法林岳之の「週刊モバイルCATCH UP」

「iPhone」取り扱い開始で楽天モバイルの道は開けるか?

 4月22日、楽天モバイルは東京・品川でプレスカンファレンスを開催し、アップルのiPhoneの取り扱いを開始することを発表した。これまで国内では主要3社が正式なパートナーとして、iPhoneやiPadなどを取り扱ってきたが、楽天モバイルも同様の扱いを受けることになった。

楽天モバイルでiPhone 12シリーズの取り扱い開始!

 今年2月には新料金プラン「Rakuten UN-LIMIT VI」を発表し、無料期間経過後の解約ラッシュに歯止めを掛けた形の楽天モバイルだが、今回のiPhone取り扱い開始で、どのようになるのかを考えてみよう。

携帯電話会社にとっての「iPhone」

 現在、国内で約半数近いシェアを占めるアップルのiPhone。ここ数年は高価格路線の影響で、一時期のような絶対的な強さは陰りを見せたものの、それでも直近の販売では全体の40%前後を占めるほどの売れ行きを示しており、各携帯電話会社にとっては、もっとも重要な商品のひとつとなっている。

 ただし、読者のみなさんもご存知の通り、iPhoneはどんな事業者でも扱える商品ではない。アップル以外には同社と正式な契約を交わした携帯電話事業者のみが販売できる。国内では2008年7月にソフトバンクが独占的に「iPhone 3G」の販売を開始したが、当初、auやNTTドコモはiPhoneを扱うことができなかった。auについては当時、CDMA方式を採用していたため、仕方のない面もあったが、NTTドコモはソフトバンクの発売から約5年間、iPhoneを扱うことができず、同社のMNP転出増に大きな影響を与えたと言われる。

 ソフトバンクがiPhoneを独占的に扱うことができた背景には、アップルの創業者である故スティーブ・ジョブズ氏とソフトバンクグループ代表取締役会長兼社長の孫正義氏との間に、個人的なつながりがあったことも関係していると言われるが、ビジネスとしてはアップルが提示したさまざまな販売条件をソフトバンクが受け入れたことによって、実現している。条件の詳細は明らかにされていないが、販売台数だけでなく、販売方法や値引き制限、料金面での優遇施策、他機種との取り扱いの差別化など、かなり細かい条件が含まれていたという。

 その後、2011年2月に米ベライゾンがCDMA版の販売を開始したことを受け、同年10月にはこれをベースにした「iPhone 4S」をauが販売するようになり、2013年9月にはついにNTTドコモが「iPhone 5s」と「iPhone 5c」の取り扱いを開始する。それ以降は主要3社が揃って、iPhoneやiPadを扱うようになり、毎年9月、iPhoneの最新モデルの発売日には、各社の旗艦店などで恒例の販売開始イベントが催されている。

 主要3社以外については、当初、国内でSIMフリー版のiPhoneが販売されず、SIMロック解除も提供されていなかったため、実質的に利用できなかった。そのため、一部では海外で販売されているSIMフリー版のiPhoneを個人輸入し、国内の各携帯電話会社のSIMカードを挿して、利用する動きも見られた。

 ところが、今や本誌でもおなじみのIIJ公式ブログ「てくろぐ」で、2013年9月に「IIJmioのSIMカードを挿したiPhone 5s/5cに、APN構成プロファイルを読み込ませることで、データ通信が利用できる」という情報が明らかになり、徐々に国内でもiPhoneやiPadを主要3社以外のSIMカードで利用する方法が注目を集めはじめる。

 時を同じくして、アップルは2013年11月からSIMフリー版の「iPhone 5s」「iPhone 5c」の販売を開始。ただし、SIMカードについては各携帯電話会社と別途、契約が必要で、MVNO各社で利用する場合は、APN構成プロファイルを用意しなければならなかった。つまり、国内で販売されるSIMフリー版iPhoneは、アップルが販売する正式な商品だが、動作に欠かせない通信サービスは主要3社のみが正式対応で、MVNO各社での利用は各社が独自に対応したという扱いに過ぎなかったわけだ。

 また、2016年3月にワイモバイル、同年9月にUQモバイルで、それぞれ「iPhone 5s」の販売が開始された。当時の最新モデルは「iPhone 6s」シリーズや「iPhone 7」シリーズだったため、「iPhone 5s」は型落ちモデルだったが、それでも両ブランドがiPhoneを扱いはじめたことで、契約増を大きく後押しすることになった。ただし、両ブランドでのiPhone取り扱いは、主要3社とは別で、MVNO各社と同じように、APN構成ファイルの適用が必要だったり、最新モデルは扱えないなどの制約があった。

 これらの流れを振り返ってもわかるように、いずれの携帯電話会社やブランド、MVNO各社にとってもどういう形であれ、iPhoneを扱うこと、あるいは自社の回線で利用できるようにすることで、契約増に結び付けることができていた。特に、MNPによる移行ではiPhoneがもっとも環境を移行しやすいプラットフォームだったため、各社ともかなり熱の入った販売施策を打ち出していた。しかし、ここ数年は、こうしたiPhone偏重の扱い方に対し、否定的な意見が数多く聞かれるようになり、総務省もこうした状況を念頭に置いた政策を打ち出してきたが、その効果は限定的で、市場の流れが大きく変わるほどの結果は見られていない。

iPhoneを使えない楽天モバイルの独自仕様

 そんな国内の携帯電話会社やMVNO各社にとって、もっとも売れるiPhoneだが、昨年4月に正式サービスを開始した楽天モバイルにとっては、かなり取り扱いが難しい端末になっていたのが実状だ。それは単に主要3社のようにiPhoneを正式に販売できないという話ではなく、ワイモバイルやUQモバイルなどの別ブランド、MVNO各社以上に、iPhoneが正しく動作しない状況が続いていたためだ。その最大の理由は、同社が強く優位性を打ち出していた「世界初の完全仮想化ネットワーク」という独自のネットワーク構成が影響していると言われている。

 前述のように、主要3社については、一部の例外を除けば、基本的には各社のSIMカードを挿せば、iPhoneを使いはじめることができる。ちなみに、 例外とはauやソフトバンクが異なるプラットフォームで契約したSIMカードの利用を制限しているケースを指す。これはまた別の機会に触れたいが、こうした制限は早急かつ全面的に各社とも対応を改めるべきだ 。また、ワイモバイルやUQモバイル、MVNO各社については、前述の通り、「APN構成プロファイル」をインストールすれば、ほぼ問題なく、利用できている。

これまでの「楽天回線でのiPhone」

 これに対し、楽天モバイルはiPhoneに同社のSIMカードを挿したり、eSIMを登録したとき、手動でAPNを設定する必要があった。実際の利用も4G LTEデータ通信や通話が利用できるものの、SMSは楽天回線に接続されているときにしか送受信できず、auネットワークを利用したパートナー回線に接続しているときは、SMSの送受信、APNの自動設定、楽天回線とパートーナー回線の自動切り替え、緊急地震速報などを受信するETWS、110番や118番、119番との緊急通話時の高精度な位置情報測位などが利用できない。

 なかでもパートナー回線でのSMS受信ができない仕様は、サービス開始当初、アクティベーション(開通)失敗を多発する要因にもなったと言われる。接続回線の自動切り替えもユーザーがパートナー回線に切り替わったまま、データ通信を継続してしまい、パートナー回線用として割り当てられたデータ通信量の5GBを一気に消費してしまう事態を招いた。ちなみに、この接続回線の自動切り替えは、あまり認識されていないためか、手持ちの端末で使えるだろうと思い、楽天モバイルに申し込んだものの、正しく動作しないことがわかり、慌てて対応機種を買い直したユーザーも居るという。これらのネットワークに関連する制限は、iPhoneに限った話ではなく、楽天モバイル自身が販売した端末を除けば、AQUOSやGalaxy、Xperia、Pixelなどの一部機種でも同様の制限があり、かなり利用できる端末を選ぶ状況が続いている。

 また、現状ではすでに解決した問題だが、当初は楽天モバイルで無料音声通話やメッセージ送受信を可能にする「Rakuten Link」がiOS向けに提供されていなかった。ユーザーがそれを知らずに、「国内通話無料」の宣伝文句をそのまま受け、通常のアプリで音声通話を使ってしまい、通話料が課金されるケースもあったという。

 その後、2020年7月に「Rakuten Link」のiOS版がリリースされたが、今年3月には同じ電話番号が付与されたユーザーの「Rakuten Link」に、前のユーザーの連絡先情報を含む個人情報が漏えいする事実が発覚したり、一部のケーブルテレビ会社のネットワーク経由で「Rakuten Link」が利用できないことが報告されるなど、くり返しトラブルを起こしている。

 これらの状況を見てもわかるように、楽天モバイルにとって、iPhoneはもっとも売りたい端末、もっとも他社から移行しやすい端末でありながら、自らのネットワークの仕様や環境によって、正しく利用できない状況を作り出していたわけだ。その代わりというわけでもないが、頼みの他メーカーの機種も販売があまり芳しい状況ではなく、GalaxyやXperiaのように、他の携帯電話会社で新機種が投入されながら、楽天モバイル向けには旧機種がラインアップされたままという状況が続いている。

正式対応で楽天モバイルのiPhoneはどう変わる?

 そして、4月22日、楽天モバイルはプレスカンファレンスを開催し、いよいよiPhoneを正式に扱うことが発表された。この「iPhoneを扱う」という発表は、NTTドコモやau、ソフトバンクと同じように、正式に携帯電話会社として、契約したことを意味している。ちなみに、今回のプレスカンファレンスでは、質疑応答の時間がなかったが、もしかすると、幹部が余計なことを答えてしまったり、アップルに対して、適切ではない発言をしてしまうことを危惧して、敢えて、質疑応答を設定しなかったのかもしれない。

 では、楽天モバイルが正式にiPhoneを取り扱うようになることで、どんなことが変わってくるだろうか。

 まず、当たり前の話だが、楽天モバイル契約時にiPhoneを購入することができる。今回はiPhone 12シリーズ、iPhone SE(第2世代)を販売することが発表されたが、楽天モバイルのユーザー層は低廉な料金を求めているため、端末についてはもっとも標準的な「iPhone 12」、価格の安い「iPhone SE(第2世代)」がもっとも売れ筋になりそうだ。価格については、プレスカンファレンスで「本体価格は4キャリアで最安値」をアピールしていた。ただし、端末のみを購入するのであれば、Appleのオンラインストアや大手家電量販店でSIMフリー版を購入する方が安い。NTTドコモの「スマホおかえしプログラム」やauの「かえトクプログラム」、ソフトバンクの「トクするサポート+」のような端末返却を前提とした販売プログラムは用意されない。

NTTドコモ、au、ソフトバンクに比べ、割安な価格で販売。分割払いにも対応。ただし、Appleのオンラインストアや大手家電量販店のSIMフリー版の方が1割弱、安い

 次に、対応機種については、iPhone 6sシリーズ以降、iOS 14.4以降が対象で、iPhone XSシリーズ以降に搭載されたeSIMにも正式に対応する。ちなみに、eSIMについてはSIMフリー版ではない場合(主要3社で購入した場合など)、SIMロック解除が必要になる。

利用可能なiPhoneはiPhone 6s以降、iOS 14.4以降だが、実用的にはiPhone 12シリーズ以降が望ましい

 既存のユーザにとって有用なのは、前述のネットワーク関連の制限が解消されることが挙げられる。発表時にリリースされていたiOS 14.4が最初の対応バージョンだが、4月27日未明に公開されたiOS 14.5のリリースと共に、キャリア設定もアップデートされ、正しく動作する環境になる。4月27日に楽天モバイルが公開した情報によれば、iOS 14.5にアップデートした状態で、110番や118番、119番との緊急通話時の高精度な位置情報測位が利用できるとのことだ。iPhone 12シリーズ以外の対応機種では、楽天回線とパートナー回線の自動切り替えが利用できないことがあるが、機内モードのオン/オフを切り替えたり、端末を再起動することで解消されるという。これらの点を考慮すると、より確実に動作させたいのであれば、iPhone 12シリーズ以降を利用した方がベターということになりそうだ。

iOS 14.5がインストールされたiPhone 12に楽天モバイルのSIMカードを挿すと、「キャリア設定アップデート」が表示され、「アップデート」をタップすると、iPhoneで楽天モバイルが提供する「すべての機能」が利用できるようになる

 今回のアップルの対応については、国内市場だけを考えると、契約数が400万弱の楽天モバイルに対応したことは、やや異例に見えてしまうが、楽天モバイルは海外の携帯電話会社などに完全仮想化ネットワークのシステムを販売しており、今後、各国の携帯電話会社が同様のシステムを採用したとき、アップルとしても対応できるという目算があるのかもしれない。ただし、アップルのWebページを確認したところ、原稿執筆時点では「iPhoneの通信事業者のサポートと各機能(アジア太平洋)」のページ、iPhone 12シリーズ各機種の仕様ページの「通信事業者」には、いずれも主要3社の名称しか記載されておらず、まだ同等の扱いを受けているとは言えない。

iOS 14.4.2がインストールされたiPhone 11 Pro Maxでも楽天モバイルのSIMカードを挿すと、「キャリア設定アップデート」が表示される。同じように、これも「アップデート」をタップすれば、利用できるようになる

 ちなみに、今回のプレスカンファレンスでは、300万契約限定で提供してきた1年無料キャンペーン終了の駆け込み需要もあり、楽天モバイルの契約数が390万超であることがアピールされていた。しかし、このグラフに示されているのは「累計契約申込数」であって、実際の契約数ではない。累計ということは解約した人も含まれるうえ、申込数も開通した契約数や回線数とは言えないため、実際の契約数は300万半ば程度かもしれない。

示された「390万超」は累計の契約申込数。開通した回線数ではない
MNOとしての回線数に、NTTドコモとauのネットワークを利用したMVNOの回線数を合わせて明示するのは、議論の余地を残す

 同時に、楽天モバイル(MVNO)との合計の回線数を450万超とアピールしていたが、MVNOサービスはすでに新規受付を終了して、1年が経過しているうえ、他事業者のネットワークを利用したMVNOサービスについては、経過措置があるものの、自社のネットワークへの移行を促すべきと言われている状況にあり、これらをまとめて『契約数』と見せる手法は、本当に適切なのかどうかは疑問が残る。正式サービス開始から、わずか1年間で、これだけ契約数を伸ばしてきたことは十分、評価に値するが、主要3社の契約数がひと桁、多いことを考えれば、ここで無理に数を多く見せる必要は感じないのだが……。いずれにせよ、こうした 事業にまつわる数値は、もう少し正直に明示すべき だろう。

iPhoneの取り扱いがスタートしても課題はエリア

 正式にiPhoneを取り扱うようになったことで、楽天モバイルの評価はどう変わるのだろうか。楽天モバイルの可能性と課題については、本コラムの「「Rakuten UN-LIMIT VI」と「楽天経済圏」で、3キャリアに挑む楽天モバイル」でも解説したので、そちらを合わせて、ご覧いただきたいが、最大の課題は何と言ってもエリアだろう。

 楽天モバイルはauの800MHz帯を利用したローミングを提供しているが、自社のエリアが70%を超えた地域については、KDDIと協議のうえ、ローミングを順次、終了するとしている。その先陣を切り、東京は4月から一部の地域を除いて、ローミングが終了したが、自宅やオフィスなどが圏外になってしまったという報告が急増している。SNSで「楽天 圏外」などのキーワードで検索してみると、「自宅が圏外になった」といった報告だけでなく、「お店で楽天ペイ支払おうとしたら、圏外だった」といった投稿もあり、楽天経済圏を活かすユーザーにとっても厳しい状況がうかがえた。なかには「楽天モバイルが圏外になったので、ahamoに移行した」といった変わり身の早いユーザーも見かけた。

 エリアについては今回のプレスカンファレンスでも今年3月末に全国人口カバー率80%を達成し、今夏には96%に達する見込みであることが改めてアピールされたが、これは以前もコラムで解説したように、人口カバー率は夜間の人口を基にしたものであり、日中の人々の行動範囲を考慮したものではない。すでにauネットワークへのローミングが終了した東京の状況を見てもわかるように、大規模施設や建物内への電波の浸透は難しく、前述の「決済サービスを使おうとしたら、圏外だった」といった事態が起きてしまう。

2020年4月の正式サービス開始から約1年で人口カバー率80%を達成

 こうした事態を解消するには、とにかく基地局を建て、エリアの拡充を図るしかないのだが、それを後押しできるものとして、今年3月に発表された日本郵政との提携を挙げる声をよく耳にする。確かに、日本全国の郵便局に基地局を設置できれば、エリアの拡大が期待できそうだが、実は郵便局にはいくつかの種類があり、基地局を設置できそうな建物は限られている。たとえば、郵政民営化以前に「集配郵便局」と呼ばれていた場所は、比較的、建物も大きく、屋上に基地局を設置することも十分可能だろう。しかし、街中に数多くある「普通郵便局」や「特定郵便局」(いずれも民営化以前の呼称)は一般的な戸建ての民家と同サイズの建物だったり、建物を所有していないケースもあり、基地局の設置に向いていなかったり、簡単に基地局を設置できないところが多い。つまり、日本郵政との提携は、販売面でのメリットは期待できるかもしれないが、基地局建設やエリア拡大の切り札になるとは言い難い。

2021年夏には人口カバー率96%を達成する見込みだが、半年に一度はauネットワークを利用したローミングは見直される予定

 また、4月14日には、楽天モバイルに対し、5G用の周波数として、新たに1.7GHzが割り当てられることが発表された。ただし、利用可能なエリアは、東名阪以外の地域で、5G基盤展開率は7年後に80.4%の計画であるため、ユーザーがエリアを体感できるのは、まだ当分先の話だ。

 一方、評価が変わるのは、正式対応による安心感だろう。前述のように、ユーザーが手動でAPNを設定したり、APN構成プロファイルをインストールする環境は、あくまでも『独自対応』でしかなく、動作も基本的には保証されない。このあたりはオープンプラットフォームのAndroidとの考え方の違いが反映される部分でもあり、どうしてもiPhoneやiPadの場合は、正式対応の携帯電話会社とそれ以外で動作に差が出てしまう。その意味で、楽天モバイルがiPhoneに正式に対応したことで、iPhoneでの動作は一定の安心感を持つことができるだろう。

 と書いてみたものの、実は本稿執筆時に公開されたiOS 14.5では、アップデートした楽天モバイルのユーザーが圏外になってしまうトラブルが起きている。楽天モバイルとAppleがどの程度、事前にテストしたのかはわからないが、こうした問題も正式対応の携帯電話会社であれば、Appleとの情報共有によって、解決されていくはずだ。もちろん、そのためには楽天モバイルも他の主要3社と同じように、社内の体制をしっかりと整えておく必要があるだろう。

楽天モバイルのiPhoneをどう活かすか

 エリアという最大の課題は残されているものの、正式にiPhoneを扱うことになった楽天モバイル。ユーザーとしてはこの環境をどう活かしていけばいいのだろうか。

2021年4月25日現在の楽天モバイルのWebページに掲載されていた「iPhone 12」の対応状況。「このスマートフォンは一部の機能がご利用いただけます。」と表示されている
2021年4月27日現在の楽天モバイルのWebページに掲載された「iPhone 12」の対応状況。「この製品は楽天回線対応製品です。」「すべての機能がご利用いただけます。」と表示されるようになった

 iPhoneに限った話、楽天モバイルに限った話ではないが、携帯電話サービスは利用する人によって、評価はさまざまだ。たとえば、この一年間、コロナ禍の影響で、働き方や生活スタイルは大きく変化し、テレワークやオンライン学習などの需要がかなり拡大したが、インターネット回線として、モバイル回線を利用する人も少なくない。そういった人にとって、月額2980円で利用できる「Rakuten UN-LIMIT VI」は魅力的であり、iPhoneのインターネット共有(テザリング)を利用すれば、パソコンなども簡単かつ手軽にインターネットに接続できる。ただし、それはテレワークをする自宅などが楽天回線のエリア内の場合で、auネットワークを利用したパートナー回線に接続している場合は、あまりおすすめできない。パートナー回線で利用できるデータ通信量は、パソコンでのテザリングには心許ない5GBしかなく、地域によってはいずれauネットワークを利用したローミングも終了してしまうからだ。過去にも触れたことがあるが、この「楽天回線エリア内」であるか、「パートナー回線エリア」であるかは、ユーザー自身がもっとシビアに捉えて、利用の是非を判断するべきだろう。

 逆に、iPhoneだからこそ、楽天モバイルの回線が活きてくる使い方もある。そう、iPhone XSシリーズ以降に搭載されている「eSIM」の存在だ。今回、楽天モバイルが販売するiPhone 12シリーズやiPhone SE(第2世代)をはじめ、iPhone XSシリーズ以降の機種であれば、eSIMが利用できる。すでに主要3社やMVNO各社のSIMカード(物理的なSIMカード)でiPhoneを利用しているユーザーでもeSIMを利用すれば、楽天モバイルの回線を追加できるわけだ。たとえば、音声通話などは周知している電話番号の関係などもあるため、主要3社の回線を利用しておき、データ通信はエリア内であれば、楽天モバイルのeSIMを利用するといった使い方をするわけだ。主要3社でデータ通信が使い放題の料金プランを契約している場合は、メリットが限られるが、段階制の料金プランを利用しているユーザーは、併用を検討する価値はあるだろう。

 また、ちょっと違った視点で考えると、まだ楽天モバイルを利用していない楽天経済圏のiPhoneユーザーにもメリットはあるだろう。ご存知のように、楽天グループはグループ内の各サービスを利用することで、付与される楽天ポイントの倍率が増える「SPU(スーパーポイントアッププログラム)」を提供しており、楽天モバイルを利用すれば、「+1倍」が適用される。すでにiPhoneを利用していながら、契約中の携帯電話会社を変えたくない(変えられない)ユーザーでもiPhone XSシリーズ以降を利用しているのであれば、楽天モバイルを契約し、eSIMに回線を登録すれば、楽天市場の買い物などで付与されるポイントが増えることになる。ただし、今年4月からスタートした料金プラン「Rakuten UN-LIMIT VI」では、一定期間、利用がないときは回線を停止されたり、自動解約されると明記されているので、ときどき、データ通信などを利用して、回線契約を維持することも覚えておきたい。

 楽天モバイルはエリアやサポート体制など、携帯電話会社として、まだまだ数多くの課題が山積していることは間違いないが、それでもiPhoneという、国内でもっとも売れる可能性がある商品を手にしたことは大きな意味を持つ。今後、楽天モバイルがiPhoneやAirTagといった商品をどのように扱い、ユーザーに対して、どんな提案をしていくのかにも注目していきたい。