スタパ齋藤の「スタパトロニクスMobile」

THETA Z1を使って約3ヶ月、やっぱりTHETAは楽しいな♪

最新型THETA Z1も超楽しい、の、だが……

 今回のネタは、2019年5月24日に発売されたリコーの「RICOH THETA Z1」(https公式ページ)。シャッターボタン一押しでカメラ周囲の前後上下左右360°を撮影できる全天球カメラ、の最新型です。

リコーの「RICOH THETA Z1」。ワンショットでカメラ周囲の前後上下左右360°を撮影できる全天球カメラで、静止画・動画とも撮影できます。THETAシリーズ最上位機種で、コンシューマー向け全天球カメラとしては最大級の1.0型裏面照射型CMOSセンサーを2基搭載。静止画解像度はJPEGが最大6720×3360ピクセルでRAWが7296×3648ピクセル。動画は3840×1920ドット(4K解像度)/30fps。ひとつ前の機種「THETA V」から画質を向上させつつ静止画解像度を高めつつ、操作性のブラッシュアップも施されたという印象の機種になりました。

 最新型THETA Z1の実勢価格は11万円前後。前の機種のTHETA Vの実勢価格が4万5000円くらいなので、2倍以上高価な最新機種です。でも筆者はTHETAシリーズの大ファンなので、この最新型も予約購入。約3ヶ月半ほどポツリポツリと使ってきました。

 で、いきなり「コレは買いなのか?」について筆者的結論を書いてみますと、筆者のようなTHETA大ファンなら「買っても後悔しない」と思いますし、できるだけラク&なるべく高画質に全天球映像を撮影したいと考えた場合も後悔しないと思います。ですが、THETA大ファンとか、手軽さ&ある程度の高画質にお金を出せる(業務用途を想定している)人とか、でない場合は、買って使って「うーん……」という印象になりそうな気がします。「こういうコトができるのはTHETA Z1だけ」という美点は多いんですが、「全天球映像をキレイに撮りた〜い!」くらいの興味で買うと(って興味本位で11万円出す人は少ないと思いますが)、「うーんコスパ悪いし画質も大したことないな」となるような気がします。

 でもイイんですよコレ。筆者は業務目的ではありませんが、やっぱり手軽に全天球映像が撮れるのは楽しい♪ そして従来機から比べて画質的にかなり向上したTHETA Z1による全天球映像は超楽しい♪ RAW撮影対応だとか便利なプラグインが使えるというあたりもナイス。ユーザーによっては「サイコーの全天球イメージ撮影用コンパクトデジカメ」と喜べると思います。ともあれ以降、THETA Z1の機能や使用感についてレビューしてみたいと思います。

やる気が出てくる画質アップ

 最新型のTHETA Z1は、THETAシリーズとしては6代目となります。2013年に初代THETA(レビュー記事)が発売され、2014年に2代目のRICOH THETA m15(レビュー記事)、2015年に3代目RICOH THETA S(関連記事)、2016年に4代目RICOH THETA SC、2017年に5代目RICOH THETA Vと順に発売されて、2019年に最新型THETA Z1が発売されました。現在、メーカーの「RICOH THETA ラインナップの比較ページ」を経由すれば初代モデル以外を購入できます。

 さておき、2013年からほぼ毎年新機種が発売されてきたTHETAシリーズ。筆者は、SC以外のTHETAを全部買ってきましたが、最新機種Z1を使っていて非常にイイ感じなのはその画質です。正直、2015年発売のTHETA SあたりまでのTHETAは「おもちゃ画質」という印象でした。なんか昔のコンパクトデジカメみたいな印象。それが2017年発売のTHETA Vになるとグッと良くなりはしたんですが、でもまだ、デジタルカメラという目線で画質の善し悪しを云々できるレベルではなかったような気がします。

 同時に、THETA VまでのTHETAにはゴースト(レンズ内で繰り返し反射した光が像になって写る現象でTHETAでは赤い点になって現れることが多い)、フレア(強い光が入ったあたりが白っぽく濁る)、パープルフリンジ(ハイコントラストな明暗の境に生じる紫色の擬色)といった光学的な問題が出ることがありました。画質があまりよくなく、これら光学的な現象も起きやすいので、全体的に「なんか眠い写真」「細部が汚い」みたいな見え方になりがちでした。

 最新機種THETA Z1では、撮像素子が大型化して画素数自体も上がり、さらに光学系も一新されたため、こういった画質関連問題が大きく改善されました。率直な言い方をすれば「やっとデジカメと言える画質になった」という印象ではありますが、筆者的には「THETAなのにこんなに画質がイイし、レタッチに対する耐性も高い!」と喜べるレベル。

THETA Vで撮った写真。左写真では、太陽光の周辺が全体的に白っぽくなり(フレア)、左中央のように赤っぽい点(ゴースト)も発生しがちでした。360°カメラなので、日中の屋外だと多発してしまう現象でした。右写真の中央の枝の先がちょっと紫色がかっていますが、これがパープルフリンジです。
最新型THETA Z1で撮った写真。薄曇りで太陽が写ってはいませんが、フレアもゴーストもパープルフリンジもほぼ見られません。画像の質が根底から変わったという印象です。
左は最新型THETA Z1で撮ったままのJPEG画像で、右はそのJPEG画像を大胆にレタッチしたもの。ここまでハデに調整しても画質的に破綻しないので、THETA Z1のJPEG画像はレタッチ耐性が高いなあと思う筆者です。なお、THETA Z1はRAWファイルも保存でき、そのRAWファイルを現像すればさらに良好で情報量の多い写真となります。

 THETA Z1、画質イイ♪ レタッチもかなりイケる! 使っていて非常にやる気が出てくる全天球カメラです。

 ちなみに筆者はTHETA Z1で静止画ばかり撮っています。動画もたまに撮るんですが、今時的動画カメラとしてはTHETA Z1は手ぶれ補正の効きがイマイチ。ファームウェアアップデートやアプリのアップデートで効果が向上している手ぶれ補正ではありますが、まだマイルドな手ぶれ補正という感じで、今時的なアクションカメラにはかないません。全天球動画を撮りたい! と思う場合はジンバルより凄い手ぶれ補正性能が感じられる「GoPro Fusion」を使っちゃいます。

RAW現像は嬉しい……けど面倒!?

 ちょっと前述しましたが、THETA Z1はRAW(DNG)ファイル記録に対応しています(RAW+JPEGの同時記録)。そのRAWファイルを現像してJPEGやTIFFといった画像に変換できますが、変換後の画像を全天球画像へとコンバートできるプラグインも提供されています。

 具体的には「RICOH THETA Stitcher」というプラグインで、Mac用とWindows用があります。このプラグインはAdobe Photoshop Lightroom Classic CCから呼び出して使用可能。PC上でRAW現像〜全天球画像生成の作業を行えるというわけですね。

左はAdobe Photoshop Lightroom Classic CCでTHETA Z1のRAW(DNG)画像を読み込んだ様子。右は現像中の様子。THETAからPCへの画像転送の一手間がありますが、その後はLightroomで普通のデジカメのRAW現像を行うのと手順は同じです。ただ画像が丸いので見づらいは見づらいですが。ちなみにRAW現像とは、カメラが捉えた全ての情報を保持する元データ(RAWファイル)を自由に調整し、好みの色調や明暗階調などを表現できる処理方法です。JPEG画像を調整しても好みの色調・明暗階調などに近づけられますが、カメラが自動的に調整処理をして生成したJPEG画像は元データから多くの情報が失われているので、RAW現像ほど柔軟で幅広い調整は行えません。
RAW現像を終え、現像結果をファイルとして書き出している様子。書き出しの最後に、2つの丸い画像だったデータを、継ぎ目のない360°画像へと変換します。この段階で使われるのが、Adobe Photoshop Lightroom Classic CCから呼び出して使う外部アプリのRICOH THETA Stitcherです。RICOH THETA Stitcherの使い方は、ダウンロードしたアプリに付属するドキュメントに詳しく書かれています。
左は撮影したままの画像(RAW+JPEGで保存されたJPEG画像)。右はRAW現像後の画像。暗い部分を見やすくしたり、明るすぎる部分を適切な明るさに調節しています。

 全天球の映像には周囲360°全てを写し込めるわけですが、通常はどこかが暗過ぎたり明る過ぎたりします。360°全てをじっくり鑑賞できるのが全天球映像の大きな良さ。やはりどの部分もなるべくキレイに調整したくなるわけで、そこでRAW画像が扱えるとなると大変有り難いし実用的。THETA Z1がRAW対応であることは購入への大きな動機でした。

 ただ、現状ではPC上でAdobe Photoshop Lightroom Classic CCを使う必要があります。PCへの画像の転送も一手間。ちょっと面倒です。出先にてRAWで撮り、スマートデバイス上でRAW現像して360°画像へと変換できれば便利なんですが、今のところその方法がないのが残念です。

使い勝手が大幅に向上!

 最新型であるTHETA Z1は、従来のTHETAシリーズと比べて使い勝手も良くなったと感じられます。それが顕著に感じられるのは新搭載の表示パネル。電池残量・撮影可能枚数・撮影モードなどが表示される小さなディスプレイですが、これがあることでモード変更などの操作が非常にズムーズです。

THETA Z1のシャッターボタン側下部にある表示パネル。本体にこういったディスプレイが搭載されたのはシリーズ中THETA Z1が初めてです。操作ボタンは4つあり、表示パネルと併せて使いやすい。ちなみに従来機種では本体やボタンのLED点灯色などで状態を確認できましたが、使用感としては「やや戸惑う」という感じ。THETA Z1ではそういう小さな戸惑いがなくスムーズに操作・状態確認を行えます。

 ほか、ストラップホールが追加されたりしたのもイイ感じ。ボディが金属製でマット質感になり滑りにくくなったのと併せて、落としにくくなって安心感が高まりました。

 2本の専用アプリの使用感もまずまずです。ただ、撮影用の「RICOH THETA」アプリは少々のわかりにくさも。THETA Z1はけっこう多機能で高性能なので、その分、アプリ内の設定項目が多くて戸惑う部分があると思います。そのあたりは説明書をしっかり読み実際に撮影しつつ「覚えていく」という感じ。THETAに慣れている人ならともかく、普通のコンパクトデジカメ感覚ですぐ使いこなせるという雰囲気ではないように思います。

主に撮影時に使う「RICOH THETA」アプリの表示例。撮影自体は容易ですが、細かな機能を使いこなそうとするとある程度の慣れが必要です。撮影以外に、全天球イメージの閲覧や共有も行えます。
全天球イメージの編集を行える「THETA+」アプリの表示例。全天球の静止画・動画を自由に加工・編集することができます。全天球イメージ内にスタンプを貼ったり文字を書き込んだりすることも可能。画像編集後すぐに共有することもできます(RICOH THETAへ推移)。

 THETA Z1およびTHETA Vでは、プラグイン(公式ページ)を使った撮影ができるのも便利&愉快です。プラグインはリコー「PLUG-IN STORE」からダウンロードでき、プラグインをTHETAにインストールするにはPCが必要です。筆者は手軽に撮影者を隠せる「Time Shift Shooting」をよく使います。

THETA Z1には3本までのプラグインをインストールできます。インストールはPC経由で行いますが、インストール後はTHETA Z1本体もしくはRICOH THETAアプリからプラグインを起動して利用できます。

Post from RICOH THETA. -Spherical Image - RICOH THETA


Time Shift Shootingプラグインを使って撮った全天球静止画。THETAのフロントレンズとリアレンズを時間差で撮影することにより、撮影者を隠すことができます。撮影するレンズの反対側に撮影者が移動しての撮影を、フロントレンズとリアレンズで順に行うというわけです。

Post from RICOH THETA. -Spherical Image - RICOH THETA


「隠れられる物陰」を探すことなく、撮影者が写り込まない全天球写真が撮れて便利。

 THETA Z1を使っていてちょっと残念な点もあります。たとえば外部メモリーカードが使えないこと。約19GBの内蔵メモリーで、RAW+JPEGだと350枚くらいしか保存できません。「USB Data Transfer」プラグインを使えばUSBメモリーに画像を転送できるようですが、単純にmicroSDメモリーカードなどが使えれば有り難いなあ、と。

 電池の保ちもあまりよくありません。スマートフォンからライブビュー映像を確認して撮ることが多いのですが、撮り歩く時間が長いと電池がどんどん減る感覚。モバイルバッテリー必須ということが多いです。THETA Z1の下部に合体させられるグリップ状モバイルバッテリー的なものが発売されたりすると嬉しいです。

 便利な表示パネルですが、小さいので少々見にくく、情報量も少なめなのは残念。また、ボタンの長押し操作が多めなのもちょっと残念です。まあ、不満というほどでもないのですが。

 といった感じのTHETA Z1。総じて画質が良くなったのがイイですね。RAWファイル記録にも対応し、ようやくデジタルカメラ然として扱えるようになった感じです。

 考えてみると、以前のTHETAは「手軽に全天球イメージを撮れる」というおもしろみや実用性だけでもっていたような気がします。画質としては、情報量は十分あるものの「記録どまり」という印象でした。

 しかしTHETA Z1くらいの画質になると、巧く撮ってちゃんと現像すれば「写真表現」と言える品質に追い込める。ここが従来機との大きな差だと思います。以前のTHETAとくらべると「撮り甲斐があるTHETA」になったと思いますので、興味のある方はぜひチェックしてみてください。

スタパ齋藤

1964年8月28日デビュー。中学生時代にマイコン野郎と化し、高校時代にコンピュータ野郎と化し、大学時代にコンピュータゲーム野郎となって道を誤る。特技は太股の肉離れや乱文乱筆や電池の液漏れと20時間以上の連続睡眠の自称衝動買い技術者。収入のほとんどをカッコよいしサイバーだしナイスだしジョリーグッドなデバイスにつぎ込みつつライター稼業に勤しむ。