石野純也の「スマホとお金」

「povo」がついに国際ローミング対応、他社とは一味違うそのシステムを徹底解説

 オンライン専用ブランドとして導入されたpovo2.0が、ついに国際ローミングに対応しました。

 海外で利用できるローミングサービスは、大手キャリアでは一般的なサービスです。回線を借りている関係で、データローミングができないMVNOとの差別化にもなっていました。

 一方のpovo2.0は、国際ローミングに未対応でした。自身で回線を持つMNOのサービスとしては、異例だったと言えるでしょう。

povo2.0は、7月に国際ローミングサービスを開始した。段階的に有効化していたが、全ユーザーへの設定が8月9日に完了した

 実際、同じオンライン専用サービスでも、ahamoやLINEMOは国際ローミングに対応。UQ mobileやワイモバイル、irumoといったサブブランドやサブブランド的な料金プランも、すべて海外で利用することができます。

 このような状況を受け、povo2.0にも国際ローミングの対応を求める声が高まっていました。同社の海外ローミングは、そんなニーズに応えたサービスです。

 ただし、 同じ国際ローミングでも、仕組みはpovo2.0ならでは 。一般的なキャリアの国際ローミングとは、一味違ったシステムが採用されています。海外渡航の出国ラッシュを間近に控えた今回は、その新サービスを解説していきます。

大手キャリアのメインブランドとは異なる料金体系、仕組みはトッピングを踏襲

 ついに、国際ローミングを開始したpovo2.0ですが、音声通話やSMSは基本的にauのサービスに準じています。この2つについては、特段、複雑なことはありません。

 現地に到着したあと、ローミング先のキャリアにつながれば、発着信が可能になります。音声通話については、通話料が比較的高額なため注意が必要。SMSは送信料が割高なものの、受信は無料でできます。一方で、 大きく体系が異なるのがデータ通信です

音声通話やSMSはauの料金体系を踏襲した。滞在国内への発信でも割高になるため、使い過ぎには注意が必要になる

 一般的なキャリアの場合、データ通信は1日あたりいくらという形でローミング料が設定されています。現時点での相場は、1日980円。

 ドコモの「世界そのままギガ」や、au/UQ mobile/povo1.0の「世界データ定額」、ソフトバンク/ワイモバイル/LINEMOの「海外あんしん定額」がそれに当たります。ドコモは複数日のまとめ買いで、KDDIは事前予約で1日あたりの料金が下がりますが、基本的な単価は各社共通と考えておいていいでしょう。

 ドコモとKDDIの場合、支払う料金は、あくまでローミングをするための対価。データ容量そのものを追加で購入しているわけではありません。そのため、データ通信を使うと、普段契約している料金プランに設定されている容量が減っていきます。

 例えば、irumoの3GBプランの場合、海外で1GB使うと、国内分は残り2GBになります。普段と異なる環境の海外では、データ通信に頼りがち。そのため、国内以上にデータ容量を消費することもあり、注意が必要です。

ドコモの世界そのままギガ。料金は24時間980円だが、複数日ぶんをまとめて申し込むと割安になる。ただし、データ容量は契約している料金プランが上限。国内、海外合算で計算されるため、小容量プランの場合は使い過ぎに気をつけたい

 ただし、3キャリアの中でソフトバンクのみ、少々仕組みが異なっており、海外あんしん定額を申し込むと、ローミング専用のデータ容量が1日あたり3GB付与されます。

 データ容量の少ない料金プランを契約しているユーザーにはうれしい仕組みで、特にワイモバイルやLINEMOで海外に行くときには便利に使えるでしょう。一方で、povo2.0が開始した国際ローミングサービスは、どのキャリアにもない料金体系に仕上がっています。

ソフトバンクの海外あんしん定額は、海外用に1日あたり3GBが付与される仕組み。料金は横並びだが、仕組みはドコモやKDDIとはやや異なる

 より具体的に言うなら、 povo2.0でおなじみのトッピングをそのまま国際ローミングにも適用 したような仕組みです。1GB単位で完全に自由とまではいきませんが、ある程度、自分の使いたい容量や日数を選べるのが特徴。

 料金も、他キャリアのように一律で決まっているわけではなく、容量や日数、さらには渡航先によっても変わってきます。そのぶん、少々複雑にはなりますが、元々povo2.0を契約しているユーザーとは親和性の高い仕組みのため、すぐに慣れることができそうです。

レギュラートッピング

povo2.0は、トッピングのようにデータ容量を買い足していく仕組み。大手3キャリアとは異なり、一律で料金が定められているわけではない

 そのデータトッピングは、地域に応じて3種類に分かれています。1つ目は、日本人の渡航が多い国や地域に特化した「レギュラートッピング」。

 こちらは、90以上の国や地域に対応しています。トッピングのデータ容量は0.5GBからで、1GB、2GB、3GB、5GBが選択できます。有効期限は0.5GBが24時間。1GBは3日、2GBは5日間、3GBは7日間、5GBは14日間と、データ容量が大きくなればなるほど、日数も長くなります。

 料金は、0.5GBがキャンペーンで640円に設定されており、比較的安価です。以降、1GBは1480円、2GBは2880円、3GBは4280円、5GBは7080円という金額で、単純に比べると、国内ぶんのトッピングよりは割高です。

 データ容量を日数で割ると、大体、1日あたり300MB強の使用量を想定していることが分かります。例えば、現地滞在が3日間の場合、1GBトッピングを購入すれば、1日あたり約300MBで、料金は493円ということになります。先に挙げた大手キャリアの国際ローミングより、料金水準は低めと言えるでしょう。

レギュラートッピングの料金。1日あたりに換算すると、料金は大手キャリアのメインブランドよりも抑えめだ。1日に0.3~0.4GB程度を想定していることが分かる

エリアトッピング

 2つ目が、その中でも特に人気の国や地域に絞った「エリアトッピング」です。povo2.0のことなので、今後もラインナップの入れ替えはありそうですが、現時点では、韓国、アメリカ、シンガポール、マレーシア、タイ、ベトナムがこのエリアトッピングの対象です。

 日本人に人気のエリアと聞くと、「台湾や香港が入っていないのはなぜ?」「グアムは?」といった疑問も出てきそうですが、KDDI Digital Lifeによると、ローミング料との兼ね合いもあるようです。

 国際ローミングはキャリア同士で協定を結んだり、間に仲介業者を入れたりして、お互いに料金を設定します。国やキャリアによっては、なかなか価格を下げられないということも。エリアトッピングは、渡航者に加え、こうした条件も加味しているといいます。

 そのぶん、料金は先に挙げたレギュラートッピングより安めです。例えば、アメリカの場合、1GB/3日間のトッピングが780円。3GBでも、2260円で購入できます。

 よりリーズナブルなのは韓国で、1GB/3日間が690円、3GB/7日間が2000円に設定されています。エリアトッピングは、レギュラートッピングよりデータ容量の選択肢は少なめですが、料金は半額以下になっていることもあり、お得に使えます。1GBずつ、必要なぶんだけ購入するといった使い方をしていけば、ローミング料を節約できます。こうした自由度の高さは、povo2.0ならではです。

エリアトッピングは、利用できる国や地域が限定される一方で、料金は安く抑えられている。特に韓国は、1GBトッピングなら1日あたりの料金は230円に

 3つ目のワイドトッピングは、データ容量が0.3GBで有効期間が30日。ただし、料金は6980円と、容量あたりの単価はかなり高額です。こちらは、利用可能な国や地域が160以上と多いのが特徴。

 レギュラートッピングやエリアトッピングではカバーできていない場所で使うためのものと考えておけばいいでしょう。国や地域にはかぶりもあるため、レギュラートッピングやエリアトッピングに対応していれば、あえて選ぶ必要はありません。現地のSIMカードを買うまでのつなぎなど、保険的に使うようなケースが想定できます。

ワイドトッピングは、より広いエリアに対応している。日本人の渡航が少ない国や地域の場合、このトッピングしか利用できないことも

 トッピングという形式を採用したことによる自由度の高さは、既存のサービスにはない魅力と言えるでしょう。メインで使ってもいいですし、デュアルSIMの2回線目に設定しておけばサブ回線にもなります。

 例えば、1回線目を大手キャリアのメインブランドにしているような場合、通常はそちらでローミングしつつ、足りないぶんだけをpovo2.0で買い足すことができます。

 先に述べたように、大手キャリアの場合、24時間単位でデータローミングを有効にできます。現地にいる時間がきちんと24時間単位ならいいのですが、フライトの都合で、必ずしもそうなるとは限りません。

 5日間滞在したあと、最後の半日だけデータ通信したい――そんなときには、レギュラートッピングの0.5GBを買い足すことができます。節約できる額はわずかですが、組み合わせることで料金を下げられます。

 また、メインで使っている回線のデータ容量が少なくなってしまい、ローミングであまり消費したくないようなときにも、povo2.0のトッピングが有効。

 このようなときに、1GBなり3GBなりを買い足すようにすれば、メイン回線のデータ容量を国内用に温存しておくことが可能になります。海外でもサブ回線として使えるのは、povo2.0のコンセプトそのままと言えそうです。

povo2.0を運営するKDDI Digital Lifeでは、ちょい足しのようなニーズも想定しているという

 家族旅行など、複数人で海外渡航する際には、空港などでWi-Fiルーターをレンタルするというのも一般的です。頭数で割れば、料金も安くなるからです。

 ただ、Wi-Fiルーターだと、Wi-Fiの到達距離以上に離れて単独行動する際に、通信が使えなくなってしまいます。こうしたケースでも、povo2.0の0.5GBトッピングなどをちょい足しできます。トッピングという形式にすることで、さまざまな使い方が考えられるようになりました。

 一方で、ホテルの回線が遅く、テザリングで手持ちの機器の回線をまかなわざるをえなくなるのも海外出張あるある。国や地域、さらにはホテル内の混雑状況などによっても状況は変わってきますが、渡航が多い人は、テザリングに頼ったことが一度はあるのではないでしょうか。

 かく言う筆者も、その1人です。ここでpovo2.0の出番といきたいところですが、残念ながら、現状では比較的小容量のトッピングしかないため、やはりスマホでの利用がメインになってきます。テザリング利用には、あまり向かないと言えるでしょう。

 大手キャリアのメインブランドの場合、データ容量無制限のプランを契約していれば、国際ローミングでも30GBまで通信が可能。

 povo2.0と同じKDDIのauなら、コンテンツサービスがパックになったプランを選ぶことで、その容量をさらに引き上げられます。もっと容量の大きい「使い放題MAX 5G ALL STARパック」であれば、世界データ定額に最大で80GBまで利用可能。povo2.0で、同じような容量を使うと、料金が跳ね上がってしまいます。

国内のように使い放題にこそならないものの、auの「使い放題MAX ALL STARパック2」なら、最大で80GBを国際ローミングに利用できる

 国内向けには1日単位でデータ容量を無制限にできるトッピングがあり好評ですが、海外でこそ、データ通信の使用量が跳ね上がることが多いだけに、ぜひ近い仕組みは国際ローミングでも実現してほしいと感じています。

 また、国内でも実施しているような、期間限定のトッピングにも期待したいところ。国際的なイベントに合わせたトッピングを出すことができれば、よりpovo2.0らしさが際立つような気がします。

石野 純也

慶應義塾大学卒業後、新卒で出版社の宝島社に入社。独立後はケータイジャーナリスト/ライターとして幅広い媒体で執筆、コメントなどを行なう。 ケータイ業界が主な取材テーマ。 Twitter:@june_ya