レビュー
「iPad mini(A17 Pro)」レビュー 確かな高性能化と相変わらずの利便性を感じさせる1台
2024年11月15日 00:00
10月23日、「iPad mini(A17 Pro)」が発売された。前モデルとなるiPad mini(第6世代)は2021年9月の発売だったため、およそ3年ぶりのアップデートとなる。
新しいiPad miniは、アップルのWebサイトで「iPad mini(A17 Pro)」とも表記されており、名前の通り、iPhone 15 Pro、iPhone 15 Pro Maxに搭載されているチップセット「A17 Pro」を搭載している。
ちなみに、従来通りの命名ルールであればiPad mini(第7世代)となるところだったが、本モデルでばチップセットが名称に付け加えられている。これは、「iPad Pro(M4)」といった、別モデルのルールに則り、世代別の性能をわかりやすくするためとのことだ。
発売に先駆け、「iPad mini(A17 Pro)」を借りることができたので、本記事では1カ月ほど実機を試して感じたポイントについて紹介していこう。なお、筆者はレビュー用にiPadを試したことは何度かあるものの、長期間にわたり使用したことはないので、「iPad初心者にも「iPad mini(A17 Pro)」は有用か」という観点からも、魅力を紹介していこう。
「iPad mini(A17 Pro)」は限りなくスマートフォンに近いタブレット
実際に「iPad mini(A17 Pro)」を1カ月ほど試した現時点では、「限りなくスマートフォンに近いタブレット」と感じている。
タブレットの最たる特徴は、スマートフォンに比べ、大きな画面で作業ができる点だろう。iPadOSやAndroid OSでは、大画面を活かしたマルチタスクの操作性や機能に注力しており、ユーザーとしても、より大きな画面で動画をみたり、ゲームをするといった使い方が、主目的となることが多い。
一方、iPadシリーズの中でも上位モデルであるiPad ProやiPad Airは、Macと同じくMシリーズのチップセットを搭載し、動画編集といったヘビーな作業もこなせる高性能を特徴とする。どちらかというと、携帯性が高く、タッチ操作にも対応しているパソコンという印象も抱くほどだ。
「iPad mini(A17 Pro)」の場合、パソコンのように使うというよりは、“大画面版iPhone”といったほうが近いと感じる。これはMシリーズではなく、A17 Proを搭載した点や、iPad ProやiPad Airに用意されている純正キーボードがないという点からも垣間見える。
「iPad mini(A17 Pro)」では、iPhoneで利用できるアプリがほぼ全て、そのまま利用できる。セルラー版であれば、屋外でのデータ通信も快適に行えるため、iPhoneを使い慣れている人にとっては、迷いなく使えるのもポイントだろう。
本体は195.4mm×134.8mm×6.3mm。質量はWi-Fiモデルが293g、セルラーモデルが297gとなる。もちろん、200g前後であることが多いスマートフォンと比較すれば重いが、タブレットとして捉えれば十分軽量。6.3mmとかなりの薄型であるため、あまりかさばらないのもありがたい。
もちろん、iPad Proのようなデバイスを大画面スマートフォン代わりに使用したり、「iPad mini(A17 Pro)」をパソコンライクに使うこともできるが、ネックになるのは販売価格。パソコンに近い性能を有したiPad Proは数十万円するのに対し、「iPad mini(A17 Pro)」はApple Storeで7万8800円からと、倍以上の価格差がある。ヘビーな作業を求めているのではなく、ちょっとしたアプリゲームや動画視聴など、一般的なスマートフォンに近い動作を求めるのであれば、「iPad mini(A17 Pro)」は有力な選択肢となるはずだ。
なお、「iPad mini(A17 Pro)」は、現時点ではApple Intelligenceに対応する最安デバイスとなる。日本語対応は2025年中だが、新しいAI機能を使うためにiPhoneの機種変更を検討している人は、「iPad mini(A17 Pro)」を買うという選択肢も頭に入れておいてほしい。
8.3インチディスプレイのスマートフォンにはない魅力
ここまで「iPad mini(A17 Pro)」を、スマートフォンの拡張版デバイスとして紹介してきたが、もちろんタブレットとしての魅力もふんだんに備えている。
搭載ディスプレイは8.3インチ。シリーズのコンセプト通り、スマートフォンよりは大きく、タブレットの中ではコンパクトというサイズ感だ。Liquid Retinaディスプレイ、いわゆるIPS液晶ディスプレイではあるが、有機ELディスプレイに劣るかと言われれば、そこまで極端な差は感じていない。ただし、500ニトという画面輝度には、屋外にも持ち運びたいデバイスと考えると、若干物足りなさを覚える。
タブレットのニーズは様々だが、個人的には、スマートフォンに近いタッチ操作で、画面分割機能を有意義に使えることこそ、真髄だと感じる。iPadの場合、2つのアプリを左右に表示するSplit View、ピクチャインピクチャ形式でアプリを表示するSlide Overが利用できる。
タブレットとしてはコンパクトな「iPad mini(A17 Pro)」だが、2つのアプリを横並びに配置しても、表示領域は十分に感じる。分割の割合もある程度変更できるため、動画を見ながらチャットを返すといったシーンで便利。SNSアプリと写真アプリを同時にひらけば、写真を長押ししてSNSアプリにスライドし、そのまま投稿するといった使い方もできる。
ブラウザアプリとX(旧Twitter)アプリをSplit Viewで表示
アプリの全画面表示時や、Split Viewの利用時には、下から上にスワイプすることで、タスクバーの表示もできる。タスクバーに置いたアプリを長押しし、スライドすることで、ポップアップ形式でアプリを即座に立ち上げることも可能だ。
パソコンほどではないが、大画面を活かしたマルチタスクは、iPhoneをはじめとするスマートフォンではなかなか体験できない快適さがある。もちろん、フォルダブルスマートフォンのような特殊なデバイスであれば可能だが、2010年から続くiPadシリーズの、いい意味で小慣れたUI(ユーザーインターフェイス)は、他にない魅力だろう。
iPad miniでは初のApple Pencil Proに対応
販売価格を見ると、「iPad mini(A17 Pro)」は、シリーズ内でも安価なタブレットとして、広いユーザーに受け入れられるモデルであることがわかる。そんな中、Apple Pencil Proに対応しているのは、ひとつの大きなトピックスだろう。
Apple Pencil Proは、一般的なタブレット用タッチペンとしても優秀で、低いレイテンシー(遅延)の書き心地を持つ。「iPad mini(A17 Pro)」の側面にマグネットで取り付けるだけで、ペアリングや充電ができるのも特徴。手書きの文字を、リアルタイムでテキストに変換できる機能も、手描き派には嬉しいポイントだ。
Apple Pencilシリーズの中では、Apple Pencil Proのみの機能となるのが、圧力を感知して線の太さを変える機能や、側面をダブルタップしてツール(ペン先)を切り替える、ペンを回転させてブラシの向きを変えるといった使い方ができる。ペンをつまんで、パレットを開くことも可能だ。
スクイーズといったアクションを行った際には、触覚フィードバックから振動が帰ってくるため、“操作している感”が味わえるのは、デジタルデバイスならではだろう。アップルの「探す」機能にも対応しているため、仮に紛失してしまった場合も、見つけやすくなっている。
筆者は普段あまり絵を描かない、というかとても下手なので、イラストを描く際の優位性についてはあまり述べられないが、手書きのメモをとるためのデバイスとしては、使い勝手のいい印象。マグネットで「iPad mini(A17 Pro)」本体に取り付けられるため、持ち運びもしやすいのが好印象だ。
そのほか、「iPad mini(A17 Pro)」専用のアクセサリとして、Smart Folioも発売されている。スタンドにもなる定番カバーとなっており、装着しても厚みがあまり増さないのが特徴だ。
個人的には、屋外にも持ち運びやすいデバイスとして、専用のキーボードカバーも出ると嬉しいのだが、スマートフォンの拡張デバイスという位置付けであるiPad miniでは難しいのかもしれない。こちらはサードパーティ製品で対応するしかないが、今後の新アクセサリーの登場にも、密かに期待したい。
ゲーム用デバイスとしての優位性も抜群
先にも少し触れたが、「iPad mini(A17 Pro)」はゲーム用のデバイスとしても優れている。iPhoneよりも大きな画面で操作ができるので、ゲームの迫力が増すのはもちろん、スピーカーの音圧も、筐体サイズを考えれば十分なものに感じる。
Androidタブレットの場合、メーカーによって画面比率が違うことが多いためか、大画面表示に対応していないアプリが多く見受けられる。この傾向が顕著なのが、ゲームアプリなのだが、長くシリーズが続いているiPad miniに関しては、この心配も基本的にない。ここも、長く歴史を積み重ねてきたiPadシリーズの優位性が出る部分だろう。
搭載チップセットのA17 Proも、ほとんどのアプリを操作する上で、不満を感じるシーンはなく快適。iPhone 15 Pro/15 Pro Maxに見られた発熱も、筐体サイズの関係か、ソフトウェアでの制御かはわからないが、かなり抑えられているように感じる。
iPhoneシリーズと比較すると、ベゼルの幅が太いことが気になるという人もいるかもしれないが、タブレットは両手に持って操作する、もしくは片手で持ち、もう一方の手で操作する機会が多いため、親指をディスプレイ側に置くシーンが多い。ベゼルがあるおかげで、指の置き所ができているとも言えるだろう。実際に試していても、大きな画面の優位性が高いため、個人的にはベゼルが気になるシーンはない。
「iPad mini(A17 Pro)」はアップルユーザーからタブレット初心者にもおすすめ
新機能というわけではないため、今回はあまり触れていないが、「iPad mini(A17 Pro)」は、アップル製品らしく、デバイス間のシームレスな連係にも優れている。
iPhoneのモバイルデータ通信ですぐにテザリングができるインターネット共有機能や、Macシリーズのサブディスプレイとしてワイヤレスで接続できる機能などは特に使いやすく、アップル製品で身を固めた時の快適さは、他にない体験と言える。
文中でも触れたが、Apple Intelligenceに対応する最安デバイスとしての注目度も高い。当然のことながら、「iPad mini(A17 Pro)」は、アップルデバイスファンには無視できない仕上がりだろう。
一方で、Androidスマートフォンユーザーには不向きかと言われれば、決してそういうわけではない。グーグル系のサービスは、別途アプリをインストールし、Googleアカウントでログインすれば問題なくデータの同期もできる。何より、Androidタブレットに8インチ台の選択肢が少ないため、「このサイズのタブレットが欲しい」という人には、有用な選択肢になるはずだ。