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楽天と日本HP、「Rakuten AI for Desktop」で協業 目指すハイブリッドAIの狙い
2025年11月11日 17:07
楽天グループと日本HPは11日、「Rakuten AI for Desktop」導入に向けて協業することを発表した。
楽天が描くAI活用の未来
楽天グループ専務執行役員のティン・ツァイ氏は、楽天が描く未来のビジョンと今回の提携に至った背景を説明した。ティン氏は、三木谷会長の掲げる「イノベーションと起業家精神で人々に力を与える」という理念に共感して楽天に参画したと述べ、AIは日本や世界の人々により良い製品を届けるための「黄金の機会」だと語った。
楽天は創業以来、インターネット技術を活用して革新を重ね、キャッシュレス決済など時代を先取りした取り組みを進めてきた。現在の楽天の使命は、AIをあらゆる事業活動に取り入れることであり、AIは人の創造性を拡張し、生産性を高め、楽しさをもたらす「常に役立つアシスタント」になるとした。
さらに、ネット接続に依存せず、どこでも知能を利用できる世界の実現を目指しているという。このビジョンのもと、楽天は70億パラメータの大規模言語モデル(LLM)を活用し、HP製ノートパソコン上でオンデバイス実行が可能な「Rakuten AI for Desktop」を設計した。
ティン氏は、オンデバイスAIの利点として、オフライン利用やローカルファイルへの直接アクセスによる高速性、GPUやNPU活用による経済性を挙げた。今後は、サービスをパソコンからモバイルにも拡張し、いつでもどこでも最高の接続性と知能を提供していく考えを示した。
楽天とHPの協業で実現するハイブリッドAI
日本HP代表取締役の岡戸伸樹氏は、楽天との関係が2010年12月、HPダイレクト楽天市場店の開設から始まったことに触れ、当時その推進を自ら担当していたと紹介。約15年を経て、AIという戦略的分野で協業を発表できることを光栄に思うと語った。
今回の提携は、「クラウドAIとオンデバイスAIを融合させたハイブリッドAIこそがAIの未来である」という共通のビジョンを両社が共有したことから実現したという。岡戸氏は、クラウドAIは広範で最新の情報を扱い、強力なコンピューティングパワーを活かして高度な分析・推論を行うのが特徴であると説明。
一方、オンデバイスAIは、オフラインでの利用やプライバシー保護に優れ、サーバーを使わないためトークン課金が不要で低コストに活用できると述べた。これらを組み合わせることで、より快適で安全なAI体験を提供できるとした。
楽天は日本語に根ざしたAIやLLMの強みと、広大な会員基盤・経済圏を持つ。HPはオンデバイスAIの実装ノウハウと、個人から企業まで幅広いチャネルを有している。両社はこの強みを掛け合わせ、より多くのユーザーに価値を届けることを目指す。
HPは、インテル、AMD、クアルコムなどのシリコンベンダーやマイクロソフトとの連携で得た知見を活かし、「Rakuten AI」がWindows上でNPUを最大限活用できるよう技術支援を行う「開発アドバイザー」としての役割を担う。
日本HPは、「Rakuten AI for Desktop」をインストールできる専用アイコンが表示されるパソコンを、2026年春~夏ごろから販売予定。対象はゲーミングモデルを除くほぼ全ての個人・法人向けパソコンで、キャンペーンを通じ利用促進を図る方針。
クラウドとオンデバイスでの具体的な活用例
「Rakuten AI for Desktop」では、クラウドモードとオンデバイスモードをワンタッチで切り替えられる。クラウドモードでは、楽天トラベルの膨大なデータをもとに「駅から徒歩10分以内」「朝食付き」など条件に合うホテルを検索できる。
一方、オンデバイスモードは、機内など通信が不安定な環境や機密情報を扱う場面で有効。ローカルに保存された社内メールをAIが要約し、安全な環境下で次の会議向け提案書を作成することも可能になる。
質疑応答
――「Rakuten AI for Desktop」の提供開始以降、HPの対象デバイス以外で利用できるのか。
ティン氏
デスクトップ版のパフォーマンスはHPのラップトップ向けに最適化されています。現在はHPのハードウェア向けに最適化することに注力していますが、将来的に異なるハードウェア向けに最適化することを考えています。
――楽天モバイルのSIMを活用したバンドルサービスなどを検討しているか。
岡戸氏
楽天モバイルのSIMを活用したバンドルサービスについては、具体的に楽天と何かを検討しているわけではありません。しかし、我々はお客様の視点に立って、お客様の体験が良くなることは常に考えているため、いつでもオープンにディスカッションしていきたいと考えています。
――「Rakuten AI for Desktop」は、AIパソコンでなくともたとえばCPUやGPUだけでも動作するのか。
松浦氏
「Rakuten AI for Desktop」は、40TOPS以下のNPUを搭載したパソコンでも動作することはできます。ただし、オンデバイスモードで利用するには、現時点では40TOPS以上のNPUを搭載した次世代AIパソコンである必要があります。
――デスクトップ版を利用する際の料金体系について知りたい。
水口氏
料金体系については、さまざまな選択肢のオプションを検討しており、HPと議論させていただいているところです。
――実質的に、オンデバイスAIが利用できるのは「Copilot+ PC」ということになるか。
松浦氏
それに近い定義だと思っていただいて大丈夫です。40TOPS以上のNPUを搭載したパソコンという形になっています。
――HPのパソコンには「HP AI Companion」や「Copilot」が搭載されているが、「Rakuten AI for Desktop」が加わるとAIエージェントが複数存在することになる。ユーザーはどのように使い分ける想定か。また、将来的に連携や統合は考えられているか。
松浦氏
「Rakuten AI for Desktop」については、アイコンを設置してすぐにアクセスしてインストールできる形であり、パソコンにインストールされた状態で出荷するわけではありません。
「HP AI Companion」と「Rakuten AI」は補完関係にあります。「HP AI Companion」は、パソコン利用体験の改善、たとえばパソコンのパフォーマンス向上や、パソコンの設定を自然言語で伝え対応できるといったHPならではの機能に特化しています。
ティン氏
「Rakuten AI」のユニークな価値は、単なるチャットではなく、ユーザーがタスクを完了させることを助け、特に旅行やショッピングなどのリサーチだけでなく、「アクション(行動)」を完了することを助ける点にあります。ユーザーの信頼を得るためには、ユニークな価値を提供することが重要だと考えます。
――「Rakuten AI for Desktop」を導入したパソコンの販売について、楽天市場での販促も含め、機能など、どのように販促・周知していくのか。
岡戸氏
今回、ハイブリッドAIという機能が付くことでAIの使用が非常に広がるため、その点を楽天市場のWeb上やHPの直販サイト、法人のお客様にも含めて幅広く周知していきたいと思います。
機能としては、日本語に根ざしたAI/LLMという点は大きく差別化ができる要素であるため、個人から法人まで幅広く訴求していく方針です。















