ケータイ用語の基礎知識

第649回:LTE D2Dとは

端末同士でLTE通信を行う

 「LTE D2D」とは、基地局を介さずに端末同士が通信が行う、LTEによるデータ通信の方式です。“D2D”は「端末から端末」を意味する英語「Device to Device」から来ています。

 「LTE D2D」は、W-CDMAやLTEといった携帯電話向けの通信方式を定めている、3GPPのRelease 12で標準化される見通しです。Release 12は、2014年9月ごろ、プロトコルなどを決定し、これ以上の機能を盛り込まない「機能凍結」を行う予定になっています。商用化されるのは、さらにその先の話です。

 韓国電子通信研究院(ETRI)が「LTE D2D」を利用した端末間の直接通信デモに成功したと発表するなど、実用化に向けた実験もすでに行われており、早ければ2015年ごろには、この方式を搭載した端末が発表されるだろうと言われています。

 一般的に、携帯電話の通話やデータ通信は、遠く離れたユーザー同士のコミュニケーションが可能です。その一方で、たとえばユーザー同士が近い場所にいて、通信していることもあります。自宅から数十m、同じビル内の上下階といったケースです。こういった場合、わざわざ数百m離れた基地局にアクセスし、携帯電話事業者の交換機を経由するより、電波の届く範囲に端末同士がいて、直接、通信できればリソースを節約し、混雑の緩和が期待できます。つまり、携帯電話事業者からすると、ごく近距離の通信であれば、端末間通信を活用することで、通常のインフラによる通信回線の渋滞を避けられる、ということになります。

 もちろん災害、故障時の対策としても大きなメリットの1つです。

相手を見つける、電力制御などは基地局を使う

 Release12の取り組みは、LTE-Advanced(LTE-A)の次、ということでLTE-Bとも呼ばれます。「LTE D2D」は、このLTE-Bの機能の1つとなる予定です。

 携帯電話同士の通信としては、「おサイフケータイ(FeliCa/NFC)」や、Wi-Fiを使った「Wi-Fi Direct」といった方式が既に実用化されています。ただ、こうした既存の仕組みは、端末同士をかざし合ったり、見える距離にあったりと、ごく近い場合に使うものです。

 一方、LTE D2Dは通信可能な距離が大きく異なります。たとえばNFCでは数cmといった単位での通信ですが、LTE D2Dでは約1kmと、非常に長い距離での通信が可能とされています。もともと携帯電話と基地局は、数km離れていても通信できますが、LTEの仕組みをそのまま利用するので、これほど離れた場所同士の通信が可能になるわけです。

 また、NFCでは専用アンテナが端末内に組み込まれていなければいけません。一方、LTE D2Dは、携帯電話として普段から搭載しているアンテナなどのハードウェアをそのまま利用します。

 そして通信する相手を見つける場合、あるいは通信モードの選択や電力制御、セキュリティなどの機能はは、通信キャリアの基地局を活用する「ネットワークアシストD2D方式」が想定されています。

 無線伝送技術は、TD-LTE(時分割型のLTE)が利用される予定です。また、周波数帯域にも、すでに使われている携帯電話と同じ周波数帯の電波を使う予定で、出力も従来の携帯電話と同等とすることで、長い通信距離を実現するという形です。

 ちなみに無線LANの仕組みを使った「Wi-Fi Direct」では、Wi-Fiで使われている2.4GHzで周波数帯を利用しています。この仕組みは申請届出が不要なため手軽ですが、Wi-Fi以外の機器にもよく使われる周波数帯であり、干渉などが起こる可能性も踏まえて利用しなければなりません。その点、当局への届けなどが必要なものの、LTE D2Dは安定した通信が実現可能でしょう。

 その応用範囲としては、ネットワークによるデータ転送の遅延が少ないため、対戦ゲームなどが考えられます。はたまたVoLTEを利用した内線電話、自動販売機などのM2M(機器間)通信などでの利用も想定されています。

大和 哲

1968年生まれ東京都出身。88年8月、Oh!X(日本ソフトバンク)にて「我ら電脳遊戯民」を執筆。以来、パソコン誌にて初歩のプログラミング、HTML、CGI、インターネットプロトコルなどの解説記事、インターネット関連のQ&A、ゲーム分析記事などを書く。兼業テクニカルライター。ホームページはこちら
(イラスト : 高橋哲史)