石野純也の「スマホとお金」

「povo2.0」の海外ローミングを試してみた! 使って分かった活用のポイントとは

米国ハワイで、7月にサービスインしたpovo2.0の海外ローミングを試した

 サービスインから約2年が経ったKDDIのpovo2.0ですが、海外ローミングをスタートさせたのは7月に入ってからと最近の話。当初は音声通話とSMSのみが対象で、8月に、ここにデータローミングが加わった格好です。データローミングは、国内向け通信と同様、トッピング形式を採用しているのが最大の特徴。日数ぐらいしか選択肢がない、大手キャリアのメインブランド/サブブランドの海外ローミングとは、この点でも一線を画しています。

 あくまで国内契約があっての海外ローミングではありますが、仕組みとしては、データ容量を自ら選択するローミング専業キャリアに近いと言えるでしょう。このpovo2.0の海外ローミングを、米国ハワイ州に出張した際に、実際にテストしてみました。ここでは、その使い勝手や、費用感をお届けします。

国内トッピング感覚で簡単に購入可能、米国は割安なエリアトッピングの対象

 povo2.0の国際ローミングは、トッピング形式で料金を自ら選択することができます。その操作方法も、国内とほぼ変わらずシンプル。アプリを開き、「海外」のタブをタップすると、海外ローミング用のトッピングが表示されます。料金体系は「レギュラートッピング」と「エリアトッピング」「ワイドトッピング」の3つで、それぞれに国や地域、データ容量ごとのプランが用意されている格好です。

「海外」タブを開くと、ローミング用トッピングがズラリと並ぶ。ここから、必要なものを選択するだけ。使い勝手は、国内用トッピングと同じだ

 レギュラートッピングは、もっとも標準的なプラン。90以上の国や地域をカバーし、日本からの渡航先の95%程度をカバーしています。これに対し、エリアトッピングは特定の国や地域限定ですが、レギュラートッピングよりも、料金が安く設定されています。その一方で、データ容量の選択肢はレギュラートッピングよりも少なめです。もう1つのワイドトッピングは、上記2つでカバーできない範囲で使うもの。こちらは料金が0.3GBで6980円と高額なので、いざという時のためのお守りのようなものと捉えておけばいいでしょう。

料金は渡航先の国や地域に応じて大きく3種類に分かれる。標準的なのがレギュラートッピングだが、その中の特定の国や地域は、エリアトッピングとして料金が安価に設定されている

 渡航した米国の場合、エリアトッピングが用意されていました。ハワイもきちんと対象に入っています。料金は、1GB/3日間が780円、3GB/7日間が2260円です。レギュラートッピングと比べると、1GB/3日間の金額が700円も割安に。3GB/7日間になってくると、2020円も差があるため、ある程度データ容量を使う場合であれば、エリアトッピングを選択することになります。

 ただし、あえてレギュラートッピングを選択する手もあります。エリアトッピングにはないデータ容量が用意されているからです。上記のように、米国向けのエリアトッピングは1GBか3GBの2択になりますが、レギュラートッピングは0.5GB、1GB、2GB、3GB、5GBと、5つの選択肢があります。現地SIMを購入するまでの“つなぎ”として使うならより料金が安い0.5GBを選択する手もあります。実際、筆者も今回はお試しとしてトッピングを購入したため、レギュラートッピングの0.5GB/24時間を選択しました。

お試し利用であれば、エリアトッピングよりレギュラートッピングの方が安い。今回は、0.5GBを選択した

 一見すると、5GBなどの大容量が必要な場合、レギュラートッピングの方がいいように思えますが、エリアトッピングがある国や地域では、同じトッピングを2回購入した方が割安になります。例えば、米国向けの3GB/7日間を2回購入すると、データ容量は6GBになり、料金は2260円の倍となる4520円かかります。それでも、レギュラートッピングの5GB/14日間の7080円より割安。2GB必要な場合も、エリアトッピングの1GB/3日間を2回購入した方が、支払いを抑えることができます。特定の国や地域では、お試し以外の理由で、あえてレギュラートッピングを選ぶ理由は薄いと言えるでしょう。

いつもの回線がそのまま使えるのは魅力、接続先キャリアはauに準拠

 UbigiやAiralo、Gigskyといったローミング専業のMVNOに近い考え方でデータ容量を買い足していけるpovo2.0の海外ローミングですが、違いもあります。国内用として、普段から利用していれば新たにSIMカードを調達したり、eSIMのプロファイルをインストールする必要がありません。また、トッピングの購入は海外に到着してからでOK。日本にいるうちに、準備をしておかなくてもいいため、気軽に利用できます。

 povo2.0の場合、海外で端末の「データローミング」をオンにすると、データ通信がつながります。ただし、この状態で通信ができるのは、povo2.0アプリのみ。アカウント情報などは見ることができますが、トッピング未購入の状態だと、ブラウジングなど、その他の通信は通らないようになっています。povo2.0アプリの通信はスムーズで、トッピングもサクサクと購入できました。事前準備不要な点は、やはり海外ローミングならではです。

渡航先に到着したあと、フライトモードを解除すると自動でつながる。SMSが届いたら、データローミングを有効にするだけだ

 余談ですが、povo2.0の海外ローミングは、auやUQ mobileの「世界データ定額」の仕組みを流用しているようです。トッピング未購入でブラウザを開き、どこかと通信しようとすると、KDDIドメインの世界データ定額のページに飛ばされます。ただし、povo2.0を契約していることはきっちり識別されており、アプリからトッピングを購入するよう促されます。こうした挙動からは、あくまで、KDDIの仕組みの上で、海外国際ローミングを提供していることが分かります。

サイトにアクセスすると、リダイレクトがかかり、トッピングの購入を促すメッセージが表示される。サイトデザインやドメインから、世界データ定額のページを流用していることが分かる
トッピング購入後は、リダイレクトがかからず、目的のサイトを開けるようになった

 システム的にこうした事情もあるため、ローミング時に接続できるキャリアやその通信方式についても、auやUQ mobileに準じています。今回povo2.0の海外ローミングを利用したハワイでは、AT&T、Verizon Wirelessの2社に接続が可能。米国大手3キャリアの1社であるT-Mobileでは利用ができません。また、この2社はVoLTEにも対応しています。

米国におけるKDDIの接続先。ハワイでは、AT&TとVerizonの2社になる

 また、「iPhone 12」シリーズ以降と、「Galaxy Z Fold5/Flip5」では、5Gローミングにも対応しており、より高速な通信が利用できます。なお、5GローミングはAT&Tのみで、Verizon Wirelessは4Gまで。米国で5Gを利用したいときには、接続先をAT&Tにするといいでしょう。ハワイでpovo2.0の海外ローミングに利用したのは、発売されたばかりの「iPhone 15 Pro」。ローミングをオンにしたところ、自動的にAT&Tにつながり、アンテナピクトにも「5G」の文字が表示されました。

AT&Tのみ、5Gローミングにも対応している。ただし、Androidの場合、フォルダブルのGalaxy2モデルに限定されるため、注意が必要だ

エリアは広いが速度はまずまずの5G、料金はもうひと頑張りほしい

 ただし、5Gと言っても通信が爆速というわけではありません。マウイ島で空港からワイレア・ビーチ沿いのホテルまでの間は、ほとんど5Gでつながっていた一方で、通信速度はダウンロードが10~30Mbps程度にとどまっていました。これは、低い周波数帯の5Gにつながっていたからだとみられます。試しにiPhoneのフィールドテストモードで接続している周波数帯を確認したところ、「n5」に接続していることが分かりました。

空港からの移動している際には、ほぼ5Gでつながっていた。ただし、速度は数十Mbpsといったところ。5Gローミングだからと言って、爆速になるわけではない

 n5は、850MHz帯の5G。いわゆるプラチナバンドと呼ばれる周波数帯で、よく飛ぶ一方で帯域幅は限られているため、4Gと同等程度の速度しか出ません。5Gにつながりっぱなしだった一方で、速度が4G並みだったのはそのためです。AT&Tは、n77(3.7GHz帯)やミリ波でもサービスを行っていますが、後者は日本版のiPhone 15 Proは非対応。前者は、今回のテストではつかむことができませんでした。5Gといえども、速度が出ないことがあるのは日本と同じです。

フィールドテストモードで確認したところ、n5(850MHz帯)の5Gに接続していた。プラチナバンドのため、速度も4G並みというわけだ

 比較的使い勝手がよく、ハワイでは安定して使えたpovo2.0の海外ローミングですが、価格については、もうひと頑張りがほしいというのが率直な印象でした。確かに、auやUQ mobileの海外ローミングと比較すると定価はリーズナブルですが、米国は世界データ定額の「早割」対象国のため、事前予約するだけで料金を24時間、490円に抑えることができます。国内分のデータ容量を消費してしまうものの、auの「使い放題MAX」であれば30GBまで利用が可能になります。

 au/UQ mobileは早割でも、3日間で1470円かかるため、780円で3日間有効なpovo2.0のエリアトッピングは割安ではありますが、データ容量が1GBなのが難点。特に海外では、ホテルのWi-Fiが遅い際にテザリングに頼ったり、初めての場所に行くためにマップとにらめっこしたり、映える場所の写真や動画をSNSにアップしたりと、データ利用量が多くなりがち。1GBというデータ容量だと、少々心もとないのも事実です。

auやUQ mobileの世界データ定額は、事前に申し込んでおくと、早割キャンペーンが適用され、米国の場合、料金は24時間490円まで下がる。同期間で比較するとpovo2.0の方が安いが、データ使用量が多い場合は、au/UQの方が安上がりに
海外では、貴重なチャンスとばかりに、映える写真を撮ってしまいがち。ここぞとばかりにSNSにアップすると、データ使用量はどんどん増えてしまう

 買い足してデータ容量を増やすことも可能ですが、比較的安価な米国ですら、3GBは2260円。6GB使おうとすると、4520円にもなります。これは、au/UQ mobileの世界データ定額の早割で約9日間の金額。しかも、データ容量は国内で契約している料金プランのものが適用されます。ある程度、通信量が多い場合は、大手キャリアのメインブランド/サブブランドの方が割安になることもあるというわけです。

 逆に、3日間で1GBを使うような形であれば、povo2.0がお得になるのも事実。iPadなどのタブレットや2台目スマホのサブ端末用に購入しておくには、いいトッピングと言えるかもしれません。また、レギュラートッピングの0.5GBは、現地SIMを購入するまでの“つなぎ”にもなりえます。こうした使い方もできる点は、トッピングの魅力と言えるでしょう。その反面、海外で大容量を使いたいというニーズにはこたえきれていないため、今後のアップデートにも期待したいところです。

石野 純也

慶應義塾大学卒業後、新卒で出版社の宝島社に入社。独立後はケータイジャーナリスト/ライターとして幅広い媒体で執筆、コメントなどを行なう。 ケータイ業界が主な取材テーマ。 Twitter:@june_ya