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ポケットにLinuxを「Melon」
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広野忠敏 昭和37年新潟に生まれる。仕事はライターとプログラマの2足のわらじを履いている状態。どちらかといえばハードウェアよりはソフトウェアや技術的なものが得意である。ちなみに、2足はきこなしているかどうかはちょっと疑問。また、怪しげな小さいものと怪しげなプログラムと新しいものには目がないけど最近はちょっとパワーが落ちてきているかな。 (写真:若林直樹) |
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Linuxといえば、UNIXをベースにしたフリーのOSのことである。もともとがタダでソースコードも公開されているため、さまざまなハードウェアやプラットフォームに移植されている。Linuxといえばパソコンやワークステーションで使うものという認識があるかもしれないが、実はそんなことはないのだ。テンアートニの「Melon」をコンパックのPocket PC「iPAQ」にインストールすると、この上でLinuxが使えるようになる。つまり、いつもポケットにLinuxを入れて持ち歩けるようになるのである。
「Melon」ってなに?
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このiPAQにLinuxがはいっちゃうのだ
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実のところ、iPAQ上でLinuxを使うには、コンパックが提供するLinuxのインストールキットを使う方法もある。ただし、コンパックが提供するLinuxはiPAQ本体のフラッシュROMをLinuxのために書き換える必要がある。もともとフラッシュROMにはPocket PCのOS本体やPocket PCのアプリケーションがインストールされており、書き換えてしまえば、当然のことながらPocket PCとして使うことはできなくなる。また、フラッシュROMの内容を自分でバックアップしておかなければ、Linuxをインストールしたあとに、Pocket PCに戻すことはできない。つまり、iPAQはLinux専用になってしまうのである。コンパック提供のLinuxキットは面白そうなんだけど、それほど話題になっていない理由は、こうした面倒なコトが起因しているのだろうと思う。
というわけで「Melon」である。MelonはiPAQでLinuxを使えるようにするためのキットで、64MBのコンパクトフラッシュカードとして提供される。MelonとiPAQでLinuxを使うには、Linuxをインストールする必要すらない。MelonのCFフラッシュカードをiPAQのCFジャケットに差し込んで、Pocket PCのファイルエクスプローラを使ってLinuxのブートローダーを実行するだけで、Linuxを起動することができる。つまり、Pocket PCの環境とLinuxの環境を完全に共存させることができるようになっているのである。
ただし、Melonを実行するとiPAQ本体のRAMはMelonによって書き換えられてしまうため、Pocket PCにインストールしたプログラム、入力したデータなどはすべて初期化されてしまうので注意が必要となる。Melonを使う前に、かならずPocket PC本体のバックアップをしておいたほうが良いだろう。
そんなわけで、メカニズム的にはPocket PCと完全に共用ができそうに見えるMelonである。だが、本体のRAMはMelonによって使われてしまうので、一度Melonを実行したあとは本体は買ったときと同じ状態に戻ってしまうのである。たとえプログラムをインストールしていようと、連絡先やスケジュールのデータを入力していようとすべてゼロ。設定も含めて完全に初期化(ハードウェアリセットされた状態)されてしまう。そういう理由で、完全に共存できるというわけではない。たしかに、プラットフォームは切り替えることはできるが、ユーザが入力したデータまではさすがに面倒を見てくれるわけではないため、「Melonに飽きちゃったPocket PCに戻ろうかな」と思ったときは、本体の設定はすべてやり直し、データはバックアップから戻さなければならない。面倒だけど、そういう手順を踏んで初めてPocket PCとして元通りに使えるのである。
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GUI環境は式神。PDAというよりはパソコンの操作感に近い
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ランチャーだってあるのだ
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Linuxで何ができるのか
そんなわけで、さっそくiPAQでMelonを使ってみた。Melonはオープンソースとして提供されているディストリビューション「Familiar」をベースにしたもの。ウィンドウマネージャにはアックスが開発した「式神(しきがみ)」が採用されている。式神にはアドレス帳(sgaddr)、メモ帳(sgmemo)、スケジュール帳(sgsched)、日付設定(sgdate)などのPIMプログラムが含まれているため、PIMとして使うことができるのだ。
ただし、Pocket PCに入力されたデータを式神のPIMデータに変換することや、その逆はできない。式神をPIMとして利用するためには、新たにデータを自分で入力する必要がある。また、USBを利用したパソコンとのデータ同期などPocket PC独自の機能も利用することはできない。パソコンとMelonの間でデータをやりとりしたいときは、ネットワークカードを使って接続したり、メモリカードを使ったりする必要がある。
文字の入力については、式神に搭載された「布目(ぬのめ)」と呼ばれる入力エンジンを用いる。布目を起動するとウィンドウの最下部に入力エリアが表示され、そこに文字を手書きで入力すれば認識をしてくれる仕組みだ。また、ソフトウェアキーボードによる入力もできるようになっている。しばらく使ってみた感じでは、認識率はそれほど良いとは感じられなかった。むしろ、Pocket PCに標準で搭載されている手書き文字認識の方が認識率は良いように思える。また、ソフトウェアキーボードについては、タップして文字を入力するための領域がかなり小さいため、慣れるまでは少々時間がかかる。
実際にMelonを利用するときは、MelonがインストールされたCFフラッシュカードをiPAQに装着して、Pocket PCのファイルエクスプローラでブートローダを起動する。ブートローダを起動すると、Linuxがメモリにロードされて式神まで自動的に実行可能だ。ちなみに、Melonは64Mバイトのコンパクトフラッシュカードで提供されていて、購入した状態で約6MB程度の空き領域があるので、自分でアプリケーションやコマンドなどを追加することもできるのだ。また、大容量のカードにMelonのイメージをコピーすれば、メモリ容量に余裕のある環境でMelonを使うこともできる。
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手書き文字認識もできる。ただし、精度はPocket PCの方が上かな
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ファイラーの操作感はエクスプローラに近い
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式神のデスクトップが表示されたあとは、そこからPIMプログラムを起動することができる。なお、前述のPIMプログラム以外にも、GNOME Midnight commander(ファイル管理ツール)、GNOME電卓(関数電卓)、漢字ターミナル(ターミナルユーティリティー)などが用意されているので、一通り遊べる。もちろん、LinuxやGNOMEに対応したツールをあとからインストールして、それらを使うこともできる。また、gccなどの開発環境をインストールすれば、iPAQ上でプログラムを開発することも不可能ではない。
標準で提供されるPIMソフトに関しては、決して高機能というわけではないが、基本的なところは満足している。とはいえ、あくまでもiPAQでLinuxが動くからすごいだろうという部分がメインであって、PIMソフトなどについては「オマケ」的な印象が強い。たとえば、Pocket PCの標準ツールやオンラインソフトで提供されているさまざまなツールと比較すると、標準のツールでできないことが多すぎる。ただ、この部分は今後LinuxベースによるPDA環境がポピュラーになれば、さまざまな使いやすいツールもリリースされるだろうと思う。
気になる周辺機器のサポートであるが、現時点ではCardBus非対応のNE2000互換のネットワークカードのみに対応しているとのことだ。ただし、ネットワークカードを利用するには、デュアルジャケットが必要になる。また、今後は無線LAN、モデムカード、PHSカードにも対応する予定なので、ネットワークに接続できるフィールドも増えてくるだろうと思われる。やはり、Linuxというからにはスタンドアロンな環境だけではなく、ネットワークに接続された環境で使いたいので、このあたりの環境整備は今後の重要な課題になってくるだろう。
ところで、いままでのLinuxというとインストールが面倒で素人には使いこなせないという印象があったが、Melonはインストール作業もなにも必要なく、コンパクトフラッシュカードを差し込んで動かすだけなので、Linuxの知識やハードウェアの知識など一切なくても、手軽にPocket PCでLinuxを体験できる。さらに、バックアップさえとっておけばいつでもPocket PCの環境に戻すこともできる。いつもポケットにLinuxを入れておきたいコアなLinuxユーザだけではなく、ちょっとLinuxを体験してみたいという人にとってもオススメのアイテムだといえるだろう。
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PIM機能も付いているが、使い勝手はやっぱりPocket PCの方が上
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スケジューラー画面。高機能ではないけど、基本的な機能に関しては合格点
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■ 評価(最高点は★5つ)
イバリ度 |
★★★★★ |
とりあえず、人に見せてイバります。
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実用性 |
★★★ |
UNIXを使った経験があるなら実用的です。Linuxの入門としてはいまいち。
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お値段 |
★★★ |
とりあえずLinuxで遊んでみるだけと考えても、それほど高価ではありません。
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価格 |
9800円 |
PDAとして考えた場合、やはり現状のLinux環境よりはPocket PC環境の方が上であるといわざるを得ない。たとえば、提供されているPIMツールは明らかにPocket PCの方が機能は多いし使いやすいものも多い。また、Pocket PC環境はパソコンとの連携が簡単にできるというメリットもあります。Pocket PCは中身なんてわからなくてもとりあえず触っていれば使えてしまうという気軽さがありますが、Linuxはそうもいかない。素人がとりあえず使う環境としてはやはり敷居が高いですね。ただ、骨の髄までLinuxなユーザーが手にすると、かなり遊べる遊び道具や飛び道具? にはなります。
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利用期間 |
1日(ユーザレベルによるけど)
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1日あたり単価 |
9800円
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・ テンアートニ
http://www.10art-ni.co.jp/
・ ニュースリリース
http://www.10art-ni.co.jp/press/e20011018.html
・ Melon ホームページ(仮オープン中)
http://melon.10art-ni.co.jp/
・ Familiar
http://familiar.handhelds.org/
・ アックス
http://www.axe-inc.co.jp/
(広野忠敏)
2001/10/31 11:48
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