法林岳之の「週刊モバイルCATCH UP」

「Galaxy S10+」グローバル版で実感した10年目の進化

 2月に米国・サンフランシスコで開催された「Galaxy UNPACKED 2019」で発表されたGalaxy S10シリーズ。初代モデル以来、着実に進化を遂げてきたGalaxy Sシリーズだが、国内版の発売前に、グローバル版を試用することができた。今後、発売が期待される国内版とは仕様が異なるかもしれないが、海外で試用した印象を中心に、レビューをお送りしよう。

10周年を迎えたGalaxy Sシリーズ

「Galaxy S10+」(グローバル版)

 現在、スマートフォンのグローバル市場において、世界最大のシェアを持つサムスン。同社をトップに押し上げる原動力となったのがフラッグシップモデルの「Galaxy S」シリーズだ。

グローバル市場では10周年を迎えたが、国内では2010年5月のNTTドコモの2010年夏モデルの発表会において、当時の山田隆持代表取締役社長がグローバル市場で発売されたばかりのGALAXY Sを2010年秋に発売することを明らかにして、業界内を驚かせた。

当時はソフトバンクがiPhoneの取り扱いをはじめ、徐々にスマートフォン市場で勢いを見せ始めていたタイミングで、そのライバルとも言えるGALAXY Sを国内トップのNTTドコモが扱うということで、各方面で話題になった。

 翌年の2011年6月には2代目モデルの「GALAXY S II SC-02C」、同年11月には初のXi(LTE)対応の「GALAXY S II LTE SC-03D」、同年12月には初のNexusシリーズの「GALAXY Nexus SC-04D」などを相次いで発売した。2012年1月には初のWiMAX対応端末として、au向けに「GALAXY S II WiMAX ISW11SC」の供給を開始し、NTTドコモとauの両社のラインアップを飾ることになった。

 その後、2012年には初のおサイフケータイ対応の「GALAXY S III」、2013年には初のフルHD対応の「GALAXY S4」、2014年には初の防水防塵対応の「GALAXY S5」とモデルを重ね、着実に進化を遂げてきた。

 当時の「GALAXY S」シリーズはハイスペックが支持されただけでなく、発展途上中の感があったAndroidプラットフォームが安定動作すること、タッチパネルなどのレスポンスが優れていることなどが評価され、着実にユーザー層を拡大していった。

 2015年にはデザインを一新した「Galaxy S6」シリーズが発売された。「Galaxy S6」シリーズは「Project Zero」と呼ばれるコードネームで開発が進められていたモデルで、端末の設計をゼロから見直す一方、モデル名も「GALAXY」から「Galaxy」に変更するなど、「Galaxy S」シリーズとしての再出発を印象づけるモデルだった。

 フラットな画面の「Galaxy S6」に加え、現在のGalaxy Sシリーズの特徴ともなっているデュアルエッジデザインを初採用した「Galaxy S6 edge」、グローバル向けにはさらに大画面の「Galaxy S6 edge+」もラインアップに加え、より多くのユーザーのニーズに応えようとした。国内ではNTTドコモとauに加え、ソフトバンクからも発売されたが、ソフトバンク向けはこの1モデルのみで取り扱いを終了している。

 2016年には後継モデルとなる「Galaxy S7 edge」が発表され、再びNTTドコモとauから日本向けモデルが発売された。2017年には18.5:9という新しい縦横比のディスプレイを搭載した「Galaxy S8/S8+」が発表された。初代モデル以降、Galaxy Sシリーズ(Galaxyシリーズ全体)の特長のひとつだったホームボタンを廃し、前面のほとんどをディスプレイが覆う斬新なデザインを採用した。

 2018年に発表された後継モデルの「Galaxy S9/S9+」(現行モデル)はこのデザインを継承する一方、Galaxy S9+で業界初となるF1.5/2.4の可変絞り機能(デュアルアパーチャー)を持つデュアルカメラを搭載するなど、注目度が高いカメラに対するユーザーの期待に応えるモデルを投入してきた。

 そして、今年2月に米国・サンフランシスコで開催された「Galaxy UNPACKED 2019」で発表され、グローバル向けには3月から販売されているのがGalaxy S10シリーズだ。Galaxy S10シリーズにはディスプレイサイズやチップセットなどの違いにより、3つのモデルがラインアップされた。

 6.1インチディスプレイを搭載した「Galaxy S10」、6.4インチディスプレイを搭載した「Galaxy S10+」を主軸に据え、この2モデルと大きく変わらないスペックを保ちながら、5.8インチディスプレイを搭載し、ボディサイズや価格を抑えた「Galaxy S10e」というモデルがラインアップに加わっている。サムスンではGalaxy Sシリーズ以外のバリエーションとして、Galaxy Aシリーズなど、数多くのモデルを展開しているが、「Galaxy S10e」は新しい方向性のモデルであり、今後の展開が非常に注目されるモデルのひとつだ。

ボディカラーは背面のみにあしらわれる。プリズムホワイトは光の反射によって、いろいろな色が見える

 今回、筆者が試用することができたのは、Galaxy S10+のグローバル向けモデルで、発表会後から数週間、実際に試用してきた。ただし、試用している間に数回、ソフトウェア更新(アップデート)が公開されるなど、内容が少し変わっているうえ、グローバル向けモデルは海外での利用が前提となるため、必ずしも十分な試用になっていない点はお断りしておく。

 同時に、まだ日本向けモデルについてはどの携帯電話会社が取り扱うかといった部分も含め、まったく情報が開示されていないこともご理解の上でご覧いただきたい。

Galaxy S9+とほぼ同サイズ

Galaxy S10+(左)とGalaxy S9+(右)。サイズはほぼ同じだが、四隅の形状が若干、違うようにも見える

 まず、外観からチェックしてみよう。前述のように、Galaxy Sシリーズは10年をかけて、機能的にもデザイン的にも進化を遂げてきたが、過去に数回、デザインを大きく変更している。なかでもひとつの節目となったのがデュアルエッジスクリーンを採用したGalaxy S6 edgeで、その流れは今回のGalaxy S10/S10+にも受け継がれている。

 今回のGalaxy S10+のボディは、基本的に昨年のGalaxy S9+のボディデザインをほぼ継承しており、ボディの高さ(長さ)も幅も1mm以下の差しかない。逆に、ボディの厚みはGalaxy S9+の8.5mmに対し、Galaxy S10+は7.8mmまでスリム化され、重量は187gから175gに軽量化されている。このあたりはフレーム素材の変更によるものか、内部のパーツの変更によるものかは明らかにされていない。

下部にはUSB Type-C外部接続端子、3.5mmイヤホンマイク端子を備える
左側面には音量キーとBixbyキーを備える
右側面には電源キーが備えられているが、従来モデルに比べ、やや上(レシーバー側)にレイアウトされた

 ディスプレイは6.4インチのCurved Dynamic AMOLEDを採用する。解像度は3040×1440ドットで、Galaxy S9+に比べ、対角サイズで0.2インチ、解像度でも縦方向に80ドット広くなった計算になる。ただし、従来モデルで本体前面の最上段部分にカメラモジュールなどが内蔵されているのに対し、Galaxy S10+はほぼ最上段までディスプレイを拡げ、インカメラは後述するように、パンチホール内に収める形状を採用したため、縦方向に伸びている。ちなみに、画面の縦横比は従来モデルの18.5:9に対し、Galaxy S10+は19:9に仕上げられている。

 ディスプレイのDynamic Super AMOLEDは、スマートフォン初のHDR10+認証を取得しており、ダイナミックトーンマッピングなどの技術により、美しい映像の表示を可能にする。

 HDR10+は昨年あたりから家庭用テレビの販売やコンテンツの配信が始まった規格で、シーン単位で最大輝度のメタデータを提供することにより、最大輝度が限られた環境(ディスプレイ)でも制作者が意図した明るさの映像を楽しむことができる。

 家庭用テレビではミドルクラス以下の製品に効果的と言われていたが、スマートフォンにとっても効果的で、YouTubeで公開されているHDR10+対応コンテンツを再生したところ、他機種よりも白つぶれなどがない状態で映像を楽しむことができた。

 ボディはIP68準拠の防水防塵に対応しており、ボディカラーはプリズムホワイト、プリズムブラック、プリズムグリーン、プリズムブルー、セラミックホワイト、セラミックブラックの6色がラインアップされる。

ホーム画面はシンプルな構成。おなじみの天気アプリもプリセットされている
出荷時にAndroid 9 Pieがプリインストールされているが、上方向にスワイプすれば、アプリ一覧が表示される
通知パネル内には便利な機能のショートカットが並ぶ。ワイヤレスパワーシェアもここから操作する。

ハードウェアのスペックも向上

 チップセットは発売される国と地域によって異なり、スペック表では「7nm 64ビットオクタコア(最大2.8GHz+2.4GHz+1.7GHz)」と「8nm 64ビットオクタコア(最大2.7GHz+2.3GHz+1.9GHz)」と表記されている。前者が米Qualcomm製Snapdragon 855、後者がサムスン製Exynos9820になる。

 メモリーとストレージは、RAMが8GB/12GB、ROMが128GB/512GB/1TBのモデルがラインアップされる。microSDカードは最大512GBまで対応する。メモリーとストレージも、発売される国と地域によってどの組み合わせが採用されるかはわからないが、国内向けに発売されればトップクラスのスペックになりそうだ。ちなみに、筆者が試用したデモ機はRAM 8GB、ROM128GBのモデルだった。

 本体には4100mAhの大容量バッテリーを搭載しており、充電はQC2.0準拠の急速充電やWPC/PMA準拠のワイヤレス充電に対応するほか、Fast Wireless Charging 2.0による急速充電も利用できる。

ワイヤレスパワーシェアを起動するとこの画面が表示され、端末の背面側にワイヤレス充電に対応した機器を置くと給電される

 電源周りの注目機能としては、「パワーシェア」と呼ばれるワイヤレス給電が挙げられる。他のQi対応(ワイヤレス充電対応)スマートフォンに給電できるだけでなく、同時に発表されたフルワイヤレスイヤホンの「Galaxy Buds」などのウェアラブルデバイスにも給電できる。筆者も実際にGalaxy Budsを利用してみたが、元々、Galaxy Budsのケースにバッテリーが内蔵されていることに加え、端末からも給電できる環境が整っているため、イヤホンのバッテリー切れを心配せずに使うことができた。

少しわかりにくいが、Galaxy Budsのケースの中央部分にあるLEDが点灯していることから、ワイヤレスで充電されていることがわかる

 ボディ周りでもうひとつ大きく変更されたのは、Galaxy Sシリーズ初となるディスプレイ内指紋センサーを採用することだ。ディスプレイ内指紋センサーは、他機種が内側から光を当てて読み取る光学式を採用しているのに対し、Galaxy S10+では米Qualcommが開発した超音波式指紋センサーを採用しており、光学式よりも高速な認証を可能にしている。

指紋の登録はわかりやすい。ロック解除の操作も画面に軽く触れるだけで解除できる
顔認証にも対応しているが、よりセキュアに使うのであれば、指紋センサーがおすすめ

 デモ機を入手以来、何度も使っているが、光学式は指を押しつけるような操作を要するのに対し、超音波式は画面に軽く指先を乗せるような操作で認証ができ、読み取りも非常にスムーズな印象だ。

 ちなみに、こうしたディスプレイ内指紋センサーは市販の保護シートや保護ガラスを添付した場合、指紋を認識しにくくなるという指摘もある。昨年、NTTドコモがドコモショップ店頭での販売と貼付を提供した「DOME GLASS」の販売元であるWhite StoneがMWC19 Barcelonaに出展しており、話を聞いたところ、同社のDOME GLASSはすでにGalaxy S10/S10+の超音波式指紋センサーでの動作を確認しているとのことだった。もし認証がスムーズに動作しない場合は、指紋を再登録することで問題なく利用できるとのことだ。日本向けにGalaxy S10/S10+が発売されたときは、こうした動作確認の情報をチェックしたうえで、保護シートや保護ガラスを貼付することをおすすめしたい。

SIMカードはnanoSIMに対応。microSDメモリーカードは最大512GBまで対応
純正アクセサリー「LED View Cover」は、背面にLEDが内蔵され、さまざまなグラフィック(ドット絵)をアニメーションさせながら表示できる

Galaxy Sシリーズ初のトリプルカメラ搭載

超広角、広角、望遠のトリプルカメラを搭載。超広角側は指がかかりやすいので、注意が必要だ。

 今回のGalaxy S10+がもっとも大きく進化を遂げたのはカメラだろう。今回発表されたGalaxy S10/S10+/S10e/S10 5Gはいずれもカメラ機能が強化されているが、なかでもGalaxy S10+はライバル機種への対抗も含め、かなり力が入っている印象だ。

 スペックとしては、16Mピクセルで画素ピッチ1.0μm、1/3.1インチのイメージセンサーにF2.2のレンズを組み合わせ、123度の画角の超広角カメラ、12Mピクセルで画素ピッチ1.4μm、1/2.55インチのSuperSpeedデュアルピクセルイメージセンサーにF1.5/2.4の絞り可変機能を備え、77度の画角の広角カメラ、12Mピクセルで画素ピッチ1.0μm、1/3.6インチのイメージセンサーにF2.4のレンズで45度の画角の望遠カメラで構成するトリプルカメラとなっている。

 他メーカーでもトリプルカメラに取り組んだ製品が発売されているが、広角カメラのF1.5/2.4の絞り可変機能など、他機種にはない独自の仕様を持つ。トリプルカメラは背面側から見て、右に超広角カメラ、中央に広角カメラ、左に望遠カメラの順に並んでおり、超広角カメラの右側にはLEDフラッシュが搭載される。それぞれのカメラの焦点距離などは明らかにされていないが、広角カメラを標準として、超広角が0.5倍、望遠で2倍となっており、最大10倍のデジタルズームも搭載される。

ディスプレイのパンチホールにインカメラが収められている

 インカメラについてはディスプレイの右上にパンチホールが空けられ、そこにカメラが内蔵される。ひとつは10MピクセルのイメージセンサーにF1.9のレンズを組み合わせた80度の画角のセルフィーカメラで、オートフォーカスにも対応する。もうひとつは8MピクセルのイメージセンサーにF2.2のレンズを組み合わせた90度の画角のRGB深度カメラで、背景を自然にぼかした自分撮りを簡単に撮影できるようにしている。

 ディスプレイ内のパンチホール式のカメラは白い背景のときにやや目立つ印象もあるが、プリセットされる壁紙は右上を暗くするなど、目立たなくする工夫をしている。

超広角で撮影。広角に比べると、多少の歪んだ印象もあるが、これだけのワイド感を持つ写真が撮れるのは面白い
広角で撮影。超広角よりも自然な印象。青空も自然に撮影できてい
望遠で撮影。手に持ったままの撮影だったが、特にぶれることもなく、クッキリと撮影できている
BMW博物館の中で撮影。色のバランスも良好で、照明もうまく活かされている
いつもの暗いバーで撮影。ややノイズが多い写真になってしまった。国内向けモデルが登場したときに、もう一度、撮影を試みたい

 実際の撮影については、試用中にソフトウェア更新なども適用されたため、ここに掲載したサンプル写真が最終版だとは考えないで欲しいが、暗い室内でも明るい屋外でもバランス良く、美しい写真を撮ることができた。

 ただ、実際に撮影するとき、少し気をつけたい点もあった。Galaxy S10+は背面中央の上側にカメラが横に並ぶレイアウトとなっているが、端末を横にして撮影するとき、超広角を選ぶと、指がかかってしまうことが何度も起きた。恥ずかしながら、筆者も実際に撮った写真をパソコンに取り込むまで気が付かなかったのだが、横向きに構えて超広角で撮るときはよくファインダー内を確認しながら撮影するように心がけたい。

 また、同じく端末を横向きに構えたとき(右手側が底面側)の注意として、画面上に「Bixby Vision」のボタンが表示されるため、誤ってタッチしてしまうことが何度かあった。これはAndroid 9 PieにバージョンアップしたGalaxy S9/S9+も同じユーザーインターフェイスになっているため、現行機種のユーザーも同じような体験をしたかもしれないが、この部分も撮影時に誤ってタッチしないように注意が必要だ。

国内向けモデルの展開に期待

 国内外のスマートフォンの市場において、この10年近く、常にトップクラスの製品を供給し、市場を牽引してきたGalaxy Sシリーズ。これまでのモデルで培われてきたノウハウを活かしながら、ライバル製品にもしっかりとキャッチアップし、Galaxyならではの機能も搭載することで、非常に完成度の高い製品に仕上げられている。

 今回試用した製品はグローバル向けモデルだが、おそらく今夏には国内向けにもほぼ同じ仕様の製品が投入されるはずだ。どの携帯電話事業者から発売されるのかはまだわからないが、各社からの発表を楽しみに待ちたい。

 ちなみに、先般、本誌でもお伝えしたように、サムスンは3月12日、東京・原宿に常設ショールーム「Galaxy Harajuku」をオープンさせており、本稿で取り上げたGalaxy S10シリーズも展示されている。春休みから連休シーズンへかけて、もし、時間が許すようであれば、ぜひ一度足を運んでいただき、Galaxy S10シリーズの完成度の高さを実感していただきたい。

法林 岳之

1963年神奈川県出身。携帯電話・スマートフォンをはじめ、パソコン関連の解説記事や製品試用レポートなどを執筆。「できるゼロからはじめるiPhone XS/XS Max/XR超入門」、「できるゼロからはじめるiPad超入門 Apple Pencil&新iPad/Pro/mini 4対応」、「できるゼロからはじめるAndroidスマートフォン超入門 改訂3版」、「できるポケット docomo HUAWEI P20 Pro基本&活用ワザ 完全ガイド」、「できるゼロからはじめるAndroidタブレット超入門」、「できるWindows 10 改訂4版」(インプレス)など、著書も多数。ホームページはこちらImpress Watch Videoで「法林岳之のケータイしようぜ!!」も配信中。