|
|
|
なぜ動くのかを考えながら作って欲しい 学研 大人の科学 「大江戸からくり人形」
|
|
|
|
広野忠敏 昭和37年新潟に生まれる。仕事はライターとプログラマの2足のわらじを履いている状態。どちらかといえばハードウェアよりはソフトウェアや技術的なものが得意である。ちなみに、2足はきこなしているかどうかはちょっと疑問。また、怪しげな小さいものと怪しげなプログラムと新しいものには目がないけど最近はちょっとパワーが落ちてきているかな。 (写真:若林直樹) |
|
学研の「科学」と「学習」といえばご存知の方も多いかと思う。学習研究社が小学生向けに発売している学習雑誌だ。「科学」の創刊は1962年。特定の年代の人にとっては、「ふろく」といえば「科学のふろく」。毎月、校内販売される「科学」を楽しみにしていた人も多いのではないだろうか。ちなみに、筆者が小学生だったのは1970年代。このころの科学のふろくの中でもよく覚えているのは、人体の骨格モデル、プランクトンの飼育セット、フェライト棒とエナメル線を使ったエレキギターなど、高学年になればなるほど付録がだんだん高度になり、付録で遊ぶ楽しみだけではなく、科学に対する興味もどんどん沸いていたのをよく覚えている。まあ、こうした幼少期の経験があるため、現在の仕事についているのかもしれない。筆者と同じように、学研の科学や学習の影響で、将来の道がある程度決まってしまった、なんて人も少なくはないのではないだろうか。
さて、そうした科学を作っていた学研から登場したのが「大人の科学シリーズ」。小学生のときに楽しんだ、あるいは楽しみにしていた「科学のふろく」を大人でも楽しめるようにした実験キットだ。いままで発売されていた大人の科学シリーズは、この連載で取り上げたこともある電子ブロックをはじめとして、エジソン式コップ蓄音機、マルコーニ式電波カー、磁界検知式鉱石ラジオ、などなど。熱狂的な科学のふろくファンだった人にとっては、名前を聞いただけで欲しくなってしまう、あるいはついつい買ってしまうものばかりなのである。ちなみに、筆者もすべて購入済みだったりするわけだが……。
江戸時代の機械工学を現代に再現
そんな大人の科学シリーズも既に第8弾まで登場している。その8番目の製品が「大江戸からくり人形(以下からくり人形)」。からくり人形は、江戸時代に細川半蔵が製作した「茶運び人形」がベースになっている組み立てキットだ。
江戸時代といえば、現代のようにバッテリーとモーターで駆動するというわけでもないし、もちろんコンピュータや電子機器に使われている半導体も発見されてはいない。からくり人形の動力はぜんまい、そして歯車やカム、テンプと呼ばれる調速機などを巧みに組み合わせて、複雑な動作を実現しているのである。ローテクでありながら巧みな動作をするのは、まさに機械工学の基本だということができるだろう。
実際のからくり人形の動作は学研のサイトを見てもらうものとして、ここでは簡単に説明しよう。
1) ぜんまいをまく
からくり人形の動力源はぜんまい(江戸時代当時は、くじらのひげがぜんまいに利用されていた)。ぜんまいを巻くと動力源として蓄積される。
2) お盆に茶碗をのせる
人形のお盆に茶碗をのせると、人形が前進する。
3) 人形がお辞儀をする
ある程度前進すると、人形がお辞儀をする。このときに運んでいる茶碗を取ると、人形が停止する。
4) 茶碗を返す
人形のお盆に茶碗を返すと、停止していた人形が動き出す。人形は180度反転して元の場所に帰っていく。
とまあ、からくり人形は、こんな感じの動作をする人形なのである。これが「完成品」として発売されていても「ふーん、そんなものがあるんだ。良かったね」で、終わってしまうと思うが、大人の科学版は組み立てキット。実際に自分でさまざまなパーツを組み立てるという楽しみがあるのだ。ちなみに、ここではなぜからくり人形がこうした動きをするのかは説明しない(というか説明したくない)。何故なら、からくり人形の動きを理解しながら組み立てたほうが、だんぜん楽しく組み立てられるからだ。
是非とも仕組みを考えながら組み立てて欲しい
|
このように部品点数は多いが、組み立ては簡単。説明書どおりにパーツを組み合わせてねじ止めしていけば完成する。
|
写真を見てもらえればわかるが、からくり人形の部品点数は結構多い。とはいっても、それほど組み立てが大変というわけではないので心配はいらない。からくり人形の組み立てにはドライバーやピンセットなどの工具も必要になるが、こうした工具も同梱されている。鉛の板おもりを切断するときだけハサミが必要だが、それ以外は別途工具などを準備しなくても簡単に組み立てることができるだろう。
組み立てに関しては、付属の説明書がかなりしっかりと作られているので、この手のキットに不慣れでも大丈夫だろう。説明書には間違えやすいポイントなどもしっかりと説明されているほか、完成後に動かなかったときのトラブルシューティングもあるので好感が持てる。
説明書を見ながら組み立てていくと、小一時間ほどでからくり人形が完成する。まずはじめに動力輪と方向舵から成る台車の組み立て。首を傾ける機構が含まれる胸部の組み立て。そして動力部や速度を調整するための機構が含まれた胴体を組み立てる。さらに、こうして組み立てたブロックを組み合わせ、頭や腕といった細かい部品を取り付け。さらに、動作の確認と調整のあと着物を着せることでからくり人形は完成する。ほとんどの部品はプラスチックで、部品同士の組み立てははめこみ式やねじ止めなので、とても簡単に組み立てることが可能だ。
ただ、残念なのは、ほとんどの部品が整形されたプラスチック製だったこと、いままでの大人の科学の組み立てでは、エジソン式コップ蓄音機にしても、マルコーニ式電波カーにしても、木製の部品が使われていた。それらのキットでは、箱をあけたときにほんのりと香る懐かしい木の香りや、あたたかい木の手触りでノスタルジーを感じることができた。そして、組み立てているときにも、いかにも工作していますという感じがするのも好きだった部分だ。今回のからくり人形にはそうしたこと演出がなかったのは少々残念なところではある。ただ、からくり人形は、いままでのキットよりも格段に複雑ではあるため、このあたりはしょうがないことなのだろう。
このように、説明書の手順に従っていけば、特に問題なく組み立てることができる。だが、ただ手順通りに黙々と組み立てるのはあまりオススメできない。たしかに、何も考えずに手順どおりに組み上げれば、からくり人形は完成して、きちんと動作することだろう。だけど、なにも考えずに完成させると、なぜ茶碗を取ると停止するのか、反転して元の場所に帰っていくのか、といったからくり人形の仕組みが後でさっぱりわからないということになりがちだ。からくり人形を組み立てたのはいいけど、2、3回遊んでおしまいでは、せっかくのからくり人形があまりにもかわいそうなのである。
ここは、説明書通りに急いで組み立てるのではなく、ゆっくりと時間をかけ、各ユニットの動作や、完成後の動きに思いを馳せながら組み立てて欲しい。そうすれば、大人になって忘れてしまっている「なぜこんなことをするのだろう」、「どういう仕組みになっているんだろう」といった思いが蘇ってくるに違いないからだ。こうしたことが、大人の科学の本当の楽しみというものではないだろうか。
|
|
|
半完成状態のからくり人形。各々のブロックを組み立て、それをさらに組み合わせることで完成する。この状態で、完成後の動作を想像するのも楽しい。
|
組み立てがおわったからくり人形。メカニズムは複雑そうに見えるが、それほど複雑ではない。ちなみに、人形のおなかにある回転盤がほとんどの動作のキーポイントとなる。
|
スケルトン状態のからくり人形に着物を着せれば見事完成。出来上がりの質感もなかなか良い。ひととおり遊び終わったら部屋のインテリアとして飾ることも可能だろう。ちなみに、茶碗の大きさは中国茶を飲むのにちょうど良い大きさだったりする。
|
評価(最高点は★5つ)
イバリ度 |
★★★★ |
出来上がったら完璧に調整をした後にイバるがいいかもしれません。組み立てるだけではなく、完璧に直進、完璧に180度転換といった調整をするのも腕の見せ所。 |
実用性 |
★ |
おもちゃなので実用性は皆無。知的好奇心を満足させるためのアイテムです。 |
お値段 |
★★★★ |
組み立てを十分に楽しむことができるなら比較的手ごろな値段ではないでしょうか。 |
価格 |
5,900円 |
じっくりやっても楽しめるのは1日くらい、なので予想利用時間は1日。忙しい人も、たまにはこうしたキットをゆっくりと作る時間を設けても楽しいだろうと思います。あるいは、親子で作って遊ぶのもいいかもしれません。
|
利用期間 |
1日 |
1日あたり単価 |
5,900円 |
|
・ 大人の科学 大江戸からくり人形(学研)
http://kids.gakken.co.jp/kit/otona/kuwa8.html
(広野忠敏)
2002/12/11 12:22
|
|
|
|
|