ケータイ用語の基礎知識

第879回:MaaSとは

自家用車を所有せず、移動できる

 MaaSとは、英語の「Mobility as a Service」の略です。マース、またはマーズと呼びます。日本語にそのまま訳すと「サービスとしてのモビリティ(移動できること)」になりますが、それよりも「SaaS」「PaaS」「IaaS」といった、IT用語の「as a Service」に似た発想を交通機関にも適用したと考える方が近いでしょう。

 SaaSは、利用者がソフトウエアを「所有せず」とも、使いたい時だけクラウド上の仮想のソフトウエアを「使用でき」ます。MaaSも、ユーザーが自家用車を「所有せず」に利用したい時に「移動できる」ようにする、という考え方です。

 MaaSの例としては、たとえば、自動車を複数の利用者で共同で使う「カーシェアリング」、クルマに相乗りする「ライドシェア」などが挙げられます。2018年現在、カーシェア、ライドシェアは世界で徐々に認知されてきています。日本ではライドシェアは現在は法律で禁止されていますが、いずれ解禁されるとみて、さまざまな研究を重ねている企業などもあります。

 また、カーシェア、ライドシェアに限らず、スマートフォンでタクシーを呼び出し、乗車後の決済も行える「タクシー配車アプリ」、スマートフォンで配車を呼び出せる「オンデマンドモビリティ」や、一部の地方公共団体で進んでいる「シェアバイク」の利用などもMaaSの括りに入れることがあります。

 ただし、現在のカーシェア、ライドシェアには無駄な点もあります。たとえば、カーシェアでは自動車を借りた場所に使い終わったら返さなければならない、という制約があります。出発地点と目的地が違っていた場合、目的地で他の人がそこからさらに他の場所へ自動車を使えればいいのですが、現状のカーシェアではそれができません。

 また、ライドシェア、タクシーともそうですが、人間が運転するため、客が急激に増えた場所にサービスを集中させるということができません。SaaSなどではクラウド上の計算機が普段は限られた数だけ稼働し、多客時は仮想計算機環境を一斉に増やして対応するというようなことをするのですが、現状の自動車では運転手という有限のリソースが必要な以上、そういったことができないわけです。

 そこで、注目されるのが、コンピューターや通信技術の進化と、このMaaSの相性の良さです。

 自動車を自動運転できるようになれば、カーシェアリングは、使用後に自動的に元の場所に戻れるようになるし、タクシーとして使えば、利用者が多い時は一斉稼働、利用者が少ない時は駐車場で停止ということもできるようになるでしょう。

欧州では「MaaS」を掲げてサービスする企業も

 さらにいえば、欧州企業が中心となってできた「MaaS Aliance」では、「複数の交通サービスを、オンデマンドで利用できる単一のモビリティサービスに統合すること」とMaaSを定義しました。つまり、呼び出して使えるだけでなく、それが複数の手段をまたがっていても、決済などがあたかも一つであるかのように使えればよし、とするようになったのです。

 実際に、欧州ではそのようなMaaSが誕生しました。フィンランドの「Whim」がそうです。利用者が目的地を示し、Whimが提示するいくつかの通行経路から、最適な手段をスマートフォン上で予約すると、乗車、決済まで一括して行え、実際に交通機関を利用するときには、スマートフォンのアプリ画面を提示するだけで、その交通手段を利用できます。

 Whimが提示する交通手段には、タクシーやバイクシェア、カーシェア、徒歩のほか、電車やバスなどの公共交通機関もありますが、このWhimによってユーザーの交通利用状況は、サービス開始前では自家用車が40%を占めていましたが、サービス開始後の2016年には自家用車は20%に減少したとされています

大和 哲

1968年生まれ東京都出身。88年8月、Oh!X(日本ソフトバンク)にて「我ら電脳遊戯民」を執筆。以来、パソコン誌にて初歩のプログラミング、HTML、CGI、インターネットプロトコルなどの解説記事、インターネット関連のQ&A、ゲーム分析記事などを書く。兼業テクニカルライター。ホームページはこちら
(イラスト : 高橋哲史)