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ソフトバンク、TransformerでAI-RANを高度化 5G通信速度を約30%向上

 ソフトバンクは、高性能AIモデル「Transformer(トランスフォーマー)」を応用した新しいAIアーキテクチャを開発し、AIを活用して無線アクセスネットワークを高度化する技術「AI for RAN」の研究で大きな成果を上げたと発表した。

 実証実験では、5Gの通信速度(スループット)を従来方式に比べて約30%向上させることに成功している。

CNNからTransformerへ、通信品質がさらに向上

 従来はCNN(畳み込みニューラルネットワーク)を使った研究により、AIを用いない信号処理方式と比べて上りスループットを約20%改善していた。

 今回の研究では、CNNより高性能なTransformerをGPU上で動作させ、実際の無線環境で実証。その結果、CNN比でさらに約8%向上し、ベースライン比では約30%の改善を達成した。

 また、5Gのリアルタイム通信では1ms以下の処理が求められるが、実証では平均338µsという超低遅延を実現し、CNNを用いた場合よりも処理速度が約26%高速化。高性能化と低遅延化の両立という課題を突破した。

下りスループットも2倍以上改善

 シミュレーション環境で行った「サウンディング参照信号(SRS)予測」の結果によると、従来のMLP(多層パーセプトロン)を用いた研究では、時速80kmで移動する端末の下りスループット改善率はおよそ13%にとどまっていた。

 これに対し、新しいアーキテクチャでは改善率が29%に達し、効果は2倍以上。実際のユーザーが体感する通信速度を大きく引き上げられる可能性が示された。

時速80kmで移動する端末において約29%、時速40kmで移動する端末において約31%向上した

新アーキテクチャの特徴

 今回のアーキテクチャでは、Transformerの「自己注意機構(Self-Attention)」機能を用いることで無線信号全体を把握できるようになっている。周波数や時間の広い相関(電波の反射や干渉による複雑な信号パターンなど)を同時に捉えるため、複雑な電波環境においても高い精度で処理できるのが大きな強み。

 さらに、信号の振幅をそのまま保持する独自設計により、従来よりも正確な推定が可能となっている。

 また、このモデルは出力部分を切り替えるだけで柔軟に応用できる点も特徴。チャネル補間やSRS予測、信号復調といった多様なタスクに対応できるため、研究や実用の幅を大きく広げることが期待されている。

今後の展望

 ソフトバンクは「5G-Advancedや6G時代に求められる通信性能には、Transformerのような高性能AIとGPU基盤が不可欠」としている。GPU上で制御するAI-RANはソフトウェア更新で性能向上ができるため、設備投資の効率化にもつながるという。今後は実用化を加速させ、通信インフラの高度化を目指す考え。