法林岳之の「週刊モバイルCATCH UP」

5G時代スタートを実感させたMWC19 Barcelona

 2月25日からスペイン・バルセロナで開催されていた「MWC19 Barcelona」。本誌では各社の発表イベントや出展内容の現地速報、エグゼクティブのインタビューなどをお伝えしたが、今回はこれらを振り返りながら、現地での様子やこれからの展開などについて、考えてみよう。

「Mobile World Congress」から「MWC19 Barcelona」へ

 本誌でも毎年お伝えしてきたように、MWCは世界中の携帯電話事業者を中心に構成されるGSMAが主催するモバイル業界最大のイベントになる。モバイル業界の最新技術や新製品、サービスなどが発表される一方、世界中の関連会社が集まり、商談やミーティングなどを行なう場所として知られている。最低でも数万円というチケットからもわかるように、一般消費者を対象としたイベントではなく、あくまでも関係者、「プロ向け」のイベントとして開催されている。

MWC19 Barcelonaが開催されたFira Barcelonaのエントランス

 そんなMWCが今年ひとつ大きく変わったことがあった。本誌をていねいに読んでいただいている読者なら、もうお気づきだろうが、今年のMWCはイベント名が「MWC19 Barcelona」と題されている。例年のパターンに基づけば、「Mobile World Congress 2019」「MWC 2019」などと表記されるはずだが、今年のイベントは主催者からの通知もあり、すべて「MWC19」や「MWC」という名称のみで表記されている。

 こうした表記になった背景には、いよいよスタートした「5G」の存在が大きく関係しているという指摘がある。かねてから5Gは利活用される範囲の広さから、「社会を大きく変えるインフラになる」と言われきた。本誌でもさまざまな関連企業のエグゼクティブの発言に触れてきたが、その内のひとつに「5Gは電気になる」(米クアルコムCEOの発言)という表現があった。これは、5Gという技術、サービスが私たちが生活で利用している電気と同じくらい、身近で欠かせない存在になっていくことを指している。

 アナログ、デジタル、3G、4Gと世代を重ねてきた通信技術は、基本的に携帯電話サービスなどのために進化を遂げてきたが、今回の5Gはもっと広い範囲で利活用される。そのため、必ずしも「Mobileだけのものではない」という意味合いから、イベントのタイトルも「 Mobile World Congress」から「 MWC 」へと進化を遂げたのだという。

 同様のアプローチとして、例年1月に開催される「CES」も、従来は「Consumer Electronics Show」と表記されてきたが、イベントで取り上げられる内容が必ずしも「Consumer(一般消費者)」向けだけではなく、自動車やAI、IoTなどが広く扱われることなどを背景に、正式な名称を「CES」に変更している。

スタートした5G時代

 さて、今回のMWC19 Barcelonaでもっとも話題となったトピックが何かと言えば、やはり、「5G」をおいて、他にない。

 「去年も一昨年も5Gって言ってたじゃん」と突っ込まれそうだが、過去2年はあくまでも5Gへ進むための下準備と助走であって、今年、2019年はいよいよ5Gサービスがスタートする年(スタートした年)という位置付けになる。

 これまでのMWCではどちらかと言えば、「5Gになれば、こんなことができる!」「社会がこんなに変わる!」といったコンセプチュアルな展示が多かったが、今回のMWC19 Barcelonaでは会期前後に各端末メーカーからスマートフォンを含む5G対応端末が発表され、会場内でデモ用として吹かれている(発せられている)5Gの電波を使い、各社の5G対応端末がその電波をつかみ、インターネットなどが利用できる環境で展示されていた。

 中でも圧巻だったのはクアルコムブースで、同社ブースにはソニー、サムスン、LGエレクトロニクス、ZTE、OPPO、シャオミ、OnePlusという7つの5G対応スマートフォンが、ブース内に設置されたアンテナからの5Gの電波を受け、動作していた。

クアルコムブースには各社の5G対応端末が並び、5Gによる通信がデモされていた。

 米クアルコムのスタッフのTシャツには「5G is Here」と書かれ、すぐ近くにあるインテルのブースに見せつけるような印象だった。ちなみに、インテルは5Gモデムの開発を表明しているが、まだサンプル出荷も始まっておらず、今年9月に発表が予想されている次期iPhoneは5Gに対応しないと予想される。

 昨年のMWC 2018の記事でも触れたが、5Gでは大きく分けて、2つの周波数帯域が利用される。ひとつは6GHz未満の周波数帯域を利用した「Sub-6(サブシックス)」、もうひとつが6GHz帯を超える28GHzなどの周波数帯域を利用する「mmWave」(「ミリ波」とも呼ばれる)だが、Sub-6が既存の4Gで利用する2GHzや2.5GHz、3.5GHzの延長線上であるのに対し、ミリ波はこれまで携帯電話で利用してきた周波数帯よりもかなり高い周波数であるため、利用が難しいとされてきた。

 しかし、米クアルコムは5G対応モデムのほかに、ミリ波対応のアンテナモジュールなども開発し、各端末メーカーに供給したことで、今回のクアルコムブースに並んだ7つの5G対応スマートフォンにはSub-6対応端末だけでなく、ミリ波の電波を受けて、動作する製品もあった。ソニーモバイルのブースでは試作機の段階であるものの、ミリ波を受けて動作するデモ機が出品されており、開発が進んでいることをうかがわせた。

クアルコムが開発したmmWave(ミリ波)向けのアンテナモジュール

 5Gサービスを導入する各携帯電話事業者がどの周波数帯域を利用し、どんな端末を供給するのかによって、実際に利用できるか否かは大きく左右されるが、それでもサービス開始の段階から端末を開発できる環境が整っていることから、意外に多くのユーザーが5Gサービスを実感できる環境はすぐそこに迫っているという印象を受けた。

 そうなると、日本国内での5Gサービスの展開が気になるところだが、国内の周波数割り当てが今春となるため、サービス開始は今年9月のラグビーワールドカップがひとつの目安になる。今回のMWCの社長インタビューではNTTドコモが9月からのプレ商用サービス、KDDIが9月からのサービス開始をそれぞれ明言しており、日本においても2019年が5G元年ということになる。

 ただ、一般のユーザーが5Gサービスを利用する環境は、日本の2社でも少し違ってくるかもしれない。NTTドコモは基本的に2019年を「プレ商用サービス」と位置付けており、当面はユーザーに端末を貸し出す形を取るようだ。本格的な商用サービスは来春の2020年春を予定しているため、今回、各社から発表された5G対応スマートフォンは購入することができず、次期モデルが対象になるかもしれない。

 一方、KDDIはまだ9月のサービス内容を明言していないが、スポーツイベントでの活用などを示唆しているため、もしかすると、こちらも端末の販売が制限されるかもしれない。

 こうした日本の5Gの環境について、一部のメディアでは「日本は5Gに出遅れている」と報じられているが、携帯電話の通信技術の世代を振り返ってみると、3Gでは日本が先行しすぎてしまい、4Gでは先頭集団と言いながら、他の国・地域での導入が遅れたことで、結果的に先に進んでしまった印象もある。

 これらの状況を鑑みると、新しい世代の通信技術には標準化などでしっかりコミットするものの、導入については無理に先行しなくてもいいのではないかという見方もある。

 現に、ある携帯電話会社の関係者は「4G LTEでエリアやパフォーマンスなどで磨きをかければ、当面は十分、対応できる」と話している。当然のことながら、5G導入には設備投資がかかるうえ、端末の選択肢もそれほど多くないため、1年後の2020年春から本格スタートすると言われる日本の5G環境は、意外にバランスが取れていると言えるのかもしれない。

 超低遅延や大容量など、5G本来のポテンシャルを最大限に活かしたサービスについては、ミリ波での運用が適していると言われており、これらは一般ユーザーが直接契約して利用するのではなく、サービス提供会社などを介して、間接的に契約して利用する形態が中心になりそうだ。

 また、今年は5Gサービスが日本も含め、各国でスタートするが、KDDIの古賀氏のインタビューなどでも触れられているように、5Gという通信技術は今後も進化を続けていく見込みで、「5Gマラソン」はスタートしたばかりと捉えた方が良さそうだ。そのため、ユーザーとしては必要以上に最先端を追うのではなく、自らのエリアで利用できる環境に適したサービスを選んでいくことになりそうだ。

NTTブースではNTTドコモの「Diorama Stadium(日本での名称:ジオスタ)」のデモが行なわれていた

Galaxy Foldはショーケース内の展示のみ

 5Gサービス開始が注目を集めたMWC19 Barcelonaだったが、端末についても各社から新製品が登場し、注目を集めた。例年、このタイミングではサムスン、ソニー、LGエレクトロニクスなど、国内市場に端末を供給するメーカーが新製品を発表しているが、MWC19 Barcelona直前のレポートでもお伝えしたように、今年はサムスンが異例の形で新製品を発表し、業界内を驚かせた。いや、「驚かせた」というより、「戸惑わせた」という方が正しい表現かもしれない。

 本誌速報記事などでもお伝えしたように、サムスンはMWC会期直前の2月20日に、米・サンフランシスコで発表イベント「Galaxy UNPACKED 2019」を開催し、折りたたみスマートフォン「Galaxy Fold」「Galaxy S10」シリーズなどを発表した。

 まず、発表イベントそのものについては、速報記事や本連載でもお伝えした通りだが、通常であればMWCに合わせ、バルセロナで発表するところを、敢えてアメリカで発表会を開催した背景には、Galaxy Sシリーズが10周年を迎えること、グローバル市場でトップシェアを争うライバルのファーウェイがアメリカ市場での展開に苦戦しており、そこでしっかりと存在感を示したかったのだろうと推察される。

 Galaxy UNPACKED 2019で発表された製品のうち、折りたためる「Galaxy Fold」については、現地のステージ上でお披露目されただけで、それ以外では一切、展示もされなかった。場所をMWC19 Barcelonaに移すと、Galaxy Foldは展示こそされたものの、ガラス製ショーケース内で、周囲には規制線のようなテープが張られ、製品にはまったく近づけない状態だった。

サムスンブースではGalaxy Foldも展示されていたが、撮影を拒むようなショーケースだった

 サムスンがこうした対応をとったことについて、「製品が完成していないからではないか」という指摘もあったが、開発中の製品を見たことがある関係者によれば、「数カ月前に見たときよりも完成度は高められている」とのことで、グローバル向けの4月の発売は十分可能であるという見方を示した。同時に、Galaxy Foldを他機種と同じように展示した場合、当然のことながら、来場者の注目がGalaxy Foldに集中してしまい、本来の主力であるGalaxy S10シリーズに目が向かなくなることを恐れたのではないかという指摘もあった。

 Galaxy S10シリーズについては、Galaxy S10、Galaxy S10+、Galaxy S10e、Galaxy S10 5GがMWCのサムスンブースなどに展示されていた。実機の操作感についてはあらためて製品レビューをお伝えする予定だが、Galaxy S10/S10+は背面に超広角、広角、望遠のトリプルカメラを搭載する。

 6.4インチと6.1インチのDynamic AMOLED(有機EL)ディスプレイは超音波式指紋認証センサーを内蔵する。指紋認証センサーは他社が採用する光学式に比べ、認識速度も早く、実用性は高い。一部で市販の液晶保護シールや液晶保護ガラスを貼付すると、動作に影響があるといった指摘もあったが、MWC19 Barcelonaでは昨年、NTTドコモがドコモショップでの取り扱いを発表したWhite Stone製「DOME GLASS」が出品されており、同社関係者によれば、「貼付後に指紋を認識しないときは、再登録をすれば、問題なく、利用できる」としており、実用面でのサポートもしっかり整っているようだ。

 MWC19 Barcelonaで初お披露目となったのは、Galaxy S10 5Gで、その名の通り、5Gネットワークに対応したモデルになる。基本仕様はGalaxy S10/S10+を継承しているが、ディスプレイサイズが6.7インチとひと回り大きく、背面のカメラはGalaxy S10/S10+のトリプルカメラに3D Depthカメラを追加したクアッドカメラとなっており、ARを利用した新しいサービスを体験できるとしていた。ただし、展示されていたデモ機は3D Depthカメラが有効になっておらず、まだ開発中であることをうかがわせた。

2月20日のGalaxy UNPACKED 2019で発表された「Galaxy S10 5G」が展示されていた

 Galaxy S10シリーズの国内での販売については、速報記事でもお伝えしたように、順当に行けば、Galaxy S10とGalaxy S10+がNTTドコモやauから発売され、3月12日に東京・原宿にオープンした「Galaxy Studio Harajuku」にも展示される見込みだ。Galaxy S10eについてはまだ何とも言えないが、サムスンが日本市場向けに展開できていないSIMフリー端末としてリリースされれば、注目を集めることになりそうだ。

「Mate X」で話題をさらったファーウェイ

 事前に発表イベントをアメリカで開催したサムスンに対し、MWC19 Barcelonaの会期直前にバルセロナで発表イベントを開催したのがファーウェイだ。発表内容は速報記事を参照していただきたいが、やはり、最大のインパクトは、5G対応の折りたたみスマートフォン「Mate X」の発表だろう。

 実は、ファーウェイの発表イベントについては、当初、今回の発表はパソコン(ノートPC)のみで、スマートフォンは3月の別のイベントで発表すると噂されていた。ところが、サムスンが折りたたみスマートフォンを発表するのではないかとの噂が伝えられたことから、ファーウェイもMate Xの発表に踏み切ったと言われている。ただ、まったく逆の話として、ファーウェイの動きを察して、サムスンが発表に踏み切ったという噂もあり、実際のところはわからないが、いずれにせよ、両社がお互いにかなり意識し合った結果、こういった時期・形の発表になったようだ。

 Mate Xについては、発表イベント直後のタッチ&トライコーナーにはなく、透明のアクリル製ショーケースに展示されているのみで、実機を触ることはできなかった。しかし、このアクリル製ショーケースの正面にはちょうどカメラのレンズがさし込めるくらいの隙間があり、そこにレンズを入れて撮影しようとすると、隣にいる警備員に制止される、という状況だった。

 しかし、ケース内に展示されている端末は数台あり、発表会ではまったく見られなかったGalaxy Foldに比べ、ファーウェイとしての自信や余裕が感じられた。

ファーウェイブースでも来場者の関心が高かったMate X
ショーケースに収められたMate X
アクリル板のショーケースに収められているため、なかなか近くで撮影できない
多くのメディア関係者がショーケースを囲み、たいへんな混雑となった

 そして、その自信と余裕はMWC19 Barcelonaの会期に入ると、より顕著になる。本誌でもお伝えしたように、ファーウェイのコンシューマビジネスグループCEOであるRichard Yu(リチャード・ユー)氏、日本・韓国リージョンプレジデントの呉波(ゴ・ハ)氏が相次いで、日本のメディアのインタビューに応じ、その場で改めてMate Xがお披露目されることになった。

Mate Xを使いながら、デモを披露するRichard Yu氏
日本・韓国リージョンプレジデントの呉波氏もMate Xを手に、インタビューに対応

 幸い、その機会を得られた筆者やメディア関係者は、実機を開閉するなどの操作を試すことができ、その動きは筆者が出演する「ケータイしようぜ!」の「【速報!!】ファーウェイ「HUAWEI Mate X」」でも紹介させていただいた。

 非常に短い時間ながら、実機を触った印象としては、本体を閉じた状態が持ちやすく、開いたときの画面の大きさにかなりのインパクトがあり、開閉動作もやや固さが残るものの、スムーズに動かすことができた。2299ユーロ(約29万円)という価格は簡単に購入できるレベルにないが、それを検討させるだけの面白さは持っている端末と言えるだろう。基本的には5Gサービスが導入されている国と地域で販売する計画とのことだが、日本国内向けがどういう扱いになるのかが非常に注目される。

インタビュー後、個別に撮影することができたMate X

「Xperiaの復活」を感じさせたソニーモバイル

 今回のMWC19 Barcelonaで、形状による話題こそ“折りたたみスマートフォン”にさらわれたものの、一般ユーザーにとって最も現実感のある製品を発表したメーカーのひとつがソニーモバイルだろう。

 ソニーモバイルは会期初日、会場の同社ブースで発表イベントを開催し、フラッグシップモデルの「Xperia 1」、ミッドレンジモデル「Xperia 10」「Xperia 10 Plus」などを発表した。Xperiaはここ数年、ハイペースのモデルチェンジやマルチカメラへの出遅れ、デザイン面での変化の少なさなどから、今ひとつ奮わない状況が続いていた。なかでも昨年はフラッグシップモデルのXperia XZ2とXperia XZ3をリリースしながら、あまりいい評価が得られず、国内市場でも苦戦が続いているとされていた。

プレスカンファレンスで力強く語ったソニーモバイル代表取締役社長の岸田光哉氏

 こうした状況に対し、昨年4月に社長に就任した岸田光哉氏が改革を打ち出し、ソニーの各方面にも積極的に働きかけながら生み出したのが今回のモデルになるという。これまでのXperiaシリーズはソニーが持つアセット(資産)を活かしながら、さまざまなソニーのテクノロジーを凝縮したモデルだとしていたが、今回の新シリーズは万人受けするスマートフォンではなく、強いこだわりを持ち、自分の好きなこと、好きなものを極めようとするユーザーの期待に応えるモデルを目指したという。

 グローバル市場で見た場合、アップルやサムスン、ファーウェイは、ソニーと比較にならない台数(年間で数億台)を製造しており、そこにまともに勝負を挑むではなく、こだわりの強いユーザーに応えていくことで、そこから周囲へ拡げて行くことを考えての判断だという。

 こうした考えに基づいて発表されたXperia 1は、縦横比21:9という4K有機ELディスプレイ、背面にはデジタルカメラのαシリーズで培ったノウハウを活かしたトリプルレンズカメラを搭載する。ディスプレイは映像撮影の現場で利用されるソニーのプロ用機器のマスターモニターのノウハウが活かされており、映画などの映像コンテンツの制作者が意図した映像を忠実に再現できることを目指している。

 カメラもプロ用カメラのUIをベースにしており、映画のような色調での撮影ができるなど、こちらもコンテンツ制作者を意識した設計となっている。全体的に見て、「プロ用」を強く意識することで、これまでのXperiaシリーズとは少し違った方向性のモデルに仕上げられた印象だ。今回ではディスプレイが固定表示のモデルのみが公開され、実際の操作はできなかったが、手に持った印象は縦長であるものの、非常に持ちやすく、ディスプレイの表示も非常に美しいという印象だった。できるだけ早く操作可能な実機を試してみたいところだ。

Xperia 1の背面。トリプルレンズカメラが目を引く

 また、同時に発表されたXperia 10/10 Plusは少し下の価格帯のスタンダードモデルに位置付けられており、フルHD+対応で、同じく縦横比21:9のディスプレイを搭載する。背面にはデュアルカメラを搭載し、チップセットはSnapdragon 636(Xperia 10はSnapdragon 630)を採用するなど、Xperia 1に比べると、ややスペックを抑えている印象だが、このクラスのモデルが5万円前後で購入できるのであれば、かなり魅力的と言えそうだ。

ミッドレンジを狙うXperia 10(左)とXperia 10 Plus(右)

 サムスンやファーウェイの折りたたみスマートフォンのような派手さはないが、岸田社長が「折りたたみの前にやることがある!」と強く述べたように、スマートフォンとしての基本的な仕様と使う楽しさに磨きを掛けたモデルに仕上げられた印象で、日本市場への展開が楽しみなXperiaの復活と言えそうだ。

ロスレス10倍ズームを開発したOPPO

 アジアだけでなく、欧州でも先行するサムスンやファーウェイを追うOPPOは、MWC19 Barcelonaの会期前にプレスカンファレンスを開催し、「ロスレス10倍ズーム」のカメラ機能と、「5Gスマートフォン」を発表した。ただし、技術的な開発表明に留まり、具体的な製品のリリースは見送られた。

OPPOはロスレス10倍ズームのカメラを開発。カメラモジュールを搭載したデモ機を披露した

 OPPOが発表した内容で注目を集めたのは、「ロスレス10倍ズーム」を実現したというカメラ機能だ。プレスカンファレンス後にカメラを試すデモ機を用意していたが、カメラの10倍ズームを試すだけのもので、開発中や発売予定のモデルを試用できるという状況ではなかった。

 ロスレス10倍ズームの詳細については「OPPO担当者が語る「ロスレス10倍ズーム」と「5G」」で解説されているので、そちらを参照していただきたいが、35mm判換算でワイド側が超広角の16mmであるのに対し、ズーム(正しくは「望遠」や「テレ」と表記すべきだが……)側が切り出しによるデジタルズームを組み合わせて160mmとなっているため、「ロスレス」「10倍」と表現しているようだ。実際には、超広角、広角、望遠の3つのカメラを切り替えるしくみで、テレ(望遠)側については8.1倍に設定され、これに撮影画素数を抑える切り出しズームを組み合わせている。

 「ロスレス」「10倍」といった表現については少し気になる部分は残るが、一般的なスリムなボディに、10倍に相当する望遠カメラが搭載されることは、スマートフォンのカメラの活躍の場を拡げる意味でも注目できるだろう。ただ、光学ズームについては他社も開発中という指摘もあり、今年のスマートフォンのカメラ機能は、望遠・ズーム性能が新しい競争軸になりそうな気配だ。

もうひとつのデュアルスクリーンを実現したLGエレクトロニクス

 ここのところ、グローバル市場でも今ひとつ元気がないLGエレクトロニクスだが、今回のMWC19 Barcelonaでは前日のプレスカンファレンスで、「LG V50 ThinQ 5G」と「LG G8 ThinQ」という2機種を発表した。

スマートフォンを装着するケースにディスプレイを搭載するという新機軸を打ち出したLGエレクトロニクス

 この2機種のうち、ちょっとユニークな取り組みとして注目されたのがLG V50 ThinQ 5Gのデュアルスクリーンだ。

 サムスンのGalaxy FoldやファーウェイのMate Xはいずれもひとつの画面を折りたたむ構造を採用しているが、折りたたみの先駆者だった「M(Z-01K)」や「MEDIAS W」は狭額縁の2つのディスプレイを組み合わせることで、擬似的な大画面を実現していた。

 LG V50 ThinQ 5Gは本体に6.4インチの大画面ディスプレイを搭載しているが、本体に装着できる“ディスプレイ付きのケース”を用意することで、デュアルスクリーンを実現している。本体と“ディスプレイ付きケース”は側面の端子で接続される構造になっており、片方の画面にゲーム、もう片方の画面にコントローラーといった表示をできるようにしている。この構造は折りたたみスマートフォンに比べ、コスト的にも割安で、構造にもあまり無理がないため、安心して利用できるというメリットもある。

 また、LG G8 ThinQはZ Cameraによる静脈認証(Hand ID)やジェスチャー操作が特徴のモデルだが、静脈認証には可能性を感じるものの、ジェスチャー操作は過去に国内でも登場した事例からもわかるように、結果的にディスプレイをタッチしてしまうことが多く、今ひとつ実用性に課題を残すモデルと言えるかもしれない。

各社が注目する楽天の携帯電話ネットワーク

 今回のMWC19 Barcelonaで国内外のメディアに少なからず注目を集めたのが楽天だ。楽天は買収した欧州の映像配信サービスなどを手がける一方、サッカーのFCバルセロナのメインスポンサーということもあり、開催地であるバルセロナでは存在感を増している。そんな中、今年はMWC19 Barcelonaに出展し、日本での携帯電話事業のサービス開始を控えていることもあり、同社ブースには多くの関係者が詰めかけた。

楽天ブースでは欧州向けのRakuten TVをはじめ、各サービスのセッションなどが行なわれた

 楽天の携帯電話事業が業界内で注目を集めているのは、同社の携帯電話ネットワークに全面的に導入される「仮想化」というしくみだ。楽天によれば、同社の携帯電話ネットワークを参考にしたいという各国の携帯電話事業者からも問い合わせが増えているそうだ。

 この携帯電話ネットワークの仮想化について、かみ砕いて、わかりやすく説明すると、これまでの携帯電話ネットワークはエリクソンやノキアといったネットワーク機器を手がけるメーカーが開発した“専用機器”によって、構成されたのに対し、楽天はインテル製CPUを搭載した“汎用的なサーバー”に必要なソフトウェアを導入し、それらで同社の携帯電話ネットワークを動作させようとしている。

 こうした仮想化の技術は、今後、携帯電話ネットワークが進化していくうえで必要なものとされているが、実際にはまだ一部にしか適用されていないのが実状で、標準化なども現在進行形であるため、他の携帯電話事業者から見ると、楽天の取り組みはかなりチャレンジングだという指摘が多い。なかには「本当に何万、何十万、何百万のユーザーが利用する環境で、さまざまな事象に対応できるのか?」といった声もあり、同業他社からも注目を集めている。

 楽天の携帯電話サービスは、今秋・2019年秋のサービスインを予定しており、同社ブースで行なわれた日本の報道関係者向けの説明会では仮想化のほかに、基地局の工事など、エリア整備についての質問も多く聞かれたが、明確な基地局数の計画などを明らかにすることもなく、今ひとつ説得力に欠ける内容だった印象も残った。

法林 岳之

1963年神奈川県出身。携帯電話・スマートフォンをはじめ、パソコン関連の解説記事や製品試用レポートなどを執筆。「できるゼロからはじめるiPhone XS/XS Max/XR超入門」、「できるゼロからはじめるiPad超入門 Apple Pencil&新iPad/Pro/mini 4対応」、「できるゼロからはじめるAndroidスマートフォン超入門 改訂3版」、「できるポケット docomo HUAWEI P20 Pro基本&活用ワザ 完全ガイド」、「できるゼロからはじめるAndroidタブレット超入門」、「できるWindows 10 改訂4版」(インプレス)など、著書も多数。ホームページはこちらImpress Watch Videoで「法林岳之のケータイしようぜ!!」も配信中。