法林岳之の「週刊モバイルCATCH UP」

3年半ぶりのリニューアルで強く生まれ変わった「iPad mini」

 アップルは3月18日、同社のタブレット端末「iPad」シリーズの新モデル「iPad mini(第5世代)」を発表した。同時に発表された「iPad Air(第3世代)」とともに、3月末から順次販売を開始している。3年半ぶりのリニューアルとなったiPad mini(第5世代)を試用することができたので、レポートをお送りしよう。

3年半ぶりのリニューアル

アップル「iPad mini」(第5世代)。約203.2mm(高さ)×134.8mm(幅)×6.1mm(厚さ)、約308.2g(Wi-Fi+Cellularモデル)。シルバー(写真)、ゴールド、スペースグレイをラインアップ

 今や国内でも6割程度まで普及したと言われるスマートフォン。その一方で、今ひとつ微妙な評価を受け続けているジャンルがタブレットだ。

 改めて説明するまでもないが、スマートフォンは音声通話やネット、アプリなど、さまざまな用途に利用でき、常に持ち歩くツールだが、タブレットは音声通話などの機能を省く代わりに(一部、通話できる製品もあるが……)、より大きな画面を搭載し、ネットやコンテンツ閲覧、アプリなどを利用できるツールとして作られている。ここ数年は教育現場での利用も多く、家庭内でも家族が共用するデジタルツールとして使われている例が多いとされる。

 タブレットにはプラットフォームの違いにより、いくつかの製品群があるが、基本的にスマートフォンと同じプラットフォームを採用しているのがアップルの「iPad」シリーズや、GoogleのAndroidプラットフォームを採用するAndroidタブレットになる。もうひとつはパソコンから派生する形で生まれたWindowsタブレットで、マイクロソフトのSurfaceシリーズなど、2in1スタイルで利用できる製品が人気を集めているが、Windowsスマートフォンが事実上消滅した今、Windows 10ではiPhoneやAndroidスマートフォンとの連携機能が強化されている。

 「iPad」は2010年1月に初代モデルが発表され、日本では同年5月に、当時、iPhoneを国内で唯一販売していたソフトバンクから「Wi-Fi+3Gモデル」が発売された。

 翌年以降、ほぼ毎年1機種のペースで初代モデルと同じ9.7インチディスプレイを搭載した新製品が投入されたが、2012年10月には7.9インチのディスプレイを搭載し、ひと回りコンパクトなデザインに仕上げた「iPad mini」シリーズが発表され、2012年11月から国内市場に投入された。

 iPad miniシリーズはiPadシリーズと並行する形で、新製品が投入されてきた。2013年10月には初代iPad miniで今ひとつ評判が芳しくなかったディスプレイを変更し、1536×2048ドット表示が可能な高解像度ディスプレイを搭載した2代目モデル「iPad mini Retinaディスプレイモデル」(後に「iPad mini 2に名称変更」)を発表。その後、2014年10月に3代目モデル「iPad mini 3」、2015年10月に「iPad mini 4」が発表されたが、これを最後にiPad miniシリーズはしばらくモデルチェンジが行われなかった。

 一方、標準モデルのiPadシリーズは、2011年3月の「iPad 2」、2012年3月の「新しいiPad(第3世代)」、2012年10月に「iPad(第4世代)」まで順調に世代を重ねたものの、2013年10月には薄型の「iPad Air(第1世代)」、2014年10月には「iPad Air 2」と名前を改める。

 2015年には12.9インチディスプレイを搭載し、Apple Pencilに対応した「iPad Pro 12.9」、2016年3月に9.7インチディスプレイ搭載の「iPad Pro 9.7」とバリエーションを拡大。その後、2017年3月に「iPad Pro 10.5」、2018年にはデザインを一新した「iPad Pro 11」と「iPad Pro 12.9」を加え、ラインアップをさらに拡大している。

 筆者は初代モデルからiPadを使い、ほぼ毎年、新製品に買い換えてきたが、出張や旅行、外出時にはiPad miniシリーズを愛用し、ここ数年はiPad mini 4を使ってきた。しかし、3年以上モデルチェンジがなかったうえ、昨年発売のiPad Pro 11が気に入ったこともあり、最近はiPad mini 4の出番がほとんどなくなっていた。

 今回取り上げる「iPad mini」は、今年3月、約3年半ぶりの新製品として発表された。iPad miniとしては第5世代という位置付けになる。iPadシリーズが拡大する中、3年以上も新製品の発表がなく、完全に置き去りにされた感が否めなかったiPad miniシリーズがようやく復帰した印象だ。

 今回のiPad mini(第5世代)はiPad mini 4までと違い、モデル名のナンバリングをやめ、アップルのWebページでも「iPad mini」とだけ表記されている。

 スタンダードなiPadシリーズも途中でモデル名のナンバリングをやめているが、今回は2013年発売の製品と同名の「iPad Air」というネーミングを採用するなど、ユーザーが混乱してしまいそうなネーミングが続いている。

 ちなみに、同時発表の「iPad Air(第3世代)」は、モデル名こそiPad Airの名が付けられているものの、ディスプレイサイズやApple Pencil対応などを考えると、実質的には2017年発売のiPad Pro 10.5の後継モデルに位置付けられ、併売されているiPad(第6世代)とは、チップセットなども含めて少し世代が異なる製品になる。

ポータビリティに優れたコンパクトボディ

iPad mini 4(左)とiPad mini(第5世代)の前面。ディスプレイサイズやホームボタンの位置などは変わらない

 iPadシリーズは初代モデル以降、基本的なデザインコンセプトとサイズ感を継続してきている。主力となるスタンダードなiPadシリーズはB5サイズの紙をひと回り小さくしたサイズであるのに対し、iPad miniシリーズはA5サイズの紙をひと回り小さくしたサイズに仕上げられており、ポータビリティに優れている。

 筆者の利用環境で言うと、当初はスタンダードサイズのiPadシリーズを持ち歩いていて、iPad miniシリーズ登場以降は外出用をiPad miniに切り替えた。これは仕事柄、モバイルノートPCを持ち歩いていたため、タブレットを持ち歩くのであれば、できるだけコンパクトな物を持ち歩きたかったという意図がある。

iPad mini 4(左)とiPad mini(第5世代)の背面。ロゴの位置などは変わらない

 今回のiPad mini(第5世代)は従来のiPad mini 4と比較して、高さ、幅、厚さのサイズはまったく同じで、重量はわずか数g、軽く仕上げられている。

 一見、まったく同じ筐体を採用しているように見えるが、実は背面のカメラ、側面の音量キーの位置が微妙に異なっている。そのため、iPad mini 4向けに販売されている背面カバーなどは製品によって、カメラ部を覆ってしまったり、音量キーとカバーが干渉してしまうケースも見受けられる。従来モデルからの買い換えユーザーはカバーを新調することを検討した方がいいかもしれない。

iPad mini 4(下)とiPad mini(第5世代)のボタン部。一見、同じように見える外観だが、実はボタンと背面カメラの位置が微妙にずれている
iPad mini(第5世代)にiPad mini 4で利用していたケースを装着すると、ボタンやカメラの位置がわずかに干渉してしまう。他の市販ケースでも同様の傾向が見られた

 ディスプレイは従来モデルに引き続き、2048×1536ドット表示が可能な7.9インチディスプレイを搭載する。こちらは従来のiPad mini 4とまったく同じレイアウトになっており、筆者が確認した限り、従来のiPad mini 4向けに販売されている保護シールや保護ガラスなどもそのまま流用できるようだ。ただし、新たにApple Pencilに対応しているため、保護ガラスの場合はApple Pencilの操作感に若干の影響があるかもしれない。

 ディスプレイの対角サイズ、解像度、IPSテクノロジー採用など、基本的な仕様は同じだが、明るさは400nitから500nitに向上。色域はsRGBから「P3」対応広色域ディスプレイになり、周囲の明るさや光などに応じて、表示を調整するTrueToneディスプレイにも対応する。

 フルラミネーションディスプレイは従来機種から対応していたが、iPad mini(第5世代)では液晶パネルと前面ガラスの間隔がさらに狭くなり、よりダイレクトな操作感が得られるようになった。この点はApple Pencilなどで操作するときなどに、より実感できる進化と言えそうだ。

iPad mini 4(下)とiPad mini(第5世代)の背面。上部のアンテナが格納されていると思われる部分は処理が異なる。3.5mmイヤホンジャックは継承されている

 本体下部にはLightning外部接続端子、上部には電源ボタンと3.5mmヘッドフォンジャックを備える。今や3.5mmヘッドフォンジャックを備える機種は少なくなってきたが、有線接続のステレオイヤホンを利用したいユーザーにはうれしい点だろう。

 特にiPad miniシリーズの場合、本体の内蔵スピーカーが下部のLightning外部接続端子の部分のみとなっているため、本体を横向きに置いて、映像コンテンツを視聴するとき、ステレオ感が失われてしまうが、3.5mmヘッドフォンジャックに有線でステレオイヤホンを接続すれば、臨場感のあるサウンドが楽しめる。

 本体前面のディスプレイの下部には従来モデル同様、指紋認証センサーを内蔵したホームボタンを備える。実際の使い勝手も従来モデルから大きく変わってない印象だ。

ニューラルエンジン搭載のA12 Bionicチップ搭載

 筐体の大きさやディスプレイサイズ、コネクター類など、外観はほとんど変わっていないiPad mini(第5世代)だが、さすがに従来モデルから3年半を経過していることで、内部的にはかなり大きく変更されている。

 チップセットは現行のiPhone XS/XS Max/XRと同じ世代のA12 Bionicチップを搭載する。従来モデルのiPad mini 4に搭載されていたA8チップは、2014年発売のiPhone 6と同じ世代のものであり、今回のA12 Bionicチップから見ると、4世代も古いものになる。

AR対応アプリ「jig space」でジェットエンジンの構造を学ぶ。A12 Bionicチップのパフォーマンスのおかげで、こうしたアプリが利用できる

 従来のiPad mini 4でも最新のiOS 12.2が動作しており、Webページや電子書籍の閲覧、動画コンテンツの再生なども問題なくこなせるが、さすがにこれだけの世代差ともなると、全体的な動作のキビキビ感の違いは大きく、やはり、iPad mini(第5世代)の方が快適に使うことができる。ニューラルエンジン対応のA12 Bionicチップの効果は、ARアプリや画像編集アプリなどを利用したときなどにも発揮される。

 ストレージは64GBと256GBのモデルが用意され、それぞれにWi-FiモデルとWi-Fi+Cellularモデルがラインアップされている。Wi-Fiの仕様については従来からIEEE 802.11a/b/g/n/ac準拠だったが、セルラー(モバイルデータ通信)についてはCDMA EV-DO対応がなくなり、LTEはギガビットクラスに対応している。

eSIMのメニュー。表示されている4社のほか、手動で追加できるサービスも登録可能

 対応バンドも従来の最大20バンドから最大28バンドへと、かなり拡がった。また、iPhone XS/XS Max/XRと同じようにeSIMに対応しており、各国の通信事業者が提供するeSIM対応サービスを利用することができる。

auのeSIMメニュー。このまま、オンラインで手続きが可能
ソフトバンクのeSIMメニュー。このまま、オンラインで手続きが可能
海外での利用が可能なAlwaysOnlineのeSIMメニュー
海外での利用が可能なGigSkyのeSIMメニュー

 eSIMはまだiPhone向けでも対応サービスが少ないが、auが「海外データeSIM powered by GigSky」をiPhone向けに提供するなど、少しずつ各通信事業者が対応サービスを発表しており、iPad mini向けでも海外渡航時などに便利に利用できる環境が整ってくることが期待される。

Apple Pencil(第1世代)に対応。手書き入力などが利用できる。対応アプリも揃ってきた

 今回のiPad mini(第5世代)が従来のiPad mini 4ともっとも大きく異なるのは、Apple Pencilの対応だろう。別売のApple Pencilを利用することで、iPad mini(第5世代)で手書き入力が利用できる。対応アプリはアップルの「Keynote」「Numbers」「Page」のほか、すでにiPad Pro向けなどに提供されているものが数多くある。

 ただ、ひとつ気になるのはiPad mini(第5世代)が対応するApple Pencilが従来のiPad Pro 9.7インチやiPad Pro 10.5インチ、2018年発売のiPad(第6世代)などが対応する第1世代のもので、昨年10月に発表されたiPad Pro 11やiPad Pro 12.9(第3世代)などが対応するApple Pencil(第2世代)は利用できない点だ。

 同時に発表されたiPad Air(第3世代)も同様で、Apple Pencil(第1世代)のみに対応する。Apple Pencil(第2世代)は充電時に本体側面にマグネットで装着するしくみのため、対応するには筐体のデザインをそれに合わせなければならず、Apple Pencil(第1世代)対応となったことは理解できるが、結果的に2種類の異なるApple Pencilが混在する形になったのは、アップルらしからぬ統一感のなさで、ユーザーにとってもわかりにくい印象を残してしまった。

Apple Pencilの電池残量はホーム画面を右にスワイプしたときに表示される通知エリアにウイジェットを追加すると、確認できる

 ちなみに、筆者は昨年10月にiPad Pro 11を購入した段階で、Apple Pencil(第2世代)を購入し、Apple Pencil(第1世代)を手放してしまっていたため、あらためて購入し直すかどうかを検討中だ。

 価格はもっとも安いものがWi-Fiモデルの64GBで4万5800円(税別)、もっとも高いものがWi-Fi+Cellularモデルの256GBで7万7800円(税別)となっており、アップルからSIMフリー版が販売されるほか、NTTドコモ、au、ソフトバンクからも各モデルが販売されている。

 ちなみに、主要3社での購入については、今のところ、月々サポートなどの端末購入補助が受けられる状態にあり、新規契約でWi-Fi+Cellularモデルの256GBを選んだ場合、端末代金の実質負担額を2~3万円強に抑えることができる。NTTドコモは6月以降、新料金プランに切り替わり、端末購入補助を受けられなくなる見込みのため、端末購入価格を抑えるのであれば、5月中に検討した方が良さそうだ。もちろん、SIMフリー版を購入して、MVNO各社のSIMカードで割安に運用するのものも堅実な手段だ。

iPad mini(第5世代)のライバルは他のiPad?

 従来のiPad mini 4から3年半ぶりにモデルチェンジを果たしたiPad mini(第5世代)。スタンダードなiPadよりもコンパクトで、パソコンを持ち歩くようなビジネスユーザーの手軽なタブレット端末としても最適なiPad miniシリーズの流れをそのまま継承しながら、最新のチップセットを搭載し、Apple Pencil(第1世代)対応による手書き入力を実現するなど、今の時代に合わせた最新の「iPad mini」として、しっかりと進化を遂げている。

 冒頭でも説明したように、筆者は初代モデルからiPad miniシリーズを愛用し、なかでもiPad mini 4はお気に入りの一台だったが、さすがに最近は「3年も後継モデルが登場しないのだから、ラインアップから消えるだろう」と予想していた。その予想はいい意味で裏切られたわけだが、筆者の周囲を見ていても、3年以上放置されたことで諦めた人も少なくなく、すでに他のiPadや他機種に乗り換えてしまった人を何人も見かけた。

 また、iPhoneをはじめ、スマートフォンのディスプレイも6インチクラスが相次いで登場するなど、一段と大画面化が進んでいる。そんな状況下において、7.9インチというディスプレイサイズをどう評価するのかが難しいのも事実だ。

 ひとつ区別を付けるとするなら、大画面スマートフォンは縦横比18:9や19:9といった縦長のディスプレイを搭載し、縦向きではSNSやWebページなど、縦スクロールのコンテンツが見やすく、横向きに構えたときに映像コンテンツがワイドで見やすいという特徴を持つ。

 これに対し、iPad mini(第5世代)は縦横比4:3の比率を採用しており、SNSやWebページ、映像コンテンツは及第点レベルであるのに対し、電子書籍などのコンテンツは画面にちょうどフィットして、非常に見やすいというメリットがある。筆者自身も電子版の新聞をはじめ、dマガジンなどでの雑誌コンテンツをよく閲覧しているが、この用途については明らかにiPad miniの見やすさにアドバンテージがある。

 そして、今回のiPad mini(第5世代)の特長のひとつであるApple Pencil(第1世代)対応については、賛否両論がありそうだ。絵を描くようなクリエティブなユーザーは「待ってました!」という気持ちだろうし、手書きメモを取るユーザーにとってもApple Pencilが有効なアクセサリーであることは間違いない。

Apple Pencil(第1世代)に対応したiPad mini(第5世代)だが、用途によってはiPad Air(第3世代)の方が有用かもしれない

 ただ、端末価格に9000円を追加すれば、同時発表のiPad Air(第3世代)のひと回り大きな画面でApple Pencilを活用できることを考えると、用途によってはそちらにシフトした方が良さそうな印象も受ける。

 裏を返せば、iPad mini(第5世代)はApple Pencil(第1世代)対応というクリエイティブな進化ではなく、他のiPadシリーズとは違ったアプローチの進化を模索する方向もあったのかもしれない。iPadシリーズ全体としてのバリエーションが増えてきたからこその悩みとも言えるが、他のiPadとの差別化をどう捉えるかが最終的な判断の材料になりそうだ。ポータビリティの良さ、パフォーマンスの高さ、活用できる範囲の広さというバランスについては、iPad mini(第5世代)がもっとも優れた一台と言えるだろう。

法林 岳之

1963年神奈川県出身。携帯電話・スマートフォンをはじめ、パソコン関連の解説記事や製品試用レポートなどを執筆。「できるゼロからはじめるiPhone XS/XS Max/XR超入門」、「できるゼロからはじめるiPad超入門 Apple Pencil&新iPad/Pro/mini 4対応」、「できるゼロからはじめるAndroidスマートフォン超入門 改訂3版」、「できるポケット docomo HUAWEI P20 Pro基本&活用ワザ 完全ガイド」、「できるゼロからはじめるAndroidタブレット超入門」、「できるWindows 10 改訂4版」(インプレス)など、著書も多数。ホームページはこちらImpress Watch Videoで「法林岳之のケータイしようぜ!!」も配信中。