インタビュー

キーパーソン・インタビュー

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モルフォが語るスマートフォンとカメラの関係、今後の展望

 携帯電話がフィーチャーフォンのみだった時代から、カメラ機能の手ぶれ補正をはじめとしたソフトウェアを開発し、キャリアに提供してきたのがモルフォだ。手ぶれ補正技術のほかにも、パノラマ撮影や顔検出技術など、検出・認識、合成といったさまざまなカメラ関連の機能を開発してきた。

 スマートフォンが普及する時代を迎え、同社はスマートフォンを開発する各メーカーにもソフトウェアの提供を開始。日本国内のみならず、世界中のスマートフォンメーカーと取引するに至っている。他方、カメラが携帯電話に搭載されてから13年以上が経過しているが、今なお、カメラを使った機能やサービスは進化を続けている。

 本インタビューでは、カメラ機能の進化の方向性、カメラ機能を通して見える世界の文化の違いなどについて、モルフォ 代表取締役社長の平賀督基氏、同社 取締役 営業部 部長の高尾慶二氏に話を伺った。

モルフォ 代表取締役社長の平賀督基氏(右)、取締役 営業部 部長の高尾慶二氏(左)

動画撮影もHDRや手ぶれ補正の4K2K対応などが可能に

――スマートフォンの普及に伴い、国内メーカーでは吸収合併や撤退などの動きが拡大しました。カメラ関連のソフトウェアを提供する御社は、各メーカーに対して、一層積極的に関係構築を図っているようです。フィーチャーフォン時代はカメラ機能を中心に端末が進化してきた部分もありましたが、スマートフォン時代でも、メーカーからは同じようなニーズがあるのでしょうか?

平賀氏
 一部を除いて、日本のメーカーは「安かろう悪かろう」の方向に流れつつある印象です。海外メーカーのほうが気合が入っており、サムスン電子やアップルのカメラ機能は、日本メーカーのものよりいいのでは、と感じる時もありますね。

――日本メーカーの画素数の競争は行くところまで行った印象ですが、海外メーカーは画素数よりも面白さを追求しているように見えます。

平賀氏
 メーカーによりまちまちですね。アップルやHTCなどは使い方にこだわり、画質にこだわるのはサムスンやLGなどでしょうか。ノキアも画質にこだわったモデルがありますね。

――CPUなど、端末の性能が劇的に向上し、以前よりもいろいろなことができるようになったのでしょうか。

平賀氏
 静止画ではHDR、パノラマ撮影、連写の合成などがそうですし、最近はエフェクトをリアルタイムで反映させて確認することもできます。

 動画に対してさまざまな効果を加えられるようになったのも性能の向上によるものです。当社のソフトウェアですが、動画の手ぶれ補正では、フルHDの解像度に対応し、CMOSの歪みも補正できます。また、CPUパワーが必要ですが、仕様として4K2Kへの対応もできています。

高尾氏
 ノイズ除去も、従来はセンサー側の性能でしたが、ソフトウェアとCPUで高精度なノイズ除去が可能になりました。これも端末のハードウェアスペックが上がってきたからこそできる内容です。

平賀氏
 例えばある大手メーカーのハイエンドモデル向けのセンサーは暗部のノイズも少なめですが、ミドル・ローエンドモデルのカメラでは、ノイズも多めになります。

――日本ではハイエンドチップセットの「Snapdragon 800」が主流ですが、海外では「Snapdragon 400」やそれ以下も多いと思います。こうしたミドルクラスでもソフトウェア処理のカメラ機能は動くのでしょうか?

平賀氏
 動きますよ。ロースペックなモデルでもわりと動くと思います。4K2K対応などはハイエンドモデルでの動作になりますが、フルHD対応ならどのモデルでも動く印象ですね。

 最近では、動画でもHDRの効果を加えられるようになりました。センサー側の機能として行う例もありますが、それと同等のことがソフトウェア処理で可能になります。スマートフォンになって何が良かったかと言えば、こうしたことが可能になるマルチコア化ですね。

――マルチコアと関連するかもしれませんが、日本メーカーは省電力で駆動できる取り組みにも注力している印象です。

平賀氏
 海外メーカーでも消費電力は大きな課題として取り組んでいるのではないでしょうか。省電力じゃないと(ソフトウェアを)採用できないという話は、一般的になっています。

高尾氏
 例えば動画撮影などで、5分間といった録画時間に制限がある場合、実は発熱が問題で制限をかけている場合もありますね。

平賀氏
 静止画のソフトウェア処理でも、一瞬で処理が終わってしまうものと、処理に時間がかかるものがあります。ノイズ除去や手ぶれ補正などは処理時間が長いため、なるべく消費電力を抑える仕様が求められます。

――やはり動画のソフトウェア処理のほうが難しいのでしょうか?

平賀氏
 動画はリアルタイム処理が求められるのでかなりシビアです。さらに消費電力を抑える必要もありますから。ただ、マルチコア化のほかに、GPUの性能も上がっているので、いろいろなことができるようになりました。リアルタイムエフェクトなどもそうした例です。最近が動画系のコンテンツが盛り上がっているので、ニーズとしては高いと思います。

海外市場、ウェアラブル端末

――海外を含めてさまざまなメーカーにソフトウェアを提供しているとのことですが、ニーズに特徴的な地域差はあるのでしょうか?

高尾氏
 例えば中国では、一般の女性はあまり化粧をしないようなのですが、顔写真は綺麗に見せたいということで、そうした機能にニーズがありますね。

平賀氏
 アメリカは、ほかの地域と比べて動画の利用が多い印象ですね。

――ウェアラブル端末についてはどうでしょうか? ハードウェアからソフトウェアプラットフォームまで開発がさかんになっています。

平賀氏
 半信半疑です(笑)。面白いと思いますし、私自身、買っていろいろ遊んでみたい。ただ、それが年間1億台出荷されるかというと……少し違うのかなと。特殊用途では需要があると思います。

――ウェアラブルカメラ、といった製品では、御社のソフトウェアが活躍する機会も多そうですが?

平賀氏
 そうですね。画質以外にもノウハウは必要ですし、例えば顔が写ったときだけ撮影するという機能も可能でしょう。

――第3のOSなどと言われるプラットフォームも出てきていますが、その多くはWebの技術を中心に据えています。こうした端末への取り組みはどうでしょうか?

平賀氏
 撮影時に(リアルタイムに)必要な処理と、撮影後に行う処理を分けて考えています。手ぶれ補正など撮影時に必要な機能は、端末の中に残る機能です。

 一方、撮影後の、ポストシューティングの機能については、クラウドで処理する時代になるでしょう。検索やストレージとしての利用を含めて、クラウドの時代になると思います。クラウドについては思うところがありますが、まだあまり利用は進んでいませんね。

高尾氏
 クラウドは利用にお金がかかりますし、まだメリットを感じていないのかもしれません。

シャッター音が消えない理由とは……

――海外メーカーとの比較の話も多かったので、余談としてお聞きしますが、日本メーカーの端末は今もカメラのシャッター音が消せない仕様です。もちろん防犯上の理由という意図は分かるのですが、例えば子供のピアノ発表会などで母親のスマートフォンからシャッター音が次々に鳴り響くと、少し残念な気持ちになることもあります。何かうまい解決方法はないのかなと。

平賀氏
 その仕様は、決めた張本人が答えます。

――え!?

高尾氏
 はい、私です(笑)(※高尾氏は当時、J-フォンで写メールの企画・開発を担当していた)。当時はまだ……ケータイを人前で使っているということ自体が、少し不良っぽいといいますか……そうした空気もあって、「携帯電話のカメラ=盗撮」だと思われるのは良くないと思っていました。

 ところが、(写メール1号機となる)「J-SH04」の発売直前に、芸能人が盗撮で捕まって非常に大きな話題になってしまい、迷うことなくシャッター音は消せない仕様にしてしまったのです。

 ほかにも、当時は何かと“携帯電話が悪”といったニュアンスで報道されることが多かったですし、「J-SH04」のカメラ機能や仕様についても、当時はユーザー100人のうち10人が使えればいいと思って作った内容だったんですよ。

――なるほど。あの事件が影響していたんですね。さて、最後に現在注力していることなどを簡単に伺いたいと思います。

平賀氏
 海外メーカーに向けても、積極的に展開しているところです。日本発のソフトウェアメーカーで世界中のユーザーに製品を提供できる企業はまだまだ少ないですし、モルフォのカメラ機能がそうなるように頑張っていきたいですね。

 できるなら、ドルビーのように会社やブランドが見えるようにもしたいですね。また、撮影だけでなく楽しむのを知らしめたのが写メールでしたが、加工やシェアを含めたトータルソリューションとして提供していきたい。見守り・監視カメラの製品「Rusuban Cam」などもそうですが、ネットワーク上でどういうことができるのかも取り組んでいきたいですね。

――本日はどうもありがとうございました。

太田 亮三