藤岡雅宣の「モバイル技術百景」

5Gのサービスエリアが広がる! モバイル通信と衛星システムなどで活用される“周波数共用”とは

 2024年4月以降、首都圏を中心に5Gサービスエリアが広がる予定です。これは、衛星地球局への電波干渉を抑制するために故意に弱くしていた5G基地局から出す電波を本来の強さにして、基地局のカバレッジが広がるためです。

 モバイル通信と衛星システムで同じ周波数の電波を共用しているのですが、4月以降、共用条件が変わるためにエリア拡大につながることになりました。

 今回は、この事例も含めて周波数共用とは何か、周波数共用の課題と今後への期待などについて解説します。

周波数共用とは

 電波は限られた貴重な資源であり、無駄なく有効利用することが求められます。

 モバイル通信を始め、電波の利用は益々拡大しており、その有効利用の要求は高まる一方です。電波の多くは周波数ごとに用途が決められていますが、周波数によっては有効利用のために一つの用途だけではなく複数の用途で利用されます。

 そうした、 複数の異なるシステムが同一の周波数帯域を共有して使用することを周波数共用 と言います。

 モバイル通信用に割り当てられた800MHz~900MHz帯や1.7GHz帯、2GHz帯などはモバイル通信以外のシステムが利用できない専用の周波数です。

 しかし、4G用として割り当てられた3.5GHz帯、あるいは5G用として割り当てられた3.7GHz帯は衛星システムと共用する周波数です。

 周波数共用においては、異なるシステムが相互に電波の届く範囲で同じ周波数を利用すると、電波が干渉する可能性があります。

 つまり、一つのシステムから見ると他のシステムが発する電波が自らのシステムに対する妨害波となり得ます。

 そのため、このような“妨害波”が電波干渉を引き起こしてサービスに悪影響を及ばさないようにする必要があります。

 なお、Wi-FiやBluetoothが使っている2.4GHz帯など一部の周波数は免許不要で、決められた条件を満たせば、自由に使えるようになっています。

 つまり、2.4GHz帯のような周波数は、おのずと“異なるシステム間で共用している”とも言えます。

 今回は、そうした免許不要帯域ではなく、モバイル通信などで利用する 免許が必要な帯域の周波数共用 について述べます。

5Gと衛星システムとの周波数共用

 3.7GHz帯の帯域の周波数の割り当ては図1に示すとおりです。衛星システムは、衛星から地上の方向に3.4~4.2GHzの帯域を利用しています。一方で、5Gは3.6~4.1GHzの帯域が割り当てられており衛星システムと周波数を共用しています。

図1

 3.7GHz帯の5Gでは、この帯域の中に基地局~スマホなどの端末への下りの電波も、端末~基地局への上りの電波も含まれます。

 図2のように、それらの電波が衛星からの電波を受ける衛星地球局に届くと妨害波になる可能性があります。

図2

 総務省では、2019年に3.7GHz帯の電波を5Gに割り当てるにあたって、事前に衛星事業者やモバイル通信事業者などと周波数共用の条件について検討しました。この検討では、妨害波として個々の基地局や端末からの電波と、多数の基地局や端末からの電波が足し合わされた合成波の両方を想定しました。

 そして、既存の衛星地球局の位置に基づき、個々の基地局や端末からの電波と合成波の両方についてシミュレーションモデルを作って評価しました。

 なお、この評価では、大型の衛星地球局だけではなく、隣接周波数を用いる電波高度計(飛行機などが自らの高度を地上からの電波の反射を利用して測定する機器)なども考慮に入れられました。

 その結果、衛星地球局から一定距離には基地局を展開しないとか、どの程度の電波出力の基地局をどのあたりに合計何局くらい展開しても電波干渉の問題が生じないという結果を導き出しました。

 これに基づき、各モバイル通信事業者は衛星システムに影響しない範囲で基地局の展開を進めることになったわけです。

 特に、首都圏を中心に衛星地球局の場所や数を考慮すると、一部の基地局の設置・運用条件が厳しく、設置しても大きな出力の電波を発することができないというような制約が課されました。

 そして、5Gサービスが始まって以来、そのような制約の下に3.7GHz帯の基地局を設置・運用してきたため、カバレッジが狭くこの帯域の電波が十分に利用できないという状況でした。

 共用条件の変更が生ずるために、冒頭述べたように4月以降、この帯域の基地局の出力を本来の大きさに変更できるようになるというわけです。これは、通信事業者と衛星事業者が協力した結果によるものです。

 なお、5Gについては28GHz帯も衛星システムとの周波数共用を行っており、一部のローカル5G周波数が屋内限定の利用に制限されたり、モバイル通信事業者の基地局およびローカル5G基地局の出力の上限が設定されています。

ダイナミック周波数共用

 周波数共用の中には、電波を使う場所や時間帯が動的に変わる一次利用者が使っている電波を、二次利用者が一次利用者が使っていない場所や時間帯に限定して使うという形態もあります。このような周波数共用の形態を「ダイナミック周波数共用」といいます。

 日本でのダイナミック周波数共用の例として、2.3GHz帯(2330-2370MHzの40MHz)の電波があります。この帯域は従来から放送事業者が、マラソンなどのスポーツ中継等の放送番組で現場から映像・音声を無線中継伝送するFPU(Field Pick-up Unit、放送事業用無線局)に利用してきています。

 この帯域が、ダイナミック周波数共用を前提に2022年に5G用としてKDDIに割り当てられました。KDDIのモバイル基地局やスマホが実際に5G用としてこの帯域の電波を使うことが許されるのは、FPUが使用していない場所・時間帯に限られます。

 そのための仕組みは図3に示す通りです。優先的に2.3GHz帯の電波を使える一次利用者である放送事業者が、電波を利用する時間・場所などの情報を事前にデータベースに登録します。

 この情報をもとに、周波数共用管理システムが電波干渉の有無を自動で計算し、二次利用者であるKDDIに電波干渉を引き起こす可能性のある基地局での対象時間の間の停波を指示します。

図3

 日本では、この2.3GHz帯がダイナミック周波数共用の初めての実施例になりますが、たとえば米国や欧州では軍や沿岸警備隊が一次利用者、モバイル通信事業者などが二次利用者として、周波数共用が実施されたりトライアルで検証されています。

モバイル通信事業者間の周波数共用

 異なるモバイル通信事業者間で、同じ周波数の電波を共同利用する形態もあります。

 この場合、図4に示すように基地局を事業者1と事業者2が共同利用します(2事業者の場合)。同じ基地局、同じ周波数を利用しますが、事業者1のユーザーのスマホは事業者1のコアネットワークに、事業者2のユーザーのスマホは事業者2のコアネットワークにそれぞれ接続されます。

図4

 基地局は、各周波数を利用するモバイル通信事業者の識別番号を無線信号で報知します。

 この場合、事業者1と2の両方の識別番号を報知します。

 スマホは、この中に自分の加入する事業者の識別番号が含まれていると、通信接続を要求します。

 この接続要求に事業者識別番号が含まれており、基地局はそれを見て対応するコアネットワークへの接続を行います。
 欧州では、複数の通信事業者が合弁会社を設立して、人があまり住んでいないルーラルエリアなどの無線免許を取得し、それらの通信事業者間で周波数を共用しているケースが見られます。

 また、独立系の事業者が無線免許を取得してネットワークを構築し、これを複数のモバイル通信事業者が利用するような新しいビジネスもでてきています。

 日本でも、モバイルインフラシェアリングビジネスを推進しているJTOWERがいます。JTOWERでは、同社のような独立系事業者が無線免許を取得した上でネットワークを構築し、これを複数のモバイル通信事業者に利用してもらう形態の周波数共用を提案しています。

 周波数有効利用という観点からは、このような利用形態も一考の余地があるかも知れません。

今後のモバイル通信への周波数割り当て

 始めに述べたように、周波数有効利用の要求は高まる一方です。

 また、モバイル通信トラフィックの増大に対応するにはより広い周波数帯域を確保する必要があります。

 しかし、モバイル通信に広く使える周波数で数百MHz以上の連続した専用帯域を確保するのはほぼ不可能です。なので、今後システム間などでの周波数共用はますます重要となります。

電波オークションに向けて「この周波数はこれからどうなる?」はわかりやすく

 さて、今般の衛星・モバイル周波数共用では、4月以降、3.7GHz帯の5Gサービスエリアが拡大するというアナウンスが唐突に出てきた感があります。

 この帯域を5Gに割り当てるときには、このような変化がいつ起こるのか分からなかったのでしょうが、モバイル通信関連ビジネスの従事者や一部のユーザーなどはこのような情報を早めに知っておくのが望ましいと思われます。

 世界的には一般的となっていますが、日本でもモバイル通信用電波のオークション導入に向けて準備が進んでいます。オークションを行う際には、対象となる電波の免許付与期間にわたる資産価値を評価できる必要があります。

 ある程度、長期間にわたって、システム間の共用条件を含め、その電波に関連してどのような変化が起こるのか予測できるようにしておくことが望まれます。

 なお、米国では3月14日、スマホなどのモバイル端末から衛星に直接アクセスしてデータ通信などを行う衛星ダイレクトアクセス用に、モバイル通信事業者が運用している周波数の一部を共用するための枠組みが合意されました。

 モバイル通信事業者のカバレッジがないルーラルエリア、山間部や海上などでの利用が想定されています。

 宇宙からのカバレッジ補完(Supplemental Coverage From Space:SCS)と呼ばれ、地上のモバイル通信事業者が一次利用者、衛星通信事業者が二次利用者として同じ周波数を共用する仕組みです。この共用形態も今後世界的に広く導入されると予想されます。