法林岳之の「週刊モバイルCATCH UP」

MPTと共にミャンマーのインフラを育むKDDI

 今年7月、KDDIはミャンマー連邦共和国における通信事業への参入を発表した。ミャンマーの国営郵便・電気通信事業体「MPT」との間で、KDDIと住友商事が共同で通信事業を行なうことを合意した。「アジア最後のフロンティア(開拓地)」とも呼ばれるミャンマーで、KDDIは何を目指し、どのように事業を展開しているのだろうか。現地での様子などを交えながら、その方向性をレポートしよう。

ヤンゴン国際空港の到着エリアに設置されたMPTのカウンター。旅行者はここでSIMカードを購入することが可能

ミャンマーという国

 読者のみなさんは「ミャンマー」と聞いて、どのようなイメージを持つだろうか。ミャンマー連邦共和国は中国の南のインドシナ半島にあり、タイや中国、バングラデシュなどと国境を接する国だ。筆者に近い年代の人であれば、「ビルマ」という名称の方がピンとくるかもしれないが、2010年以降、日本語での表記は「ミャンマー連邦共和国」「ミャンマー」に統一されている。

 ミャンマーはビルマ族が約7割を占める国家で、11世紀半ばにビルマ族によるパガン王朝と呼ばれる統一王朝が成立し、19世紀のイギリス統治時代を経て、20世紀半ばに独立している。20世紀後半は長く軍事政権時代が続いたため、国際関係はあまり活発なものではなかったが、2010年に民政移管が実現したことで、アジア各国や欧米諸国との関係が改善しはじめている。

 ミャンマーが「アジア最後のフロンティア(開拓地)」と呼ばれるのは、長い軍事政権や混乱の影響もあり、社会インフラなどがまだ十分に整備されておらず、人口も約5100万人(2014年9月)でありながら、若い世代が多く、同じ東南アジアの諸国に比べ、経済成長が見込めることが挙げられる。特に、2011年の民政移管を機に、制限されていた海外からの投資が解放され、日本や欧米諸国からの投資が活発化している。

 日本との関係については、戦後、いち早く平和条約を締結したこともあり、軍事政権時代も含め、長く友好的な関係を築いてきたと言われる。特に、近年は民主化や経済改革の方針に取り組み始めたことを受け、日本として、官民を挙げて支援する姿勢を打ち出している。ちなみに、ヤンゴンなどの都市部を走るクルマは、日本車が圧倒的に多く、その大半が日本で利用していたときの塗装やシールが残されたままの中古車が使われている。街中を走っていると、まるで日本に居るような気分になるくらいの多さだ。

 通信インフラについては、首都のネピドー、ヤンゴン、マンダレーといった主要都市においても光ファイバー網の整備が限定的なうえ、携帯電話の普及率が13%、固定電話が1%、ADSLなどのインターネット接続が0.1%という状況で、家庭の固定電話も呼出し電話などが併用されていたり、街中で時間を計りながら電話を借りて、料金を支払ったりといった使い方が存在する。ちなみに、シンガポールやタイ、ベトナム、マレーシアなど、周辺の東南アジア諸国の携帯電話普及率が軒並み100%前後であることを考えると、ミャンマーの通信インフラの整備はこれからというのが実状だ。

 こうした状況に対し、ミャンマー政府ではこれまで国営のMPT(Myanma Posts and Telecommunications)が独占的に提供してきた通信事業を解放する方針を打ち出し、2013年に通信事業者の免許オークションを実施した。英Vodafoneや日本のKDDIなどが免許オークションに参加した結果、ノルウェーの「Telenor(テレノール)」、カタールの「Ooredoo」が選ばれ、2014年から順次サービスを開始することになった。

KDDIと住友商事がMPTと共同で通信事業を運営

 2013年の免許オークションで落札できなかったKDDIだが、今年7月、住友商事と共に、MPTとの通信事業を共同で行なうことが発表された。一度は免許オークションで落札に失敗しながら、どうしてMPTと共同で事業を展開することになったのだろうか。

 これは携帯電話市場が外資に開放されることで、これまで国営企業として事業を展開してきたMPTが市場で遅れを取ってしまうことを懸念し、日本で最先端の携帯電話事業を提供するKDDI、ミャンマーで60年以上、さまざまな事業を展開してきた住友商事と組むことで、これらの新興勢力に対抗していこうと考えたという。ちなみに、MPTはかつての日本の郵政事業と電電公社を合わせたような位置付けで、通信、郵便、電報の事業を展開しており、KDDIと住友商事の共同事業では通信事業を担当し、その売り上げはジョイントオペレーションが受け、分配する形を取る。

 携帯電話の普及率が13%というミャンマーに、モバイル先進国である日本のKDDIが共同事業に参加するのだから、端から見れば、事業的にも技術的にも容易な取り組みだろうと考えてしまいそうだが、実状はそんなに生易しいものではないようだ。

 KDDIからKSGM(KDDI Summit Global Myanmar)に出向し、現地でネットワークを担当する中村正人氏と小野健一氏に話をうかがったが、当初、MPTが設置してきた基地局は、比較的新しい設備を採用しながら、きちんとした施工やメインテナンスがされておらず、バックアップ電源などがまともに動いていないときもあったという。

 たとえば、基地局の設備が機能を持っていながら、それがまったく使われていなかったり、基地局の鉄塔の上に付けられたアンテナも傾斜が付けられておらず、スタッフが鉄塔に登って、手動で調整していたそうだ。ちなみに、国内の一般的な基地局のアンテナは、多くの場合、リモートで傾斜の調整ができるようになっている。

Huaweiの基地局設備。比較的、新しいものが作用されている。このほかに、ZTEの設備も設置されていた。
ヤンゴン市内の基地局のアンテナが設置された鉄塔。ときには現地スタッフが鉄塔に登り、調整することもあるという。
比較的、きちんとしたと言われる基地局でも配線などはこの状態。街中では街路樹の枝伝いに光ファイバーが配線されていることもある。

 また、ミャンマーは全国的に電力が不足しているうえ、5~10月は雨期ということもあり、共同事業の開始当初はなかなか思うように基地局の整備や工事などができなかったという。日本のように、ビルの屋上に新しい基地局を設置し、エリアを拡げるという手法も試みているが、ビルによっては建物の強度計算書がなかったり、MPTの基地局の真後ろに他事業者が基地局を建ててしまい、干渉を起こすなど、日本の常識では考えられないような事案も起きているという。さらに、急速な経済成長が見込まれていることもあり、地価が高騰しており、ミャンマーの関係者の間では「不動産が高いのは、ロンドン、香港、ヤンゴン」というジョークが聞かれるほどだ。

電源事情があまり良くないため、ヤンゴン市内の多くのビルの前には、こうした発電機が設置されている。

 こうしたネットワークの品質改善は、もっとも重要な課題として、真っ先に取り組まれてきたが、その背景にはネットワークの品質を向上させなければ、携帯電話サービスの展開そのものが難しい状況にあることが挙げられる。ミャンマーの携帯電話サービスはプリペイドとポストペイドがあるが、現在、ポストペイドは受付を停止中で、MPTの事業としてはプリペイドSIMカードの販売が中心になる。ただ、ネットワーク容量に余裕がないため、以前は広くサービスを享受できるように、各地区ごとに割り当てを決め、抽選でSIMカードが販売されていたという。その結果、元々、150円で購入できるSIMカードが1万円以上、ときには10万円超で取引されるというブラックマーケットができあがってしまったそうだ。

 そこで、まずは十分なネットワーク容量を確保し、輻輳などをなくすなど、品質向上に取り組むことを掲げ、その上で、ネットワーク容量に応じた枚数のSIMカードを計画的に販売する方法を採っているという。共同での事業開始からまだ半年程度だが、地道なネットワーク設備の改善により、9月からは、SIMカードの枚数こそ制限されているものの、通常販売に戻し、現在は月に100万枚を売ることもあるという。

街中ではSIMカードが机の上に載せられて、販売されている。これらはおそらく正規販売から転売されたもの。

 一方、今年、新規参入したOoredooやTelenorはどうなのだろうか。8月にサービスを開始したOoredooは、初の外資系ということもあり、サービス開始前から期待が高く、当初はかなりアグレッシブにSIMカードを販売したという。ところが、十分なカバレッジが確保できていないうえ、ネットワークの容量も不足していたため、場所や時間帯によって、つながらないことが増え、結果的にマイナスイメージがつき、SIMカードの価格も安くなってしまっているそうだ。

 続いて、9月にマンダレーでサービスを開始したTelenorは、Ooredooの失敗を見て、あらかじめ十分なエリアを作り、SIMカードの数もコントロールしながらサービスを提供し、10月からはヤンゴンでもサービスをスタートさせたが、やはり、ネットワークの容量が不足することがあり、一時的に販売を停止するなど、ネットワークの状況を見ながら、SIMカードの出荷をコントロールしているそうだ。

 いずれの事業者にとってもプリペイドSIMカードの販売は、まだネットワーク容量やエリア展開を見ながら取り組んでいかなければならない状況で、MPTとしては「強いネットワークを作るんだ」という意識を持って、日々、ネットワークの改善に取り組んでいるという。

「官」であるがゆえの難しさ

 前述のように、今回、KDDIと住友商事が共同で事業を展開しているのは、MPTというミャンマー政府の組織だ。そのため、当初はマーケティングや営業という意識がほとんどなく、共同事業のスタートを機に、これらを担当する部門ができたという。

 KSGMがネットワークの品質改善と並行する形で取り組んだのがMPTのマーケティングと営業体制の構築だ。MPTという組織そのものは、古くから電話や電報、郵便などのサービスを提供してきたため、日本で言えば、NTTと同じで、国民のブランド認知度はかなり高い。ただ、KSGMとの共同事業をスタートさせるにあたり、従来の旧態依然とした姿勢を改め、MPTが新たに生まれ変わったことをアピールするため、9月終わりからロゴを刷新している。アルファベットの「Q」に似たロゴは、ミャンマーの国土の形を模したもので、ロゴを構成する黄色はミャンマーを表わすゴールデンカントリー、ブルーは古くからMPTのカラーとして使われてきたものを組み合わせたデザインとなっており、顧客となる国民はもちろん、MPT内の職員にも非常に好評だという。同時に、「Moving MPT Forward」というキャッチコピーも決め、その言葉通り、ミャンマーを前進(発展)させていこうという積極的な姿勢を打ち出している。

日本とミャンマーの外交関係樹立60周年を記念して開催された「ジャパン・ミャンマー・プエドー(日本・ミャンマー祭)」にはKDDIと住友商事がMPTと共に出展。
ピンポンを使ったゲームで、当たりが出ると、1万kyat(1000円)のTop-Upカードがプレゼントされる。

 こうしたマーケティングの取り組みは、単に国民へのアピールだけでなく、MPT内部の意識改革を促そうとする考えもあるようだ。やはり、どうしても「官」として、事業を運営してきたこともあり、なかなかKDDIや住友商事のような民業としての考えが浸透しないケースも多々あったという。

 ロゴの刷新に続き、着手したのが販売チャネルの整備だ。これまでMPTは独占的に通信事業を提供し、SIMカードを販売してきたので、そもそも明確な販売チャネルを持っておらず、これを構築することになった。販売するものとしては、プリペイドSIMカードと残高をチャージするTop-Upカードになる。SIMカードについては、前述のように、元々、抽選販売の形を取っていたが、現在は複数の代理店と契約し、順次、販売方法を切り替えてきている。Top-Upカードはこれまでも代理店経由で販売してきたため、同じように販売しているが、従来の代理店をそのまま継承するのではなく、それぞれの代理店をきちんと評価したうえで、必要に応じて、新旧を入れ替えているそうだ。

 また、販売店の中でも旗艦店のような存在として、ヤンゴン中央郵便局内にMPTカウンターをオープンし、SIMカードを販売しており、ここではMPT職員が対応している。言わば、「官」の立場に居た職員が「民」の立場で販売する現場を経験しているというわけだ。オープン初日は200人近くが押し寄せ、長い行列ができたそうだ。

 ちなみに、MPTで販売しているのは、プリペイドSIMカードとTop-Upカードのみで、日本のような端末と回線契約のセット販売は行なっていない。端末はSIMロックフリーのものが流通しており、街中ではサムスンやHuawei、ソニー、LGエレクトロニクスなどのブランドをよく見かける。また、かなり高価なようだが、iPhoneを使う人もいる。

 MPTではトライアルとして、GALAXY Note 4とSIMカードをセットで販売したことがあったが、将来的にそういった販売方法がビジネスとして成立するかどうかはまだわからない状況にある。特に、現在は停止しているポストペイド契約の再開は、そもそも銀行口座を持っている人が少なく、コンビニエスストア払いのようなしくみもないため、支払い方法をどうするかが課題となっている。窓口での支払いも受け付けているが、月末には支払いのための行列ができてしまう状況で、とても対応できる状態ではないという。

ヤンゴン中央郵便局の建物。ビクトリア建築様式の古い建物で、独特の雰囲気を持つ。
ヤンゴン中央郵便局内に設置されたMPTのカウンター。当日は日曜日だったため、閉まっていた。
BlueOcean社に設置されたMPTのサポート窓口では、顧客からの問い合わせに応じている。

 ところで、こうした“政府側の事業者”としての立場は、これまで日本国内でKDDIが対峙してきたNTTグループと同じ立ち位置になるが、KSGMとしては儲かるところだけでなく、儲からないところもやらなければならないなど、「官」としての立場の難しさもあるという。

 他事業者との競争においても政府側の事業者であるという立場を踏まえ、料金も周辺国のように競争を煽りすぎないように展開し、分別のある競争環境を目指している。まだ十分に携帯電話が普及しておらず、ネットワークも日々改善が進んでいるようなミャンマーにおいて、過度の競争を仕掛けてしまうと、結果的に通信事業者が弱体化し、結果的にミャンマーの通信自由化が失敗してしまうリスクもある。適切な競争環境を維持しつつ、エリアやサービスなど、総合的な通信サービスのクオリティを高める方向を目指しているそうだ。こうした取り組みの姿勢は、NTTグループと対峙してきたKDDIだからこそ、取れるものと言えるのかもしれない。

ミャンマーのモバイル事情&IT事情

 OoredooとTelenorが参入し、MPTがKSGMと共に事業を携帯電話サービスを展開し始めたミャンマーだが、実際にミャンマーの人たちはどのように利用しているのだろうか。

 ここまで説明してきたように、ミャンマーのインフラは日本はもちろん、周辺の東南アジア諸国と比べてもかなり遅れている印象は否めない。特に、不安定な電力事情は深刻で、ヤンゴン市内の多くのビルの前には自前の発電機を置かれ、停電に備えているくらいだ。とは言うものの、ミャンマーの人々がテクノロジーに対して、疎遠なのかというと、そうでもなく、実は新しい物好きで、ヤンゴンなどの都市部では多くの人がスマートフォンを利用している。

 ヤンゴン在住でミャンマー人の若い女性に話を聞いたところ、周囲ではスマートフォンとフィーチャーフォンを持ち、インターネットはスマートフォンで楽しみ、音声通話は通話料の安いTelenorやOoredooのフィーチャーフォンを使い分けているという。ただ、スマートフォンは高価なため、購入できる機種が限られていて、裕福な人はiPhoneやGALAXY Noteといったハイエンドモデルを買っているが、多くの人はHuaweiなどの10万~20万kyat(チャット、日本円で1万~2万円)などのスマートフォンを購入している。もっとも安いフィーチャーフォンは、それ以下の値段で購入できるそうだ。ちなみに、MPTの音声通話は1分50kyat(5円)だが、他事業者はおよそ半額程度に抑えられているため、都市部ではこうした二台持ちのユーザーが増えてきているという。

 MPTが販売するプリペイドSIMカードは1500kyat(150円)で、これに1万kyat(1000円)をチャージすると、モバイルデータ通信が利用できる。モバイルのネットワークは3G(UMTS)/GSM/CDMAなので、3Gエリア内であれば、受信時に1~2Mbps程度のパフォーマンスが得られる。

ヤンゴン市内のショップでMPTのSIMカードとTop-Upカードを購入。
携帯電話ショップにはHuaweiやソニーなどが並ぶ。サムスンやLGエレクトロニクスなども多い。
ヤンゴン市内の携帯電話ショップ。左にMPTのPOP。その上がTelenor、中央の紅白の旗がOoredooのPOP。中央上の青い丸が従来のMPTのロゴを使ったPOP。
ミャンマーの女性の持つGALAXY Note。背面カバーはいくつも持ち、気分で取り替えている

 ユニークなのが課金体系で、他事業者がデータ通信量で課金しているのに対し、MPTのプランでは3G接続時のモバイルデータ通信が1分4kyat(0.4円)という時間課金を採用している。時間課金では使いにくいのではないかと思ったが、ミャンマーの人々には時間課金が好評だという。これはスマートフォンを利用する場合、データ通信量での課金ではバックグラウンドで通信をするため、ユーザーが気が付かない内に、プリペイドのチャージを使い切ってしまうのに対し、時間課金は使いはじめるときと使い終わるときにモバイルデータ通信をON/OFFするため、ムダに使ってしまうことがないという考えのようだ。

 ちなみに、この1分4kyatという料金は、単純に計算すると、1時間で240kyat(24円)、24時間で5760kyat(576円)になるため、日本の旅行者が3~4日程度、滞在するのであれば、わざわざON/OFFをくり返さなくても使えそうだ。また、Wi-Fi環境もある程度、普及していて、街中のカフェやレストランなどでもWi-Fiが利用できるところが多い。

 ミャンマーが民政移管を実現し、海外からの投資が活発化し始めたことで、ミャンマーへの進出を検討する日本企業も増え始めている。そんな日本企業をサポートするべく、KDDIは2年前にKDDIミャンマーを設立し、KDDIビジネスセンターの事業をスタートさせている。このビジネスセンターはミャンマー進出のスタート拠点として活用されており、現在は月額1200~3700ドルまでの25室ある部屋がすべて埋まっているという。

 ただ、KDDIビジネスセンターは単なる不動産業としての取り組みではなく、ミャンマー特有の通信事情を考慮したビジネスとして展開されている。というのもミャンマーは通信インフラが十分ではないため、ヤンゴン市内などでオフィスを借りる場合、新たに光ファイバーを敷設しなければならない。しかもお国柄なのか、光ファイバーそのものも契約者が指定業者から購入しなければならない取引になっており、途中区間の電柱もユーザーが設置しなければならないなど、敷設までの期間がかなりかかってしまう。これに対し、KDDIビジネスセンターはあらかじめ30Mbpsのインターネット回線が引かれており、発電機なども備わっているため、スムーズに拠点を開設できるようになっている。

MPTとKSGMが切り開くミャンマーのモバイルに期待

 日本で各携帯電話会社のサービスを利用していると、あまり意識しないかもしれないが、日本のモバイルネットワークは世界に比べ、非常に高品質で安定して利用できる環境が整っている。海外出張から帰国し、空港で日本の携帯電話事業者のネットワークに接続すると、その速さと安定した環境を再認識することが多い。

 そんな日本のモバイルネットワークを構築してきたKDDIがKSGMという共同事業を通じ、MPTと共にミャンマーの新しい時代の通信インフラを構築しようとしている。ミャンマー政府は携帯電話の普及率を2015年までに50%、2016年までに80%まで高めようという目標を掲げており、その実現のために、今後5年以内にエリアカバー率を70%にすることを目指しているという。ミャンマーは日本の国土の約1.8倍の広さがあるため、日本の国土の約1.3倍に相当するエリアを5年でカバーしなければならない計算だ。これは並々ならぬ目標が課せられていることになる。

 ただ、今回、KSGMで陣頭指揮を採るManaging Directorの長島孝志氏をはじめ、マーケティング担当の重野卓氏、CS担当の鹿目敦氏、基地局の運用を担当する井上義孝氏、KDDIミャンマーの増田正彦氏らに話をうかがったが、その誰もが厳しい環境ながらもさまざまな問題を解決するべく、生き生きと取り組んでいた表情がとても印象的だった。

KSGMで全体を統括するKSGMの長島孝志氏
ミャンマーでの法人のICT環境の難しさを語るKDDIミャンマーの増田正彦氏
KSGMでマーケティングと営業部門を担当する重野卓氏

 ちなみに、長島氏と重野氏はかつてフィーチャーフォン全盛の時代に、auのコンシューマープロダクトの部門を担当しており、記者発表などでも対応していただいていたが、「当時より、顔色が良くなったのでは?」という問いかけに、「いやいや……」と笑いながら答えていた。おそらく、日本でのビジネスとはテイストが違うが、日本では味わえない楽しさや意義、やりがいを感じ取り、それが日々の表情に表われているのかもしれない。

 また、今回、お話をうかがった関係者の内の数人は、ミャンマーの人々が日常的に身に着けている「ロンジー」と呼ばれる巻きスカートのような民族衣装を身に着け、いっしょにビジネスに取り組んでいた。「郷に入っては郷に従え」とも言うが、単純に日本で得られたノウハウを持ち込んでビジネスをするのではなく、ミャンマーの人々に融け込みながら、いっしょにミャンマーのモバイルを改善すべく、取り組んでいるようだ。

 多くの関係者が「ミャンマーはわずか数カ月で様子が変わってしまうほど、動きが激しい」と口を揃えていたが、MPTとKSGMが切り開くミャンマーのモバイル環境をまた半年後、1年後などのタイミングで、チェックしてみたい。

法林岳之

1963年神奈川県出身。携帯電話をはじめ、パソコン関連の解説記事や製品試用レポートなどを執筆。「できるWindows 8.1」「できるポケット docomo AQUOS PHONE ZETA SH-06E スマートに使いこなす基本&活用ワザ 150」「できるポケット+ GALAXY Note 3 SC-01F」「できるポケット docomo iPhone 5s/5c 基本&活用ワザ 完全ガイド」「できるポケット au iPhone 5s/5c 基本&活用ワザ 完全ガイド」「できるポケット+ G2 L-01F」(インプレスジャパン)など、著書も多数。ホームページはこちらImpress Watch Videoで「法林岳之のケータイしようぜ!!」も配信中。