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5G人口カバー率が98.1%まで拡大、その一方で進まない「5Gのマネタイズ化」の影響とは

 総務省が8月30日、2023年度末の5G整備状況を発表した。今回は、前倒しで5G人口カバー率の整備が進む一方で、携帯会社にとっての課題や次の投資先などについて見ていきたい。

 総務省の発表によると全国の5G人口カバー率は98.1%と、2025年度末の目標だった97%を2年、前倒しで達成した。また、各都道府県別の5G人口カバー率は、2023年度末で87.7%~99.9%でこちらも前倒しの達成となっている。

 2022年3月に策定され、2023年4月に改訂版が発表された「デジタル田園都市国家インフラ整備計画」によれば、2つの整備目標が掲げられている。

  • ・全国の5G人口カバー率: 2023年度末 95%、2025年度末 97%、2030年度末 99%
  • ・都道府県別の5G人口カバー率:各都道府県2025年度末90%程度以上、2030年度末99%
図:5Gの整備状況(令和5年度末(2023年度末)
出典:総務省

 国内で5Gサービスがスタートしたのが2020年3月で、2024年3月末時点の5G契約数は9237万件と携帯契約者全体の41.6%まで普及が進んでいる。
 5G普及の陣頭指揮を取る総務省は、新規周波数割り当ての際、携帯各社に5Gインフラの整備計画を提出させ、これに携帯各社はオブリゲーション(義務・責任)を果たしてきた。しかし、5Gが前倒しで整備されているにも関わらず、現時点における携帯利用者の関心は低く、5Gならではのキラーアプリケーションも見当たらない。

 背景には、携帯各社の5Gエリア整備が、展開スピードやコストを重視し、4Gの交換機に5GをつなぐNSA(ノンスタンドアローン)方式を優先した結果、「超高速大容量」「超低遅延」「多数同時接続」といった5G本来の通信品質を十分に発揮できていないことが大きい。ピュア5Gと呼ばれるSA(スタンドアローン)方式は、現状でも本格展開ができていない。つまり、98.1%という5G人口カバー率はLTE周波数のNR化による点が大きいということだ。

 事情はミリ波の活用も同じだ。総務省は5Gの新規周波数割り当ての際に、携帯各社それぞれに400MHz幅を割り当てたにも関わらず、その使い勝手の難しさから、ほとんど普及が進んでいない。

 総務省としては、5Gインフラの更なる普及促進へ向け、SAやミリ波などに新たな整備目標を設定することを検討しているとされる。しかし、携帯会社としてはこれまで要求基準はクリアしてきたし、更に厳しいハードルを課されることをすんなりと受け入れるか甚だ疑問だ。

 むしろ携帯会社の投資先は、5GではなくAIやLLM構築など「非通信領域」に向かっている。KDDIとソフトバンクは5月、これまで進めてきた5Gネットワークの共同構築に関して対象を全国に拡大し、1200億円のコスト削減を目指す。その一方で、KDDIは大規模計算基盤の整備については、経済産業省からの補助金を活用し中長期で1000億円規模の設備投資をしていく。ソフトバンクと同様に6月に閉鎖したシャープの堺工場を活用してAIデータセンターを構築するほか、既にデータセンターを設置している東京都多摩市でも、データセンターの増設を決めた。

 「5Gのマネタイズ化」が進まない状況下で、RAN(無線アクセスネットワーク)への投資は、高い周波数帯域を利用する5Gでは基地局数が増え、4Gなどと比較すると収益性は低下する。RANへの投資はほどほどに携帯各社の『非通信領域』への投資拡大が本格化していきそうだ。

IT専門の調査・コンサルティング会社として、1993年に設立。 主に「個別プロジェクトの受託」「調査レポート」「コンサルティング」サービスを展開。 所属アナリストとの意見交換も無償で随時受け付けている。 https://www.mca.co.jp/company/analyst/analystinfo/