法林岳之の「週刊モバイルCATCH UP」
「Rakuten Hand 5G」は楽天モバイルの5G普及を後押しできるか
2022年3月15日 00:00
2月4日に人口カバー率96%を達成したことを発表した楽天モバイル。参入時に掲げた基地局の開設計画を大幅に前倒しし、サービス開始から約2年半で達成した。そんな楽天モバイルのオリジナル端末「Rakuten Hand 5G」が2月14日に発売された。筆者も実機を購入したので、実機を見ながら、その仕上がりをチェックししつつ、楽天モバイルの今後の展開についても考えてみよう。
異例とも言えるスピードで基地局を展開
携帯電話ネットワークが使えるか否かを決める要素はいくつが挙げられるが、なかでももっとも重要なのは、エリアだろう。楽天モバイルは2017年にサービス参入を表明し、割り当てを受けた2019年8月から基地局を開設してきた。サービス開始当初はエリアが限られているため、auネットワークへのローミングに頼るしかなかったが、着実に基地局を開設し、2020年12月には人口カバー率73.8%を達成。しかし、楽天モバイルの人口カバー率が70%を超えた地域は、KDDIと協議のうえ、都道府県単位でローミングを順次、ローミングを終了する取り決めになっていたため、2020年10月から東京都でのローミングを終了。2021年4月には埼玉県や千葉県、神奈川県、宮城県、大阪府、兵庫県、京都府なども一部エリアでローミングを終了し、これらのうち、千葉県と神奈川県については2022年3月末に全地域でのローミングが原則終了する。さらに、2021年10月には新たに23道県で自社エリアへの切り替えをすすめ、全国39都道府県の一部地域で楽天モバイルの自社ネットワークに切り替えられることも発表された。地下など、一部のエリアはローミングが継続するが、楽天モバイルとしては、いよいよ本格的に自社のネットワークのみで他社との競争に挑むことになる。
こうしたローミング終了が進んだ背景には、auネットワークへのローミングによるコストが高く、楽天モバイルの業績を圧迫していることが挙げられる。楽天グループの三木谷浩史代表取締役兼CEOは決算説明会で、ローミング費用の高さを嘆いていた。しかし、その一方で、異例とも言えるスピードで基地局を開設できたことで、自社ネットワークへの切り替えとローミング終了が順次、可能になり、今年2月4日に同社の人口カバー率が96%に達したことが明らかにされた。
一般的に、携帯電話会社のエリアは基地局の数と周波数帯域によって決まるため、効率のいいプラチナバンドなどでネットワークを構成できれば、郊外も含め、エリア展開も早い。しかし、楽天モバイルに割り当てられているのは1.7GHz帯で、プラチナバンドほど、効率がいいわけではなく、とにかく少しでも多くの基地局を開設していくしかないのが実状だ。当初は厳しいとされていた基地局の設置場所確保については、他社ではあまり耳にしなかったような動きがあるようで、楽天市場で取引のある企業から基地局設置の申し出があり、その企業が持つ建物や敷地などに設置するケースがあるという。楽天グループと資本業務提携を結んだぐるなびと連携し、飲食店などを中心に宅内小型基地局の「Rakuten Casa」の設置も進めており、グループ全体のリソースを活かしながら、エリアの拡充に努めているようだ。
カギを握る5Gネットワークへのオフロード
こうした地道なエリア拡充や力強いプロモーションによって、楽天モバイルはMVNOサービスを含め、550万契約を突破したことが明らかになっている。昨年来、主要3社やMVNO各社の料金プラン見直しなどもあり、今後、これまでのようなペースで契約数を伸ばしていけるかは未知数だが、順調に契約数を伸ばしていくと、懸念されるのがトラフィック増だ。
前述の通り、楽天モバイルは4Gネットワークのための周波数帯域として、1.7GHz帯(Band3)で上り下り20MHzずつが割り当てられている。同社は後発の新規参入事業者であり、現在の契約数を考えれば、他の主要3社に比べ、少なくてもしかたないが、Rakuten UN-LIMIT VIが段階制をベースにした実質的な使い放題の料金プランであることを考えると、契約数が増えていくに従って、他社以上にトラフィックが急激に増えていくことが予想される。そうなると、当然のことながら、通信速度は遅くなってしまい、全体的なパフォーマンスも低下することが懸念される。
こうした状況に対し、楽天モバイルでは今後、「5Gネットワークへのオフロード」を実現していくという。このことは先般、今年4月に楽天モバイルの代表取締役社長に就任することが発表された矢澤俊介氏にインタビューした際にも語られていた。
楽天モバイルの5Gネットワークについては、5Gの周波数割り当て当時、「5G Readyで4Gネットワークを構築する」とコメントしていたものの、当初、実際に5Gエリアが展開されたのはごくわずかで、都内では楽天グループの本社がある東京・世田谷の二子玉川周辺などの十カ所程度だった。ところが、昨年あたりから5G対応エリアも拡充されるようになり、今年2月の決算説明では「大阪駅前で、楽天モバイルの5Gを体感していただければ驚愕してもらえると思う」と自信をうかがわせていた。
ただ、ユーザーが5Gネットワークを利用するには、当然のことながら、5G対応端末が必要になる。楽天モバイルが昨年から取り扱いをスタートしたiPhone 12/13シリーズは、5Gネットワーク対応で、Androidスマートフォンはオープン市場向けと共通のAQUOS sense6やAQUOS zero6、AQUOS wish、OPPO Reno 5 A、OPPO A55s 5Gなどに限られている。他社との差別化が図れる楽天オリジナル端末については、2020年9月発売の「Rakuten BIG」、2021年4月発売の「Rakuten BIG s」の2機種のみで、ようやく今年2月、「Rakuten Hand 5G」が発売された。オリジナル端末は他社の例を見てもわかるよに、全体的に少なくなる傾向にあり、効率性などを鑑みてもあまり増やさない方がいいのかもしれないが、ユーザーとしては『楽天モバイルらしい』端末も欲しいところだろう。
これらの意味からも楽天モバイルとしては、5G対応端末のラインアップを拡充する必要があり、今回の「Rakuten Hand 5G」は3万9800円という価格からもわかるように、5G普及へ向けた大事なモデルのひとつになる。ちなみに、楽天モバイルは2月18日に、過去に楽天モバイルで「Rakuten mini」を購入したユーザーに対し、「Rakuten Hand」をプレゼントするキャンペーンを実施したが、ここで提供されたのは2020年12月に発売された4Gネットワーク対応の「Rakuten Hand」であり、今回発売された「Rakuten Hand 5G」はその後継モデルに位置付けられる。すでにキャンペーンは終了しているが、名称も含め、「Rakuten Hand 5G」の発売に近いタイミングで、消費者が誤解しそうなキャンペーンを展開するのはあまりいい手法とは言えないだろう。
軽量コンパクトなボディ
さて、「Rakuten Hand 5G」の実機を見ながら、その内容をチェックしてみよう。すでに、本誌でも「クイックレビュー」などが掲載されているため、詳細なスペックはそちらを参照していただくとして、ここでは実機の使用感や注目点などを中心に開設しよう。
まず、ボディは本製品の最大のアピールポイントでもあるが、幅63mm、重量134gという軽量コンパクトなものに仕上げられている。厚さは9.5mmと、最近のスリムな端末に比べ、少し厚みがあるが、ディスプレイの左右を湾曲させているため、側面が細く、思ったほど、厚みを感じさせない。実際に手に取ったサイズ感としては、iPhone 13 miniよりも幅が狭く、高さがわずかに大きい程度に仕上げられている。売れ筋のAQUOS sense6などと比べてもひと回り小さいサイズなので、コンパクトさを重視するユーザーにはおすすめできるサイズ感だ。
本体はIPX8準拠の防水、IP6X準拠の防塵に対応するが、耐衝撃には非対応のため、安全に使うにはケースの装着がおすすめだ。ちなみに、従来の「Rakuten Hand」はパッケージにクリアケースや充電器が同梱されていたが、今回はUSB Type-Cケーブルと3.5mmイヤホン変換アダプターのみなので、ケースは市販品を購入する必要がある。
ディスプレイはHD+対応5.1インチAMOLED(有機EL)を搭載する。左右側面に向かって、エッジ部分を湾曲させた形状を採用し、対角サイズ以上に大きく見える。解像度はHD+対応の1520×720ドット表示なので、フルHD+以上が標準となりつつある現状では物足りない印象は否めないが、4.7インチディスプレイを搭載したiPhone SE(第3世代)が1334×750ドット表示であることを考えれば、妥当なスペックという見方もできる。もっとも解像度に比例して、ディスプレイの消費電力は高くなる傾向にあるため、省電力性能には少し寄与しそうだ。
本体内蔵のバッテリーは2630mAhとやや少なめで、連続通話(通信)時間が約26.6時間、連続待受時間が約343時間のため(いずれもカタログ値)、利用頻度によっては終日の利用が少し厳しいかもしれない。充電はUSB Type-C外部接続端子から10Wでの充電に対応するが、充電器は付属しない。
ディスプレイには画面内指紋センサーを搭載し、インカメラによる顔認証も利用できる。昨今の社会情勢を鑑みると、やはり、この構成がもっともバランスが取れており、はじめてのユーザーにも扱いやすいだろう。画面内指紋センサーについてもボディサイズがコンパクトなため、片手で持った状態でも親指がセンサーの位置に届きやすい。
チップセットは米Qualcomm製Snapdragon 480を採用し、RAM 4GB、ROM 128GBを搭載する。外部メモリーには対応しない。普及価格帯向けのチップセットで、メモリーとストレージも大容量とは言えないが、メールやWebページ閲覧、SNSなど、基本的な用途であれば、十分に実用になるレベルだ。
カメラはメインが約6400万画素イメージセンサーとF1.8のレンズの構成で、これに深度測位用として、約200万画素イメージセンサーを組み合わせる。撮影モードは一般的な[写真]のほかに、[パノラマ][ビデオ][写真(背景ぼかし)][美顔]などのモードも用意される。[写真(背景ぼかし)]では背景のボケ具合を調整することもできる。出荷時設定では約6400万画素をフルに活かしての撮影ではなく、4つの画素を1つの画素として撮影するビニング機能により、約1600万画素相当での撮影モードが有効となっており、夜景なども明るく撮影できる。HDR撮影やAIによるシーン認識などにも対応しており、ミッドハイクラスのモデルに迫るほどではないものの、普及価格帯のスマートフォンとしては標準的なレベルの撮影が可能だ。
5G対応&デュアルeSIM
プラットフォームについてはAndroid 11が採用されている。少し気になるのは、出荷時に設定されている「Quickstep」と呼ばれるホームアプリで、ホーム画面のほとんどにインストールされたアプリのアイコンが並ぶ構成となっている。一般的なAndroidプラットフォームのホームアプリは、ホーム画面に主要なアプリのアイコンを並べ、時計や天気予報などのウイジェットを中央に配するものが多いが、「Quickstep」はiOSに近く、時計などはステータスバーの表示を確認することになる。もちろん、自分でカスタマイズすれば、如何様にもレイアウトできるが、ちょっと唐突な印象は否めない。
また、すべてのアプリというわけではないが、「my楽天モバイル」にサインインしていれば、プリセットされている楽天グループの各サービスのアプリにも簡単にログインできるようにしている。楽天経済圏を重視するユーザーには便利な点だろう。
コンパクトなボディが印象的な「Rakuten Hand 5G」は、そのネーミング通り、楽天モバイルの5Gネットワークに対応する。楽天モバイルの5Gネットワークについては、決算会見でもアピールされていたように、徐々に利用できる場所が増えている。まだ「面」というより、「スポット」という印象だが、先般も関西エリアに出かけたとき、大阪駅や三ノ宮駅(神戸)などで何度となく、アンテナピクトに5Gの表示を見かけた。
楽天モバイルの5Gネットワークのパフォーマンスについては、まだユーザーが少ないこともあり、つながってしまえば、かなり高速なデータ通信を体感できる。たとえば、楽天モバイルのお膝元である東京・世田谷の二子玉川周辺で5Gネットワークに接続し、データ通信速度を計測したところ、受信時で500Mbps超を記録することもあった。もっとも他社の5Gネットワークも場所によっては実測で1Gbps超えを体験することがあり、楽天モバイルが特に優れているというわけではないが、楽天モバイルのユーザーとしては今後、契約ユーザーが増え、トラフィックが逼迫してくることを考えれば、5G対応端末を手にしておいた方が賢明ということになる。ちなみに、「Rakuten Hand 5G」の5G対応バンドについては「n77」のみのため、楽天モバイル以外ではauとソフトバンクでも利用できる可能性がある。
「Rakuten Hand 5G」でもうひとつユニークなのは、SIMカードの構成だ。最近の端末ではSIMフリー端末を中心に、nanoSIMカードとeSIMのデュアルSIM対応が増えているが、「Rakuten Hand 5G」はデュアルeSIMを採用しており、物理的なnanoSIMカードを装着することはできず、2つのeSIMを登録できる仕様となっている。1つめのeSIMには楽天モバイルを登録するとして、もうひとつのeSIMに何を登録するか。楽天モバイルがこういった構成の端末を企画した意図が今ひとつわからないが、ユーザーとしては2つめのeSIMをうまく活用したいところだ。たとえば、ahamoやpovo、LINEMOなどの回線、あるいはIIJmioの「データプランゼロ」などを登録しておき、郊外や山間部など、どうしても楽天モバイルのエリア外に居て、auネットワークへのローミングが利用できなかったり、データ通信量が足りないときに使う方法が考えられる。
ただ、デュアルSIMについては他製品でも緊急通話ができなかったり、着信に失敗するといったケースが報告されており、「Rakuten Hand 5G」のデュアルeSIMでも同様のことが起こり得る。今回は2つめのeSIMにIIJmioの「データプランゼロ」を登録し、データ通信をIIJmioで利用するように設定したが、Rakuten Linkへの着信はうまく動作せず、発信のみが利用できる状態だった。他のeSIMを組み合わせれば、違った動作になるかもしれないが、現時点ではあまり情報がないため、また機会があれば、試してみたい。
これからの5G、これからのオリジナル端末
第4の携帯電話会社として、2020年3月に正式サービスを開始した楽天モバイル。圧倒的な苦戦が予想される中、最大のネックとされた基地局開設を大幅に前倒しし、約2年で人口カバー率96%を達成した。他社の99%以上とされる人口カバー率との3ポイント差は、数字以上に大きな開きがあり、人口カバー率には反映されない地下やビル内など、まだまだ拡充すべきエリアはかなり多い。他社並みのエリアで利用できるようにするには、さらなる時間がかかりそうだが、それでもこの短期間で一定のエリアを構築できたことは評価できるものであり、筆者自身も随分と驚かされた。
ただ、本稿でも説明したように、今後、楽天モバイルがさらに契約数を伸ばし、楽天経済圏の拡大にも寄与していくには、端末ラインアップとネットワークを含めたユーザーの利用環境をしっかりと進化させていく必要がある。そのためにはユーザー増とトラフィック増に備え、5Gネットワークが利用できる場所を増やしつつ、5G対応端末のラインアップも揃える必要がある。「5GはiPhone 12/13シリーズがあるし、iPhone SE(第3世代)も発売されるから、それでいいじゃないか」という意見も聞こえてきそうだが(笑)、iPhoneは他の主要3社に加え、MVNO各社も取り扱っているうえ、プラットフォームとしても乗り換えやすい環境が整っているため、何かをきっかけに契約者が離れてしまうリスクも多い。そうなると、楽天モバイルとしては、もう少し多様なラインアップを揃え、魅力的なオリジナル端末も加えたいところだが、今回のRakuten Hand 5Gがそういったニーズに応えられる内容かどうか……。
少し判断が難しいところだが、「Rakuten Hand 5G」は他社から乗り換え、はじめてのユーザーが持つスマートフォンとしては、正直なところ、ユーザーインターフェイスなどに物足りなさが残る。しかし、携帯性に優れる軽量コンパクトなボディは扱いやすく、2台持ちを考えるユーザーにもうれしいサイズ感だ。デュアルeSIMは興味深い仕様であるものの、現在の市場環境で物理的なnanoSIMカードをなくすほどのメリットがあるかと言えば、必ずしもそうではなく、楽天モバイルとしてのメリットも今ひとつ見えてこない。ただ、4万円を切る価格は手頃であり、確実に動作する5G対応、eSIM対応の楽天モバイルデビュー端末としては、十分に試す価値がある一台と言えるだろう。
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