石野純也の「スマホとお金」

「Pixel 9が実質36円」、ソフトバンクの新購入プログラムのカラクリと見えてきた戦略

 4月に、ソフトバンクの端末購入プログラムに新たな仕組みが加わりました。「新トクするサポート(プレミアム)」です。4年の割賦を組み、2年ないしは1年で下取りに出すことで残債を免除するのがその主な仕組み。1年を選択した際には、「早トクオプション」という料金がかかる代わりに、免除される支払額も大きくなります。

 仕組みとしてはドコモの「いつでもカエドキプログラム+」に近い形と言えますが、形式的には残価設定ではなく、48回払いという体裁を取っています。一方で、ソフトバンクも48回の分割を均等にしているわけではないようです。22日に発売される「Pixel 9」はこの仕組みで1年実質36円という価格をつけ、話題を集めました。

22日に発売されるグーグルのPixel 9。ソフトバンクは、発売日から1年、実質36円で販売する

 では、新トクするサポート(プレミアム)どのようなプログラムなのでしょうか。Pixel 9が安い理由ととともに、その仕組みを解説していきます。

1年~2年で機種変タイミングを選択可能な新トクするサポート(プレミアム)

 4月に導入された新トクするサポート(プレミアム)は、48分割中、24回分もしくは36回分の残債を免除する端末購入プログラム。1年で端末を下取りに出すと、その分だけ免除される支払い回数が多くなるため、支払いを抑えつつ、最新モデルを常に使い続けることができるのが、メリットになります。

 同じく1年での下取りを売りにしていた端末購入プログラムとして「新トクするサポート(バリュー)」がありますが、これとの違いは“基本的に2年利用が前提になっている”ところにあります。そのため、新トクするサポート(プレミアム)は1年で下取りに出す場合、「早トクオプション」という料金がかかります。1年での機種変更は、あくまで“オプション扱い”になっているというわけです。

48分割の一部を下取りで免除するというベースはこれまでの新トクするサポートと同じ。プレミアムの場合、基本は2年だが早トクオプションを支払えば1年に巻き上げることが可能だ

 その金額はPixel 9や上位モデルの「Pixel 9 Pro」「Pixel 9 Pro XL」で1万9800円。「Pixel 9 Pro Fold」では、2万9800円になります。逆にiPhoneの場合、「iPhone 15 Pro」や「iPhone 15 Pro Max」「iPhone 15 Plus」などの対象端末は、早トクオプションが1万2100円に設定されています。

 単純に言えば、「端末代の割賦12回分」+「早トクオプションの料金」が、ユーザーの支払う代金ということになります。

Pixel 9 Pro XLの早トクオプションは1万9800円。Pixel 9 Pro Foldを除くシリーズ3機種が同額に設定されている

 ただし、これまでの新トクするサポートとは異なり、プレミアムでは「あんしん保証パックサービス」の契約が必須になっています。

 ソフトバンクの「あんしん保証パックネクスト」は、通常の修理や交換対応のほか、グーグル、シャープ、モトローラ、シャオミの4メーカーにはiCrackedによる対面の無償修理も提供。データ移行せずにそのまま端末を直せるメリットがあり、利用価値は高い一方で、保障サービスが不要というユーザーにとっては毎月の料金が上がってしまうデメリットもある点は留意しておきたいところです。

特典利用の申し込みをするには、あんしん保証パックサービスの契約も必要になる

異なる12回目までの支払額、Pixel 9は月わずか3円に

 48分割のうち、24回もしくは36回分の支払いを免除するのが基本となる新トクするサポート(プレミアム)ですが、分割が均等というわけではありません。

 機種にもよりますが、Pixel 9シリーズは1回目~12回目の方が、やや金額が高くなっているようです。たとえば、Pixel 9 Proの場合、1回目~12回目が4290円。13回目以降が3670円に設定されています。単純に48分割する場合より、やや支払いが増えるようになっていると言えるでしょう。

Pixel 9 Proの価格設定。12回目までの方が高くなっており、13回目以降は3670円に支払額が下がる

 一方で、Pixel 9のような例外もあります。Pixel 9の場合、1回目~12回目までの支払額は、わずか3円。12回分で36円にしかなりません。1年で下取りに出すという条件付きではあるものの、駄菓子3つ程度の金額を支払うだけで、最新のAI対応スマホを買えてしまうのは衝撃的。しかも、発売初日からこの値段です。

Pixel 9は、12回目までの支払いが月額3円に抑えられている。iPhoneも、「iPhone 15 Pro」などが同様の金額設定になっている

 かわりに、13回目~48回目の支払いは4199円に設定されており、支払額は上位モデルであるPixel 9 Proを上回ります。意図的に1回目から12回目の金額を引き下げることにより、ユーザーをPixel 9に集中させたい意図が見え隠れします。ただし、36円というのはあくまで端末の支払額に限った話。先に述べたとおり、1年での下取りには早トクオプションの1万9800円がかかります。

 とは言え、早トクオプションを加味しても実質的な価格は1万9836円にしかなりません。約15万円の本体価格のうち、13万円以上が免除される価格設定はインパクト絶大。1年経過後に市中の中古店に下取りに出したとしても、ここまでの金額になることはまずないと断言できます。なぜなら、グーグル直販価格である12万8900円を上回っているからです。その意味で、ソフトバンクのPixel 9は非常にお得な価格と言っていいと思います。

端末代の36円と、早トクオプションの1万9800円を足しても、実質価格は1万9836円で済む。1年分のあんしん保証パックネクストの料金である1万1880円を加味しても、3万1716円に収まる

 実際、同じく1年下取りで端末価格を抑えられるいつでもカエドキプログラム+を導入しているドコモでも、Pixel 9は対象外。2年下取りを基本にした通常の「いつでもカエドキプログラム」しか選択できません。auには同様の仕組みがないため、1年利用という前提条件だと、ソフトバンクの実質価格が突出して安くなっています。

 グーグル直販でPixel 8を下取りに出したとしても、実質価格は最低で3万9800円。ソフトバンクの安さが際立っています。

端末単体販売は縮小傾向に、割引制限が引き金か

 こんなに安いのであれば、Pixel 9はみんなソフトバンクで買ってしまえばいいのでは……と思うかもしれませんが、そうは問屋が卸しません。実はソフトバンクでは、端末の単体販売(回線契約無しでの販売)を徐々に縮小しており、Pixel 9は単体販売の対象外になっています。ソフトバンクオンラインストアでは、現在、一部のiPhoneやiPadしか単体での販売を行っていないことが確認できます。ソフトバンクによると、店舗でも同様の状況とのことです。

ソフトバンクは端末単体販売のラインナップを大幅に縮小しており、現状ではiPhone、iPadのみとなっている

 新トクするサポート(プレミアム)自体は単体販売にも適用される仕組みではあるものの、単体販売そのものをしていない機種が増えているというわけです。「単体販売は義務化されたわけではなかったの?」と思う向きもありそうですが、実はここに対する直接的な制限はありません。各社が単体販売や単体販売への端末購入プログラム適用を拡大していたのは、割引規制がかかっていなかったためです。

 2023年12月26日までは、回線契約に紐づく割引は2万2000円までに制限されていた一方で、単体販売に対する規制はありませんでした。端末購入プログラムで免除する金額は、一般的な下取り額との差分が割引と見なされる制約はあるものの、単体販売であればそもそも割引自体が自由。分割の支払額がいくら免除されてもOKだったというわけです。

昨年の12月26日までは、いわゆる白ロム割に規制がなかった。これが、単体割引も含めて総額で4万4000円に規制された

 ただし、その前提として割引が、回線のないユーザーにも等しく提供されている必要がありました。契約者だけに向けた割引ではないという体裁にしなければならなかったのです。結果として、単体販売や単体販売への端末購入プログラム適用が進み、回線契約者はMNPなどの場合、そこに加えて最大で2万2000円の割引を受けられる形が定着しました。

 ところが、12月27日に改正された新ガイドラインでは、単体割引も含めて総額で4万4000円までに割引が制限されることになりました。単体販売でも4万4000円まで、回線を含めても4万4000円までであれば、通信が主戦場のキャリアが前者を残しておく意義がなくなってきます。有り体に言えば、割引の自由度を高めるために、体裁を整えておく必要性が薄くなってきたということです。

回線なしでも一部のiPhoneには、新トクするサポート(プレミアム)が適用される。この場合は、中古の下取り額を超えても、回線契約者向けの割引ではなく、端末単体の割引と見なされていた。ただし、新ルールではそれを分けておく必要性がなくなったのも事実だ

 見方を変えれば、ソフトバンクは新制度のもと、より回線契約しているユーザーを優遇する方向に舵を切ったと言えるでしょう。これだと端末販売をしていないLINEMOのユーザーが買えなくなってしまうのでは……といった疑問は残りますが、料金の安いオンライン専用ブランドのユーザーには、自分でオープンマーケットモデルを調達してもらうような方向性になっていく可能性もあります。実質価格を抑えたPixel 9からは、そのような同社の戦略も見えてきます。