インタビュー

総務省が進める「競争政策見直し」とは何か

総務省が進める「競争政策見直し」とは何か

イー・アクセス大橋氏「骨太の議論を」、対NTTは足並み揃えて

 総務省でスタートした「2020-ICT基盤政策特別部会」は、2020年代を見据えて、通信業界の在り方を見直して、世界トップレベルの環境作りを目指している。4月に入って、いよいよ各通信事業者へのヒアリングが始まる。

 本誌ではここまで3大キャリアに取材し、その主張を紹介してきたが、ざっくり振り返ると「規制撤廃を求めるドコモ」に対して「その主張に反対するKDDIとソフトバンク」という形。今回は、6月にヤフー傘下となるイー・アクセス(イー・モバイル)の大橋功企画部長に話を聞いた。

 大橋氏からは、KDDIやソフトバンクと同じく、NTTグループの規制緩和に反対する意向が示されたほか、データ通信事業を主軸として2007年に新規参入し、モバイルブロードバンドを牽引してきたイー・モバイルとしての自負が語られた。一方、特別部会を通じた新たな議論の提起については、イー・モバイルとウィルコムの統合およびヤフーの買収によるY!mobile(ワイモバイル)のサービス開始が6月ということで、4月に行われる見込みの総務省でのヒアリングでは、新生のY!mobileが目指す具体的なサービス像が示されないことになる。今回の取材でも、将来の基軸がまだ未定とあって、NTTグループへの反論以外では、大きな主張は控えた印象だ。

多様性を重視すべき

 現在、イー・アクセスとしての主張の1つが、多様性を実現し、事業者の継続を目指した政策であるべき、というもの。競争政策にまつわる議論が大手事業者を中心に据えたものになりがちになるが、中小規模の事業者を活かす視点も必要とする。一部報道で上がった「ドコモとNTT東西のセット割」は、最大手のNTTグループを強化する施策であり、仮に実現できるような環境になれば、固定通信とモバイルともに寡占がさらに進むとの危惧を示す。

 今はソフトバンク傘下だが、新規参入としてモバイルサービスを開始したイー・アクセスでは、参入当時から大手といかに競争していくか、知恵を絞ってきたものの、そこに競争政策の議論でフォーカスがあたることはなかった、と大橋氏は語る。大手ばかりの議論ではなく、中小規模、あるいはMVNOの視点を重視した議論が必要との訴えだ。

禁止行為にはポジティブリストで

 NTTドコモが求める事前規制の撤廃にも、KDDIやソフトバンクと同じく反対する構え。主張してはKDDIと同じく、「ここまではやっていい」と明確にする、“ポジティブリスト”の策定があり得る、とした。

電気通信事業法第30条 第3項で定められている禁止行為

  • 他社設備との接続で知り得た他社の情報を(営業活動など)目的外に使ったり、提供すること。
  • 特定の電気通信事業者を不当に優先的な扱いをして利益を与えたり、逆に不当に不利な扱いをして不利益を与えないこと。
  • 販売代理店やメーカー、コンテンツプロバイダーなどに対して、不当に干渉したり、縛りをかけたりすること。

 「規制があるから事業でできないことがある、というドコモの主張だが、そもそも1999年に規制のある持株体制を選んだのはNTTグループ自身」(大橋氏)

 大橋氏は、最大手のドコモのシェアが低下するのは、競争が進展する上で当然のことであり、それだけで規制緩和に繋げるのは時期尚早とする。欧米では、かつて国営だった通信事業者のモバイル部門は、現在、35%前後のシェアとなり、約45%のシェア(携帯市場のみ、2013年3月時点)のドコモとはまだ10%も差がある点も、KDDIやソフトバンクと同じく、規制緩和にはまだ早いとする論拠の1つだ。

 逆に言えば、規制緩和・撤廃を行うのであれば、NTTグループの在り方にも見直しが入るべきか、という質問に、大橋氏は「再編をしろというところまでは言わないが、今のNTTグループの在り方については、NTT法や活用業務(NTT東西が)1つ1つ整理していくべき」とした。

新規参入の厳しさ

 数年前と比べ、その存在感が一気に国内でも高まったアップルやグーグル、Facebook、Amazonといった企業。こうした事業者は、インフラの上でサービスを展開する「OTT(Over TheTop)」と呼ばれ、大手は端末も提供する。

 OTTとの協力、そして競争という観点からもドコモは規制の撤廃を主張しているが、KDDIやソフトバンクからは、こうしたOTTの存在を踏まえた主張はない。大橋氏も今の時点では、OTTに対する主張には踏み込んでいない。ただ、他社と比べ、データ通信を主軸してきたイー・モバイルは、いわば“土管化”が進んだキャリアと言える。2007年からこうした状態で事業を展開してきたことを問われた大橋氏は、なかなか大手キャリアにキャッチアップできなかったのは厳しかったと振り返る。

「エリア、基地局の密度、1.7GHz帯という当時は国際的に使われていなかった周波数帯などは苦労した部分。たとえば基地局を設定してエリアを広げても、他社も整備を進めており、ドコモなどと同じエリアを構築できるのかというと厳しい」

 現時点ではまだ未定だが、ヤフー傘下のY!mobileとしては、独自性のあるサービスを展開することで、他社との差別化を図り、新たな分野の開拓を図りたいと意気込む。

最も高速なサービスをアピールするキャリアはどこ?

 今回の取材で、NTTドコモでは、PHSやBWA(無線ブロードバンド)も含め、各社グループで周波数の保有状況を示し、ウィルコムやイー・アクセスを含めたソフトバンクグループが最も周波数が多い、としている。

 これに対して大橋氏は、各社の広告の中で最も高速な150Mbpsを打ち出しているのはドコモと指摘する。

 現在のLTE方式では、より高速なサービスを提供するには、ひとかたまりの周波数帯をより多く使うことになる。ドコモの150Mbpsのサービスは20MHz幅が必要で、それだけの周波数を確保していることになる。こうした点から大橋氏は「ドコモはある時期のスナップショットしか見ていない」と述べ、ドコモの主張に異議を唱える。なお、LTE方式では次世代の技術(LTE-Advanced)で、異なる周波数帯をまとめて使うことで、より高速になる技術(キャリアアグリゲーション)が導入されることもあり、2020年代を見据えて、両社のさらなる議論が期待されるところだ。

「ソフトバンクとの一体では?」

 周波数の論議に絡み、イー・アクセスとソフトバンクの関係性については、基地局の共用などで、深い協力関係にあり、一体性が強いのでは、という声もある。6月には、ソフトバンクグループのヤフー傘下になるイー・アクセスだが、今回の主張では、中小規模の事業者にフォーカスすることの必要性に触れるなど、ソフトバンクグループではあるが、ソフトバンク自身とは別の事業者とのスタンスに立つ。

 一方、ヤフー傘下になってもソフトバンクとはネットワークを融通しあうとのことで、関係に大きな変化は見られないように見える。大橋氏は、「確かにネットワークは相互利用するし、そうした声全てを否定することはできない。しかしそれが全てではない。イー・アクセスとしては、当社ならではの新しい価値観を提供することが最も重要なことだと思っている。それは我々が忘れてはいけないこと」と述べる。3月下旬の発表会でも、Y!mobileとして新たな付加価値の提案をする方針は示されている。

 イー・アクセスは通信業界の徒花ではない、とする大橋氏は、イー・アクセスが参入したことで「モバイルブロードバンド」「モバイルルーター」などが実現、かつ普及して、日本の通信サービスが進化してきたこと自体は事実であり、その実績はきちんと評価して欲しい、と訴える。

多様なサービスが選べる環境を

 これまでのところ、ドコモから規制撤廃を求める声が上がり、それに対して競合他社が反論するという流れだが、大橋氏は「もっと骨太の議論をしたい」と将来を見据えて論点を洗い出す必要性を指摘する。

 「たとえば料金を安くしようというのは(議論の目的の1つとして)当然のことだが、それだけではない。日本の情報通信産業そのものがどう成長していくのか、国内のサービスはどうあるべきか。そういう視点があるべき。現在はドコモ、au、ソフトバンクの3社が寡占している状況だが、もっと多くの選択肢があって成り立つ世界もある」

 そう語る大橋氏は、多様性のある環境が望ましく、そのために必要な方策を議論すべきとした。その具体的な内容については、4月中に行われるであろう、総務省でのヒアリングである程度示される見通しだ。

関口 聖