石野純也の「スマホとお金」

「0円廃止」で楽天モバイルが得られるメリットとこれからの成長を支える要素を分析する

 楽天モバイルで6月まで「Rakuten UN-LIMIT VI」を契約していたユーザーに対する移行措置の一部が、間もなく終了します。同社では、7月1日から1GB以下0円を廃した「UN-LIMIT VII」を導入。一部のユーザーにとっては“強制値上げ”になることから、7月、8月は1GB以下の場合、料金の1078円をキャッシュバックしています。このキャッシュバックに代わり、9月1日~10月30日までは、楽天ポイントでの還元になります。

 キャッシュバックは、使ったお金が戻るということで、ユーザーにとっては事実上、UN-LIMIT VIを継続しているのと同じでしたが、楽天ポイントでの還元となると話は別。楽天市場や楽天トラベルなど、楽天グループのサービスで利用できたり、楽天ペイを通じてリアルな店舗での決済に充当できたりと、キャッシュバックに近い側面はありますが、いったん楽天モバイルへの支払いが生じる点は大きな違いと言えるでしょう。

楽天モバイルがUN-LIMIT VIからのユーザーに取っていた移行措置が、9月1日からポイント還元に変更される。0円から実質0円に代わる節目のタイミングだ

 楽天ペイで普段の買い物に使えるなら、ポイントでもOKというのであれば、判断は先送りできますが、そうでない場合は、継続か解約かの判断を迫られます。特に、1GB以下0円を目当てに契約していたユーザーにとって、8月31日は大きな転換点になりそうです。UN-LIMIT VIIでは、楽天市場でのポイントを増量していることもあり、こうした点を加味する必要もあります。

発表直後から続出した解約、火に油を注いだ発言もあだに?

 ギリギリまで無料で使うというユーザーが多かった場合、8月31日は解約数がピークになる可能性もあります。実際、5月13日にUN-LIMIT VIIを発表して以降、楽天モバイルから離脱するユーザーが急増しました。同社のMNOは4月に500万回線を突破していたため、そこからのカウントで、6月30日までの純減は約23万にものぼります。伸び盛りの新規参入キャリアが5%弱のユーザーを1カ月強で減らすのは、過去に例がないことです。

決算補足資料から作成した、楽天モバイル(MNO)の契約者数推移。第2四半期で、初めて純減を記録したことが分かる。単位は100万回線

 楽天グループが決算説明会で公開した資料からは、解約数は発表直後に急激に伸び、その後、いったん落ち着いていることが見て取れます。これは、発表が金曜日で、その後の土日に解約した人が多かったことの表れです。その後も、散発的に解約数が増えていますが、これは土曜日や日曜日に該当します。

 携帯電話の手続きは、仕事や学校が休みになる土曜日や日曜日に行うためでしょう。現状では、4キャリアとも解約はオンラインででき、楽天モバイルも例外ではありません。また、eSIMを利用すれば、MNPで他社に移る場合でも手続きはオンラインだけで完結します。一方で、SIMカードの発行を伴ったり、端末の割引を利用してMNPをしようとした場合、店舗を訪れた方が利用までの手続きが速く、簡単です。こうした事情も、土日に解約が伸びる理由の一端と言えそうです。

解約者数の推移。発表直後から急増し、UN-LIMIT VI最終日の6月30日にピークを迎えている

 デコボコはありつつも、解約数は6月30日にピークを迎えています。この数値は、UN-LIMIT VIIが導入される直前に解約したユーザーが、いかに多かったかを物語っています。ただ、冒頭で述べたように、7月、8月は1GB以下のユーザーに対し、1078円のキャッシュバックが適用されています。事実上、既存のユーザーに対して2カ月間UN-LIMIT VIを延長したようなものですが、それでも解約数が膨れ上がってしまったのには正直、筆者も驚きました。

 実利重視なら、6月30日に解約する理由はまったくないからです。移行措置の間は、1GB以下に抑えれば料金は0円のまま。1GBを超えてしまっても、新旧プランで料金は変わりません。さらに、6月からは、UN-LIMIT VIIを先取りした楽天ポイントの最大2%増量も実施されていたため、契約したままでも金銭的なデメリットはまったくありませんでした。

7月分の料金明細。キャッシュバックが適用され、最初から0円になっていた

 それでも、ここまで解約数が伸びてしまったのは、感情的な動きが多かったからだと推察しています。分かりやすく言えば、「いきなり0円をやめるとはケシカラン」と思ったユーザーが多かったということ。朝令暮改で料金プランがコロコロ変わることに対して、信用できないと思ったユーザーもいたはずです。

 発表直後に楽天グループの三木谷浩史会長兼社長が放った「ぶっちゃけ困る」発言も、火に油を注ぐ形になった可能性があります。三木谷氏は8月の決算説明会でも「血を入れ替える」とコメント。言い方はさておき、消し炭になるまで燃えても、0円ユーザーを放出したい覚悟が伝わってきます。

なぜか0円ユーザーを挑発する三木谷氏。収益の重しになっていたいら立ちが伝わってくる

0円ユーザーを切り捨てて筋肉質な収益体制に、ARPU向上とコストカットを同時に実現

 とは言え、こうした発言から一歩距離を置き、損得を考えているユーザーも少なくはないでしょう。上記のように、8月31日までは1GB以下なら0円で利用できるからです。三木谷氏は、「(解約は)かなり落ち着いてきている」と語っていましたが、冷静に考えれば、8月いっぱいまでユーザーに解約するデメリットはなく、解約の波が落ち着くのは当然のことと言えます。

 解約したユーザー全員に直接話を聞いたわけではないため、何とも言えないところではありますが、冷静に料金プランの移行措置を分析している人が多ければ、そのぶん、8月31日の解約数が増えるはず。また、楽天ポイントの還元が終わる10月30日が、最後の大波になる可能性はありそうです。

 一方で、単に契約者数が減るだけなら、楽天モバイルにとって、短期的には大きな影響はありません。むしろ、 より収益性を上げやすい筋肉質の体質 になったと言えるでしょう。当たり前の話ですが、1円も払っていなかったユーザーがいくら辞めても、収入は減りようがないからです。また、無料で済ませていたユーザーが残れば、そのユーザーから11月以降は最低1078円を取れる計算になります。この2つの効果で、11月には1ユーザーからの平均収入である「ARPU(Average Revenue Per User)」は確実に上がります。

解約者の8割は料金を払っていないユーザーだった
実質0円終了後の9月以降は、ARPUの向上も見込めるという。ポイント還元が終われば、コストも圧縮できる

 分子であるユーザーからの収入は0円の廃止で上がり、0円だったユーザーの解約で分母も減るからです。これだけだと、単なる数字のマジックのようにも思えますが、0円のユーザーがいなくなることで削減できるコストも少なくありません。UN-LIMIT VIでは、1GB以下だろうが、そうでなかろうが、「Rakuten Link」の通話料0円や、楽天ポイントの還元率アップといった恩恵が受けられていました。

 そのため、データ使用量だけを抑えつつ、電話をかけまくっても料金は無料。楽天市場で買い物をすると、1%ぶんポイント還元率が増えていました。電話は、かける先が他キャリアの場合、アクセスチャージが発生し、最終的に着信側から楽天モバイルに請求が来ます。通常はそれも込みで通話料が設定されていますが、Rakuten Linkは無料のため、ユーザーから回収することは不可能です。ポイントも、0円のユーザーに発効すれば、そのぶんが持ち出しになります。

Rakuten Linkは通話料無料で提供されている。UN-LIMIT VIまでは、1円も払わず1GB以下のデータ通信ができ、かつ電話もかけ放題だったというわけだ

 KDDIのローミング網を使われたときにも、1GB以下だとコストは楽天モバイル側が完全に持ち出す形になります。ほかにも、ユーザーを管理するためのシステム料や、サポートの人件費などなど、1人のユーザーを維持するためにはさまざまな細々としたコストがかかります。これらは一般的なキャリアも同じですが、通話料無料やローミングのある楽天モバイルでは、それ以上に0円ユーザーへの大盤振る舞いをしていたと言えるでしょう。このコストを圧縮できる効果は大きいはずです。

0円ユーザーが減り、変わりつつあるユーザー層

 0円を廃止したことで、UN-LIMIT VII導入以降に加入するユーザーは、“お金を払う覚悟”を決めてきた人たちというのも、楽天モバイルには大きな意味があります。3GB以下の料金は1078円と、他社と比べて突出した安さはなく、新規で獲得できるユーザーは、多くが20GB超の3278円に魅力を感じていることが期待できるからです。実際、UN-LIMIT VII発表後に契約したユーザーは、発表前から契約していたユーザーと比べ、データ通信を20GB超使っていた割合が5.7%高いといいます。

メイン回線としての利用や、データ利用料が20GB以上のユーザーが増えている。料金を払う前提で契約したユーザーが多いためと見られる

 データ使用量が多いということは、すわなちサブ回線ではなく、メイン回線として使用しているということ。メインとサブの区分けをどうやって特定したのかがイマイチ分かりませんが、同じ資料では、発表後に契約したユーザーは、メイン回線として利用する割合が8.3%上がっています。結果として、20代~30代の割合も8.5%増え、データ使用量は増加傾向にあります。

データ使用量が多く、コストパフォーマンスに敏感な20代、30代のユーザーが8.5%も増えている

 メイン回線としての契約が増えれば、そのぶんオプションの契約が取れることも期待できます。三木谷氏には、15分の通話が無料になる「15分(標準)通話かけ放題」(1100円)などを挙げつつ、「オプションの販売が非常に好調」と語っていました。Rakuten Linkで通話が無料になるにも関わらず、このオプションが好調なのは不可解に思われるかもしれませんが、実際に使ってみると、やはりデータ通信回線での音声通話は品質に難があることが分かります。

 RCS(Rich Communication Service)という方式を使っているRakuten Linkですが、無線区間のQoS(Quality of Service)は保証されていないため、通信状況によって音質が大きく左右されてしまうのが難点。その点では、無線区間の帯域が確保されているVoLTEの音声通話の方が、安定しています。メイン回線として楽天モバイルを持ち、それなりに電話としても使うのであれば、オプションをつけたいと思う気持ちが強くなるのはある程度理解できます。

オプションの契約も好調だという。中でも15分の音声通話定額は人気が高い

 楽天グループは、楽天モバイルの単月黒字化を目指しており、その時期は以前から23年に「十分達成可能」(三木谷氏)としていました。実際、人口カバー率の拡大に伴って順次ローミングエリアを終了したことなどが奏功し、第2四半期(4月~6月)は、赤字幅が減少し始めています。この目標については、UN-LIMIT VII導入後も前倒しはされていません。裏を返せば、0円ユーザーが多い状態は、収益改善の足かせになっていたことが読み取れます。

 競争環境の変化に押される形で導入したUN-LIMIT VIでしたが、わずか1年半しか続かなかったことを踏まえると、無料でとどまるユーザーの数が、楽天モバイルが当初想定していたより多かったのかもしれません。厳しい見方をすれば、これまでの契約者数は同社の実力値以上に多い、ゲタをはいた数だったと言えるかもしれません。1年半、遠回りをしてしまったようにも見えますが、真の勝負はこれから。UN-LIMIT VIのキャッシュバックが終わる9月以降や、ポイント還元が終わる11月以降の動向を、注視しておく必要がありそうです。

石野 純也

慶應義塾大学卒業後、新卒で出版社の宝島社に入社。独立後はケータイジャーナリスト/ライターとして幅広い媒体で執筆、コメントなどを行なう。 ケータイ業界が主な取材テーマ。 Twitter:@june_ya