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グーグル、「The Beyond Series: AI for Science」開催 DeepMindとiPS研究者が語る次世代研究
2025年11月18日 00:00
グーグルは17日、「The Beyond Series: AI for Science」を開催し、Google DeepMindのグローバル経営幹部らが登壇した。日本が直面する重要分野として注目が高まる「ロボティクス」と「ヘルスサイエンス」をテーマに、AIによる研究や技術の発展がどのように加速していくのかについて意見が交わされた。
AIが促す生命科学研究の加速と「0から1」を生み出す役割
パネルディスカッションには、Google DeepMindで科学・戦略的イニシアチブを統括するプシュミート・コーリ副社長と、京都大学iPS細胞研究所(CiRA)の齊藤博英教授が登壇し、Google DeepMind東京拠点リードの全炳河氏がモデレーターを務めた。
「AIが加速する生命科学研究」をテーマに、研究現場におけるAI活用と可能性について語られた。Google DeepMindでは、人類に貢献することを目的に責任あるAI開発を進めており、特に科学研究分野を重点領域として取り組んでいるという。
研究テーマを選ぶ際は、「世界的に意義が大きいこと」「AIなしでは極めて難易度が高いこと」「科学者と機械学習の専門家が協働できる領域であること」を重視しているとプシュミート氏が説明した。こうしたアプローチは、構造生物学者と機械学習研究者が協力して成果を出したAlphaFoldの研究にも表れているという。
CiRAの齊藤教授は、iPS細胞の品質と安全性をさらに高める研究に取り組みながら、新しい生命科学と医療の可能性を開くことを目指している。RNA分子を対象とした研究では、自身が開発した生成AIを用いてRNA酵素を設計し、天然酵素を上回る活性が得られたという。この経験から、AIが研究にもたらす大きな可能性を実感したと話す。
AIを活用した研究支援ツールとして、AlphaFoldはタンパク質の構造や機能の理解に役立ち、すでに研究現場に広く普及している。現時点で300万人以上がアクセスしているとされ、アジアでは約120万人、日本国内だけでも約15万人が利用しているという。研究室や研究所で日常的に使われる存在になりつつある。
CiRAは9月から、Google DeepMindが開発した研究支援AI「AI co-scientist」のTrusted Testerにも参加している。すでに研究者が導入を進めており、文献に基づく複数の仮説を提示する機能を研究検討に活用している段階だ。齊藤教授は、このツールを「研究室に非常に優秀なサイエンティストがもう1人いるような感覚」と表現し、提示される仮説からどこを優先的に検証していくかを議論しているという。
研究におけるAI活用については、仮説検証の負担を減らし、重要な実験に集中できることへの期待が大きいと説明。研究者の中には仕事がAIに代替される懸念もあるとしながら、AIが得意とするのは効率化や既存成果の拡張であり、誰も試みていない発想(0→1)は研究者が担う役割と位置づけた。
Google DeepMindでは、タンパク質に限らず、生命の設計図であるゲノムの理解、次世代エネルギー、材料科学、さらに気象予測や核融合研究など、幅広い科学領域へ応用を進めている。
今後、研究の加速を図るうえでは、技術の利点とリスクの両面を踏まえた利用や、強力なAIツールを幅広い研究者が使えるようにする「アクセスの民主化」、教育による理解促進が重要になるという。齊藤教授からは、AIが研究分野の垣根を越える「架け橋」として機能することで、将来的には現在存在していない細胞を生み出し、これまで治療困難とされてきた疾患への挑戦が可能になるとの見方も示された。
科学ツールとしてのAIがもたらす変化と課題
あわせて報道関係者向けに、AlphaFoldやAI co-scientistについて、プシュミート氏から具体的な説明があり、齊藤教授がCiRAでの実際の活用事例と今後の展望について紹介された。
プシュミート氏は、AIの応用領域として生物学、エネルギー、材料、地理空間知能を挙げ、特に気象予測では、従来スーパーコンピューターで数日を要していたシミュレーションが、単一チップで1分以内に完了するレベルまで進展していると話した。
AlphaFoldがもたらした変化としては、構造解析技術を持たない研究者でもアクセスできる環境の「民主化」、研究期間の大幅な短縮、効率性の向上といった点が紹介された。
一方、CiRAでの研究では、RNA研究におけるデータ不足が課題で、AI co-scientistの活用を進めながら、次世代iPS細胞研究など新たなテーマへの応用を視野に入れているという。
AIを研究に生かすためには、質の高いデータやシミュレーション環境、適切な評価指標が不可欠とする意見も挙がった。また、生命科学領域のデータ不足を克服するため、ロボティクスとAIを組み合わせた自動化技術による正確で大規模なデータ取得への期待も語られた。








