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ソフトバンク、「Arm Unlocked Tokyo」でAI-RANとAITRASの取り組みを講演
2025年11月7日 00:00
6日、テクノロジーイベント「Arm Unlocked Tokyo 2025」が開催され、ソフトバンク先端技術研究所の森権次郎氏が登壇した。
「AI-RANとAITRASオーケストレーターが実現する未来」と題して講演を行い、AI時代に向けた新たな通信・計算インフラ構想を紹介した。
AIの普及に対応する次世代社会インフラ構想
今後はAIがあらゆる場所に浸透し、社会の基盤となっていくと森氏は語る。ソフトバンクでは、これまで東京や大阪といった都市部に集中していたデータ処理や電力負荷を全国へ分散させる「次世代社会インフラ構想」を提唱している。
この構想の中核を担うのが「AI-RAN」。従来の無線基地局では専用ハードウェアで行っていた処理を、GPUサーバーで代替することを目指しており、GPUを活用することでRANを動かすことが現実味を帯びてきたという。
これにより、1つのサーバー拠点で無線処理とAI処理の両方を実行でき、設備を効率的に活用できる点が大きな特徴となっている。
低遅延を実現するエッジAIの展開
AI-RANの導入によって、ロボットなどのデバイスが大規模なAIモデルを利用する際に発生していた遅延や処理の不安定さを解消できると期待される。
たとえばAIロボットでは、遠隔のサーバーで頭脳部分を動かすと遅延が生じるが、RAN近傍でAIを稼働させれば、ロボット本体に大きな演算装置を搭載せずとも、低遅延で強力なリソースを活用できる。こうした仕組みにより、さまざまなAIサービスを全国規模で展開・発展させることが可能となる。
ソフトバンクはAI-RANを推進するため、2024年に「AI-RAN Alliance」を設立した。すでに100社を超える企業が参加しており、「AI-for-RAN(AIによるRANの高度化)」「AI-and-RAN(RANとAIの設備共有)」「AI-on-RAN(RANを活用したAIサービス)」の3つのワーキンググループで活発な議論が進められている。
「AITRAS」プロジェクトと技術基盤
ソフトバンクは、NVIDIAおよびArmと連携し、AI-RANの社会実装を進めている。技術の中核を担うのが「NVIDIA GH200 Grace Hopper」サーバーで、GPUとCPU(Grace)を1枚のチップ上で統合している点が特徴。PCIを介さずに高速通信が可能で、CPU部分にはArmのNeoverseが採用されている。Armの技術によって、GH200は低消費電力でありながら高い処理性能を発揮し、この特性がAI-RANの実現を支える重要な要素となっている。
このAI-RANの構想を実際のプロダクトへと発展させたのが「AITRAS(アイトラス)」プロジェクト。NVIDIAのジェンスン・ファン氏が基調講演でソフトバンクとの連携を発表するなど、注目を集めているという。
AITRASシステムでは、全国に配置されたGH200サーバークラスターを一元管理・制御する「オーケストレーター」が運用の要となる。AIアプリケーションの遅延要件やデータセンターの電力状況などを考慮し、最適な配置を自動で判断する仕組み。
また、RANとAIはそれぞれ高度なチューニングが必要なため通常は同居が難しいが、オーケストレーターがサーバーの役割を動的に切り替えることで、ある時間帯はRANとして、別の時間帯はAIとして稼働させることができる。慶應義塾大学SFC構内では、1台のGrace Hopperサーバーで20個の無線機(セル)を制御する実験にも成功している。
工場ロボットと自動運転への応用
AI-RANの応用例として、森氏は工場内ロボットや自動運転の遠隔監視・制御を挙げた。
工場では、プライベート5G環境上でAI-RANを展開することで、画像処理などのAIタスクをネットワーク上のGPUリソースで実行できる。これにより、ロボット単体のコストを抑えながら、高速かつ高性能なAI処理を実現できる。
自動運転分野でもAI-RANは重要な役割を果たす。人間の目だけでは膨大な監視作業に対応しきれないため、AIによる判断支援が不可欠となる。AI-RANを活用すれば、自動運転車両が撮影した映像をリアルタイムに解析し、安全性の判断や停止指示などを低遅延で行える。
森氏は、こうしたAI-RANの取り組みを通じて人々の生活を豊かにし、将来的にはこの仕組みが社会の常識として根付くことを目指していると語った。



















