石野純也の「スマホとお金」

夏休みの海外旅行で人気トップの韓国へ行くなら知っておきたい、現地でスマホを快適に使うためのプリぺイドSIM事情

 新型コロナウイルスの分類が5類になり、各種渡航制限も撤廃されたことで4年ぶりに海外旅行需要が高まっています。夏休みを使って、久々に海外に出かける人も多いのではないでしょうか。中でも、日本のお隣、韓国は人気が高い国の1つ。旅行会社HISが7月に発表した調査によると、首都ソウルは夏休みに行く都市としてトップの予約数を誇ります。

 そんな韓国では、大手3キャリアのSK telecom、KT、LG U+がプリペイドSIMやeSIMを旅行者向けに用意しています。3社のWebサイトには日本語のページも設けられており、対応端末さえ持っていれば事前にeSIMのプロファイルをダウンロードして渡航することも可能。国際ローミングより料金を抑えられるのが、そのメリットです。

 筆者は、サムスン電子が「Galaxy Z Fold5」「Galaxy Z Flip5」を発表するとみられる「Galaxy Unpacked」を取材するため、韓国を訪問しています。その際にSK telecomとKTのeSIMを実際に購入してみました。その方法や、使い勝手などをレポートします。

サムスンのUnpacked取材で韓国を訪問。旅行者向けのeSIM、プリペイドSIM事情をレポートする

大手3キャリアのプリペイドeSIMが簡単に買える韓国

 日本と同様、大手3キャリアの力が強い韓国。トップシェアはSK telecom、それを追うのがKT、3番手につけているのがLG U+で、その割合も日本のドコモ、KDDI、ソフトバンクに近く、競争環境は似ていると言えるでしょう。一方で、インバウンド対応をほぼしていない国内3社とは異なり、韓国大手3社は旅行者用のプリペイドSIMやeSIMのサービスをきっちり展開しています。

金浦空港の到着ロビーには、3キャリアのカウンターが並ぶ。料金もこの写真のように、ほぼ横並びだ

 料金体系はほぼ横並び。1日、3日、5日、10日などの日数を選ぶと、金額が自動的に決まります。ただし、キャリアごとにその金額はやや異なります。たとえばKTの場合、5日プランにはオンライン予約割引が適用され、事前に申し込むことで2万7500ウォンが2万4700ウォンまで安くなります。これに対し、SK telecomには事前割引がなく、5日プランを選択した際の料金は2万7500ウォンです。

KTの料金プラン。3日~30日はオンライン注文で割引を受けられる。空港で契約するよりお得だ
SK telecomも料金体系は近いが、割引がないためKTよりはやや割高になる

 また、日数を選ぶだけではあるものの、通信速度やデータ容量には制限があり、その方法がキャリアによって異なります。KTとLG U+は、1日あたり3GBまで。3GBを超えると速度が1Mbpsに下がります。一方のSK telecomには、こうしたデータ容量の上限がない代わりに、速度は10Mbpsまでとされています(公式では)。

 1日に使えるデータ容量にある程度制約はあっても、速度を重視したい人はKTやLG U+、一定程度の速度が出ていれば使い放題の方が安心というときはSK telecomを選択すればいいでしょう。筆者は今回、メインで使用する「Galaxy Z Fold4」にKTを、サブの「iPhone 14 Pro」にはSK telecomのeSIMプロファイルをインストールしました。

 以下はソウル市内の江南にあるホテル付近のカフェで測定した速度です。どちらも通信方式は4Gまで。5Gには非対応ですが、KTは21Mbpsと比較的高い速度が出ているに対し、SK telecomも29.6Mbpsとまずまずの結果です。10Mbps制限をかけているとうたっていたSK telecomですが、実際には、速度を無理やり絞るようなことはしていないようです。時間や場所を変えて何度かテストをしましたが、結果は同様でした。

江南駅付近のカフェで測定。KTは21Mbpsを記録した
SK telecomは、30Mbps弱。実際には10Mbps制限はかかっていないようだ

 動画など、大容量のデータを送受信していると3GBはあっという間に尽きてしまう容量。スマホ単体であれば十分かもしれませんが、手持ちのデバイスの通信をすべてまかないたいようなときには、SK telecomの方が使い勝手はよさそうです。

事前に買って準備ができるeSIMが便利

 3社とも、SIMカードとeSIM、2つの種類でサービスを行っています。注意したいのは、音声通話が必要な場合はSIMカードに限定されるところ。韓国も日本と同様、音声通話の契約にはより厳格な本人確認が求められるため、空港でのパスポート提示などが必要になります。一方で、データSIMは本人確認が緩め。事前に日本でダウンロードしておけるeSIMは、データ通信のみになります。

KTのサイトでの説明。音声対応のものとデータタイプのものがあるが、オンライン購入が可能なのはデータタイプのみ。音声が必要な場合は、空港で購入する必要がある

 今回契約したのは、eSIMです。事前に準備しておくことで、飛行機が着陸した直後からデータ通信できることに加え、空港のカウンターなどに並んでSIMカードを購入する手間がかからないからです。音声通話は使えませんが、こちらから韓国国内の電話番号で発信するのはレアケース。LINEやMessengerのようなアプリを使えば十分と判断し、データ通信オンリーのeSIMを契約しました。

 手順は簡単で、KTの場合、まず同社のWebサイトにアクセス。「eSIMを購入する」というボタンをクリックし、規約に同意したあと、名前、国籍、パスポート番号、メールアドレスを入力したあと、必要なプランを選択します。今回の訪韓は4日でしたが、ピッタリ合うものがなかったため、5日を選択しました。後述しますが、SK telecomは1日と3日の2つを選び、計4日にしています。

eSIMのページにアクセス。キャリア名とeSIMなどのキーワードで検索すると、3社のページにたどり着きやすい
名前などのほか、パスポート番号を入力する必要があるが、画像などの送付は求められない

 画面の指示に従って進んでいくと、決済画面が現れます。KTでは、クレジットカードのほか、PayPalの利用も可能。支払いが終わると、画面にQRコードが表示されます。同時にメールも送付されているので、どちらかでQRコードを読み取ればOK。Galaxy Z Fold4の場合、設定の「接続」→「SIMマネージャー」→「eSIMを追加」を選び、「サービスプロバイダから提供されたQRコードをスキャン」をタップすると、QRコードを読み取るためのカメラが起動します。

クレジットカードのほか、PayPalなどの決済サービスでも支払うことが可能だ
ブラウザかメールでQRコードを開き、端末側にセットする。日本でプロファイルを登録することも可能。事前に準備ができるので、当日現地について慌てずに済む

 先ほど画面に表示されたQRコードを読み取り、しばらくするとプロファイルのダウンロードが終わり、KTのeSIMプロファイル端末に追加されました。あとは、韓国に着いたら、KTを有効にするだけ。国内と同じように、データ通信ができます。ただし、KTの場合、プロファイルをダウンロードしたときから日数のカウントが始まると記載されています。そのため、QRコードの発行だけ事前にしておき、端末に読み込むのは出発当日にした方が無駄はありません。

SKは決済エラーが、それでも便利で安価な現地SIM

 一方で、iPhoneに入れたSK telecomは、購入にやや手間がかかりました。手順はほぼKTと同じですが、なぜか何度やってもクレジットカードの決済が通りませんでした。KTのように代替手段としてPayPalがあるわけでもないため、SK telecomのサイトで購入するのは断念せざるをえませんでした。VISAとJCBの2つで試していますが、どちらも決済エラーが出ています。

SK telecomは、クレジットカードが通らず、エラーが出てしまった

 そこで、SK telecomは同社のサイトでの購入をあきらめ、別の販路を使うことにしました。実は、韓国3キャリアのSIMカードやeSIMは、ホテルやオプショナルツアーなどを予約できる代理店でも取り扱っています。料金も、直販より安いことがあるため、むしろキャリアのサイトで直接購入するよりもオススメできます。筆者が利用したのは、「コネスト」というサイト。韓国旅行情報の提供はもちろん、各種アクティビティの予約などでもおなじみの会社ですが、ここはeSIMの販売も行っています。

コネストでも、各社のeSIMを販売していた。しかも料金は、公式サイトで購入するより割安だ

 データ通信速度が10Mbpsに制限されるとうたわれている仕様や、代わりに容量が無制限になるのは直販分と同じ。ただし、こちらで購入すれば日本円で決済ができるほか、3日以上のプランには、割引も提供されています。筆者が選択したのは1日+3日の計4日。料金は2450円です。5日プランを選ぶと2740円になるため、ピッタリの日数を選んだ方が安くなります。

 こちらも手順に従っていくだけでOK。オプショナルツアーなどの予約と同じシステムを使っているため、eSIMではありますが、購入後に「予約確認書」が送られてきます。この予約確認書に、プロファイルをダウンロードするためのQRコードが記載されています。今回は、上記のように、1日と3日の両方を購入したため、QRコードは2つになっていました。

オプショナルツアーのように、予約確認書が届いた。ここに、プロファイルをダウンロードするためのQRコードが記載されている

 要は日プランと3日プランをそれぞれ別の電話番号で契約した形になり、合算されるわけではありません。渡航中に再度QRコードを読み込み、プロファイルをダウンロードしなければならないため、この点には注意が必要と言えるでしょう。eSIMプロファイルをダウンロードする際には、Wi-Fiなど、別の回線に接続しなければならないからです。

 一方で、先に挙げたKTとは異なり、SK telecomはネットワークに接続したときから、日数のカウントが始まるようです。そのため、筆者は1日プランを前々日に購入し、その場でダウンロードまで済ませておきました。あらかじめeSIMプロファイルをセットしておけば、直前にバタバタすることがなくなるため、いい仕組みと言えるでしょう。

 4日程度であれば普段契約しているキャリアの国際ローミングで済ます手もありますが、一般的な価格は1日あたり980円で、4日間だと3920円かかります。2台持ちだと7840円。これを5000円強に抑えられたのは、現地SIMならではと言えるかもしれません。日数が長ければ長いほど、その差は開いていきます。また、中には、国際ローミングのデータ通信に対応していないMVNOを利用している方もいるでしょう。

ドコモの「世界そのままギガ」は、複数日の契約で割引を受けられる。ただし、4日でも3280円。数百円差だが、現地SIMの方が割安だ

 このようなとき、事前に購入でき、日本で準備を済ませておけるeSIMは有効に活用できます。現地でSIMカードを購入するよりも手軽。大手3キャリアが横並びで旅行者向けにeSIMを提供し、かつ日本語のページを用意している国はほかにありません。その意味で、韓国は海外eSIMを初めて試してみるにも、うってつけの国と言えそうです。

石野 純也

慶應義塾大学卒業後、新卒で出版社の宝島社に入社。独立後はケータイジャーナリスト/ライターとして幅広い媒体で執筆、コメントなどを行なう。 ケータイ業界が主な取材テーマ。 Twitter:@june_ya