法林岳之の「週刊モバイルCATCH UP」

「探す」で見つけられる「AirTag」、どの持ち物に付ける?

 Appleは4月21日、オンラインで発表イベントを開催し、「iPad Pro」シリーズをはじめ、新製品を発表した。なかでも注目を集めたのがまったくの新製品となる「AirTag」だ。かねてから噂になっていたIoT製品で、早くも4月30日から販売が開始されている。

 筆者も実際の製品を試すことができたので、その使用感を踏まえながら、実際の利用シーンなどについて、考えてみよう。

スマートタグって、何ですか?

 新しい生活スタイルが提唱され、すでに1年近くが過ぎたが、コロナ禍はまだ収まる気配はない。人によって、環境が異なるため、一概には言えないが、この1年間、多くの人は外出する機会が減り、人との直接的な接触も少なくなっている。

 人々の生活や働き方が変わってきたことで、さまざまな社会の動向にも変化が見えている。たとえば、テレワークやリモートワークのために、パソコンやタブレットが売れたり、これを機に少し郊外に引っ越したり、巣ごもり需要でゲーム機やテレビといった家電製品が売れているという。ちょっと変わったところでは、通勤や通学などの外出機会が減ったこともあり、2020年の遺失物の届け出は前年比25%減となっている。

 今回紹介するアップルの「AirTag」は、そんな「なくしたもの」を「探す」ときに役立つ製品だ。一般的に「スマートタグ」などと呼ばれるIoT機器だが、かねてからアップルがスマートタグを開発していると噂されており、その製品が4月21日に催されたイベントで、iPhone 12/12miniシリーズの新カラーのパープル、「iPad Pro」シリーズの新製品などと共に発表された。

「iPhone 12」の新色「パープル」も発売された。基本的な仕様は何も変わらない

 すでに、4月30日から国内でも販売が開始されているが、初期出荷分はAppleのオンラインストア、家電量販店のオンラインショップなどでも売り切れたようだが、Appleストアでの店頭受け取りなど、即日で入手可能な場所もあるようだ。また、iPhoneを販売するNTTドコモ、au、ソフトバンク、楽天モバイルもAirTagを取り扱っており、各社のオンラインショップなどで注文することができる。

 さて、すでに使っている人もいるものの、まだ製品のジャンルとしてはそれほど普及したとは言えない「スマートタグ」だが、いったいどういう製品なのだろうか。

 スマートタグについては、「AirTag」以前にもいくつかの製品が登場し、本誌でも取り上げられたが、簡単に言ってしまえば、Bluetoothなどを使い、スマートフォンと連携することで、カギや財布、カバン鞄など、自分の身のまわりにある持ち物をなくさないようにするためのIoT製品ということになる。

 あらかじめ登録しておいたスマートフォンとBluetoothで接続できる範囲から離れると、音や光によるアラームが鳴り、ユーザーに持ち物を忘れていることを知らせてくれる。「忘れ物防止タグ」や「スマートトラッカー」などと呼ばれ、製品によっては、GPSからの信号を受信できるようにしていたり、スマートタグと呼ぶにはやや大きいものの、LTEなどの通信モジュールを内蔵して、位置情報を取得するものなども販売されている。

直径約3cm、厚さ8mmの小さなスマートタグ

 今回、発売された「AirTag」もこうしたスマートタグのひとつで、自分のiPhoneと組み合わせて利用することになる。簡単な使い方をチェックしてみよう。

「AirTag」の4個入りは、このようにパッケージングされている

 「AirTag」は1個入り(3800円)、4個入り(1万2800円)のパッケージが販売されており、パッケージを開封すると、保護フィルムにくるまれた状態の「AirTag」が現われる。この保護フィルムを剥がすと、そのフィルムの末端がAirTagの内部につながっているので、これを引き抜くと、内部のボタン電池(CR2032)が通電し、「AirTag」が登録可能な状態になる。

出荷状態では「AirTag」が保護フィルムにくるまれている
保護フィルムを剥がすと、矢印の部分が「AirTag」の内部につながっている。この部分を引き抜くと、ボタン電池が通電し、「AirTag」が動作する

 「AirTag」は直径31.9mm、厚さ8mm、重さ11gの丸いもので、前面にAppleのロゴがプリントされた金属製のフタ、裏側は樹脂パーツで仕上げられている。大きさは500円玉と同じくらいで、裏返すと、囲碁の碁石をひと回り大きくしたような外観となっている。ただ、思いのほか、厚みがあるため、財布などに入れると、少しかさばるかもしれない。

 IP67等級の防水防塵にも対応しているため、万が一、水没しても水深1メートルで最大30分以内であれば、浸水しない設計となっている。

 前面の金属のフタは通常、取り外すことはないが、電池交換時や無効化したいときなどに、フタを回して、開けることができる。内蔵のCR2032ボタン電池は、一般的な利用で、約1年程度、使うことができるという。

 また、背面側の白い樹脂パーツには、Appleのオンラインストアで注文するとき、刻印を入れることができる。「AirTag」の情報はiPhoneで読み取ることができるため、あまり他人のものと混同することはなさそうだが、自分の「AirTag」であることを明確にするため、イニシャルなどを入れたり、絵文字を刻印しておくのも楽しそうだ。

 通電した「AirTag」をiPhoneの近くに置くと、AirPodsなどを利用するときと同じように、iPhoneの画面にアニメーションが表示される。

iPhoneの近くに置くと、AirPodsのときと同じように、画面にアニメーションが表示される

 [接続]をタップし、「AirTag」の名称を一覧から選ぶ。「カメラ」や「ジャケット」、「バックパック」、「自転車」、「手荷物」などの項目から選ぶか、「カスタム名」を選んで、好きな名前を付けることもできる。

アニメーションが表示されたら、[接続]をタップ
「AirTag」を付ける持ち物の名称を選ぶ。[カスタム]を選んで、自由に入力することも可能。登録後に変更することもできる

 手順を続けると、自分のApple IDと登録済みの電話番号が表示されるので、[続ける]を選ぶと、そのApple IDにAirTagがシリアル番号付きで登録される。ちなみに、1つのApple IDにつき、最大16個まで、「AirTag」(持ち物)を登録することができる。

Apple IDに「AirTag」が登録される。最大16個まで、登録できる
無事に登録されると、自分の名前と選んだ持ち物の名前を組み合わせた名称が表示される

 登録した「AirTag」が不要になったときは、登録したiPhoneの[探す]アプリで、[持ち物を削除]を選べば、登録を解除できる。登録を解除した「AirTag」は、他のiPhoneで利用することが可能だ。

 続いて、登録した「AirTag」を使うには、まず、自分の持ち物に付けておく。カバンなどであれば、そのまま、中に入れておくのも手だが、Appleでは純正のアクセサリーとして、キーホルダー(キーリング)、レザー製やポリウレタン製のループを用意しており、これらに装着して、カバンのベルト部分やキーホルダーなどに付けておくのも手だ。

純正のアクセサリーとして販売される「AirTagループ」(左)と「AirTagレザーループ」(右)。価格は「AirTagループ」が3800円、「AirTagレザーループ」が5500円
「AirTagレザーループ」(左)と「AirTag」(右)。ループの装着部は「AirTag」の表裏が見える形状
「AirTagレザーループ」のボタン部分を外して、装着する。ボタンはしっかりしているので、勝手に空いてしまうことはなさそう
「AirTagレザーループ」の丸い部分をループの先のスリットに通すことで、カバンなどに付けることが可能

 サードパーティからも数多くの「AirTag」用アクセサリーが発売されているが、なかにはキーホルダーのリングがすぐに外れるようなものもあるので、できるだけ造りのしっかりしたアクセサリーを選ぶことをおすすめしたい。

「AirTagレザーキーリング」に「AirTag」を装着した状態。「AirTag」装着部もリング部もしっかりとした仕上がり。価格は4500円

iPhone、iPad、Macの「探す」ネットワークで見つける

 自分のiPhoneに登録した「AirTag」は、iOS及びiPad OS、macOSなどに標準で用意されている[探す]アプリを使い、現在地を探すことができる。[探す]アプリを起動し、[持ち物を探す]をタップすると、自分のApple IDに紐づけられたAirTagが付けられた持ち物の現在地が地図上に表示される。

iPhoneの[探す]アプリを起動し、[持ち物を探す]を選び、登録してある持ち物(AirTag)を選ぶと、最後に認識された場所が地図上に表示される
[経路]を選べば、[マップ]アプリのルート案内が起動し、その場所へのルートが表示される

 [サウンドを再生]をタップすれば、「AirTag」の音を鳴らすこともできる。この「探す」ときのしくみとして、「AirTag」は登録したiPhoneのBluetoothだけでなく、全世界で稼働している10億台のiPhone、iPad、Macの[探す]アプリで構成されるネットワークによって、探すことができる。

 たとえば、「AirTag」を付けたカギをどこかで落としたとしよう。自分のiPhoneなどの[探す]アプリの[持ち物を探す]を選び、探したい持ち物を選ぶと、そのカギが最後に認識された位置が表示される。そのカギがiPhoneの現在地から離れた場所にあるときも他のユーザーのiPhoneやiPadなどが近くを通過したとき、位置情報を取得し、現在地が表示されるというしくみだ。

 この位置情報の取得については、プライバシーが保たれており、特定に保たれた状態で、暗号化された情報が送信されるという。つまり、「AirTag」がどこにあるか、誰のiPhoneが近くを通過して、持ち物探しに協力してくれたのかは、ユーザーにもAppleにもわからないしくみとなっている。

 もし、自分が明らかに持ち物をなくしたと判断したときは、[探す]アプリで持ち物を選び、[紛失モード]を有効にする。このとき、自分の電話番号を登録しておけば、「AirTag」を付けた持ち物を誰かが見つけたとき、iPhoneやAndroidスマートフォン(NFC対応端末)をかざすと、電話番号と共に、「この遺失物を探しています」といったメッセージ表示され、拾った人から連絡してもらうことができる。

「AirTag」を付けた持ち物をなくしたときは、[探す]アプリで「紛失モード」に設定する。電話番号を登録しておけば、拾った人が連絡してくれる可能性がある

iPhone 11シリーズ以降では正確な場所も

 「AirTag」を自分の持ち物に付けておくことで、持ち物をなくしたときに[探す]アプリを使い、見つけられる可能性はあるが、そういった遺失物としての「なくした状態」だけでなく、「家の中にあるはずなのに見つからない」といったシチュエーションでも「AirTag」は威力を発揮する。

 たとえば、自宅のカギとは別に、クルマや自転車のカギを持っていて、「AirTag」をキーホルダーに付けていたとしよう。朝、出かけようとしたら、カギが見つからないといったときは、同じように[探す]アプリを起動し、[持ち物を探す]を選ぶ。このとき、iPhone 11シリーズ以降の機種であれば、UWB(Ultra Wide Band/超広帯域通信)を使い、より正確な場所を探索することができる。

家の中で探すときは、iPhone 11シリーズ以降なら、UWBを使い、かなり正確に位置を特定できる。UWBの電波が届く範囲内なら、この画面が表示される
ある程度、UWBの電波が強くなってくれば、方向と距離も表示される

 筆者も実際にカギを家のどこかに隠してもらい、iPhone 12を使って、探してみたが、画面には距離と方向が大きく表示され、その指示に従いながら、探すことができた。近くまで来て、「AirTag」の音を鳴らせば、簡単に見つけることができるはずだ。

さらに近くになってきた
探し物のある場所に来た。この状態で右下のボタンをタップして、サウンドを再生すれば、探し物を見つけられるはずだ

不要な追跡には使われないというが……

 「AirTag」のように位置情報を測位できるデバイスは、なくしたものを探すときに有用だが、悪意を持った使われ方も懸念される。そこで、「AirTag」は不要な追跡に使われないようにするため、自分以外の「AirTag」がカバンなどに入れられたときは、自分の持つiPhoneがそれを検知して、アラートを表示してくれる。

見知らぬ「AirTag」があるときは通知が表示され、サイトにアクセスすると、シリアル番号が表示される

 カバンなどに入れられた正体不明の「AirTag」を見つけたときは、前述のように、金属のフタの部分を回せば、ボタン電池が外れるため、「AirTag」は動作しなくなる。

金属のフタを回せば、電池が外れ、「AirTag」を無効化できる

 ちなみに、家族が「AirTag」を利用していて、いっしょに移動しているときは、こうしたアラートは表示されないとのことだが、これはApple IDのファミリー共有グループが参照されているためだ。相手が友だちの場合といっしょに移動している場合も同様としているが、これはiPhoneの連絡先の情報も判断に活かされているのかもしれない。

 また、「AirTag」が付けられた自転車などを借りた場合、自分がiPhoneを使っていると、同じように「AirTagを検出」と表示されてしまうが、ファミリー共有グループから借りているときは、通知を1日のみ、もしくは無期限で停止することができる。

 第三者による不要な追跡を検出する(防ぐ)点で、ひとつ気になるのは、アラートが表示されるデバイスが「iPhone」であるという点だろう。裏を返せば、Androidスマートフォンなどを利用しているときは、これらを検知できないことを意味するが、そもそもの話として、「AirTag」は追跡を目論んだ当人のiPhoneから一定期間、離れてしまうため、時間が経過すると、仕掛けた相手のカバンの中などにある「AirTag」で、サウンドが再生される。

 このあたりはプライバシー保護とセキュリティに配慮してか、Appleも正確な情報を開示していないので、実際に利用していきながら、安全であることを確認していくことになりそうだ。もっとも「AirTag」に対して、そこまで疑心暗鬼にならなくても良さそうだが……。

「AirTag」を何に付けるか?

 ここまで説明してきたように、「AirTag」はApple製品の「探す」ネットワークを活かし、なくしてしまったもの、見つからない持ち物を探すときに役立つIoT製品ということになる。

 では、具体的にどんな持ち物に「AirTag」を付けるといいのだろうか。これは「AirTag」を使いたい本人がどんな持ち物を持ち歩いたり、どんな持ち物をなくしたり、探した経験があるのかによって、判断が違ってくる。

 たとえば、「AirTag」のアクセサリーとして販売されているループは、カバンの取っ手部分やバッグのベルト部分に付けるようなケースが考えられているようだが、元々、カバンは普段から常に手元にあるもので、メインのバッグをどこかに置き忘れてしまうといったことは、泥酔でもしない限り、起きなさそうだ。もちろん、置き引きなどのリスクは考えられるうえ、メインのバッグの他に、パソコンなどを入れたバッグ、買い物バッグなどを持ち歩くケースもあるため、そちらに付けておくという手もありそうだ。

 また、手軽に利用するケースが多そうなのは、やはり、カギだろう。筆者もこれまで二度ほど、カギをなくした経験があり、一度はなくしたまま、もう一度は電車の中で落としたものが遺失物として、届けられていた(ありがとうございました)。国内は諸外国に比べ、遺失物が見つかりやすいとされているが、現在もクルマのカギは自宅のカギと別に持ち歩いているため、落としたり、紛失してしまうリスクはある。そのため、個人的には当面、「AirTag」はカギに付けておくことになりそうだ。

 逆に、普段の生活で、探すことが多い持ち物は何かというと、実はスマートフォンだったりする(笑)。これは筆者が仕事柄、複数の端末を持っているため、「あれ? あの端末はどこに置いたっけ?」ということになってしまうことが少なくない。ただ、スマートフォンはiPhoneでもAndroidプラットフォームでもiCloudやGoogleアカウントによって、探すことができるので、「AirTag」のお世話になることはなさそうだ。

 一方、実際に人々がどんなものをなくしたり、拾ったりしているのだろうか。警視庁の遺失物取扱状況によると、令和2年中(2020年中)、拾得物は「証明書類」「有価証券類」「衣類・履き物類」「財布類」「かさ類」がベスト5となっており、意外に書類などが多い。

 その点を踏まえると、仕事のための書類を入れた封筒(ブリーフケース)などに「AirTag」を入れておくと、なくしても見つけやすいが、それ以前の考え方として、きちんと書類をひとつにまとめ、メインのカバンなどに入れておくことでも対処はできそうだ。

 財布類は「AirTag」を入れておくと、万が一のときに見つけられそうだが、「AirTag」は財布に入れるものとしてはやや厚めなのが難点だ。将来的に、カード型の「AirTag」などが開発されれば、もっと有効に活用できるかもしれない。

 かさ類は高価なブランド品ならともかく、1000円も出せば、コンビニエンスストアで新しい傘が買えることを考えると、1個3800円もする「AirTag」をかさ類に付けておくのは、まったく現実的ではない。

 もう少し利用範囲を拡げ、盗難などに遭ったときに探しやすいことを考慮すると、自転車やクルマ、バイクなどの車両、スーツケースやゴルフバッグのような大きめのバッグ、カメラバッグなどは、比較的、実用性が高そうだ。自転車やクルマなどは家族と共用するケースが一般的だが、家族のApple IDがファミリー共有グループに含まれていれば、アラートが鳴らさないようにできるので、問題なく、利用できそうだ。

 これらのことを総合すると、「AirTag」を何に付けるのかは、その対象となる持ち物や所有物の価値や価格、持ち歩いたり、移動したりするシチュエーションなどで判断することになりそうだ。価格的にはこれまでのスマートタグに比べ、やや高いという指摘もあるが、4個入りのパッケージは1万2800円なので、家族や友だちなどのグループで購入すれば、少しは割安になる。相手がiPhoneを使っているのであれば、プレゼントなどにも良さそうだ。iPhoneユーザーであれば、まずはひとつ、自分のカギやバッグなどの持ち物に「AirTag」を付けてみてはどうだろうか。