藤岡雅宣の「モバイル技術百景」
フェス会場や駅など身近なところにも広がる「ローカル5G」
2026年6月30日 00:00
日本にはローカル5Gという制度があります。通信事業者でない企業や自治体が個別に無線局免許を取得して、自らの建物や敷地内にスポット的に自営の5Gネットワークを構築する制度です。このローカル5Gが私たちの身近なところにも広がり始めています。
そこで今回は、ローカル5Gとは何か、そしてその基本的な構成について簡単に解説したあと、どのようなところでローカル5Gが使われるか、今後の可能性も含めていくつかの事例を紹介します。そして、ローカル5Gの技術的な特長と課題、多様な利用形態、AI利用の可能性などについてまとめます。
ローカル5Gとは
私たちが普段、広く全国どこでも利用しているモバイル通信事業者のネットワークとは別に、特定のエリアや目的のために構築される無線通信ネットワークがあります。たとえば、鉄道用や防衛用の無線、地方自治体の防災行政無線などは古くから存在し、それぞれ専用の周波数が割り当てられてきました。
ローカル5Gも、これらと同じ特定のエリアで限定運用するネットワーク(自営網)の一種です。しかし、大きく異なるのは用途の制限がない点です。自身の土地や建物の敷地内(または利用権を持つ場所)であれば、工場などの産業用途はもちろん、商業施設のエンタメ演出、農業の自動化から全く新しいビジネスにいたるまで、どのような目的でも国から無線局免許を取得できます。
いわば、国から自由に使える5Gの電波を直接レンタルできる制度であり、アイデア次第でどんな用途の基盤にでも仕立て上げることができる、非常に自由度の高い「白紙のキャンバス」のような無線通信システムです。
そのような従来にはなかった制度であるローカル5Gの免許交付は、実はモバイル通信事業者が5Gの商用サービスを開始するよりも早い2019年12月にスタートしました。当初は国の後押しもあり、様々な業界で活発な実証実験(PoC:Proof of Concept)が行われ、多くの分野でその実用性が検証されました。
しかし、現実のビジネスでの利用には高い壁が立ちはだかりました。機器が高額だったことに加え、複雑な免許申請や周辺エリアとの電波干渉調整など、運用のハードルが想像以上に高かったためです。多くの現場でコストに見合う効果を見出せないまま、PoCの域を出られない足踏みの時期が数年にわたり続くことになりました。
そんな膠着状態が、ここに来て大きく変わりつつあります。さまざまな試行錯誤を経て、ローカル5Gの特長を発揮できるユースケースが明確になってきたこと、また導入及び運用コストを下げる選択肢が広がってきたからです。
ローカル5Gのシステム構成
ローカル5Gは、単独で動作する独立したネットワークです。なので、モバイル通信ネットワークを構成する基本的な要素を全て含んでいます。具体的には、図1に示すように、ローカル5Gとして無線免許を付与された周波数帯域で動作する端末、無線基地局、そして通信経路の設定・選択や通信接続の設定・開放などを担うコアネットワーク(CN:Core Network)から構成されます。
通常のモバイル通信ネットワークでは、多くの場合CNからインターネットに接続し、インターネット経由でさまざまなサービスが提供されます。一方、ローカル5Gではインターネット経由だけではなく、ローカルにアプリケーションを提供するサーバーをCNに直接接続することも可能です。
ローカルにサーバーを配備することで、端末にサービスを提供する際の遅延時間を短縮することができます。また、ローカルデータをローカル5Gの外部に出さない構成とすれば、機密情報の漏洩を防ぎやすくなります。
無線基地局はローカル5Gの現場におかれて電波を送受信するわけですが、CNはオンプレではなくクラウドに置くことも可能です。また、複数のローカル5Gが一つのCNを共同利用することも可能です。
ローカル5Gのユースケース
具体的にどのようなユースケースでローカル5Gが有効に利用されている、あるいは利用される可能性があるのか見てみましょう。ここでは、私たちの身近なところのユースケースを幾つか取り上げます。
(1)展示会やフェスでのレジ決済
たとえば、大型音楽フェスやフードイベントなど、多くの来場者でモバイル通信事業者の回線が非常に混雑する場所(パケ詰まりが想定される場所)での「キャッシュレス決済の安定化」は、ローカル5Gの代表的なユースケースの一つです。
現在、多くのキャッシュレス決済は、決済可否を確認するために外部の決済センターとリアルタイムに通信する必要があります。しかし、周囲で大勢の人たちが一斉にスマホを使っている空間では、一般的なモバイルネットワークはなかなか通じない(パケ詰まり)状態に陥ってしまいます。
そのような悪条件の混雑エリアであっても、ローカル5Gを導入すれば、出展ブースや飲食店のレジでのキャッシュレス決済をサクサクと完了させることができます。
これが可能なのは、ローカル5Gが一般のスマホが利用するモバイルネットワークとは完全に独立した異なる無線周波数(専用の帯域)を利用しているためです。周辺のスマホがどれだけ混雑していても、その影響を一切受けない専用の通信経路を確保できるのが最大の強みです。
実際の商用事例として幕張メッセでは、館内にローカル5Gを構築・運用しているソニーワイヤレスコミュニケーションズ株式会社が、イベント出展者向けにローカル5G通信サービス「MOREVE(モアビ)」を展開しています。
具体的な利用イメージとしては、図2に示すように、ローカル5Gの電波をキャッチしてWi-Fiに変換する「ローカル5G対応Wi-Fiルーター」が出展者に貸し出されます。事業者は、手持ちのキャッシュレス決済端末をこのルーター経由でローカル5G、そしてインターネットの先にある決済センターへと接続することで、混雑に左右されない確実な決済環境を利用できます。
(2)スポーツ中継でのワイヤレスカメラ映像配信
TV放送局のスポーツ中継におけるワイヤレスカメラによる映像配信は、ローカル5Gがその真価を発揮する別の大きなユースケースです。
これまで、高画質なスポーツ生中継を制作するためには、カメラと中継車を光ケーブルで接続する有線システムが主流でした。しかし、長いケーブルの取り回しはカメラマンの動きを制限し、設営や撤去にも膨大なコストと時間がかかります。
一方で、従来のWi-Fiや一般のモバイル通信では画質や遅延、通信の安定性の面で、一瞬の途切れも許されない放送クオリティを満たすのは困難でした。この課題をクリアし、これまでにない自由な映像表現を可能にするのがローカル5Gです。
屋外における代表的な活用例がゴルフ中継です。ゴルフ場は広大な敷地を持ち、高低差や林などの遮蔽物も多いため、全エリアに有線ケーブルを敷設することは困難を極めていました。また、放送中継用に割り当てられている無線(FPU:Field Pick-up Unit)は利用できる周波数に限りがあり、プレーするすべてのパーティに密着してカメラを回すことは事実上不可能でした。
ここにローカル5Gを導入することで、広大なコース全体を数局の基地局でカバーする専用プライベートネットワークを構築できます。カメラマンはケーブルの呪縛から解き放たれ、注目選手の動きに合わせて縦横無尽にコース内を移動しながら、高画質ライブ映像を中継できるようになります。これにより、新しい視聴体験の提供が現実のものとなっています。
一方、スタジアムやインドアアリーナで開催されるサッカー中継などでも、ローカル5Gは重要な役割を果たします。
大型スタジアムは数万人規模の観客が密集し、各自がスマホを利用し会場Wi-Fiのなど、電波環境が過酷な空間です。その中で、ピッチサイドを縦横無尽に走るカメラマンや、選手と同じ目線で動くジンバルカメラ、ゴール裏の無人カメラなどをワイヤレス化しようとすると、通常のモバイル通信ではパケ詰まりを起こし、映像が途切れてしまうことがあります。
しかし、スタジアム内でローカル5Gを利用すれば、観客が使う一般の通信とは隔離された映像伝送専用の高速・低遅延ネットワークを構築できます。
電波の干渉や遮蔽が起きやすい屋内ドーム空間であっても、多視点の映像を取得でき、審判目線のカメラワークやベンチのリアルな表情、さらには視聴者が「自分の推し選手」だけを追い続けられるマルチアングル配信(観たい角度や視点を自由に変えながら視聴できる映像配信)など、高い臨場感を引き出すスタジアム放送が可能になります。
図3は、NTT東日本などがローカル5Gを利用して、複数カメラの同時伝送によりJリーグの試合を生中継した実証実験の様子を示しています。ここでは、ローカル5Gによる高画質・低遅延かつ安定した映像伝送の実用性を検証するとともに、レフェリーカメラを含む多様な映像活用の可能性を確認しました。
レフェリーカメラはサッカーワールドカップでも用いられていますが、レフェリー視点の臨場感あふれる映像をTV画面などで観ることができます。
(3)電車のワンマン運転でのプラットフォーム映像の伝送
多くの鉄道路線では列車に運転士と車掌が乗車し、運転士が運転を担当し、車掌が乗客の乗り降りの確認、ドアの開け閉め、ホーム上の安全確認などを行っています。特に混雑する駅では、ドア付近に人や荷物が挟まっていないか、ホーム上に危険な状況がないかなどを確認することが、安全な列車運行にとって重要です。
一方、近年は鉄道業界でも人手不足への対応や運行効率化が求められており、運転士だけで列車を運行するワンマン運転の導入・拡大が進められています。
ワンマン運転では、車掌が担っていたドアの開閉や乗降時の安全確認も、基本的には運転士が行うことになります。そのため、運転士が運転席にいながら、ホーム全体やドア付近の状況を確実に確認できる仕組みが必要になります。
そこで、ワンマン運転でのローカル5Gの活用が検討されています。駅構内にローカル5Gネットワークを構築することで、ホームに設置した複数のカメラ映像を駅に停車中の列車の運転席へリアルタイムで無線伝送することが可能になります。運転士はその映像を確認しながら、乗客の乗り降りが終わったか、ドアを閉めても安全か、そして発車してよいかを判断します。
映像が遅れたり乱れたりすると、安全確認に支障が出る可能性があります。そのため、高速で大容量の通信ができ、乗客による混雑の影響を受けにくいシステムが求められます。ローカル5Gはそのような条件にうまく当てはまります。
駅ごとにローカル5Gを構築すれば、複数の高画質カメラ映像を高品質で列車に送ることが可能になります。一般のスマホ利用者の通信とは別に設計できるため、駅が混雑している時間帯でも、鉄道業務に必要な通信を優先的・安定的に確保しやすいという利点があります。
JR東日本では、ワンマン運転のためのローカル5G利用の可能性について、実験場として実際の駅にローカル5Gを構築して列車を使ったPoCを進めてきました。図4にそのイメージを示しますが、プラットフォームに設置したカメラの映像がローカル5Gの無線により運転席に送られる様子を示しています。
ローカル5GのPoCを含め、鉄道における通信応用の可能性の検討を進めているJR東日本研究開発センター テクニカルリーダーの洞井裕介氏によれば、プラットフォームの映像が小さな遅延で確実に運転席に送られることが重要であり、ローカル5Gを利用することでそれが実現できれば実用化の可能性が見えてくるということです。
ローカル5G無線帯域とシステム構成
ローカル5Gの性能や特徴、適したユースケースを決定づける最も大きな要因が、利用される無線周波数です。ローカル5Gでは、図5に示すように4.7GHz帯(サブ6)で300MHz幅、28GHz帯(ミリ波)で900MHz幅という2つの5G専用帯域が割り当てられています。
サブ6はミリ波に比べて周波数が低いため、電波が比較的遠くまで届きやすく、遮蔽物を回り込む性質があります。対応機器も手に入りやすいため、現状の商用導入やPoCのほとんどがサブ6を利用しています。サブ6の中で4.6GHz〜4.8GHzが屋内限定、4.8GHz〜4.9GHzは屋内・屋外両方で利用可能となっており、屋外を含む事例では4.8GHz〜4.9GHzが用いられます。
これら2つのローカル5G帯域と合わせて重要なのが、2.5GHz帯を利用する地域BWA(Broadband Wireless Access)です。これは4G技術をベースに制度化された自営用の通信システムです。
特に、5G NSA(ノン・スタンドアローン)構成でローカル5Gを構築する場合、制御信号をやり取りするための4G無線(アンカーバンド)が必要になるため、地域BWAを5G無線と併用することで、モバイル通信事業者に依存しない完全自営のネットワークを実現できます。
実際、ローカル5Gの制度が施行されてから最初の2〜3年間は、このNSA構成でのPoCがメインでした。当時はモバイル通信事業者の5G自体がNSA構成で提供されていたこともあり、市場に出回っているスマホや産業用ルーターなどの端末エコシステムがNSA中心で揃っていたため、導入のハードルが低かったことが大きな理由です。
その後2023年頃を境に、ローカル5Gではサブ6を利用した5G SA(スタンドアローン)構成が主流となってきます。SA構成では4G基地局が不要となり、5G基地局と5GC(5G Core)と呼ばれる5G専用のコアネットワーク機能だけを準備すればよいためシステム構成が単純なこと、そしてSA対応の端末が市場に広く出回り始めたことがその流れを後押ししました。
一方、ミリ波は初期のローカル5G PoCで利用された例は多くあったものの、その後のサブ6の台頭によって影を潜めることになりました。ミリ波は直進性が強いのと空間での減衰が大きいため、適切なカバレッジを確保するためのエリア設計などが難しいこと、また端末の種類が限定的であったことが主な原因です。
しかし、ローカル5Gのミリ波には900MHz幅という非常に広い帯域が用意されています。この圧倒的な帯域を活かすことができるユースケースにおいて、ミリ波を利用するローカル5Gが真価を発揮する可能性があります。
たとえば、4K/8Kといった高精細映像を複数本同時に伝送する必要がある放送・エンタメ系の利用や、高精度な3D点群データ(三次元空間にある物体や地形の形状を、膨大な点の集まりとして表現したデジタルデータ)をリアルタイムにやり取りするような超大容量通信に有効と考えられます。
上り重視の準同期運用
私たちが普段スマホで利用する動画視聴やWeb閲覧は、データをダウンロードする下り(ダウンリンク:ネットワークからスマホの方向)が、スマホからデータを送る上り(アップリンク:スマホからネットワークの方向)よりもかなり大きな割合を占めています。そのためモバイルネットワークは一般に下り方向に、より多くのデータが送られるように設計されています。
一方で、これまで紹介してきた放送映像での利用や駅ホームのカメラ映像の伝送、3D点群データのアップロードなど、多くのローカル5Gの現場ではより大量のデータを上り方向に送信したいというニーズがあります。そのようなニーズに対応するために、ローカル5Gでは「準同期」と呼ばれる仕組みがあります。
ローカル5Gで使うサブ6やミリ波では、TDD(Time Division Duplex:時分割複信)方式で通信を行います。TDD方式では、同一の無線周波数を短い時間(タイムスロット)で区切り、下りと上りを高速に切替えて通信しています。この切替えのタイミングは隣接した基地局間で精密に同期させています。
もし隣り合う基地局同士が異なるタイミングで下りと上りを切り替えてしまうと、一方の基地局が送信した下り電波が、隣の基地局が受信しようとしている端末からの上り電波に干渉してつぶしてしまうためです。ここで、基地局間で異なる周波数を使っていても、周波数間で電波が漏れて干渉する可能性があります。
そのため、国内のサブ6及びミリ波のTDD方式ではそれぞれ、すべてのモバイル通信事業者の基地局が上り・下りのタイミングを完全に一致させる同期運用をしています。そして、ローカル5Gの基地局もまた、通信事業者の基地局と同期運用することが原則とされています。
しかし、モバイル通信事業者は下り送信に多くの時間を割り当てているため、通信事業者と同期運用してしまうと、ローカル5Gでニーズが多くある大容量の上り通信が実現できません。この課題を解決するために制度化されたのが準同期TDD(Semi-synchronous TDD)です。図6に、同期TDDと準同期TDDの上りと下りのスロット割当ての違いを示します。
準同期TDDとは、近隣基地局との大きな干渉を回避しつつ、下りスロットの一部を上りへひっくり返す時間割制御です。当然、そのままでは電波の衝突が起きるため、上りに転用した時間帯だけ基地局の送信出力を弱めたり、屋内などの遮蔽された空間に限定して運用するといった、緻密な運用ルール(干渉調整)が制度化されています。
この準同期TDDを適用することで、同期TDDでは全体の2割程度しか割り当てられていなかった上りの通信スロットを、5割程度まで拡大することが可能になります。
また、ローカル5Gの電波が届く周辺エリア全体にモバイル通信事業者や他のローカル5Gの基地局がまったくない場合には、干渉の恐れがないことから、上りスロットの割合を更に増やした非同期TDD運用も利用可能です。非同期というのは、独自のタイミングや自由な上り・下り比率で電波を送るアプローチです。
多様な利用形態
ローカル5Gは、自社の工場や倉庫、オフィス、自社が管理するマンションの敷地内など、自身が所有、あるいは利用権を持つ場所に閉じて利用するのが原則です。しかし、この「自己土地利用」だけでは効果のある使い方や期待するサービスが実現できない場合があります。そこで、自己土地利用に加えて「他者土地利用」や「共同利用」も条件付きで認められています。
他者土地利用というのは、自己が権利を持たない隣の敷地、地域の公道、他者が所有する商業施設や農地などをカバーするローカル5Gの使い方です。
たとえば、地域のケーブルテレビ(CATV)事業者やソニーワイヤレスコミュニケーションズなどが、自治体の公道や住民の土地をまたいで電波を吹き、マンションの住民に固定無線ブロードバンドサービスを提供していますが、そのようなユースケースが他者土地利用に該当します。
一方で、共同利用というのは複数の地権者が合意して特定のエリアを登録することで、他者の土地が含まれていても全体を「自己土地相当」として運用できる制度です。
従来の制度では、他者土地利用で後からその土地の本来の所有者がローカル5Gの免許を申請した場合、先発の事業者がその土地で電波を飛ばせなくなるという投資リスクがありました。しかし、電波を飛ばす土地の所有者との共同利用として登録できれば、長期にわたって安定したエリア運用が可能になります。
たとえば、三重県のZTVなど地域のCATV事業者が、この制度を利用して道路や複数の住民、企業の土地をまたぐエリアを共同利用区域と設定して継続的にインフラ投資を行い、地域一帯へ安定した固定ブロードバンドサービスを商用ベースで提供しています。
それら以外に、ローカル5Gでは「海上利用」(サブ6)や「上空利用」(サブ6とミリ波)といった、従来の陸上敷地内という枠組みを越え、通信インフラの空間を三次元へと拡張する制度もできています。
海上利用というのは、ローカル5Gを港湾エリア(港の中)や沿岸部、さらには洋上(沖合)へと拡張して利用する仕組みです。通信事業者の電波が届きにくく、Wi-Fiでは距離や安定性が足りない特殊な環境において、自営の安定した通信インフラを構築できるのが最大のメリットです。
港湾コンテナターミナルのクレーン遠隔操作、洋上風力発電施設の遠隔保守、船舶の自律運航などで実証が進んでいます。
一方、上空利用はドローンや空飛ぶクルマ(次世代モビリティ)などの機体にローカル5G端末を搭載し、上空(地上から高さ数十メートル〜数百メートルの空間)を飛行させながら大容量・超低遅延の自営通信を行う仕組みです。上空は地上の既存ネットワークに干渉を与えやすく、高度制限や電波出力の抑制といった緻密な干渉対策ルールのもとで制度化されています。
上空利用は、プラントや建設現場など閉域において既に日常的な業務のために実用化されています。プラントでは、ドローンが捉えた4K高精細映像や熱画像をリアルタイム伝送する自動・自律点検が稼働しています。また、建設現場では、ドローンが空撮した3D点群データを現場内で高速伝送し、遠隔地からの高精度な進捗管理などに活用されています。
ローカル5GとAI
モバイル通信事業者などで、RAN(Radio Access Network:無線アクセスネットワーク)にAI機能を盛り込むAI-RANの検討が進んでいますが、ローカル5Gでも通信機能と一体化したAI機能であるエッジAIが重要な役割を果たす可能性があります。
ローカル5Gが持つ高速・大容量の上り通信と低遅延の特性をフルに活かせば、現場の高精細カメラやセンサー、あるいはドローンが捉えた大容量の映像や3D点群データなどを、タイムラグなしにエッジAIサーバーに送ることができます。
データを受け取ったエッジAIは、即座に解析を実行し、たとえばスポーツ中継であれば選手やボールの動きに合わせたカメラの自動追従、最適なアングルの自動スイッチング、さらにはマルチアングル配信のリアルタイム生成を可能にします。
また、工場であれば製造ラインの微細な異物・欠陥検知やロボットアームの精密な遠隔制御、自動走行車の危険回避といった高度な判断を、リアルタイムで現場へフィードバックします。
さらに、ローカル5Gではすべてのデータ処理がエッジ環境だけで完結するため、企業の重要なデータやプライバシーに関わる映像データを外部へ露出させないという、強固なセキュリティを担保できる点も大きなメリットになります。
ローカル5GとエッジAIを一体化した製品も市場に出てきており、様々な分野での展開が期待されます。
おわりに
ローカル5Gは「PoC止まり」と言われていたように、実証実験はやるけれどもなかなか実用化に結びつかない期間が長く続きました。ここにきてそのような状況が変わり、徐々に実用化の動きが広まっています。
無線局開設・運用・保守支援を一気通貫で行い、自らローカル5Gシステムも開発・販売するスリーダブリューの植田敦社長によれば、「これまでの課題は、機器価格やライセンス料(ソフトウェア使用料)の高さに加え、免許手続きの煩雑さや、大掛かりな設備・工事が必要だったことです。しかし、低価格化が進み、ライセンス料を抑えた製品や、従来は複数ユニットで構成されていたシステムを1ユニットに統合した新世代モデルが登場したことで、公表されていない事例も含め、大企業だけでなく一般企業でもローカル5Gの実用化事例が増えています」ということです。
本記事では私たちに身近な実用化(あるいはそれに近い)例を中心に述べましたが、実際には工場や工事現場など産業界での利用も進みつつあります。
ローカル5Gは、よくWi-Fiと比較されますが、免許不要帯域を用いて各端末が競争原理で無線チャネルを取り合うWi-Fiに比べて、ローカル5Gは免許帯域を用いて無線基地局が無線をスケジューリングして利用するため、品質、信頼性、有用性、そしてセキュリティなどの面で秀でています。
海外の多くの国・地域でもローカル5Gと似たようなプライベートネットワークの仕組みが制度化されており着実に事例が増えてきていますが、日本でも様々な場でローカル5Gの利用が進み、社会や産業の発展に寄与していくことを期待したいと思います。







