ケータイ用語の基礎知識
第761回:IEEE802.11ah とは
2016年6月21日 11:40
LPWA向けの無線規格
IEEE802.11ahはよく「11ah(イレブンエーエイチ)」とも言われる無線規格です。「Wi-Fi HaLow(ワイファイヘイロー)」という愛称も付けられています。“Wi-Fi”と名付けられていることからもわかるようにWi-Fiアライアンスが中心に規格化を進めており、IEEE標準規格である802.11無線規格のひとつとして2016年内に正式なバージョンとしてリリースできるよう標準化の作業が進められています。
IEEE802.11ahは、「第759回:LoRaとは」で解説したLoRaと同じくIoT用を主用途とした低電力広エリア無線「LPWA」の主要な規格のうちのひとつです。
他の周波数帯を使うWi-Fiなどと同じく、OFDM変調方式を採用していますが、パケットサイズなどが異なり150kbps〜3.3Mbps(1MHz幅、MIMOなしの場合)程度と低速ながら、伝送距離は最大1kmで、なおかつ超低消費電力を目指しています。ちなみに1MHz幅を複数利用する「チャンネルボンディング」や複数のアンテナを同時に使う「MIMO」も規格上、利用可能です。それらを組み合わせることで通信速度をアップできますが、通信可能な距離は短くなります。
LoRaが目指す「最大通信距離8km」に比べると、1kmという距離は狭いように思えますが、11ahは通信速度でLoRaを上回ります。これは、11ahの想定するユースケースでは、1日数回、あるいは月に数回、数百byte〜数KBという通信だけではなく、たとえばIoT機器のファームウェアを更新する、といった、比較的大容量のデータも想定しているためです。
LoRaが各国で免許なしで無線が使えるいわゆる「サブギガ帯」の電波を使用しているのと同様、「11ah」もサブギガ帯の電波を使います。極超短波と呼ばれる電波で、かなり光に近い性質を持つサブギガ帯ですが、Wi-Fiなどで使われる2.4GHz、5GHzといった周波数帯と比較するとサブギガ帯は長い距離で通信でき、建物の回りこみなども行われやすくなることもあり、世界中でIoT機器向けに割り当てられています。
ひとつのアクセスポイントで約8000台の端末を接続
IEEE802.11ahの主な用途は、IoT機器とアクセスポイントを結ぶ通信用です。たとえば、家庭やオフィスに供給されている電力量を計るスマートメーターからの情報を収集するためなどに使われるわけです。
この手の通信では、1台1台は大量のデータを送受信するわけではなく、ごく短い時間に、ごくわずかなデータを間欠的にやり取りします。そのため、一度に流せるデータ量である「パケットサイズ」を小さく、また電波を出してから次の電波を発信する間(休眠時間)を長く取ることで超低消費電力を実現しています。典型的な例として、一度電池を入れた機器は、充電なしで数年間に渡り利用できるようなイメージとされています。
このような用途に使うため、これまでのWi-Fi用アクセスポイントとは異なり、非常に多くの端末がひとつのアクセスポイントに接続できるようになっており、規格上、最大8191台まで接続できます。
また11ahは、同じくIEEEの無線規格であるIEEE802.15.4gという規格との連携も考えられています。IEEE802.15.4gは別名「Wi-SUN」とも呼ばれる規格で、人の身の回り程度の範囲、つまりPAN(Personal Area Network、パーソナルエリアネットワーク)向けの通信規格です。
また、セキュリティ面では、Wi-Fiで利用されるWPA2、WPSといった仕組みはそのまま11ahでも利用可能です。LWPA向けの無線通信規格はいくつかありますが、11ahはこのような、他のIEEE802.11ファミリーとの互換性などを材料に、優位性を確保しようとしています。