとエンゲージしていただいているわけですが、単純に端末や回線のユーザーだけでなく、auの回線を利用しているけど、コンテンツサービスを利用されている方もいらっしゃいます。そういう方たちが利用する製品も含め、プロダクトラインアップやサービスラインアップを揃えていく必要がありますね。

――最近、eSIMを利用したソリューションが増えてきました。

森氏
 今はセカンドデバイスですね。新しいタブレットやApple Watchを買うとき、認証などで手間をかけているのも大変ですから、ドコモではeSIMベースの仕組みを導入しています。周辺機器という大きなくくりのなかでは、将来的にはクルマもそのひとつに加わることになるので、こういったものにはeSIMのしくみは必要ですよね。まだ、具体的な話はありませんが、スマートフォンにeSIMを内蔵する手法も考えられます。現時点では、eSIMはdtabシリーズとApple Watchで展開していますが、その他の製品にもeSIMを入れていく方向の検討もしています。

――タブレットは例年、春商戦で特に好調だとうかがっています。その一方で、グローバル市場ではタブレットが苦戦しているといったニュースも見かけます。実際のところ、どういう売れ行きなのでしょうか?

森氏
 ドコモの場合、タブレットに親和性のいいコンテンツやサービスがあります。たとえば、「dマガジン」で雑誌を読んだり、「dTV」でドラマを見たりといった使い方ができますし、昨今、注目を集めている知育用のアプリもあります。タブレットそのものというより、こういったコンテンツと組み合わせることで、ニーズはあると思います。

 海外ではパソコンの代替的な使い方が中心ですので、ドコモにdtabを納入していただいているファーウェイさんもそういう製品をラインアップされています。また、2画面のようなモデルも出てくると思いますが、2画面はコストも高いですから、そういった意味では手頃な価格ではじめられる現在のタブレットはこれからも伸びていくと思います。現在はコンパクトな8インチ、少し大きい10インチクラスがラインアップされていますが、次のモデルではもっと新しいタブレットの使い方を提案できるように検討しています。ぜひ、楽しみに待っていていただきたいと思います。

――タブレットを知育用にというお話がありましたが、日本は子どもたちがネットやパソコンを使う比率が低いという分析もあります。子どもたちの情報リテラシーについては、どのようにお考えでしょうか?

森氏
 ITリテラシーですね。ボクらの世代はキーボードで文字を入力していますが、以前、タブレットを「自由に使ってください」と学校に持ち込んだことがあります。そのとき、子どもたちがどういう使い方をするのかを見ていると、空の雲の写真を撮るとき、声で撮るんですね。音声シャッターを使うわけです。

 つまり、タッチパネルやキーボードでできることを声でやることを自然に受け入れているんです。もちろん、将来的に社会に出ることを考えれば、当面はキーボードを使う必要がありますが、使い方も世代を追うごとに変化していくものなので、そういったことを踏まえて、考えていく必要があるでしょうね。

――まだ少し気が早い気もしますが(笑)、今年の夏モデルのラインアップはどういう感じになりそうですか?

森氏
 まあ、それはまだちょっとお楽しみということですね。それなりに楽しんでいただけるのではないかと思います。乞うご期待ということで。

――お忙しい中、どうもありがとうございました。