法林岳之の「週刊モバイルCATCH UP」

モトローラの「moto g pro」はお手軽な「スタイラスペン」で便利に使えるスマホ

 画面に指先でタッチして操作するスマートフォン。かつてはキーボード付きなども存在したが、今やタッチパネルで操作するスマートフォンが圧倒的な主流だが、ペンで操作するスマートフォンも販売されている。発売から少し時間が空いてしまったが、今回はモトローラが販売するペン入力にも対応した「moto g pro」の実機を試すことができたので、レポートをお送りしよう。

スマートフォンのユーザーインターフェイス

 現在、国内外で販売されているスマートフォンは、ほとんどの機種が画面に直接、指先で触れて操作するタッチパネルを採用している。AndroidプラットフォームもiOSもタッチ操作を前提に考えられており、スマートフォンの普及によって、パソコンでもタッチパネルを重要視するユーザー層が増えているという。

そんな指先で操作することが当たり前のスマートフォンで、一定のニーズがあるとされるのがペン入力だ。手書きでメモをしたり、絵を描いたりといった操作を可能にする。なかでもサムスンのGalaxy Noteシリーズは、ペンタブレットなどで知られるワコムのペン入力の技術をベースに、さまざまな機能を実現し、ペンを使ったスマートフォンのスタイルを確立してきた。かく言う筆者もGalaxy Note20 Ultraを便利に使っているが、かなり多機能な端末であるうえ、ハイエンドモデルということもあり、端末価格はどうしても10万円を超えてしまうのが悩ましいところだ。

 今回、取り上げるモトローラのSIMフリースマートフォン「moto g pro」は、同社が国内向けに投入してきた「moto g」シリーズの流れを継承しながら、本体に格納できるスタイラスペンを同梱し、実売価格で3万円台半ばというリーズナブルな価格帯で、ペンによる手書き入力などを実現している。Galaxy NoteシリーズのSペンのような電磁誘導式ではなく、一般的なタッチペンだが、ペンで手書き入力をするためのアプリが用意されているほか、カメラもトリプルカメラを搭載するなど、充実した内容に仕上げられている。

 ちなみに、ほぼ同等のスペックを持ちながら、スタイラスペンを同梱していない「moto g9 play」が2万円台半ばで併売されており、スタイラスペンを必要としないのであれば、こちらを選ぶのも手だ。販路としては家電量販店やAmazonなどのECサイトなどのほかに、モトローラ公式オンラインストアでも販売されており、モトローラ公式オンラインストアで購入した場合は、期間限定でmicroSDメモリーカードがプレゼントされるそうだ。

クリアカバーが装着済みの持ちやすいボディ

 まず、外観からチェックしてみよう。モトローラの「moto g」シリーズはこれまでも何度か取り上げてきたが、今回の「moto g pro」のボディは、基本的に従来の「moto g8 plus」のものを受け継いでおり、ラウンドした背面の持ちやすい形状に仕上げられている。ちなみに、最近はSIMフリースマートフォンを中心にクリアカバーが同梱される機種が増えているが、最近の「moto g」シリーズはクリアカバーが装着された状態で、パッケージに収められており、購入直後からカバー付きで使いはじめることができる。もっとも実際に使いはじめるには、SIMカードの装着などが必要になるため、クリアカバーを着脱するが、どうせ同梱するなら、最初から装着しておいてくれた方がラクだとも言えそうだ。

モトローラ・モビリティ「moto g pro」、約158.55mm(高さ)×75.8mm(幅)×9.2mm(厚さ)、約192g(重さ)、ミスティックインディゴ(写真)のみをラインアップ
同じタイミングで発表された「moto g9 play」(左)と「moto g pro」。「moto g9 play」はディスプレイが6.5インチで、5000mAhのバッテリーを搭載するため、ひと回り大きい。
ラウンド仕上げの背面。左上にカメラ、中央の「M」のロゴの部分に指紋センサーが内蔵されている
背面にはクリアカバーが装着された状態で出荷される。側面に「motorola」のネームも入っている
スタイラスペンを取り出す部分は当然、カバーに穴が空けられている。少し大きめなので、取り出しやすい
パッケージには18Wの急速充電器、USBケーブル、イヤホン、イヤホン用チップが同梱される

 本体側面や下部のレイアウトも基本的には「moto g8 plus」などの流れを継承している。これまでの「moto g」シリーズと異なるのは、本体下部の右側に格納されているスタイラスペンだ。ちなみに、装着済みのクリアカバーは、スタイラスペンが格納する部分がちゃんと空けられた形状になっている。本体は防水防塵などに対応していないが、グローバルモデルには「Water-repellent coating(撥水コーティング)」の表記があり、雨などの水滴程度であれば、トラブルを回避できる仕様となっている。

右側面は電源キーとシーソー式の音量キー
左側面はボタン類がなく、上側にピンで取り出すSIMカードスロットを備える
下部には中央にUSB Type-C外部接続端子、左側に3.5mmイヤホンマイク端子を備える

 ディスプレイは1080×2300ドット表示が可能なフルHD+対応6.4インチMax Visionディスプレイを搭載する。縦横比は19.17:9のIPS液晶ディスプレイで、十分な明るさと発色の良さを実現している。「moto g pro」は前述のように、スタイラスペンでも操作するが、そのための特別なハードウェアはディスプレイに組み込まれておらず、スタイラスペンでも指先でもなぞって、手書き入力などができる。従来の「moto g8 plus」ではディスプレイの中央上部に水滴型ノッチが備えられていたが、今回の「moto g pro」はディスプレイ左上のパンチホールに前面カメラ(インカメラ)が内蔵されている。

従来の「moto g8 plus」(左)と「moto g pro」(右)はほぼ同サイズだが、インカメラが水滴型ノッチからパンチホールになるなど、細かい部分が異なる

 パッと見ではわからないが、パンチホールの右上、レシーバーの左側の額縁内にはプロキシミティ(近接)センサーとアンビエント(環境光)センサーが収められている。モトローラ製端末ではおなじみのmotoアプリには、画面を見ているときにスリープしない「親切ディスプレイ」、画面がOFFのとき、通知やクイック情報を確認できる「ピークディスプレイ」など、ディスプレイ関連の機能も用意されている。

「Motoディスプレイ」では操作中にディスプレイを自動オフにしない「親切ディスプレイ」などが設定できる

 本体にはデュアルステレオスピーカーが内蔵されており、映像コンテンツや音楽、ゲームなどを迫力あるサウンドで楽しむことができる。Dolbyによってチューニングされた「Motoオーディオ」では、聴いているコンテンツを識別し、ゲームや音楽、会話など、それぞれのリソースにあったサウンドを再生する。

「Motoオーディオ」はDolbyの技術を活かし、再生するソースに合わせ、自動的に最適な音質が設定される
ゲームアプリを楽しむための「Motoゲームタイム」を新たに追加。ゲーム中に横向きに持った状態で呼び出せる「ツールキット」などが利用できる

指紋認証と顔認証に両対応

 生体認証は背面中央上に備えられた指紋センサーによる指紋認証、前面カメラを利用した顔認証の両方が利用できる。マスク装着が前提される現在の環境下では、指紋認証の有用性が再認識されており、片手で持ったとき、背面に人さし指を伸ばせば、すぐにロック解除できるのは便利だ。顔認証については指紋認証ほどのセキュリティの高さがないが、自宅内で過ごすときや自動車の中など、周囲に人が居ない環境ではマスクを外すことが多いため、画面を見るだけで、すぐに画面ロックが解除できて、こちらも使いやすい。今後、求められる環境は変わっていくかもしれないが、現時点では「moto g pro」のように、指紋認証と顔認証の両方が使える仕様は扱いやすいと言えそうだ。

背面の「M」のマークに指紋センサーが内蔵されている。どちらの手で持ってもちょうど人さし指を当てやすい位置にレイアウトされている

 バッテリーは4000mAhの大容量のものを内蔵しており、モトローラによれば、最大2日間の動作が可能だとしている。15WのTurboPower充電(急速充電)に対応し、パッケージには18Wの急速充電器が同梱されている。Androidプラットフォーム標準の「バッテリーセーバー」、使用頻度の低いアプリの電池使用を制限する「自動調整バッテリー」などもサポートされている。

バッテリーの状況はAndroidプラットフォーム標準の「電池」アプリで確認が可能。電池切れの推定時間も表示される

 チップセットは米Qualcomm製Snapdragon 665を採用し、4GB RAMと128GB ROMを搭載する。メモリーカードは最大512GBまでのmicroSDメモリーカードを装着できる。パフォーマンスについてはブラウザやメール、SNS、動画、音楽など、一般的な用途であれば、ストレスなく使うことができるレベルに仕上げられている。

 ネットワークは4G LTE/3G W-CDMA/GSMに対応し、国内の主要3社のネットワークでの利用にも対応する。楽天モバイルについては発表時のニュースリリースで、「楽天モバイルを除く日本国内の通信キャリアでご使用いただけます。」と表記されており、楽天モバイルの「ご利用製品の対応状況確認」ページでもデータ通信や通話などが利用できるものの、楽天モバイル回線とパートナー回線の自動切り替えやAPNの自動設定ができないとされている。今回試用した範囲では楽天モバイルの回線でも利用でき、大きな問題は発生しなかったが、ローミングの自動切り替えなどは他機種でも正しく動作しないことがあるため、楽天モバイルのページに記載があるように、「moto g pro」での楽天モバイルの利用は一部の機能が利用できると受け取っておいた方が確実だろう。

出荷時に設定されてるNTTドコモ網のAPN。主要なMVNO各社のAPNは登録済みで、OCNモバイルONEは新プランのAPNも登録されている
出荷時に設定されてるau網のAPN。UQモバイルは登録されているが、auの「LTE NET」などが登録されていない
出荷時に設定されてるソフトバンク網のAPN。ワイモバイルやLINEモバイルなども登録されている
出荷時に設定されてる楽天モバイル網のAPN

 SIMカードは左側面にSIMカードトレイを備えており、2枚のnanoSIMカードを装着可能なデュアルSIM/デュアルVoLTE対応となっている。ただし、2枚目のnanoSIMカードはmicroSDメモリーカードと排他利用となる。

左側面にはピンで取り出すタイプのSIMカードトレイを装備。DSDV対応だが、2枚目のnanoSIMカードはmicroSDメモリーカードと排他利用

Androidプラットフォームの標準仕様に準拠

 プラットフォームはAndroid 10が出荷時にインストールされ、日本語入力はAndroidプラットフォーム標準の「Gboard」が採用されている。「moto g pro」をはじめとするモトローラ製端末は、「Pure Android」とも呼ばれるAndroidスタンダードの仕様に準拠しており、アップデートへの対応も比較的早い。今回の「moto g pro」は発売から2年間の月次のセキュリティパッチ配信と2世代のOSバージョンアップが約束されており、すでに1世代目となるAndroid 11へのアップデートも配信がスタートしている。ちなみに、「moto g pro」はGoogleによって検証された企業要件を満たした端末として、Android Enterpriseの推奨も取得しており、企業ユースなどでも安心して使うことができる。

ホーム画面はAndroid標準に近い仕様で、上方向にフリックすると、アプリ一覧が表示される。モトローラ製端末ではおなじみの円形のウィジェットが中央にレイアウトされる。時刻や天気、日付をタップすると、それぞれに連動するアプリが起動する

また、Androidプラットフォームの標準仕様に準拠していることもあり、モトローラ製端末は独自のアプリや機能を搭載していないが、「moto g pro」も従来モデル同様、「Motoアプリ」に使い勝手を考えた機能がいくつも搭載されている。前述のディスプレイ関連の機能をはじめ、三本の指先をロングタッチしての「スクリーンショット」、手首をすばやく2回ひねるとカメラが起動する「クイックキャプチャー」、画面上で前後に(左右に)スワイプして、2つのアプリを分割表示する「スワイプで分割」、着信時に端末を持ち上げると着信音が止まる「持ち上げて消音」、ディスプレイを下向きに置くと切り替わる「下向きでマナーモード」など、実用的な機能がひとつにまとめられている。しかもいずれの機能も画面上でチュートリアルを見ながら、設定ができるため、非常にわかりやすい。こうしたチュートリアルはもっと他機種にも見習って欲しいくらいの仕上がりだ。

出荷時にインストールされているアプリは、基本的にAndroidプラットフォームで標準のもの。独自アプリは「FMラジオ」「Motoアプリ」「Motoオーディオ」「Motoメモ」のみ
通知パネルは出荷時に「Motoオーディオ」が登録されている。左下のペンのアイコンをタップすれば、カスタマイズが可能
ジェスチャー操作の機能が登録された「Motoアクション」

4800万画素トリプルカメラを搭載

 カメラは背面左上にまとめられたトリプルカメラを搭載する。基本的なデザインや構成は従来の「moto g8 plus」を継承しているが、新たにマクロカメラを加えるなど、内容は変更されている。

背面にはトリプルカメラを搭載。最上部のもっとも大きいレンズが1600万画素の広角アクションカメラで、その下に4800万画素のメインカメラ、200万画素のマクロカメラが並ぶ。もっとも下はレーザーオートフォーカスが内蔵される

背面の最上段に独立したモジュールとして搭載されているのが1600万画素イメージセンサー/F2.2レンズで構成された広角アクションカメラで、広角117度での動画撮影などにも利用できる。背面の上から2つめに位置するのは、4800万画素のイメージセンサーにF1.7のレンズを組み合わせたメインカメラで、ポートレート(背景ぼかし)やカットアウト(切り抜き)、スポットカラー(特定の色以外を白黒で撮影)など、多彩な撮影機能を実現する。メインカメラの下に位置するのが新たに搭載された200万画素イメージセンサー/F2.2レンズで構成されたマクロカメラ、その下の丸いパーツはレーザーオートフォーカスになる。

カメラを起動し、中央下のアイコン(カメラアイコンの左隣)をタップすると、写真モードと動画モードを選ぶことができる

新たに追加されたマクロレンズはで、カメラを起動し、写真モードで「マクロ」を選ぶと、最大2cmまで被写体に近づけた接写ができる。最近、マクロカメラを搭載するモデルが増えているが、食事なども接写で撮影すると、少し違った雰囲気の写真が撮れる。アクセサリーやネイルなどもマクロで撮影すると、質感のある写真が撮影できるので、ぜひ、女性ユーザーにも活用して欲しいところだ。

ホテルのガラス越しに夜景を撮影。非常にクリアに撮れている。左下には透かしが入れられるが、英語表記の方がカッコ良かったような……
写真モードのスポットカラーで撮影。中央の赤のみを残し、他は白黒で撮影される
いつもの薄暗いバーで撮影。グラスの光沢、カクテルの色合いなどもきれいに撮影できている

「書く」だけがスタイラスペンじゃない?

 今回、試用した「moto g pro」は、前述のように、本体に格納されたスタイラスペンを使い、ペン入力ができることをひとつの特徴としている。

 本体の下部右側に格納されたスタイラスペンは、わずかな突起に指先を引っかけ、取り出すしくみとなっている。スタイラスペンを取り出すと、画面上に「スタイラスメニュー」が表示され、「Motoメモ」や「Google Keep」などのアプリをすぐに起動することができる。また、端末がロックされた状態でもスタイラスペンを取り出せば、自動的に「Motoメモ」を起動し、すぐに
メモを取ることもできる。

下部の右端の角にスタイラスペンが格納されている。わずかな突起を指先を引っかけて、取り出す構造
スタイラスペンを引き出すと、画面に薄らとアイコンが表示され、それをタップすると、スタイラスメニューが表示される
スタイラスを取り出したときの動作を設定することができる。端末がロックされている状態でもスタイラスを取り出すと、「Motoメモ」を起動し、すぐにメモを取ることができる

 「Motoメモ」はその名の通り、メモアプリで、スタイラスペンを使い、ペンによる手書きで、メモを取ることができる。ペン先は「チョーク」「筆」「ペン」を選ぶことができ、いずれもカラーや太さを変更することができる。たとえば、ちょっと重要なことは色つきのペンで入力したり、太字で書くといった使い方も可能だ。ただし、Motoメモの入力は静電容量式タッチパネルをなぞることで入力するものなので、指先でなぞっても入力できてしまうので、その点は少し慣れが必要かもしれない。

「Motoメモ」ではチョーク、筆、ペンの3種類が選べ、カラーも設定することができる。

 「Google Keep」はGoogleがAndroidやiOS、Chrome OSなど向けに提供しているメモアプリで、アプリ内で「図形描画」を選ぶと、スタイラスペンでのメモ入力が可能になる。写真やスクリーンショットを撮って、そこにメモを書き込むこともできる。メモした内容は同じGoogleアカウントを利用するパソコンなどでも閲覧することが可能だ。

  ところで、「moto g pro」に採用されているスタイラスペンだが、「書く」だけが用途ではない。当たり前のことだが、指先と同じ役割として、スタイラスペンで「moto g pro」を操作することができる。

 たとえば、スタイラスペンでWebページのリンクをタップしたり、スワイプでスクロールしたりといった使い方ができる。「別に指先でいいんじゃないの?」と考えるかもしれないが、冬場などの乾燥する季節は指先が乾いてしまい、うまく指先のタッチが反応しなかったり、指の太さなどによって、位置がずれてしまうといったことが起きる。シニアなど、少し上の年代層では「指先での操作は画面が手で隠れるから、操作しにくい」「指は間違えてタッチしそうで不安」といった声も聞かれるが、「moto g pro」のスタイラスペンであれば、こうした不安要素もある程度、解消できそうだ。

スタイラスペンで「手書き&お手軽操作」が可能な一台

 モトローラの「moto g」シリーズは、これまでの歴代モデルの記事でも触れてきたように、Androidプラットフォーム標準に準拠した「Pure Android」「Android One」をベースにしながら、ディスプレイやカメラなどを充実させたスマートフォンとして、国内市場に送り出されてきた。

 今回発売された「moto g pro」は、これまでの「moto g」シリーズの流れを継承しながら、スタイラスペンによる操作を取り込むことにより、手書き入力などの新しいユーザビリティを実現したモデルになる。スタイラスペンは手書き入力や手書きメモが主な用途になるが、本文中でも説明したように、指でタッチする代わりに、スタイラスペンでタッチする操作を使うことにより、これまでタッチパネルにやや不慣れだったり、苦手意識を持っていたユーザーにもスマートフォンを活用してもらうことができそうだ。価格も3万円台半ばと手頃であり、OSバージョンアップなど、Androidプラットフォームのサポートもしっかりしていることから、安定したSIMフリースマートフォンを求める幅広いユーザー層にチェックして欲しい一台と言えるだろう。