ソフトバンク、米スプリント・ネクステル買収


 ソフトバンクは、米スプリント・ネクステルを買収することを正式に発表した。ソフトバンクは15日、都内で会見を開催、経緯を明らかにした。

 スプリントの事業の買収額は約201億ドル(約1兆5709億円)。このうち、約121億ドル(約9469億円)はスプリントの株主へ、残りの80億ドル(約6240億円)は新たに発行される新株を引き受ける形で、スプリントは“真水”(現金)を得る。これを財務体質強化などに充てる。取引完了は2013年半ばになる予定。

ソフトバンクの孫正義社長(左)とスプリント・ネクステルCEOのダン・ヘッセ氏(右)

 ソフトバンクは米国で受け皿となる新会社を置き、その子会社として新スプリントを設立。スプリントが新規発行する転換社債を31億ドルで引き受け、現スプリントは新スプリントの完全子会社となる。スプリントはニューヨーク証券取引所に上場したまま、合併する形になる。合併後にソフトバンクはスプリントの株式70%を取得し、残り30%がスプリントの一般株主となる。スプリントの既存株主は7.3ドルの現金もしくは新スプリント株を受け取る権利がある。

 なお、新スプリントのCEOには現スプリント・ネクステルCEOのダン・ヘッセ氏が就任する予定。新スプリントの取締役10名のうち、3名は現スプリントの取締役の中から選任され、もう1名はスプリントのCEO、残りをソフトバンクが任命する。

 ソフトバンクグループはモバイルインターネットカンパニーとして、事業基盤を確立。日米で移動体通信事業を展開する。



ソフトバンクの「V字回復」カルチャーをスプリントに

 スプリント・ネクステルは、米国3番手の通信事業者。CDMA事業者でFDD方式のLTE事業者でもある。Verizon、AT&Tに続くポジションで、契約者数は5600万人、米国市場シェアは16%となる。プリペイド式携帯電話では米国2位。トランシーバー型の通信システムである「IDEN」(アイデン)を展開する旧ネクステルの契約者をスプリント網に移行させるため、2007年をピークにスプリント・ネクステルの契約者数は下降線をたどり、2008年頃には四半期あたり100万超のペースで契約者が離れていた。

 しかし、コスト構造の見直しやブランド力向上といった、加入者増に向けた取り組みを続け、1年前にはiPhoneを取り扱うようになった。好調トレンドに乗ったスプリントは現在、四半期あたり100万を超える加入者を獲得するまでに回復した。



 プレゼンテーションを行ったソフトバンクの代表取締役社長の孫正義氏は、国内と同様、米国も上位2社によって市場が寡占状態にあるとした。ソフトバンクが資金を投じることで、スプリント・ネクステルは手元に現金を確保し、財務基盤を強化できる。さらに、スマートフォンへの注力やLTEネットワーク展開といった、ソフトバンクモバイルのノウハウが投入される。

 孫氏は、日本テレコムやボーダフォン、ウィルコムを「赤字三兄妹」と呼び、それらを例に「ソフトバンクグループになった瞬間から回復した」と語った。なお、ソフトバンクグループのシナジー効果などもありこれら事業者は上昇トレンドにのったが、ボーダフォンやウィルコムの収支はいずれも黒字だった。孫氏は、「V字回復は(ソフトバンクの)企業カルチャー」と語り、ノウハウを注入することで、反転攻勢をかけるスプリント・ネクステルの追い風としたい考えを示した。

国内ソフトバンクユーザーにメリットはあるか?

 それでは、今回の買収は国内のソフトバンクモバイルのユーザーに、メリットはあるのか。

 発表会において、その詳細について語られることはなかったが、ソフトバンクモバイルとスプリント・ネクステルの加入者数を合計すると、日米合算して9600万件の顧客基盤を得ることになる。

 孫氏は拡大した顧客基盤により、スマートフォンの購入台数が世界有数になるとし、「端末メーカーへの交渉力が増す」と話している。両社はいずれもLTEのネットワークを展開しており、LTE対応スマートフォンの端末調達力の向上や調達コストの削減などに期待ができそうだ。

 同じように、基地局などの通信機器関連では、ソフトバンクモバイルとスプリント・ネクステルはいずれもエリクソン製の通信設備を採用しており、孫氏は「購入ボリュームは世界トップレベル」と話した。スケールメリットを得ることで、こちらも調達力増やコストダウンが見込めそうだ。

 ただし、孫氏は日米にまたがるネットワークのコストがどの程度削減できるのか、計算しにくい面を語っており、今回は詳細を説明していない。同氏は、今回の買収を「米国での他流試合」と表現しており、基本的にはスケールメリットによる期待感をアピールするに留まった。

金持ち2社の寡占はチャンス

 孫氏は「挑戦しないのはリスク」と冒頭語り、スプリント・ネクステルの買収を強い志を持って決断したことを説明した。国内携帯市場は1億4000万人規模で、米国は3億5000万人規模と、市場の規模は倍以上に違う。

 しかし、日米ともに活発なスマートフォン市場であり、一人あたりの通信収入を示すARPUが近く、ポストペイド(後払い)式の信用経済が発達している点など、共通点は多い。孫氏は、「金持ちの2社が市場を寡占しているのは、挑戦者にとってまたとないチャンス。日本での経験を活かせる」と話す。

 また、スプリント・ネクステルのヘッセ氏は、回復に転じたスプリントにとって、資金を得て財務基盤を強化できる点は第2フェーズであるとし、「財務が苦しい中で歓迎すべきことだ」などと述べた。また、同氏は「ソフトバンクからさまざまなことを学んでいきたい。今回の取引はスプリントの株主価値向上に最適。米国で1番の携帯電話事業者を目指す」とした。

 孫氏は、ボーダフォン以来の大型買収について、借入金を返済する「自信がある」述べた。また、「KDDIとソフトバンクのどちらが2位か」と語りかけて、「そんなものは全部誤差、小さいことを気にするのはやめよう。世界で3位、ステージは変わった。はるかに見下ろす」などとした。

 ただし、今回の買収関連の話題により、ソフトバンクの時価総額は二日間で1兆円減っている。孫氏は「今買わずしていつ買うのか」「旅をしたお金が戻ってくると受け止めて欲しい」などと語っていた。



 




(津田 啓夢)

2012/10/15 17:08