石野純也の「スマホとお金」

MVNOから続々と登場する大容量プラン、NUROモバイルと日本通信の新プランを徹底解説

 動画などの大容量コンテンツが一般的になり、モバイルでのデータ使用量も年々増加しています。この伸びをキャリア側が読み誤り、ネットワークのキャパシティが不足してしまうと“パケ詰まり”の原因になることも。基地局などの設備を持たないMVNOも、その影響は受けるうえに、キャリアとの接続点が容量不足におちいるおそれもあります。視点をユーザー側に変えると、データ使用量の増加は契約していた料金プランのデータ容量が足りないといった事態にもなりがちです。

 ここ数年、大手キャリアは中容量プランや無制限プランを拡充してきましたが、データ使用量はMVNOのユーザーも増加しています。小容量を得意としていたMVNOですが、それだけではユーザーのニーズを満たしきれなくなっていると言えるでしょう。そんな市場動向を踏まえ、徐々にデータ容量の大きい料金プランを導入するMVNOが増えています。今回は、直近で中容量プランを拡充したNUROモバイルと、20GBプランの容量を上げた日本通信の料金プランを解説します。

NUROモバイルは、11月に新料金の「VLLプラン」を導入した。日本通信も、30GBの新プランを開始する予定で、MVNOの中容量帯が徐々に充実し始めている

トラフィックが徐々に増加、上位プランを選ぶユーザーのニーズにこたえたVLLプラン

 NUROモバイルは、新料金プランを導入した21年に、中容量帯を担う「NEOプラン」と、小容量帯を中心にした「バリュープラン」の大きく2つに分け、サービスを提供してきました。NEOプラン、バリュープランの下に、容量ごとのプランがぶら下がる形です。前者のNEOプランは、バリュープラスとは接続帯域を分け、通信品質を向上させているのが主な特徴。これに対し、バリュープラスはコストパフォーマンス重視の料金プランです。

NUROモバイルの料金体系。音声通話中心の「かけ放題ジャスト」を除くと、NEOプラン、バリュープラスの大きく2つに分かれる。それぞれの枠組みの下に、データ容量に応じた料金プランが用意されている

 元々、バリュープラスは3GBの「VSプラン」、5GBの「VMプラン」、10GBの「VLプラン」と、データ容量ごとに3段階の料金が設定されていました。料金体系としては、ワイモバイルやUQ mobileといったサブブランドに近いと言えるでしょう。NEOプランのような専用帯域は設けていないため、お昼休みなどの混雑時には速度低下もあるようですが、そのぶん価格は安く、VSプランは月額792円。10GBのVLプランでも、1485円で済んでしまいます。

 また、VMプラン以上は、3カ月に1回、追加でデータ容量が付与される「Gigaプラス」に対応しています。VMプランは3GB、VLプランは6GBで、1カ月あたりにならすとそれぞれ1GBと2GB。3カ月目以降は、実質的に6GBプラン、12GBプランとして利用できるというわけです。Gigaプラスのデータ容量は3カ月間有効なため、VLプランの場合、ある月は10GB、その翌月は14GBといった形で、柔軟に利用することもできます。

VMプラン以上は、3カ月に1回データ容量が追加で付与されるGigaプラスに対応する。付与されるデータ量はプランによって異なる

 ただ、NUROモバイルのユーザーも、データ使用量は月を追うごとに増えていました。その証拠に、バリュープラス開始当初はVSプランに集中していた申し込み状況が変わり、23年に入ってからは、VLプランの比率が22~25%の間で推移しています。逆に、当初は7割近いユーザーが申し込んでいたVSプランの比率は大きく低下し、その割合は40%前後まで低下しています。過半数は、5GB以上のプランに申し込んでいるというわけです。

当初、3GBのVSプランが大半を占めていたバリュープラスだが、月日が経つにつれ、その割合は低下。今ではVMプランとVLプランが過半数を占めている

 バリュープラスを開始した21年は、まさにコロナ禍真っただ中。出社やレジャーなどの外出を控える動きもあり、トラフィックが固定回線に流れていたことが考えられます。一方で、その状況は徐々に緩和され、5月にコロナが5類感染症に分類され直したのを契機に、人流はコロナ禍以前に戻っています。こうした状況から、VLプランでもデータ使用量が足りない人が出てくることも想定されます。そこで11月から新たに加わったのが、データ容量15GBの「VLLプラン」です。

VLプランを超える中容量プランとして登場したVLLプラン

Gigaプラス含めて月18GBが2000円以下、価格競争力を意識した料金に

 VLLプランは、VLプランの1つ上に設定されています。データ容量は15GBですが、先に挙げたGigaプラスも対象となり、3カ月目以降は3カ月に1回、9GBが付与されます。1カ月ごとに均等に使った場合のデータ容量は3GBで、基本のデータ容量と合算すると18GBにもなります。元々小容量のユーザーをターゲットにしていたバリュープラスですが、Gigaプラスまで含めると、今や中容量の領域に入りつつあると言えるでしょう。

 料金は1790円。よりデータ容量が多く、専用帯域を利用するNEOプランの2699円とは差別化が図られています。NUROモバイルを展開するソニーネットワークコミュニケーションズのMVNO事業室 室長 田中直樹氏によると、NEOプランは大手キャリアに近い品質を求めるユーザーが対象なのに対し、バリュープラスはMVNOならではのコストパフォーマンスを求めるユーザーがターゲットだといいます。データ容量は近づいていますが、ターゲット層に合わせて利用する帯域を変えたというわけです。そのぶん、価格はNEOプランよりも909円安く、1000円台を維持しています。

データ容量20GBのNEOプランは、通信品質を重視していることもあり、料金は大手キャリアのオンライン専用プラン/ブランドに近い。VLLプランは、それより一段安い価格設定だ

 NUROモバイルは、データ容量が20GBで、Gigaプラスに非対応のぶん料金が2090円と安価な「NEOプランLite」を22年4月から提供していましたが、23年5月でサービスの新規申し込みを終了しています。Gigaプラス込みで18GBになり、料金も1790円で利用できるVLLプランは、その後継的な存在と見なすこともできます。NEOプランはGigaプラスのほか、SNSなどのデータ容量がカウントされない「NEOデータフリー」に対応していましたが、NEOプランLiteはこれにも非対応でした。バリュープラスとして中容量プランを用意した方が、2つのプランの特徴を明確にしやすかったことがうかがえます。

 バリュープラスと銘打っているだけに、1790円という料金はかなりリーズナブルと言えるでしょう。ahamo、povo2.0、LINEMOといった大手キャリアのオンライン専用プラン/ブランドは、20GBで3000円弱。VLLプランはGigaプラス込みで18GBと、ややデータ容量は少なくなるものの、毎月1000円以上、料金が安くなります。また、同じカテゴリーのMVNO大手と比べても、料金は安めに設定されています。

主なオンライン専用プラン/ブランドとの比較。データ容量は少ないが、MVNOらしく価格は一段低いことが分かる。なお、ahamoは1回5分の音声通話込み、povoは30日の20GBトッピングの価格

 たとえば、IIJmioは「ギガプラン」の15GBが1800円。mineoも、20GBプランが2178円で、いずれもNUROモバイルのVLLプランより高めに設定されています。また、新規受付を終了したOCNモバイルONEや、KDDI傘下のBIGLOBEモバイルには、ドコモとの住み分けを図る関係もあり、そもそも中容量プランがありません。これはKDDI傘下のBIGLOBEモバイルも同様で、20GBプランは5720円とかなり高額に設定されています。その意味で、NUROモバイルのVLLプランはMVNO大手に勝負を挑む価格帯の中容量プランと言えるでしょう。

シェア上位のMVNOと比べても、安価に設定していることが分かる

日本通信は20GBプランを30GBに増量、価格も据え置きで中容量帯を強化

 中容量帯のプランを拡充しているのは、NUROモバイルだけではありません。先に挙げたように、IIJmioやmineoといったMVNO各社も、小容量プランだけでなく、中容量プランまで選べるデータ容量のラインナップを充実させています。大手キャリアがオンライン専用プラン/ブランドで値下げに打って出たことで、小容量帯に生存領域が狭まったと言われているMVNOですが、1000円近い差をつけることでユーザーのニーズにこたえようとしています。

 MVNOの老舗とも言える日本通信も、11月27日から、データ容量30GBの「合理的30GBプラン」の提供を開始します。元々同社は、1GBの「合理的シンプル290プラン」や10GBの「合理的みんなのプラン」、20GBの「合理的20GBプラン」を展開していましたが、合理的30GBプランは、この20GBプランを改定したもの。データ使用量の拡大を受け、容量を10GB増加させたといいます。これにより、日本通信の「合理的〇〇プラン」は、1GB、10GB、30GBの3本立てになります。

日本通信は、11月27日に合理的30GBプランを開始する

 データ容量を増やした一方で、料金は合理的20GBプランから据え置いています。金額は2178円。ここに。1カ月70分か1回5分までの音声通話も含まれている点も、合理的20GBプランから変わっていません。通話の時間さえここからはみ出なければ、2178円以外の料金はかからないというわけです。追加のデータ容量も1GBあたり220円で購入できるため、かなりお得な料金プランと言えるでしょう。

30GBのデータ容量だけでなく、この価格に月70分もしくは1回5分の音声通話が含まれる。ワンパッケージの料金を展開しているMVNOは珍しい

 先に挙げたNUROモバイルのVLLプランと比較すると、金額こそ388円高くなりますが、データ容量が12GB多く、無料通話までつきます。ドコモのahamoや、UQ mobileの「コミコミプラン」に近い形ですが、前者は2970円、後者は3278円と、3000円前後の価格設定。これに対し、合理的30GBプランは1000円程度安い一方で、データ容量も10GB多くなっており、MVNOらしく差別化が図れています。35GB超のユーザーに向け、「これ以上の大容量は携帯キャリアのプランをお使いください」とうたっているところからも、同社の自信のほどがうかがえます。

35GB超のユーザーには大手キャリアを勧める日本通信。裏を返せば、それ以下の料金プランに自信があるということだ

 このように、ユーザーのデータ使用量増加を受け、MVNO側も徐々に中容量プランを強化し始めています。背景には、トラフィックの高まりを受けた接続料の低減がありそうです。また、大手キャリアのサブブランドはデータ容量を増やす一方で値上げにも舵を切っているため、これもMVNOにとっては追い風。以前よりも、容量あたりの単価が落ちている料金プランもあるため、コロナ明けでデータ使用量が増えてしまった人は、改めてMVNOの料金を検討してみてもいいでしょう。大手キャリアのオンライン専用プラン/ブランド以上に料金を下げたい人は、特にその価値が高そうです。

石野 純也

慶應義塾大学卒業後、新卒で出版社の宝島社に入社。独立後はケータイジャーナリスト/ライターとして幅広い媒体で執筆、コメントなどを行なう。 ケータイ業界が主な取材テーマ。 Twitter:@june_ya