法林岳之の「週刊モバイルCATCH UP」
「ドコモ光」から見え隠れする各社の思惑
(2014/11/5 15:42)
10月31日、NTTドコモは2014年度上期(2014年4月~9月)の決算説明会を開催し、その説明の中で、かねてから話題になっていた固定回線とのセット割引「ドコモ光」を2015年2月からスタートすることを明らかにした。NTTグループによる固定回線とのセット割引については、今年、総務省が進める「競争政策見直し」の一環として、さまざまな議論がくり広げられてきたが、NTT東日本/NTT西日本から光回線の卸提供という形で事実上、認められる形となり、いよいよNTTドコモがサービス提供の方針を打ち出したことになる。今回の発表は、これからのモバイル業界にどんな影響をもたらすのだろうか。
「ドコモ光」が登場した背景
今年はモバイル業界にとって、大きな節目になる年だと言われている。例えば、料金サービスで言えば、国内音声通話が定額で利用できる料金プランが各社から発表され、通信技術も次世代となるLTE-Advancedへ向けて、キャリアアグリゲーションやVoLTEといった新しいサービスがスタートしている。MVNO各社の動きが活発化する一方、2015年春にはSIMロック解除という方向性が打ち出され、いくつかのメーカーからSIMロックフリー端末が一般のコンシューマー市場向けに販売が開始されている。今後、モバイル業界のビジネスが大きく転換するきっかけとなる一年になりそうだ。
そんな中、NTTドコモは10月31日に催した2014年度上期(2014年4月~9月)の決算説明会において、以前から話題となっていた固定回線とのセット割引「ドコモ光」を2015年2月からスタートすることを明らかにした。
ドコモ光はNTT東日本とNTT西日本から光回線の卸提供を受け、それをNTTドコモのサービスと組み合わせて提供するものということになる。モバイル業界的にわかりやすく書くと、NTTドコモがNTT東日本とNTT西日本の光回線を利用した「MVNO」のような存在になり、NTTドコモのブランドで光回線を利用した固定通信サービスも提供することになる。
こうした固定回線と携帯電話サービスをセットで提供するものとしては、KDDIと沖縄セルラーが、FTTH及びケーブルテレビの提携事業者と連携し、2012年3月から「auスマートバリュー」を提供している。ソフトバンクも、同時期からインターネット接続サービス「ホワイトBB」などとスマートフォンの組み合わせによる「スマホBB割」を提供している。なかでもauスマートバリューは、対象となる固定通信サービスがKDDIが関東エリアで提供する「auひかり」、沖縄セルラーが提供する「auひかりちゅら」だけでなく、中部テレコミュケーションの「コミュファ光」、ケイ・オプティコムの「eo光」、STNetの「Pikara」、エネルギア・コミュニケーションズの「メガ・エッグ」、九州通信ネットワークの「BBIQ」といった電力系通信事業者による通信サービスに加え、ジュピターテレコムが全国に展開するCATVサービス「J:COM」、全国各地のケーブルテレビ会社のサービスを組み合わせられるようにしており、サービスの種別や資本関係の垣根を越えての提携を実現したことが注目されると同時に、KDDIの好調な業績の原動力になったとも言われている。
こうした状況に対し、昨年来、総務省の情報通信審議会の「2020-ICT基盤政策特別部会」などで「競争政策見直し」が議論され、そこで浮上してきたのが「NTTドコモが他社のような固定回線とのセット割引が実現できないのは不公平ではないか」という指摘だ。
このあたりの流れは、過去の記事を参照していただけると分かりやすいが、簡単に言ってしまえば、いわゆるNTT法と電気通信事業法30条により、市場で一定のシェアを持つNTTドコモとNTT東日本/NTT西日本は、“一体的に営業できない”などの規制が設けられており、これまで固定回線と携帯電話回線のセット割引などが実現できない状況にあった。
しかし、KDDIやソフトバンクがこうしたセット割引を提供していることに加え、一連の規制が固定回線と携帯電話回線のサービスが明確に区別されていた時代のものであることなどから、規制を見直すべきではないかという議論がくり広げられてきたわけだ。
そして、10月8日に行われた情報通信審議会 2020-ICT基盤政策特別部会の基本政策委員会で、これまでの議論を元にした「2020年代に向けた情報通信政策の在り方 報告書(案)」がまとめられ、これを受ける形でNTT東日本/NTT西日本は10月16日に、光回線の卸提供する「『光コラボレーションモデル』の提供条件」を発表、その後に、今回のNTTドコモの「ドコモ光」の発表が行われたという流れになる。
ドコモ光はどんなサービスなのか
では、NTTドコモが提供する「ドコモ光」は、具体的にどんなサービスなのだろうか。今回の決算説明会では、名称やロゴ、サービス開始時期、料金プランの方向性が示されたのみで、それ以上の詳しい内容は説明されなかった。ただ、NTT東日本/NTT西日本が10月16日発表した「『光コラボレーションモデル』の提供条件等について」を見ると、その概要が見えてくる。
まず、今回提供される「ドコモ光」は、基本的にNTT東日本/NTT西日本が提供する「フレッツ光ネクスト」とほぼ同等のサービスになる。つまり、ユーザー宅に光回線を引き込み、ホームゲートウェイや回線終端装置を設置し、光サービス(インターネット接続)が利用できることになる。
NTT東日本/NTT西日本が示している提供条件によれば、インターネット接続サービスは卸提供の必須サービスになっており、任意選択として、「ひかり電話」や付加サービスも提供できるという。付加サービスには、光回線でテレビ放送の信号を伝送する「フレッツ・テレビ伝送サービス」も含まれる。NTT東日本/NTT西日本が自社のフレッツ光ネクストの付加サービスとして提供しながら、今回の光コラボレーションモデルで提供されない付加サービスについては、NTT東日本/NTT西日本から直接、ユーザー向けに提供される予定だ。
フレッツ光ネクストのサービスには利用する環境や通信速度などの違いにより、「フレッツ光ネクスト ファミリータイプ」や「フレッツ光ネクスト マンション・ハイスピードタイプ」など、いくつかのタイプがあり、NTT東日本のエリアでは新たに受信時最大1Gbpsの速度を実現する「フレッツ光ネクスト ギガファミリー・スマートタイプ」などの提供が開始されているが、これらも「光コラボレーションモデル」の提供対象サービスに含まれている。ただし、これらの利用環境や速度の違うメニューがドコモ光でどのように提供されるかは、まだ明確にアナウンスされていない。ちなみに、サービス提供エリアについては、基本的にNTT東日本/NTT西日本のフレッツ光ネクストと同じということになる。改めてドコモ光の光回線を全国に展開するわけではない。
また、料金についてはイメージが提示されただけだが、NTTドコモとしては携帯電話回線で契約する料金プラン(パケットパック)の容量(料金)に合わせ、ドコモ光の料金を割り引くような方向性を考えているようだ。
ちなみに、ISP(プロバイダー)については、NTTドコモ自身が提供するだけでなく、既存のフレッツ光ネクストのサービスを提供するISPも組み合わせられるようにするとしている。そのため、既存のフレッツ光を利用するユーザーがドコモ光を契約する場合は、既存のISP契約を活かしたまま、契約を移行できるとしている。NTT東日本/NTT西日本が提供するフレッツ光のサービスでは、契約ごとに契約IDが発行され、ひかり電話のサービスであれば、電話番号が割り当てられている。フレッツ光からドコモ光に乗り換えるときは、この契約IDと電話番号がそのまま転用できる見込みで、ユーザーとしては事実上、契約を変更するのみで、フレッツ光からドコモ光へ移行できるようだ。
ドコモ光で拡がる可能性
ところで、光コラボレーションモデルで提供される任意選択のサービスの内、もっとも重要なのは「ひかり電話」が提供されることだろう。
改めて説明するまでもないが、ひかり電話はNTT東日本/NTT西日本が光回線を使って提供する固定電話サービスで、従来の加入電話(アナログ回線)などの置き換えとして、提供されている。これをNTTドコモがドコモ光で提供するということは、NTTドコモが固定電話のサービスを提供するということを意味する。
このことはいろいろな見方ができるが、話を分かりやすくするために、ユーザー視点と業界視点で区分して考えてみよう。
まず、ユーザー視点で考えると、携帯電話サービスと固定電話サービスが一体で提供され、そこにはインターネット接続サービスも組み込まれているため、それぞれを連動させた新しいサービスが生まれてくる可能性が考えられる。これまでKDDIが「FMC(Fixed Mobile Covergence)」を謳い、主に法人向けなどに固定電話サービスと携帯電話サービスを連動させたソリューションを数多く提供してきたが、ドコモ光ではこれをコンシューマー向けに容易に提供できることになる。
例えば、自宅にかかってきた着信を携帯電話に転送する「ボイスワープ」のようなサービスをはじめ、外出先から自宅へのリモートアクセスや、家電製品の遠隔制御など、現在は複数のサービスや製品を組み合わせることで実現している利用スタイルをNTTドコモのみで提供できるわけだ。
一方、業界視点で考えると、1985年に電電公社の民営化によって生まれた日本電信電話株式会社から、1992年に携帯電話サービスやポケットベルサービスが譲渡される形でNTT移動通信網株式会社(現在のNTTドコモ)が設立されて以来の、大きな転換ということになる。
これまでNTTドコモは移動体通信の業務を担い、固定電話は1999年のNTT分割以降、東日本電信電話株式会社(NTT東日本)と西日本電信電話株式会社(NTT西日本)が東西に分けたそれぞれの地域を担当、NTTコミュニケーションズ株式会社が長距離及び国際を担当するという形で、明確に区分されてきた。それが、今後はNTTドコモが移動体通信から固定電話までをカバーできることになる。情報通信審議会で議論されてきたことなので、予想された状況ではあるが、NTTの歴史的な経緯を考えると、はたして本当にこれでいいのかどうかは疑問が残る。
入り乱れる各社の思惑
2013年の年末頃から話題になり始めたNTTドコモの「セット割引」については、情報通信審議会で議論が進む中、各通信事業者やCATV事業者は、さまざまな反応を示してきた。
当然のことながら、KDDIやソフトバンクなど、NTTグループ以外の事業者は、NTTドコモのセット割引に対して、反対の立場を取ってきた。なかでもKDDIの田中孝司代表取締役社長は「セット割引は脱法的行為」と批判し、今回、NTTドコモの決算説明会の直後に行われたKDDIの2014年度上期(4~9月)決算説明会でも「最低限、透明性を確保しないといけないのに、議論の最中に発表するのはいかがなものかというのが本音」と述べるなど、強く反発している。
KDDIがこうした反応を示すのは、今回のNTTドコモのセット割引がauが展開してきた「auスマートバリュー」に対抗する割引サービスであり、直接的な影響を受けるからだという指摘が多い。
確かに、NTTドコモのセット割引は、auスマートバリューと同じように、携帯電話サービスと固定サービスを結びつけたものだが、現実的に考えて、現在のMNPの状況などを踏まえると、セット割引を受けるため、契約する携帯電話会社を変更したり、光回線を乗り換えるといった動きをするユーザーは、全体から見れば、多くても数%程度と予想され、それほど大きな影響にはならなさそうだ。また、auスマートバリューはauの契約増に寄与しただけでなく、KDDIがかねてから目標に掲げてきた固定サービスの黒字化を実現することに貢献できたという側面があり、どちらかと言えば、固定通信サービスに影響が出ることを危惧しているのではないだろうか。
ちなみに、今年はMNP獲得競争のための激しいキャッシュバック合戦が問題視されたが、NTT東日本/NTT西日本のフレッツ光においては、家電量販店などで、携帯電話販売時のキャッシュバックを大きく上回る数万円台の販売奨励金を使って、光回線を販売してきた経緯もあり、今後の成り行き次第では今まで以上に激しい販売競争がくり広げられることになるかもしれない。
ドコモ光について、否定的な立場を取るKDDIに対し、これまでの立場から一転して、NTTドコモと同じ光コラボレーションモデルのサービスを即座に発表したのが、ソフトバンクモバイル及びソフトバンクBBだ。
11月4日に行われたソフトバンクの2015年3月期第2四半期決算説明会では「NTTの光回線を利用してサービスを提供することは、結果的にNTTに利することになるが、お客さんが求めているのだから、それに応えていくしかない」と、孫正義代表取締役社長が説明していたが、ソフトバンクはKDDIのように、個人宅向けの光回線を持っていないうえ、元々、NTT東日本/NTT西日本のアナログ回線を借りて、「Yahoo! BB」を提供してきた経緯もあり、光回線の卸提供を利用することで、同様の形態でサービスをしやすいため、いち早く発表したようだ。
同時に、ADSLサービスのYahoo! BBは漸減傾向が続いているうえ、グループ傘下になったワイモバイルも旧イー・アクセスのADSL回線を数多く抱えているため、確実にグループ内で移行できるサービスメニューを取り揃えておきたいという本音も見え隠れする。ただ、ライバルにあたるドコモ光の料金体系がどの程度に設定されるのかがわからないうえ、NTT東日本/NTT西日本の光コラボレーションモデルも発表されたばかりのため、今回は料金などの発表は見合わせている。
ソフトバンクの決算説明会の質疑応答では、ドコモ光について、「NTT東日本/NTT西日本は光回線で7割のシェアを持ち、NTTドコモも国内で最大シェアを持つ。両社の優位的な立場を利用することは法律でも禁じられているはずだが、今後、脱法行為がないかをみなさんとともに、注意深く監視したい」とコメントしており、自社がサービスを提供することとは切り離して、NTTグループの動向をチェックしていきたいという考えを明らかにした。
また、NTT東日本/NTT西日本による光回線の卸提供は、KDDIやソフトバンクなど、業界各社が主張してきたように、現時点でも、卸提供の内容などについて、透明性確保が議論されている真最中だ。にも関わらず、このタイミングでNTTドコモが発表したのは、2014年上期のNTTドコモの業績が芳しくなく、2014年度通期での営業利益の予測を下方修正しなければならなかった状況から、少しでも注目を逸したかったという意図がうかがえる。同時に、決算説明会で加藤薰代表取締役社長は「ウチは3位で、『ドベ』(最下位という意味の方言)ですから」とコメントし、笑いを誘ったが、ドコモ光という新しい取り組みを明らかにすることで、社内的にも対外的にもイメージの転換を狙おうとした思惑もあるようだ。かつてのNTTグループのやり方からすれば、できるだけ業界各社に突っ込まれないように、あまり波風を立てず、堅実に物事を進める印象だったが、今回のドコモ光然り、今年4月の新料金プラン然りで、かなり思い切って攻めてきている印象が残る。
そして、もうひとつ見逃せないのが光コラボレーションモデルで光回線の卸提供をするNTT東日本/NTT西日本の思惑だ。
NTT東日本/NTT西日本はこれまで、コンシューマ向けにFTTHサービスを展開してきたが、NTT東日本/NTT西日本を合わせて、フレッツ光の契約数は1800万、ひかり電話も1600万チャネルに留まっており、特にここ数年は契約数の増加スピードが鈍ってきている。一時はブロードバンドインターネットの本命サービスとして注目されたが、ADSL接続サービスに比べると、料金が高いうえ、モバイルWi-Fiルーターやスマートフォンのテザリングでインターネット接続を済ませるひとり暮らしのユーザーもいるため、思うように契約を伸ばすことができていないのが実状だ。
特に、携帯電話事業者と違い、NTT東日本/NTT西日本は通信サービスの販売のための実店舗を持っていないため(各地に支店は存在する)、家電量販店などでパソコン購入時に回線契約を結び、多額の販売奨励金でパソコンの購入費用などを割り引くといった売り方が中心となっている。
しかし、光コラボレーションモデルを提供することで、NTTドコモやソフトバンクに限らず、さまざまな事業者が『MVNO』ならぬ、『仮想光回線事業者』のような形でNTT東日本/NTT西日本の光回線を活用することになり、販促活動なども、各事業者自身が行なうため、ビジネスが展開しやすいという側面も持つ。今回の話題はNTTドコモのセット割引ばかりがクローズアップされてきたが、実は、NTT東日本/NTT西日本の光回線をいかに売っていくかが、NTTグループ全体としての隠れたミッションだったのではないだろうか。
こうしたNTTドコモ、ひいてはNTTグループ全体の、アグレッシブかつしたたかな姿勢は、やはり、電気通信事業の中心が大きく変わる時期に来ていることも関係しているだろう。
かつて、NTTグループの事業の中心と言えば、世帯や企業を代表する固定回線だったが、近年は一人ひとりが持つ携帯電話やスマートフォン、タブレットなどで利用する移動体通信が事業の中心になり、これを(インフラ面で)支えるものとして、光回線などのブロードバンドインターネットが存在するという構造に変わってきた。しかも今年発表された各社の新料金プランにより、音声通話は定額で利用できる携帯電話に置き換わりつつあり、いよいよ「固定回線はいらないかも?」という考えも生まれてきそうな気配だ。ただ、電波という限られた資源を広いエリアで多くのユーザーが共用する携帯電話サービスは、すべてのトラフィックを捌くことができず、自宅やオフィスなどではどうしてもブロードバンド回線などにオフロードする環境をきちんと整えていく必要がある。だからこそ、今回のドコモ光のように、固定回線のサービスと連携させる必要があり、連携によって生み出される新しいサービスによって、今までにない市場を創り出していこうと考えているのだろう。
NTTドコモのセット割引の是非
冒頭でも述べたように、、昨年来、総務省の情報通信審議会の「2020-ICT基盤政策特別部会」などで「競争政策見直し」が議論され、「NTTドコモのセット割引を認めないのは不公平だ」という意見などが出されてきた。今回、その具体的な結果として、NTT東日本/NTT西日本が光回線を卸提供する「光コラボレーションモデル」を発表し、NTTドコモはこれを使った「ドコモ光」の提供を開始することを明らかにした。
正直なところ、見切り発車のように動き出した印象はあるが、実際に光コラボレーションモデルの概要を基に、NTTドコモが提供するドコモ光の内容を考えてみると、いろいろな意味で、今後の通信業界に課題を残すような形になってしまった感は否めない。
例えば、セット割引の是非を問う議論では、「KDDIやソフトバンクが固定回線とのセット割引を提供しているのだから、NTTドコモとNTTグループにも認めることが公平だ」という意見が多く聞かれた。確かに、単純に国内の通信事業が主要3グループで提供されていることを考えれば、同じように提供できるようにすることはひとつの「公平」になるだろうが、KDDIやソフトバンクが主張してきたように、NTTグループは直接、もしくは間接的に国が株式を保有している会社であり、過去の経緯を考えると、素直に認められない部分がある。「多数の意見」という見方についても、極端な話をすれば、10人の携帯電話ユーザーがいれば、シェアをベースに考えると、5人はNTTドコモのユーザーなので、セット割引の恩恵を受けられる可能性がある5人は、喜んで今回の取り組みに賛成するだろう。
しかし、そういった多数決的な考えだけで、方向性を決めてしまっていいのかどうかは、疑問が残る。NTTグループは2015年4月に民営化から30年を迎えるが、NTTグループ側からは、これまでの期間に「他の事業者も十分に対抗する力を付けてきた」「十分な猶予の時間があったはずだ」という意見も聞かれた。それでも、NTTグループ各社は各分野において、相変わらず大きなシェアを持っている。
そして、何よりも今回のドコモ光の内容を見て、これでいいのかと考えてしまったのは、NTTドコモが光回線を利用したインターネット接続サービスだけでなく、「ひかり電話」を提供できることが挙げられるだろう。もちろん、これも情報通信審議会などで議論されてきたことなので、今さら改めて書くことではないのかもしれないが、これによって、NTTドコモは携帯電話から固定電話、インターネット接続サービス、コンテンツサービスなど、NTTグループで提供してきた主要なコンシューマー向けサービスをすべて提供できる環境が整ったことになる。もちろん、KDDIは電力系通信事業者のFTTHサービスで同様の環境を持っており、ソフトバンクもYahoo! BBなどで低価格のブロードバンドサービスを早くから提供してきたが、さすがにNTTドコモがこれだけのサービスメニューを取り揃えてしまうと、国内市場についてはちょっと誰も太刀打ちできない状況になってしまった感は否めない。これで、十分な競争環境を作ることができるのだろうか。
また、競争環境という視点では、昨今の総務省の取り組みに首を傾げる部分が多い。今回取り上げたドコモ光とは直接の関係はないため、ここでは詳しく触れないが、この十数年で、携帯電話サービスやBWAサービスのために、新しい周波数帯域を割り当てながら、結果的に既存の通信事業者が買収によって、周波数を含めて傘下に収めてしまったり、MVNOによる市場の活性化を謳いながら、同一事業者グループ内でのネットワークの貸し借りを中心にした事業展開を許したりするなど、本当に競争環境を構築しようとしているのかが疑問に感じられるようなことが続いている。
固定回線の環境についても、携帯電話サービスがこの十数年で料金が低廉化し、サービス内容が高度化しているにも関わらず、NTT東日本/NTT西日本の光回線はもっとも安いマンションタイプ(16契約以上)でも月額3350円以上、戸建てタイプは月額5700円と、あまり料金の低廉化が進んだ印象はない。もし、今回のNTT東日本/NTT西日本の光回線の卸提供で、光回線の寡占化が進んでしまうと、競争環境が一段と失われ、光回線の低価格化はさらに遠のいてしまうリスクもある。
前述のように、10人中5人のユーザーはドコモ光の恩恵を受けられるのかもしれないが、そういった多数決的な考え、あるいは目先の料金だけにとらわれず、本当の意味でどうすれば、ユーザーが安価で高品質なサービスを利用できるのかを、我々ユーザー自身も各社の思惑や事情を見極めつつ、しっかりと考えていく必要がありそうだ。