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IoT向けWi-Fi「IEEE802.11ah」の業界団体が発足

 IoT向け通信規格である「IEEE802.11ah」を推進する業界団体「802.11ah推進協議会」が発足した。会長は、4年前までNTT BPの社長を務めていた小林忠男氏。

 今後、国内での利用に向け、法的な面での環境整備を働きかけていくほか、国内での実証実験の準備を進める。

IEEE802.11ah、愛称は「Wi-Fi Halow」

 IEEE802.11ahは、IoTデバイス向けの通信規格のひとつとして標準化された無線通信規格。監視カメラの映像を伝送したり、導入企業自体がネットワークを自由に構築したりできるといった特徴を備える。

 IoT向けの通信規格は、「LPWA(Low Power Wide Area)」と総称され、低消費電力かつ広域な通信エリアを主な特徴とする。ただ、通信速度は遅いものが一般的で、温度センサーなどの少量データを扱うに適している。

802.11ah(左)での伝送と、他のIoT向け通信規格を想定した250kbpsでの映像伝送を比較

 一方、IEEE802.11ahは920MHz帯(サブギガヘルツ帯)を用いており、1MHz幅で1.5Mbps、もし4MHz幅を使えるならば5Mbpsで通信できる。そうした高速通信を備えつつも、スリープモードなどを駆使することで、デバイス側はバッテリーでの駆動もできるよう配慮されている。

 いわゆるWi-Fiの一種、“Wi-Fiファミリー”として扱われ、「Wi-Fi Halow」(ワイファイ ヘイロー)という愛称もある。802.11ac規格のチップを1/10にダウンクロックして利用できるとのことで、Wi-Fiとの親和性の高さをアピールする。

56の企業や団体が所属

 協議会には、NTT東日本やNTTドコモ、KDDI、ソフトバンク、バッファローなど56の企業・団体が所属する。

 端末、アクセスポイント、クラウドまで、全てユーザーが自由にネットワークを構築できることも特徴のため、現在のWi-Fi製品のように多彩なデバイスが、さまざまなメーカーから登場したり、好みの環境で企業や個人が「IEEE802.11ah」のネットワークを構築したりできる。

 小林会長は、特にこの自由度が「結構すごい特徴。これまでのLPWAは携帯電話会社などがネットワークを作る」と熱弁を振るう。

小林会長

農業などへの活用

 広いエリアをカバーしつつ、バッテリー駆動で自由に設置し、なおかつそれなりの品質の映像を伝送する。「IEEE802.11ah」では、そんな要望を実現できるとのことで、既に中国、米国、シンガポール、台湾といった国では日本よりも前向きな動きが出ており、工場の自動化、監視カメラなどの用途での採用事例が進行中という。

 協議会では、想定される導入例として、農業などを挙げる。

 従来型のLPWAでは、センサーで得たデータを送り、分析するといった使い方はすでに想定されている。だが、そこに写真や動画を付け加えるには力不足。まさに802.11ahの出番というわけだ。農作物を育成する際に、数値に加えて、目で見て判断できる材料を提供することで、離れた場所の農作物の状態を把握しやすくなる。

 また鳥獣害対策としても、期待がかかる。オリで害獣を捕らえた場合、通知までであれば既存システムでも十分だが、どういった動物をとらえたのか、写真、映像も添えられれば、現地で何が必要なのか分かる、といった具合だ。

 標準化された規格とはいえ、現在、チップセットを手がけるのは米ニューラコムのみ。他のメーカーでは、スタートアップと言える規模の企業が3社ほど、主に知財面での開発を進めており、実製品としてのチップが複数企業から登場するのはもう少し時間がかかりそう。

 そうして複数のチップが登場した後で、相互接続性試験を重ね、実運用に耐えられるかどうか検証をしていくというプロセスが待つ。また国内でも、2019年半ばに実験局免許を申請し、2019年末まで検証を進める。

 実際の製品が登場するのは、早くとも2020年以降になりそうだが、自由なネットワーク設計と、それにもとづくコストパフォーマンスの高い運用、そして多彩なデバイスの登場など、これまでの「Wi-Fiの良さ」をIoTの世界でも実現すべく、協議会では活動を進めていく方針だ。