ケータイ用語の基礎知識

第832回:完全ワイヤレスステレオ(TWS) とは

配線を完全に無線化

ソフトバンクC&Sから12月に発売される「Sound Air TW-5000」
アップルのAirPods

 「完全ワイヤレスステレオ」はケーブルなしで楽曲をステレオ再生することを意味する言葉です。これを意味する「True Wireless Stereo」という英語から「TWS」と呼ばれることもあります。

 最近は、この完全ワイヤレスステレオをうたうスマートフォン向けイヤホンが増えてきています。こうした製品は「完全ワイヤレスイヤホン」と呼ばれます。

 楽曲を再生するには、一般的にプレーヤーやアンプといった機器と、ヘッドホンやイヤホン、スピーカーのといった音を出す機械をケーブルで繋ぐ必要があります。そしてステレオ、あるいはサラウンドで楽しむには2個以上のスピーカーを繋ぐ必要があります。

 一方、ワイヤレスのヘッドホン/イヤホンは、プレーヤーからの配線はありません。それでもこれまでは左右のスピーカー同士はケーブルで繋ぐ形です。しかし「完全ワイヤレス」をうたう製品では、そうした配線をなくしています。つまりプレーヤーとスピーカー/イヤホン、そして左右のスピーカーやイヤホンの配線をワイヤレス化しているのです。

 完全ワイヤレスステレオを実現する手法としてBluetoothが使われるのが一般的です。

Bluetoothで完全ワイヤレス

 Bluetoothの規格には、完全ワイヤレスステレオの定義があるわけではありません。規格自体は非常に柔軟ですので、これを利用して完全ワイヤレスなステレオ機器を作るのは可能です。

 Blueotoothでは、無線で機器をつなぐ際に親機(マスター)と子機(スレーブ)が存在します。しかし音楽データを流すBluetoothの仕組み(プロファイル)「A2DP(Advanced Audio Distribution Profile)」では、ひとつのメイン機器から複数のスレーブ機器へ楽曲データを同時に流すことはできません。

 ただしBluetoothでは、ひとつの機器がメインとスレーブを兼ねることもできるので、たとえば、イヤホンのひとつを「マスター・スレーブを兼ねる」動作をさせるようにします。右側のイヤホンはプレーヤー(スマートフォン)のスレーブ、なおかつ、もう一方のイヤホン(左側)のマスターになることができるわけです。

 つまり「プレーヤー」→「イヤホン(右)」→「イヤホン(左)」と、左右のイヤホンを完全に無線でつなぐことができるわけです。

 たとえばスマートフォンから、いったん音楽データを流します。そうするとまずは「イヤホン(右)」が音を左右に分離し、自分が右の音を、もうひとつのイヤホンが左の音を、同期させながら再生させるわけです。

 スマートフォンなどへの接続を考慮した完全ワイヤレスイヤホンは、片方の音を切ってモノラル再生に切り替えたり、オーディオ再生用のプロファイルA2DPではなく、ヘッドセット用のプロファイル(HSP)、ハンズフリー用プロファイル(HFP)に切り替えられるものも存在します。音楽を聴くだけでなく、通話用としてもスマートフォンの場合使われることがあるので、このような仕組みが備わっているわけです。

大和 哲

1968年生まれ東京都出身。88年8月、Oh!X(日本ソフトバンク)にて「我ら電脳遊戯民」を執筆。以来、パソコン誌にて初歩のプログラミング、HTML、CGI、インターネットプロトコルなどの解説記事、インターネット関連のQ&A、ゲーム分析記事などを書く。兼業テクニカルライター。ホームページはこちら
(イラスト : 高橋哲史)