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2020年代には何が必要? ケイ・オプティコムやUQ、MVNOが語る

総務省でヒアリング第1弾

 8日、総務省で「2020-ICT基盤政策特別部会」の基本政策委員会、第3回会合が開催された。今回から3回に渡って、各通信事業者の意見を聞き取ることになっており、その結果が今後の議論に反映される。

 最初のヒアリングとなった今日、関西を地盤に通信サービスを展開するケイ・オプティコム、ISPでありMVNO(仮想移動体通信事業者、MNOとも呼ばれるドコモなどから回線を調達して提供)でもあるソネット、地方のADSL事業者が参画するDSL事業者協議会、MVNOの日本通信、そしてワイヤレスブロードバンドサービスを手がけるUQコミュニケーションズから意見が述べられた。本稿では、それぞれの主張を紹介しよう。

規制維持、さらなるモバイルの競争を求めるケイ・オプティコム

 関西電力子会社で、固定回線事業を主軸に、MVNOによるデータ通信サービス、そしてauスマートフォンとのセット割を提供するケイ・オプティコムでは、代表取締役社長の藤野隆雄氏が「2020年代には通信サービスの利活用がさらに拡がる」「自動車や家電、センサーなどさまざまな機器が繋がる」「災害時にも活用できるようになる」といったコンセプトを掲げる。ただし、こうした未来を実現するには、多様なサービス・料金が自由に選べること、SIMロックやAPNなどネットワークや端末の技術仕様がオープンになること、NTTに依存せずに他の事業者も通信設備を投資しつづけられる環境が整備されていることが必要だと指摘する。

 その上で「競争状況としてはNTTの存在は大きい。モバイル業界は3社に集約されて寡占になっており、大きな利益を挙げて、ありあまるキャッシュで固定市場を支配することも考えられ、電気通信事業全体が寡占化に向かう可能性がある」と危機感を表明。さらに一部で報じられた「NTT東西とドコモのセット割」が実現すると、NTTグループの独占回帰に繋がり、中長期的には通信サービス全体で、サービス内容や料金の硬直化が起こり得るとした。そこでMVNOを促進し、モバイル市場の競争をさらに促進させることが必要と説く。端末のオープン化が必要とも藤野氏は語り、携帯各社とMVNOが平等な立場になる環境を整備する必要性を説いた。

ソネット「SIMロック解除」「海外からの持ち込み端末への回線提供」など

 続いて説明を行った、ソネット代表取締役社長の石井隆一氏は、ISP事業に次いで、現在、MVNOによるLTEサービス、あるいはNTT東日本からシェアドアクセス方式で回線を調達してnuroブランドでサービスを展開できるようになったのは、法規制がうまく働いた結果とする。

 その上で2020年代に向けて、規制を含めた現行の制度・枠組みは維持されるべきで、なおかつ、固定・モバイルそれぞれの課題を解決すべく、新たな取り組みや規制が必要と指摘。たとえば固定通信では、接続料やその他の費用がさらに値下がりすることを促進する取り組みが必要であり、新たな技術を用いた設備などはスピーディに「第一種指定電気通信設備」に指定することなどを求めた。

 一方、モバイル通信分野では周波数割当の際、具体的な名指しはしなかったものの、同一グループで立候補があれば除外したり、MVNOに対してどの程度ネットワークを開放したりしたかレビューすることなどを要望。さらに独自のSIMカードを発行できるよう端末のSIMロックフリー化を推進すること、海外端末へSIMカードを提供できるようにするための環境作りも必要とする。さらに携帯各社に対して、卸では画一的な条件になってMVNO同士で差別化しづらいとして、MVNO各社ごとに違いを出せるような契約が可能になることも要望している。

 MVNOごとに特徴を打ち出せるようにする、という点では、質疑応答の場でソネット常務の菊地正郎氏があらためて説明し、「MVNOにとって、現在の競争環境は、MNOと自由に競争していけるかと言うと、まだまだ厳しいところがある。最低限の規制環境は維持し、サービス上での競争をするために、今後のIoT(モノのインターネット)、M2M(機器間通信)などで、さまざまな契約形態の自由度も検討しなければいけないのではないか」とした。

ブロードバンドのユニバ化を求めるDSL事業者協議会

 地方のDSLサービス事業者が加盟するというDSL事業者協議会は、三須久会長(関西ブロードバンド代表取締役)が「DSLはいわば田舎、とにかく田舎、地方は取り残されている。都市部を中心に考えるのではなく田舎の声を十分聞いて欲しい」とアピールする。

 DSLサービスを提供する上で欠かせない機器が、国内ではすでに生産が途絶え、6~7年後にはサービスに影響するとした三須氏は、遠隔での医療・介護など、地方こそICTサービスが欠かせないと説明。宅内向け光ファイバーであるFTTHを提供したくともコストが高く、代替にならないとする。このまま地方のDSLサービスが終焉に向かえば、そうした地域がデジタルデバイド(IT機器のリテラシー、情報量で差がつくこと)に陥るとの危惧を示して、光アクセス網をそうした地域に行き渡らすため、自治体を主体にして民間に補助金を供出し、ユニバーサルサービス制度をブロードバンドにも拡大すべき、と声を張り上げた。こうした主張は一見すると、かつての「光の道」論を想起させるものだが、設備の維持がチップセットメーカーの撤退などにより、現実的に難しくなって、サービス内容に影響が出ることはモバイル業界でも十分あり得るもの。地方のインフラ整備も固定・モバイルのどちらを活用する形を検討するなど今後の課題の1つが提起された格好だ。

 またNTTグループに対する政策については、見直しに反対するとした。

会計分離に触れた日本通信

 最近ではイオンでのスマートフォン販売にSIMカードを提供するMVNOの日本通信だが、三田聖二代表取締役社長は、欧米よりも5年以上、日本の環境は進んでおり、日本政府が10数年かけてMVNOを推進してきたと指摘する。

 続けて説明を行った同社代表取締役副社長の福田尚久氏は、2020年代を見据えて、MNO(携帯電話事業者)の設備部門とサービス部門の機能分離が必要と指摘。そして両部門を会計上、明確に分離することも求めている。将来的に提供し得るサービスとして、MVNOがA社のネットワークとB社のネットワークを借り受けて、両社のネットワークの空いているほう(安定しているほう)を使うマルチネットワーク接続や、現状の国際ローミングの仕組みを使わず、日本から持ち込んだSIMカードでも渡航先の料金で利用できるサービスなどを紹介。後者の「グローバルワンSIM(Global One SIM)」は2020年の東京五輪にも役立つとした。

 同氏は「過去18年間、さまざまな交渉に携わってきたが、数兆円の売上を持つ携帯各社と小規模な企業との間のように、民間同士だけで進めるのはたやすいことではない」とも語り、MNOへの規制やガイドラインを保ちつつ、MVNOによる競争促進を求めた。

UQ、NTTグループへの規制見直しに反対

 UQコミュニケーションズの野坂章雄代表取締役社長は、制度上、携帯電話とは異なるものとしてワイヤレスブロードバンドサービスを提供してきたことをあらためて紹介。MVNOにも積極的に取り組んできたMNOとしての立場にも触れる。

 今後の方向として、モバイル通信では、基地局をより小型化して、大量のトラフィック(通信量)をさばく仕組み作りが必要であり、その際には基地局のバックボーン回線として光回線が重要になると指摘。この説明は、本誌インタビューにおいてKDDIの田中孝司社長が語っていたものと同じ。2020年代に向けて、低廉な料金のサービスを提供するには、固定通信での競争促進が欠かせず、「固定、モバイルとブロードバンド市場全体が、NTTグループに席巻されることを恐れている」(野坂氏)として、NTTグループに対する規制が緩むことに反対する姿勢を示した。

「NTTだけセット割がないのは公正?」

 委員の1人である大谷和子氏(日本総合研究所 法務部長)は、MVNOがMNOをどういう基準で選んでいるか問うと、日本通信の福田氏は「ある意味シンプルで、ネットワーク品質と料金、そして技術面」と回答。日本通信が求めるレイヤー2接続は、これまでNTTドコモだけ提供しており、最近になってソフトバンクが接続約款を公表したものの、料金はドコモの3倍とのことで、「3倍の料金を払って借りるのは難しい」とする。また日本通信がMNOと紛争になりつつも、実現する環境については、同社だけではなく他のMVNOも利用できるようにすることで、新規のMVNOにとっては事業計画を立てやすくなり、競争の促進に繋がると語った。

 委員の舟田正之氏(立教大学名誉教授)は、NTTグループのみ固定とモバイルのセット割がないことについて、「禁止することが公平なのかどうかお聞きしたい」と質問を投げかける。これに対してケイ・オプティコムの藤野氏は「圧倒的シェアを持っているナンバーワン同士が組むと、2位以下は太刀打ちできず、競争が阻害される。もちろんこれからはモバイルと固定が融合する時代だが、そのためにはモバイル市場の活性化が必要であり、セット割以前に競争を促進して、(ドコモが1位という状況を)逆転すべきではないか」と回答する。またUQの野坂氏は「固定回線は一度契約すると、他社へ乗り換えることが非常に難しい。(セット割があれば)そこに引きずられる可能性が高い」として、NTTグループへの規制が取り払われるのは、現時点ではまだリスクが高いとする。

「競争の成果は?」と質問する委員も

 別の委員からは、「競争がユーザーにメリットをどう与えているのか見えてこない」と競争政策の効果を疑問視するような質問も挙がった。

 UQの野坂氏はワイヤレスブロードバンドの料金が3880円になったのは同社がリードした一面もあるとして、規模は小さくとも、現在の規制の枠組の中で明らかに競争が刺激される、と成果を強調する。

 日本通信の三田氏は、「イオンで発売されたスマートフォンは、MNOの料金の半分以下。これまでのところ、購入者の半分近くは、私に近いと言われるほどシニア層が夫婦で来て、初めてのスマートフォンとして購入し、孫からのメールや写真を見られるようになったと聞いている。MVNOは、携帯各社ができないこと、やりたくないことを付加価値として提供していく」と語り、MVNOの存在があるからこそ、ユーザーに新たな体験を提供できるとした。

 またケイ・オプティコムからは、全国平均のFTTH普及率は43%、近畿は48%であり、料金もキャンペーン価格でNTTやKDDIよりも安価なプランを提供してきたことから、「現状の規制の枠組があるからこそ、関西ではここまで競争が進んだ。それでもNTTグループのシェアは50%を超えている。まだ規制が必要だと思う」と現状に対する説明も行われた。

 平野祐子委員(主婦連合会社会部)は「あまりたくさん事業者が増えて、選択肢が増えると訳が分からない。これからの技術が発展することは喜ばしいが、同じようなものばかりで料金競争になると消費者としては選択しづらくなる」と述べる。多彩な通信サービス、料金プランを用意したとしても、リテラシーの壁が立ちふさがり、一定のユーザー層への配慮が必要なことを示唆した発言ともとれるが、これに日本通信の三田氏がセキュアで安心できる通信サービスを提供できるとして、ユーザーのニーズにあわせて対応していくとコメントしていた。

関口 聖