石川温の「スマホ業界 Watch」

通信品質で苦戦続くドコモ、その裏で進むKDDIとソフトバンクの「次の一手」とは

 NTTドコモがネットワークの品質改善で苦戦する中、KDDIとソフトバンクがさらに先手を打ち始めている。

 両社ともネットワークに新技術を導入して競争力を上げ、顧客満足度の向上を狙う構えだ。

 KDDIはすでにSub6やミリ波の基地局を業界最多の約5.6万局、展開する。5G SAエリアも現在は人口カバー率で50%超となっているが、4Gで使われていた周波数帯を5Gに転用することで、2026年1〜3月には人口カバー率で90%超を目指す。

 2020年に5Gがスタートしたが、当時は4Gにつながりつつ、その後、5Gの設備に切り替わるという「5G NSA」が中心であった。また、衛星が使う電波との干渉もあり、5Gのエリアを思ったよりも広げられないという状況もあった。

KDDIの松田社長

 そんななか、数年かけて衛星との干渉を回避。5Gエリアを一気に広げることが可能となり、5Gの設備のみでつながる「5G SA」も順調に広がっていった。

 KDDIではコンシューマ向けに5G SAエリアにおいて「5G Fast Lane」を提供する。繁華街や通勤・通学時、大規模のイベントなど混雑するような場所でも快適にデータ通信が利用できるサービスだ。

 5G SAでは「スライシング」という、用途に応じてネットワークをスライスしてユーザーに提供するサービスを実現できる。5G Fast Laneはスライシングではないが、KDDIとしては法人向けにスライシングを生かしたサービスの提供も視野に入れている。

 ただ、こうしたサービスはOSを提供する側との調整も必要となるとしている。

 5G SA展開と共に注目したいのが「ミリ波」だ。

 ミリ波は5Gの特長である大容量のサービスを実現できると期待されている周波数帯だが、周波数の特性上、アンテナの前に人が立っただけでも通信ができなくなるなど、扱いが難しいとされている。

 現状、各キャリアでもミリ波でのサービスを提供しているものの、スタジアムやキャリアショップなどスポット的にしか提供できていない。

 KDDIの松田浩路社長は「個人の思いも強くある」として、ミリ波の展開に前向きだ。

 同社では本社のある高輪ゲートウェイで実証実験を展開。Netflixの動画、1話分を1秒でダウンロードしたり、ソニーのカメラで撮影した80枚の画像を80秒でアップロードできるという特長を紹介した。

 ミリ波に関しては、こうしたユースケースが限られているという点に加えて「対応端末が少ない」という状況がある。まさに「エリアがないから端末が出てこない」し、「端末がないからエリアが広がらない」という鶏と卵になってしまっている。

そんななか、松田社長は端末メーカーの交渉について「自ら陣頭指揮を執りながらやっていきたい」と宣言した。

 すでにGalaxyやPixel、Xperiaなどはミリ波対応スマートフォンを出していることを考えると、松田社長はアップルに対して「ミリ波対応iPhone」の日本投入を交渉する気なのかもしれない。

 実際、アップル関係者に「日本のiPhoneはミリ波に対応しないのか」と聞いたところ「キャリア次第」という感触だったことを考えると、来年あたり日本にミリ波iPhoneが上陸する可能性もゼロではなさそうだ。

新技術に意欲的なソフトバンク

 一方、ソフトバンクもネットワークに新技術を次々と導入している。

 たとえば、今年9月に5G SAに対応したApple Watchが登場した際には5G SAで動作する次世代のIoT向け通信規格「5G RedCap」を他社に先駆けて導入した。

 5G RedCapはスマートウォッチだけでなく、将来的には監視カメラなどでの活用が期待され、今後、Cat.4といったLTEベースのIoT向け通信規格の移行先としての利用が見込まれている。

 また、ソニー「Xperia 10 VII」発売時にVoNR(Voice over NR)という、5G SAのネットワーク上で音声通話を実現する技術もいち早く導入している。

 実は5Gネットワークが広がっていても、現在のスマートフォンでは音声通話時、4Gネットワークベースの「VoLTE」につながっている。通話が始まる際、5Gから4Gに一時的に切り替わる必要があった。

 VoNRにより、発信から通話接続までの時間が短縮され、さらに通話中に5G SAによるデータ通信が可能になるというメリットがある。

 ソフトバンクの宮川潤一社長は「ネットワークはKDDIに一歩遅れている結果が出ているようだが、私自身はそんなに見劣りしているとは思わない。ネットワーク戦略上、我々のほうが設計は上手ではないか。

ソフトバンクの宮川社長

 ソフトバンクとしては通信以外の事業を伸ばすものの、成長しつづけるにはユーザーからいただく通信料収入を多くしないといけない。(他の事業と通信の)複合型で提供して、回収していく。そんななか、ありとあらゆる新技術は(儲けの)タネになる。AIが出てきたからといって、ネットワークへの投資を弱めるつもりはない。技術的に攻め続け、手は緩めない」と語った。

 KDDIとソフトバンクは早いタイミングで4Gの周波数帯で5Gを展開。業界からは「なんちゃって5G」と揶揄されながら、着実に5Gエリアを広げ、5G NSAから5G SAへの早期転換を実現した。

 一方、「瞬速5G」として、4G転用ではなく5Gの周波数帯にこだわったNTTドコモは、いまだに5G SAエリアを満足に展開できず、Opensignalの5G SA品質調査では、調査対象外となる始末。

 楽天モバイルはようやく5G SAを本格的に始めようと準備をしている段階だ。

 結果として「なんちゃって5G」からスタートした2社が、競合を引き離し、5G SAによって新たな価値を提供しつつあるというわけだ。

石川 温

スマホ/ケータイジャーナリスト。月刊誌「日経TRENDY」編集記者を経て、2003年にジャーナリストとして独立。携帯電話を中心に国内外のモバイル業界を取材し、一般誌や専門誌、女性誌などで幅広く執筆。