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シャープが描く近未来の世界とは、「SHARP Tech-Day'24」を少しだけ覗いてきた

専務執行役員CTO兼ネクストイノベーショングループ長の種谷元隆氏

 シャープは、9月17日~18日に東京国際フォーラム(東京都千代田区)で「SHARP Tech-Day'24 “Innovation Showcase”」を開催する。同社の最新技術、ソリューションが展示されるほか、技術部門トップによる基調講演などが行われる。

 今回は、一足早く当日の展示の一部を見ることができた。記事後半では、同社CTOのイベント紹介や最新技術の動向をお伝えする。

DynabookブランドのXRグラス

 シャープ傘下のDynabookが展開するブランドを冠した「Dynabook XRソリューション」は、XRグラスを通じてAIがコミュニケーションをアシストするもの。XRグラスは透過型で、視野はそのままに情報を確認できる。

 たとえば、誰かと会話する際に相手が外国語を話していると、AIが相手の声を認識し自動翻訳、グラスを通じて翻訳を文字で確認できる。視野はそのままに翻訳を確認できるので、相手との視野を確保しながら自然な会話が楽しめる。

 また、グラスにはカメラを搭載しており、見えている視野を拡大表示することもできる。将来的にはカメラからの映像をもとにAIを活用した機能も搭載できるとしている。

プロセッサー部とグラスはコードでつながる
表示されている内容
透過型で情報が表示

CE-LLM

 シャープのエッジAI「CE-LLM」を使ったチャットでは、ユーザー端末上で駆動するエッジAIと、サーバー上で動作するクラウドAIをうまく組み合わせたAIチャットボット。

 エッジAIで回答できる内容では、1秒程度で回答できるが、クラウドAIを使用する場合、通信などでエッジAIほど素早く回答することは難しい。2秒程度かかってしまうと、人間側が違和感を感じてしまい、うまく会話のキャッチボールができなくなってしまう。

 CE-LLMでは、クラウドAIが必要になった際「ちょっと待って」や「なんだろう」といった相づちのコメントを出すことで、相手が人間のような自然な会話ができる。

対話型UX

 先述のCE-LLMを活用したソリューションの1つに、対話型UXがある。テレビなどに導入が期待されるもので、CE-LLMによる自然な会話や、テレビに備えられたバイタルセンサーをもとにしたヘルスケア相談が利用できる。ヘルスケア相談では、運動のトレーナーや食事の提案などが考えられている。

 食事の提案を受けた際は、たとえば同社の無水鍋調理器ヘルシオなどの家電と連携でき、シームレスかつ自然に生活に溶け込むことができる。

パーソナルトレーナー
バイタルセンサー
非接触でユーザーのデータを収集
フィットネスの提案
ユーザーの骨格を認識しトレーナーとしてユーザーをサポート
メニューを提案。そのままヘルシオと連携もできる

サラダが温まらない電子レンジ

 「エリア別洗濯加熱技術」は、電子レンジ内部のエリア別に加熱具合を調整できるソリューション。

 たとえば、市中で販売されている弁当は、白米やおかず、サラダや漬物などが1つのプレートに乗せられて提供されている。通常このまま電子レンジで温めると、サラダや漬物など本来冷えた状態であるものまで温まってしまう。

 このソリューションでは、エリアごとに加熱具合を調整できるため、先述の例では、白米やおかずは暖かく、サラダや漬物は冷えたままで調理できる。

調理後のサーモカメラを見ると、領域ごとに温度が違う
通常のレンジと同様

 これを活用すると、たとえば冷凍のお弁当を加熱調理しても、温めるべきものだけ加熱されるようにできる。現段階ではエリアを指定しての調理となるが、将来的にはカメラとAIでユーザーが指定しなくても自動で温め具合を調整できることも考えられる。

近未来に実現を目指すさまざまな技術を展示

専務執行役員CTO兼ネクストイノベーショングループ長の種谷元隆氏

 専務執行役員CTO兼ネクストイノベーショングループ長の種谷元隆氏はイベント開催の意義を、ユーザーやさまざまなステークホルダーからの声を聞く機会だとコメント。それぞれの製品の市場で同社の独自技術をどう実現していくか、ユースケースを体験できる場を用意することで、一般消費者はもちろん、ベンダーなどと近未来の世界観を共有し、ユーザーの求めている機能などを得る機会になっている。

 今年のイベントでは、全体を5つのゾーンに分け、50以上のテーマが展示される。前年度より2割程度展示テーマ数が増えており、展示のおよそ半分は前年度の展示をアップグレードしたものに、網半分が新規で開発、展示されるものになる。

 種谷氏は、同社について「100年を超える歴史の中で、独自の技術で新しい価値を世の中やユーザーに提案し、共鳴してもらうことで成長した」とし、今回のEV自動車のような新しい領域や市場に広げていくことが、同社が掲げる“ネクストイノベーション”の方向性とコメントする。

 今後の施策の1つとして、これまで短期間での開発を主導してきた「緊急プロジェクト」を進化させ、5月から「イノベーションアクセラレートプロジェクト」(I-Pro)を始動させた、CEO主管のプロジェクトで、全社から人員を集め革新的な新規事業の早期立ち上げと開発を目指すもの。現在は、生成AI関連とEVエコシステム関連で取り組みが進められており、いわゆる同社の研究開発における注力領域にあたる。

生成AIは「AIoT 3.0」の世界を実現へ

 同社では、早くからAIとIoTを組み合わせて、“白物家電”の領域で取り組みを進めてきた。同社はこれを「AIoT」と呼び、AIoT 1.0では家電で料理のレシピを直接ダウンロードする機能やリモート制御などを実現、進化した2.0では、複数の家電や他社の機器と連携し、アプリの統合や他社サービスとの連携などを実現した。

 同社が目指すAIoT 3.0の世界では、領域をさらに広げ、ヘルスケア領域などユーザーの生活向上が期待される機能や、高齢者の見守りや防災関連など地域の社会課題解決を目指すソリューションもすすめているという。

 種谷氏は、「AIを使うことで、ユーザーの生活そのものが自然になる“Act Natural”を目指す」とコメント。人が機械にあわせて生活するのではなく、人間があわせなくても機械や機能を使いこなすことができる世界を目指している。

 同社のエッジAI「CE-LLM」もその取り組みの1つで、エッジAIとクラウドAIを用途に合わせて切り替えたり、ユーザーにAIの処理を見える化したりすることで、より人間に寄り添ったAIに進化した。

EVコンセプトモデル「LDK+」

 もう1つの注力領域であるEVエコシステムでは、今回のイベントでEVコンセプトモデル「LDK+」が展示される。このモデルでは、自動車が止まっている時間に着目し、社内をリビングルームの拡張空間としてとらえたイメージで開発されている。

 つまり、自宅の車庫に停まっている車両を生活空間にするイメージで、車内にはプライベート空間を演出する液晶シャッターや大型ディスプレイ、プラズマクラスターイオン発生器などを設置。自宅内の機器とつながりAI技術が加わることで、家全体の住空間を最適化できる取り組みが進められている。

 種谷氏によると、EV自動車業界への参入を目標に開発を進めており、発売年度は検討中としながらも数年後を1つの目処として進められている。車両は、鴻海(Foxcomm)のプラットフォームを使っているが、開発やバリューチェーンの役割分担などは今後鴻海側と調整することになる。

種谷氏

 今回のプロジェクト「I-001プロジェクト」チームのチーフ、長田俊彦氏は、今回のコンセプトモデルの特徴を「家の中の機器と自動車が繋がることでいろいろな価値が生まれること」と捉えている。たとえば、家のリビングと自動車空間がデータ連携することで、よりユーザーのパーソナルデータを収集でき、個人に合わせた快適な生活環境や移動環境を提案することができるようになる。

I-001プロジェクトチームのチーフ 長田俊彦氏